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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

堕天の魔王を打ち破りし偽勇者は、その後全ての者に裏切られ、その壮絶な旅路を終える。

作者: あっちこっち

「勇者アレン いや勇者を語る大罪人アレンよ!!

そなたにはこれより我らを謀った罪この場で償ってもらうぞ!!!!」


魔王を倒しようやく旅を終えた俺に、魔王討伐を命じてきたその口で、リシティア国の王は俺にそう宣言してきた。

そばにいるこれまで一緒に旅をしてきた仲間にも、謁見の間にいる全ての人間にも動揺の色はない。

それどころか王がそう口にした瞬間には、後ろにいた仲間達に体を拘束され、魔法を封じられる始末だ。

つまりこれはシナリオ通りの出来事って事だろう。


「そなた自身が勇者の紋章を持つ正当な勇者だと我らを騙し、大将軍ファフナー、絶槍ジャンヌをはじめとした我が国の英雄達の命を使い潰し功績を積んでいった事はわかっている!!!!」



笑い声がする。押し殺そうとしながらも溢れ出てきてしまうと言わんばかりの小さな笑い声。

リシティア王はゆっくりとその玉座から立ち上がり、拘束された俺の元へとゆっくり降りてくる。

その顔にはこれまで何度も見てきた醜い人の欲が笑みとなって張り付いていた。


「戦士ジョナサンよ!その大罪人の胸を晒し出せ!!」


「はっ!!」


何十という視線が集まる中、仲間だったジョナサンが俺の装備を剥ぎ取っていく。

そしてあらわにある俺の肉体と、そこに浮かぶ勇者の聖痕。


「皆のものよく見ておけ!!!これが此奴の罪の証!!我らを侮辱した者の真の姿だ!!!!」


リシティア王はその聖痕に触れ、掴むようにして俺の体から勇者の聖痕を剥ぎ取った。

リシティア王はそのままそれを高らかに掲げ叫ぶ。


「見よこの偽物の聖痕を!!!見よ此奴の体を!!!

何の聖痕も持たぬこの無能者を!!!

こんな男が勇者であると思うか!?

こんな男に魔王と倒せると思うか!?

断じて否である!!こんな者に魔王を倒せる筈がない!

ならば魔王を倒したのは誰か!!!

戦士ジョナサン、賢者フィリアスノート、聖女ルナマリア、偽らず答えよ!!!!」



その王の問いと同時にジョナサンは俺をめり込ませる勢いで床に叩きつけ、嗚咽を漏らしながら応える。


「敬愛なる我が王よ。我が戦士の聖痕に誓って真実を述べます。魔王を倒したのはアレンではございません。

アレンを除く我ら三人でございます」


その言葉にルナマリアがつづく。その瞳には大粒の涙が溜まり、その清らかさに拍車をかけていた。


「アレンが嘘をついている事は知っておりました。ですがそれは既に大将軍ファフナー様や絶槍ジャンヌ様が犠牲になった後での事。魔王を倒さぬ内にこの事が広まれば、旅は終わりこれまでの犠牲が無駄になってしまいます」


最後にフィリアスノートが堂々とした姿で


「これまで散った英雄達の足を無駄にしないため私達三人は誓いました。魔王を討ち果たすまでこの大罪人の事を秘密にし、魔王は勇者抜きで必ず討ち果たすと!!」



そのフィリアスノートの言葉でこの場全ての人間が歓声を上げる。「真なる我らが英雄よ!!」「なんたる決意!なんたる覚悟!!」三人への美辞麗句が嵐のように巻き起こる。

王はしばらく三人の言葉に感動した様にしてから、静かに片手を上げ、嵐の様な歓声を止めた。

そして堂々とした威風で告げる。


「よくやってくれた真なる英雄達よ。その葛藤と苦悩、忍び難きものであっただろう。そなた達が心を病むことなどない。この国の王としてそなた達を誇りに思うぞ!

罪があるのはこのアレンのみだ。この大罪人はそなた達の凱旋パレードの時に国民の前で罪状を読み上げ処刑し、そなたらの英断を広く国民に広めることで、せめてその苦悩を和らげよう」


「「「慈悲深き王に感謝を」」」


そしてまた耳が裂ける様な大歓声が巻き起こった。俺は床に押しつけられたまま、聞きたくもない元仲間達の醜悪な忍び笑いを聞いているしかない。


「ああ…ファフナー、ジャンヌ、お前らとの約束は守ったぜ。…オルトリンデごめんな」


俺の呟きは誰にも聞こえず、ただ歓声にかきれらだけだった。


ズキッ、


ああ…またこの痛みだ。




その断罪劇場から数日後、俺は汚い腰巻一枚履かされた状態で鎖に繋がられて、大衆の面前で馬車に引きずられていた。

数日間水も食料も与えられず、ただ拷問官に嬲られ続けて動く体力なんか残っていない。


そんな俺を引きずりながら、屋根のない豪華な馬車に乗り、周りの国民達に手を振る元仲間の3人。

その3人へ感謝の言葉や歓声を送るこの国の国民達。引きずられている俺へは石と戦争で溜まった不満をぶつけてくる国民。つい先日まで俺が守ろうとしていた国民達だ。


……ああ胸が痛む。




俺を引きずったまま3人の英雄を乗せた馬車は王都を一周し、最初の広場へと戻ってきた。

俺はそこで国民と元仲間、俺に勇者を命じた王の目に見られながら吊し上げられ、火刑に処されることになった。

より多くの国民の目に写るように作られた貼り付け台に括り付けられ、何千何万という俺に対する憎悪の視線を浴びたまま、リシティア王により俺の罪状がゆっくりと読み上げられていく。


「この者はある日我が前に現れ、偽の勇者の聖痕を掲げて我を謀った。あれが悲劇の始まりであったのだ」


ねぇさんと平和に暮らしていた所を無理やり王都まで連れてきて、あの偽物の聖痕を俺の胸に張り付け、ねぇさんを使って脅してきた王が言う。


「この者の無謀な計画により、偉大なる我が国の大将軍ファフナーはその命を落とした」


王とそのお気に入りの将軍が、ファフナーと俺が考えた作戦を無理やり破棄し、無茶な作戦を押し付けてきたんだ。ファフナーは「これも雇われ軍人の務めだ」と言って死んでいった。


「この者は魔王軍副大将を討ち取るため、大英雄絶槍のジャンヌを誑かし突撃させ死に追いやり、その功績すら我がものとしようとした」


王の無茶な政策と命令で困窮した前線基地を救うため、捨て身で戦線を開き、敵の副将に致命傷を与えて散ったジャンヌ。ファフナーもジャンヌも旅の先々で出会い散っていったみんなも俺の大切な友人達だった。


「この者は旅の全てで英雄3人を始めとした者達を使い潰しできたのだ!!」


あの3人には確かに世話になった。戦闘では頼りになった。それ以外では色々やらかしてくれたけど、全体的に見れば助かった。

ファフナーやジャンヌ、ねぇさん達に旅を止められても続けていこうと思えたのは3人のおかげだ。まぁそれはそれぞれに思惑あってのことだった様だけどな。


「魔王オルトリンデ討伐の際も、この者はただ逃げるだけで、戦闘の全てを戦士ジョナサンと、賢者フィリアスノート、聖女ルナマリアに押し付けていたのだ!!!」


オルトリンデは強かった。元仲間の3人が力尽き、俺も疲労困憊の中どうにか倒せたんだ。倒せたのは偶然で、倒したくなかった相手だったけどな。


「この様な非道を許せるのか!?」


「「「「「許せるわけがない!!!」」」」」


「戦争を悪戯に混乱させ長期化させた極悪人だ!!」


「「「「「俺たちの苦しみを償わせろ!!」」」」」


「我らリシティアにこの様な外道は必要ない!!!」


「「「「「必要ない!!!!!」」」」」


ああ…どうしようもなく胸が痛む。ファフナーが死んだ時やジャンヌが死んだ時と同じくらいの激痛が俺の胸を襲う。

ふと俺が自分の体を見た時には、何もなかった筈の胸に見た事がない紋章が刻まれ、俺の身体中に広がっていた。

その紋章は黒い七枚の大翼。その大翼が伸びる様にして全身に広がっていき、体から浮き上がり始めていた。

その異変に気付く者は俺以外いない。皆が皆王の演説と熱気に酔いしれている。


「そうだ!!!こんな外道は必要ないのだ!!!」


「「「「「必要ない!!!!!!」」」」」

 


「……ふふっ……そうなの。」



凍てついた。先ほどまでの炎の様な熱気が、さして大きくもない声により、一瞬にして凍りついた。


「必要ないのね?自ら捨てるのね?」


広場の上空。地上から離れた所に吊し上げられている俺の真正面。広場の中央付近に声の主はいた。


「ならば返してもらいましょう。私から奪った宝物を」


澄み渡る青空の様に綺麗な長い髪を靡かせながら、左右不揃いの七枚の黒翼を背に持つ女性がそこにいた。

その声は至高の名器の如く澄み渡り、広場全てに響き渡る。


「……オぉっ お、オルトリンデ!!!???」


誰しもがその女性に目を奪われ、言葉を発さない中、戦士ジョナサンが絶叫する。見ればファリアスノートは杖を落とし茫然のその女性を眺め、ルナマリアは蹲り震えていた。


「…あら?戦士ジョナサン、お久しぶりですね。ですが今日あなた方に構っている暇はありません。死にたくなければそこでじっとしていなさい」


その言葉でここにいる者全てが、その女性が魔王オルトリンデである事を認識した。だが誰も動かない。国民も兵士もジョナサン達も、誰もかれもが動けないでいる。

そんな静止した人々の様子など気にもしない様に、オルトリンデはゆっくりと高度を落とし、リシティア王は近づいていく。


「はじめましてリシティア王。それともお久しぶりですねクソ野郎の方がいいですか?」


「ヒィッイイ、な、なにを言っているんだ!!!

お前なんかと会った 覚え   など……な」


奇声を上げる様にして叫ぶリシティア王の声は、次第に途切れはじめ最後まで続くことはなかった。


「覚えていましたか、…あの時はよくも私から宝物を奪ってくれましたね。あの恨み今日まで忘れた事はありませんでしたよ、リシティア王」


「はっ、うぐ。くそっ、なにがどうなって。お前はアレンが………」


「えぇ…私は一度アレンの手で死にましたよ。でもあなた達が愚かなお陰で上手く事が運びました。

そのお礼に今日のところはあなた方を見逃してあげましょう。今日は記念すべき日ですからね」


リシティア王にそう告げた後、オルトリンデは待ちわびた時をかみしめる様にゆっくりと俺の前まで上がってくる。

俺の前きた彼女は間違いなく俺が殺したオルトリンデその人だった。


「久しぶりですね…アレン。ようやくあなたを迎えに来ることが出来ました。」


そう話しかけてくるオルトリンデに俺はまともに顔を合わせることすら出来ない。

一度俺がこの手で殺した女性。その感触まで、その時に胸を襲った痛みまで全部はっきりと覚えている。

そんな相手にどんな顔をして向かい合えばいいのかわからない。


「アレン……」


愛しむ声と共に、顔を背けている俺の頬へ懐かしい温もりが触れ、優しく顔をあげさせてくる。


「アレン。私が大好きな、貴方の瞳を見せてくれませんか?」


……ほんとうに懐かしい声、大好きだった人の声だ。

ゆっくりと目蓋を開き、目の前にいる女性の顔を見て堪えていた涙が溢れ出る。


「アレン。」


「…っねぇさん」


もう会えないと思っていた、ねぇさんがそこにいる。

あの時別れを告げた筈の、ねぇさんが目の前にいる。

旅の目的も、何もかもが今はどうでもいい。


「ねぇさん。…ねぇさん」


「はい。ここにいますよアレン」


ただ、ねぇさんが今こうして俺を抱きしめてくれている。それだけで俺は十分だ。

まずはお読みいただきありがとうございました。

作者なりの逆転ハッピーエンドストーリーはいかがでしたでしょうか?

【聖剣の大賢者】と言う連載物を書いている息抜きとして、逆転物を書いてみたのですが「実は俺強かったんだ!ここからは好きにやってやるぜぇ!!元仲間乙!」

みたいなストーリーは好みではありませんでした。

読者の方によっては面白みのない物だったかもしれませんが申し訳ありません。

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