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久遠の依頼屋さん  作者: 蛸丸
第一部 序幕
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第七話 ー帰還ー

今話で登場するキャラクター紹介です。


シャドウ 謎の男。年齢不詳。175cm、69kg


「さあ、来やがれ!」


 エルンストは声を荒げる。竜が彼を喰らおうと迫りくるが、その隙を見逃さずに彼は背負っている大剣を片手で軽々と扱い、竜の顔や口内を斬り続ける。だんだんと竜の顔には傷が増えていき少しずつではあるが弱っていくのが確認出来た。


「そろそろだな」


 エルンストはそう言うと盾を捨てて剣を両手で持ち、剣先を竜に向けて構える。すると刀身が徐々に眩い光に包まれていく。剣を大きく振りかぶりって、縦に真っ直ぐと勢いよく振り下ろす。刀身から光の刃が放たれ、それは高速で竜を目掛けて飛んで行った。光は竜を真っ二つに切り裂き竜はその命を終える。長い戦いが終わったかのように見えた。


「”甦れ(レナトゥス)”」


 何処からか響く男の声。直後に竜の死骸が漆黒に包まれる。エルンストは盾を拾い、構えて警戒しながら闇を見つめ始めた。しばらくして闇が晴れると、そこには先ほど2つに切り裂かれたはずの竜が復活していた。その姿は闇に包まれる前とほとんど変わりなかったが、目に生気が全く無く、どす黒い煙の様な物をまとっている。


「蘇生魔術……! 何者だ!?」

「此処ですよ、分隊長さん」


 洞窟の奥の方から若干高めの若い男性の声が聞こえる、声の主は竜の背後から姿を現した。黒いローブに身を包み、フードのせいで顔は全く見えなかった。彼は竜に合図を出すと、竜は一歩引き下がり構えを解いた。


「一線を退いたはずなのにその戦力……流石は元騎士団ですねぇ」

「貴様、何者だ?」

「失礼申し遅れました、私シャドウと申します。以後お見知りおきを」


 ローブの男、シャドウは右手を前に深々とお辞儀をする。


「ちなみに、”魔術”ではなく”魔法”でございます。貴方達とは格が違うのですよ。」

「魔法だと? 蘇生、生気の無い目……まさか貴様!」

「勘の鋭いお方ですねぇ」


 シャドウはそう言うとフードを脱ぎ素顔を見せる。美青年ではあるがやせ痩けた顔、死人のように青白い肌と目元まで伸ばした美しい白髪を持ち、髪の隙間からは白い虹彩と黒の瞳孔を持つ眼が見える。


「死の民……」

「ええ、その通りです。我々は人の生死を自在に操れる、例えばこんな風に……」


 不敵な笑みを浮かべながら右手の指をパチンと鳴らすシャドウ。彼の後ろからゆっくりと足音や金属を引きずる音が聞こえてくる、現れたのは肉体の所々が欠けた騎士団の面々であった。肉の断面が見え、中には頭部を失っている者もいた。皆青白い肌で目に生気を全く感じられない。


 シャドウは笑みを浮かべたまま無言でエルンストを指差す。騎士団の屍はエルンスト目掛け襲い掛かろうとゆっくりと歩み始めた。


「やめろ……」

「ハッハーッ!! 良い! 良いですよその表情(かお)!!」


 腹を抱え、大きな笑い声を上げながらシャドウは言葉を続ける。


「”死にたくない!”、”こんなはずじゃなかった!”、”誰か、誰か助けて!”、”話が違う!”、”あの爺さんのせいで……!”、そんな情けない声を上げながら逝きましたよこいつら! はぁ~清々しい!! さぁて、彼らをこんな目に遭わせた元凶は、いったい誰なんでしょうかねぇ?」

「……」


 シャドウの言葉にエルンストは目を瞑って険しい顔で沈黙する。数秒後、彼は口を開き落ち着いた声で話し始めた。


「ならば、私が責任を取るほかあるまい」


 エルンストは腰袋の中から綺麗な白い石を取り出した。彼はその石を屍の群れに向けて投げつける。石は群れの中央辺りに落ち、直後まばゆい光が屍を包み込む。光が消えると、そこにいた騎士団の屍の姿は跡形も無く消えていた。


「お前たちは私が一生を懸けて弔い続ける、そして仇は必ず討つ。それがせめてもの償いだ、どうか安らかに眠ってくれ……」

「てめぇ、それは聖石か……やってくれるじゃねぇか」


 先程の紳士的な態度はどこへやら、うってかわってシャドウは声を荒げた。そんな彼にエルンストは剣先を向けながら、冷静かつ怒りのこもった口調で宣告する。


「次は貴様だ。焼かれるか? 凍え死ぬか? 切り刻まれるか? 彼らの様に楽には逝かせんぞ?」

「老いぼれが図に乗るなぁ!!」


 シャドウが大げさな手振りで竜に合図を出す。竜はエルンスト目掛け勢い良く突っ込んでいき彼を喰らおうと首を伸した。



 ※ ※ ※



 突然の事であった。竜の左目に刀が勢いよく突き刺さり、竜は怯みつつも刀が飛んできた方向に顔を向けるもそこには誰もいない。突如竜の視界が完全に塞がれる。否、潰されたと言うべきであろうか。右目に何者かの右拳が突き刺さり竜はその場で倒れ沈黙する。


「無事か?」


 1人の男がエルンストの背後から声を掛ける。正体はテツであった。どういう訳か喰われたはずの右腕と左脚が元に戻っており、喰われた形跡も見られなかった。


「やはり人間ではなかったか……」

「一応、"人間"」


 ニヤリと笑いながらテツは答える。その後彼は真面目な顔でシャドウを睨み付けながらエルンストに声を掛けた。


「細かい話は後だ、とっちめるんだろ」

「手出しは無用、あの男は私が屠る」

「ならあのデカブツは殺っとくぞ」

「分かった、頼むぞ」

「じゃ、早速」


 テツは竜に向かって駆け出す。竜の体を掻い潜って背後からその背に登り、顔に向かって走る。彼は左目に刺さる刀を勢いよく引き抜き、それを脳天へ思い切り突き刺した。しかし竜は何事も無かったかのように頭を大きく振ってテツを振り落とす。

 テツは受け身を取って体制を立て直し、刀を構えて竜と再び対峙する。


(急所にぶっ刺したはずだ)

「そいつはもう生きちゃいない! 普通に殺すことはまず不可能だ、これを!」


 困惑するテツにエルンストが助言を与える。その後すぐさまエルンストは先程使った石とほぼ同じ物をテツに投げ渡す。


「聖石と呼ばれる物だ、生ける屍は大抵それで倒せる!」

「よそ見するたぁ、良い度胸だなぁ!!」


 シャドウがエルンスト目掛けて幾つもの漆黒の弾丸を放つ。エルンストはそれら盾と剣ではじき身を守りながら、シャドウ向かって勢い良く突っ込んでいった。

 一方のテツは再び竜の方へ走り出す。竜は視界を奪われていたが、音の反響でテツの位置を捉えて正確に喰らいつきにくる。だがテツはそれを軽々とかわし竜に近づいていった。


「もう見切ったわ!」


 竜の口をギリギリでかわして竜の脳天へ再び刀を突き刺し、今度は成人男性の腕がすっぽり入る位の切り込みを入れる。そして手にしている聖石を切り込みへ深く入れ込んだ。聖石は光を放ち竜を包み込む。光が消えるとそこにいた竜は跡形もなく消え去っていた。


「ったく、手間取らせやがって。さてお次は」

「うぐあぁ……」

「丁度終わったみたいだな」



 ※ ※ ※



 シャドウの呻き声が洞窟内に響き渡る。彼は左腕を肩から切り落とされており、辛うじてその場に立っている状態であった。エルンストはシャドウにゆっくりと近づいていき、一言言い放つ。


「最後に聞こう、貴様の目的は?」

「まさかてめぇら騎士団が俺らに何をしたのか忘れたとは言わせねぇぜ? このクズ共が! いいか、いずれてめぇら皆殺しだ! 特にスキア! あいつは絶対に許さねぇ、極上の苦しみを味合わせてやる!!」

「言い残すことはそれだけだな?」


 エルンストはシャドウにとどめを刺そうと剣を振り上げる。そんな中シャドウは不敵に笑みを作った。


「おっさん、危ない!」


 シャドウの意図に気付いたテツがエルンストを突き飛ばす。エルンストが今までいた場所には、いつの間にか肩幅より少し大きめの紫に光る魔法陣が展開されており、テツはそれを踏んでしまう。直後、魔法陣が消え彼の身体は立ったまま石のように動かなくなってしまった。シャドウは舌打ちをしつつも歪んだ笑顔で話し始めた。


「お前じゃねぇ、全くどいつもこいつも邪魔ばかりしやがって。まあいい、結局は2人ともここで死ぬ定めだ。あの世で世界の行く末を見ておくといい」


 シャドウは再び指をパチンと鳴らす。すると、シャドウの身体は闇に包まれて消え去ってしまった。同時に轟音と共に洞窟内が揺れ始め、上から石や砂がパラパラと落ち始める。


「エルンストさん、逃げろ」

「何を言っている! お前さんも逃げるんだ! それにアリッサを、娘を捜してくれるんじゃないのか!? 今解くから待っておれ!」

「俺の体見たろ? あんたは信頼出来そうだからまた会えれば説明する。早く走って逃げろ!」


 明るく大きな声でテツは言う。エルンストは渋っていたが、覚悟を決めて無言で頷き出口へと駆けていった。


 洞窟から脱出したエルンスト。息を切らしながら彼は空を見上げる。空は少しずつ明るくなっており、間もなく夜が明ける所であった。彼は振り返り洞窟を見やる。入口は完全に塞がれており、見るからに脱出は不可能であった。


(本当に彼はここから出られるのか? それ以前に彼は何者なのだ? フラムたちにどう説明すれば良いものか……)


 思考を巡らせつつも彼は村の者を呼ぶためにそのまま街へと向かった。



 ※ ※ ※



 街の中心部から少し外れた所、クレールの住む孤児院がそこにはあった。教会と併設されており、子供達が思いきり駆け回れる庭がある位にその敷地は広かった。ここには様々な理由で捨てられたり親を亡くした子供たちが種族を問わずここには居る。クレールとリットはそんな孤児の1人でこの教会で育てられていた。

 村人たちを引き連れて先に避難していたクレールが教会の扉を開ける。中にはフラムが一人、長椅子に座りながら俯いていた。


「フラム、まだ起きてたのか? もう夜明けだぞ?」

「眠れなくって……」

「エルのおっさんは昔の騎士団の中で5本の指に入る猛者だったんだ。今頃こっちに向かって来てるだろうよ」


 クレールは事の顛末をフラムから聞いていた。フラムがテツの件を気にしているのは分かっているので言葉を慎重に選びながら彼女は話を続ける。


「ほら、今は信じて寝ろ。……もしかしたらあいつも生きてるかもしれない、おっさんが助けてくれるかもだろ?」


 そう言い終えた時、教会の扉が開く。傷だらけの鎧を纏ったエルンストが入ってきた。彼はばつの悪そうな顔で2人に近づく。フラムが何かを言う前にエルンストが口を開いた。


「……すまない」


 一言だけ言い彼は深々と頭を下げる。フラムは俯いたまま何も言わずにぽろぽろと涙を流し始めた。エルンストは頭を上げて今度はクレールに話しかけた。


「クレール、村の者の避難誠に感謝する。後日教会と、それとは別に君たちにお礼をさせてもらう。……私が出来るのはこれ位だ……」

「あんたが気に病むことじゃない。こんな仕事だ、多分あいつもそれを分かって腹を括ったろうよ」

「括ったがここまで厳しいとはなぁ」


 教会の入り口から男の声が聞こえ、3人は驚いたように一斉にそちらを向いた。そこにはボロボロの服を着たテツが苦笑いを浮かべて立っていた。彼は3人に歩み寄っていくが突然フラムが勢いよくテツ目掛けて飛び出してそのまま彼に抱き着いた。


「うわああああああ!!!」

「言ったろ? 死なねぇって」


 テツは泣きじゃくるフラムを抱きしめ頭を優しく撫でる。クレールはそれを見て安堵の表情を浮かべた後、腕を組みながら真面目な顔でエルンストに質問を投げる。


「おい、フラムの話だと右腕と左脚を喰われたって聞いたぞ? 何で元通りなんだ? しかもおっさんは傷だらけなのにあいつは無傷も同然じゃねぇか。あいつ、まさか魔術か魔法使えんのか?」

「それは……後で説明しよう。今は彼の帰還を喜ぼうではないか」

「うーん。ま、いっか」


 話し終えた2人はまだ泣いているフラムと彼女を(なだ)めるテツを優しい顔でしばらく見守った。

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