第四十一話 ー切られた火蓋ー
胡座をかくシグルドの両端に、ヒルデとトラウテが心配そうにしゃがみこんでいる。一方テツは少し離れた所から、立って壁に寄りかかり3人をどこか申し訳なさそうに見つめていた。
「心配するな、もう動ける」
「シグルド、違う」
「ヒルデ、俺にはやらなきゃいけない事がある」
シグルドは立ち上がろうとするが、2人が優しく制止した。
「シグルドさん、トントは我々ヴァルキリー部隊が護衛に当たっています」
「どういうことだ?」
トラウテの言葉にシグルドは焦りと困惑を見せた。自身の標的の護衛に当たるのであれば、本来彼女たちは敵となるはず。だがその部隊長がシグルド達を助けに来たのである。
「貴方はもう戦わなくていい、奴はこちらで仕留める」
「駄目だ!」
今まで見せていた冷静な態度から一変、シグルドは感情を露わにして叫んだ。側にいたヒルデたちはおろか少し離れたテツも突然の大声に一瞬、体をびくつかせる。
シグルドは冷静さを失い始めていた。
「駄目だ! 何故誰もあの男に逆らえなかったか分かっているのか!?」
「ああ、あいつは死の魔術を使える。だが心配はいらない、こちらも魔封石を用意……」
「奴は俺の親父の命と引き換えに死の民と契約して力を手に入れた! 魔術じゃない、魔法だ! 半端な純度の魔封石じゃ返り討ちにあうだけだぞ!! 俺の部隊の連中も……」
怒り、悲しみ、後悔。シグルドの怒声には様々な感情が入り混じっていた。彼の必死さにヒルデ達も焦りを感じ始める。それでもヒルデはシグルドに対して冷静に言葉を返すように努めた。
「分かった、貴方を助けた手前もう後戻りは出来ない。トラウテ」
「はい!」
「シグルドを頼んだ、私は皆の所に向かう」
ヒルデが振り向くと、テツの姿はどこにも見当たらなかった。
※ ※ ※
「手厚いご歓迎なこった」
テツはシグルドの話を聞いてすぐさま地下牢を抜け出し、城内を駆け回った。そして場は謁見室。彼の目の前には十数名の銃を構えた兵士、中央には紺の甲冑と鬼の角の様な装飾が付いた同色の兜で身を固め、自身の身の丈以上の長さを誇る槍斧を構えたマハトが立っていた。
「来たな、依頼屋」
「折角集まってもらって悪いが、あんたらはお呼びじゃないんだ」
「この城にもうトントはいないぞ」
「ああ。そいつはどうも」
テツは踵を返す。だが彼の背後にはいつの間にか同じ数の兵が待ち構えていた。
「へぇ」
「さて、決闘を始めようではないか」
「決闘?」
「用意!」
マハトの号令で兵士達はテツとマハトを囲むように移動して綺麗な円を形作る。テツは困惑しているが、マハトは猛る心を抑えきれない様子であった。
「これで互いに逃げ場は無くなった」
「何をする気だ?」
「命を賭けた決闘……敗者は銃殺だ」
「おい、自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
マハトが自身の秘密を知っている事をテツは把握していた。それ故に彼の狂ったような申し出に彼は苦笑いする。
「無論。寧ろ貴様が負けた方がその末路は悲惨だぞ?」
「何だ? てめぇらの訓練用の木人か?」
「永遠にその血を搾り取らせてもらう」
マハトは武器を握り直す。テツは溜め息を吐いて呆れた様子ながらも、それに応えるが如く拳を構えた。




