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久遠の依頼屋さん  作者: 蛸丸
第二章 ミズガルズ編
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第四十話 ー敵か味方かー

「ここに入っていくのを確認しました」

「そうか」


 今紫の軍服を纏った女性2人が話しながら石段を下ってくる。コツンコツンと石を鳴らす軍靴の音が徐々にテツとシグルドに近づいてきていた。


 1人は暗い金色の短髪と、細身ながら鍛え上げられた長身を持つ女傑という言葉が相応しい雰囲気の女性。彼女はライフル銃を背負い、腰には剣と拳銃を携えていた。もう1人は金髪の女性よりも5cm程背が低く、その顔にはあどけなさが残っており、どちらかといえば少女に近かった。ロングの茶髪を頭の後ろで一本に束ねて、彼女も背にライフル銃、腰に拳銃及び剣を装備していた。


 テツは仰向けに寝かせているシグルドの傍で目を瞑ってうつ伏せになり、出来るだけ微細な動きをしない様に細心の注意を払った。所謂死んだふりである。

 しかしトントには肉体の秘密を知られており、それを複数人の兵がいる中でそれを公言されてしまった。恐らく話は広まっているであろう。警戒されて相手の隙を突けなければ一巻の終わりである。

 テツに出来る事は、これより対峙する敵が自身の秘密を知らない事を祈るだけであった。



 ※ ※ ※



 2人の女兵士は階段を下りきり、瀕死のシグルド達を見つける。すると金髪の女性が背の銃を乱雑に降ろし憔悴したような表情でシグルドに駆け寄った。付近で倒れているテツには目もくれなかった。


「シグルド!」

(もらった!)


 テツは声に反応した様に瞬時に立ち上がる。彼は金髪の女性の背後に音も無く近づくと膝裏を蹴って跪かせ、綺麗に鍛えられた首に右腕を回して思い切り締め上げる。そしてそのままもう1人の茶髪の少女の方に体を向かせて、少し息を切らしながら悪人の様な微笑みを見せるように努めた。

 女性はしばらく抵抗していたが、程なくしてうなだれてしまう。


「貴様!」


 茶髪の少女は激昂し、腰の拳銃を素早く抜き取るとそれを両手で構えてテツの額に狙いを定める。

 テツは少女とは対照的に冷酷な声色で脅しをかけた。


「五つ数える、その間に武器全部捨てろ。やらなきゃこいつを殺す」

「誰が!」

「五……四……三……二……」


 無情にも始まったカウントダウン。少女の動揺は激しくなり額に脂汗を、目には涙を浮かべ始めていた。


いち……」

「くそっ!!」


 少女は地面に拳銃を叩きつけ、背のライフル銃や腰の剣も荒々しく投げ捨てる。金属と石のぶつかる音が牢全体に響き渡った。


「五分以内に傷薬を持ってこい。一秒でも遅れれば殺す」

「待て! 我々はシグルドさんを」

「殺しに来たんだろ」

「助けに来たんだ!」


 少女の悲痛な叫びがこだまするが、テツは聞く耳を持とうとしなかった。


「おい、俺はちゃんと数えてるぞ。早くしないとこいつが悲惨な目に」

「これでいいだろ!!」


 少女は自身の話を聞かないテツに怒りと焦りの混じった言葉を言い放つと、懐から赤い液体と青い液体の入った小瓶をそれぞれ取り出してテツに見せつけた。


「寄越せ」

「何故!」

「毒味してやる」

「お前、いい加減に!!」


 テツは拘束している女性の腰の拳銃を抜いて手慣れた動作で、その女性のこめかみに銃口を突き付ける。


「寄越せ」

「……」

「仕方ないな」


 テツは親指で撃鉄を起こした。死が女性に、ガチャリと足音を立てて歩み寄る。


「ふんっ!」

「!!」


 テツの鳩尾みぞおちに肘打ちが襲い掛かる。突然の衝撃に、声にならない声をテツは上げた。

 拘束が緩み、女性はテツの腕を振り払う。そしてそのまま彼の両肩に手を置くと、胸骨付近に膝蹴りを一撃お見舞いした。

 強烈な蹴りで豪快に骨を折られたテツは痛みにうずくまる。だが、うずくまりながらも顔だけは彼女らの方を向いて震える腕で拳銃を構えた。


 銃声が2回。一発目はテツの持つ拳銃を、二発目はテツの手の平を貫いた。銃弾を放ったのは茶髪の少女であった。女性が拘束を解くや否や、投げ捨てた拳銃を素早く拾って身構えていたのだ。

 元々削られていた体力の代わりに気合いと根性で何とか動いていたテツも、ここまで攻撃を受けてしまうと傷の治癒には相当の時間を有する。精根尽き果てたテツはその場に横たわり、眠るかのように動かなくなった。



 ※ ※ ※



「トラウテ、シグルドに薬を。その後彼にも飲ませてくれ」


 金髪の女性が茶髪の少女トラウテに指示を出す。女性はライフル銃を構え、倒れ込むテツの頭部に銃口を向けていた。トラウテは女性の命令に驚愕し、半ば拒絶の感情を見せる。


「何故ですか!? こいつはヒルデ隊長を……」

「彼はシグルドを守ろうとしていた。それに今まで我々に追い掛け回されていたんだ、こちらに攻撃を仕掛けるのも無理はない」

「って言う割には警戒しまくりですね」

「ああ、殺されそうになったからな。それに彼が報告にあった“依頼屋”ならば殺してもどうという事はないだろう」


 ヒルデはどこかニヒルな笑みを浮かべながらテツから目を離す事はなかった。そんな彼女に安心したのかトラウテも笑顔を見せると、シグルドに赤い液体を飲ませて青い液体を傷口に流し込んだ。

 滲みる様な痛みに呻くシグルドであったがものの数分で呼吸は安定し、10分もしない内に傷は塞がっていった。その後まもなくシグルドは目を覚ました。


「トラウテ……?」

「隊長! シグルドさんが!」

「分かった、彼にも内傷薬を」

「……」

 

 トラウテは心底嫌そうな表情を見せた。だがヒルデの声は有無を言わさない。


「トラウテ」

「はぁーい」

「何だその声は」

「な、何でもないです……」


 ヒルデの圧力に委縮してしまうトラウテ。彼女はテツに近づくと、シグルドの時とはうって変わって乱暴に赤い液体を彼の口内に流し込んだ。

 急に薬を流し込まれた為に、液体の一部はテツの気管に入り込んでいく。むせ返る彼の姿を見たトラウテは、ざまあみろと言わんばかりに意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

ヒルデ ミズガルズ軍の兵士 176cm、60kg

トラウテ ヒルデの部下 171cm、56kg

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