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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
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呪われし者

 みんなお馴染みのオレンジの刑務服を着た僕は法廷に立たされ仰天とした顔を浮かべていることを理解できるほど、この茶番劇に心底愕然とした。

 シヴァルドにOSEの装甲車に乗せられた僕は意識を失い、気づけばどことも知らない場所に幽閉されOSEの代理人と名乗る人物に、様々な法的権利の使用の説明を受けて数日間、拘置所に輸送された。

 多人数が収容される雑居房ではなく、個室を宛がわれ僕は一級の犯罪者と同じ扱いを受けて、今この場に立っている。

 僕の両脇には小銃を携えた警備が立ち、いつでも僕を射殺する準備をしている。

 何故僕が裁判を受けているのか、何故僕が裁かれなければいけないのか。まるで思考が追い付かない。

 検察官が読み上げる僕の過去を、荒れていた時期の素行をつらつらと読み上げる。


「被告人の家庭環境は通常のあたたかなモノではなく、母親は失踪し、父親はアルコールの重度中毒、その上薬物による逮捕で現在も服役を続け、被告人自身も暴行による逮捕歴があり──今回の一件、OSE社の業務を著しく妨害した事も──」


 裁判官の聞き入るようすで、僕の立場というモノがガラガラと崩れ去ってゆく。

 幾度となく声を上げて反論しよにも僕には弁護人を立てる時間すらも与えられずに、この場に立たされ、そして発言も許されていなかった。

 たしかに検察官の言った事は事実だった。

 僕の母親は、十歳の時に蒸発した。その影響か、父親は日々のストレスを酒に逃げるようになり遂にはセナ姉さんに手を上げ始めた頃に、覚せい剤の所持で警察に捕まった。

 そんな家庭環境であったが僕たちは苦しい生活であったが、生活保護の支援を受けながら生きていた。

 そして僕はハイスクールの時、集団でいじめられていた女子を守るために暴力を振るいいじめグループの過半数を病院送りにしてしまたのだ。その後僕は暴行容疑で逮捕され拘留された。

 いじめ自体は学校側も親御からも周知も認識しており、逮捕自体も、相手側の取り下げ要求が通り僕は釈放されて、セナ姉さんにこっぴどく叱られたのを覚えている。

 その事も正当性が認められていた筈だったが、この司法裁判では全くの意味が持っておらず、過去の重大な過失の一つとして数えられている。

 そしてそれらの過去の過失、容疑へ至る精神状況を客観的に考察する検察官の話が終わった。


「被告人、反論はありますか?」


「…………」


 絶句して声も出ない。こういった場面での自分の弁の立たなさが悔やまれた。

 しばしの間をおいて僕はようやく喉に詰まった言葉を吐き出して、言い捨てた。


「真実も見ないで裁きほど、反省に値しないものはないね」


「そうですか。その言葉を訊けて幸いです、心置きなく判決を下せます。──被告人には情状酌量がないと思われ禁固五十年にします」


 ギャベルが叩かれ不当としか言いようのない判決が僕に下った。

 脇に控える警備が僕の両腕を掴んで、法廷より退出させ僕の人生は終わりが告げられてしまった。

 暴れもせず、泣き崩れもせず、ただ僕は笑い飛ばした。

 不当だ、不届きだ。こんな裁判、本当に茶番劇だ。飯事の裁判の光景に法の力があるのだからもう笑わずにはいられない。

 息が狂ったように僕は笑って、笑って、泣き笑いで僕の人生が終わりを迎えた。



 ………………



 数週間のオーロヴィル・シティ拘置所での生活を余儀なくされ、僕は大人しく生活をしていた。

 刑務所の手配で手間取っているらしく、そして僕の罪状、『OSE社のヒーローの業務妨害』という名目の罪は重大な意味を含んでいる。

 只の業務妨害ならば然程の罪は被ることがないだろうが、僕の場合は『ヒーローの業務妨害』だ。

 英雄の行為を邪魔することほど、国民の安全な生活を脅かす行為はないとの判断だろう。

 ヒーローとは即ちオーロヴィル・シティの顔であり、絶対的な安全の証明として存在している。国の国防に害をなしたのとある意味では同じ意味を持ち、僕の行為はオーロヴィル・シティへの反逆行為なのだ。

 立っていることに息を切らせた僕は蹲って、深呼吸と共にため息をついた。

 鉄格子とコンクリの簡素な部屋を見渡して清潔感のあるベットばかりが色鮮やかに輝いている。

 罪と判断された僕の怒り、家族を殺されて憤らない人間がどこにいようか。

 只ぼくは姉の仇を打ちたかっただけだ。あの不届きなヒーロー『アーム・クランチ』に。

 不意に疑問に思った。何故あの時僕は絶対的な武力を誇るヒーローをあれだけ打ちのめせたのか不思議に思った。

 手を握って見て、開く。何の変哲もない手があるばかりで首を捻った。

 服を捲り上げて腹を見ればつるりとした皮膚に臍のくぼみがあるだけでさして変なところは見当たらなかった。


「……ん?」


 腹をまさぐってあるものを探した。手術の傷跡だった。

 あの事故で僕は腸を総入れ替えする開腹手術をしたはずで、みぞおちから臍下あたりまで縫合痕がある筈だったが、見当たらない。

 皮膚再生治療で傷跡自体も見えにくいものだったが、今の僕の腹には見えにくいとかの話ではなく、『傷がない』。

 奇妙だ。

 手術痕と言うのは何年もかければ見えにくくなるものと言うが、こうも短期間に消えるものなのか? 。

 疑問に思ったが、再生医療の賜物と納得してみる。しかし根本的な疑問だけは拭いきれなかった。

 あの時の姿が脳裏を掠める。自分自身のあの姿を。

 皮膚を剥がれた人体模型のような怪物に変身して、アーム・クランチを打ちのめしたあの瞬間、不本意であったがクスリと笑ってしまった。

 あの瞬間は本当に気分がよかった。力任せにアーム・クランチを壁に叩きつけて、窓から捨てる瞬間までは天にも昇るような、そんな気分であった。

 そしてあの時に、感じた怒りと爆発してしまいそうな感覚は今でも思い出せる。

 思い出すだけで今でも沸々と舞い戻ってくる怒りが、頭に血を登らせる。手に力が籠って泣き出してしまいたいような憐れな感情が心を支配する。

 足を抱えて漏れる嗚咽、頬を伝たった涙が床を濡らした。


「アネラ。面会だ」


 鉄格子を叩かれ、警備に呼ばれる。

 何事かと僕は顔を上げると警備は扉を開けていた。


「なんですか?」


「出ろ。面会人が来てる」


 手に持ったGPS機能を持った足輪をぼくの脚に装着して、手を差し出す様にと促すので僕は促されるままに、手を出して手首に手錠を掛けられた。

 背を押され、向かった先は拘置所に隣接するカフェレストラン。面会の時に使われる場所で警備も判決の下った者たちが利用すると言う事もあり他の飲食店よりも警備は厳重だった。

 腕を警備に引かれながら、一つのテーブルに着席させられる。

 そのテーブルには見覚えのない中年男性がすでに座っており、その目は僕を吟味しているようであった。

 警備は足輪のGPSピンが抜いてライトが発光するを確認すると腕時計で時間を確認する。


「面会時間は一時間だ」


「あぁご苦労さん」


 向かいの男がそう言ってさっさと失せろと言った様子であった。

 僕はその男に向き合い、その姿に向き合って見分した。

 目付きはギラギラと輝き、一目で危険人物と分かるような印象を与える。

 髪はボサボサでワックスで適当に整えているだけで、衣服はラフ、茶色く黄ばんだシャツとジーンズ、その上から皮のコートを着ていた。


「ジャック・アネラか?」


「ああ、そうだ」


 男は邪悪な笑顔で告げる。


「ヒーローを殺してみたくないか?」

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