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久遠の依頼屋さん  作者: 蛸丸
第二章 ミズガルズ編
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第三十六話 ー交渉ー

 断られる事はシグルドの想定内だったが、それでも彼は引き下がらなかった。しかしためらいも無く拒絶される事には少々堪えるものがあった。


「……訳を聞かせてもらいたい」

「知りたいか?」


 含み笑いしながら返すテツ。対してシグルドは、どこか申し訳無さそうな表情で彼の次の言葉を待っている。

 テツは手を組みながら両腕を上げ、天井を見上げながら3秒ほど背伸びをし始めた。そして重力に従って腕を下ろし、シグルドの方を向いた彼の表情からは含み笑いが消えていた。

 テツは荒っぽい口調で問いに答える。


「理由がどうであれ俺をめた事は忘れん。それに革命だか知らんが、面倒事はそっちだけでやってくれ」

「……あんたを騙したのは本当に申し訳ないと思っている、それは本心だ。だがここで奴らを始末しなければ戦乱の世は免れない。強大な力を持つあんたもそれに巻き込まれるだろう。ならば先に手を打った方が得なはずだ」

「降りかかる火の粉は払うだけだ。それに、お前がまた裏切る可能性もあんだろうが」

「……」

 

 シグルドは言葉を返さなかった。だが、彼は次の瞬間、片膝を付いて顔が見えなくなる程に頭を下げた。恥も外聞もかなぐり捨てた彼のその姿はどこか気高さも見受けられ、彼の起こそうとしている戦いへの覚悟が感じ取れた。


「一世一代の頼みだ、引き下がることは出来ない。其方が望むのであればこの命も差し出そう。……どうか我々に助力を」


 シグルドはテツを騙して1度殺害している。だが彼の思惑がどうであれテツを救出したのは事実であり、万全な状態まで回復させた。

 当たり前の事だが人間は一度死ねば生き返ることは叶わず、シグルドもその例外ではない。それでも、世の為を思って命を散らす事も厭わない彼の覚悟をテツは目の当たりにした。

 今のテツであれば、シグルド達を蹴散らして脱出することも容易い。テツがそうしないのは、先程のシグルドの態度に敬意を表し始めたからであろうか。

 テツの答えは決まっていた。


「……分かった。だがな、変な真似したらその首をへし折ってやるからな」

「!! かたじけない……!」


 シグルドは膝を付いたまま顔を上げてテツを見た。相変わらずの仏頂面だが、その表情、声色から喜びがあふれている事は誰が見ても一目瞭然であった。

 だが心意気に惚れ込んだとはいえテツも慈善事業者ではない。


「一つ条件。事を始める前にフラムを、あのムスペルの娘を探させてもらう。俺は彼女に恩義がある……何か知っている事は?」


 シグルドは立ち上がって再び椅子に腰掛ける。直後にテツも小さな丸テーブルを挟んでシグルドの向かい側に座った。


「生き延びた兵から聞いた話だと王宮を出て南東の方面を見つめていたそうだ」

「あの娘と交戦したのか? とんでもない状態になっていたがあれは何なんだ」


 テツは興奮気味に質問を重ねた。


「分からない、だが1つだけ言える。彼女は普通の人間じゃない」

「……」


 自らの額に左手を当てて沈黙するテツ。彼は眉間にしわを寄せて、何とも言えない複雑な表情を見せていた。シグルドは立ち上がり憐憫れんびんの眼差しで彼を見つめる。だがその視線は、すぐさまその背後、彼が先程まで眠っていたベッドへと移った。


「誰だ!」


 抜刀するシグルドの怒声に反応したテツも急いで構えを取る。しかしベッドに佇む何者かの姿を確認した途端に構えを解き、そこに座る“彼女”に話しかけた。



 ※ ※ ※



「ノルン……」

「おっひさ~! 驚いた?」


 底抜けに明るい返事にテツは深い溜息を吐くと、呆れたような顔でシグルドに顔を向けた。そして警戒を解くように身振りで指示を出す。テツのどこか気の抜けた瞳にシグルドは信を置いて彼に従った。


「俺の家じゃないんだ、茶も菓子も無いぞ」


 ノルンへ向き直ったテツの一言は嫌味っぽかった。


「あらあら、今日はそんなつもりじゃないんだけど?」


 彼の思いやりのない言葉にもノルンは動じず、不敵な笑みを浮かべたまま煙管キセルを咥える。そしてそのままベッドから降り、そこに眠る人物をテツに見せた。


「フラム!!」

「しーっ! 寝かせてあげて」


 飛び掛かりそうな勢いでフラムに近寄るテツを、ノルンは右腕で押さえて落ち着かせる。テツは焦燥の余韻を残したままノルンに訊ねた。


「どこにいたんだ?」

「王宮から出てちょっとしたとこ。詳細はまた、ね」


 ノルンは再びフラムに近寄って、彼女の額を慈しむように右手で優しく撫で始める。そして少し気の張った口調でテツとシグルドにに忠告を行う。


「この娘、ヴァニルまで送ってくわ。それと早く脱出した方がいいかもね?」


 ノルンが告げると、彼女はフラムと共に一瞬光に包まれて消え去ってしまった。同時に扉が勢いよく開かれる。部屋に入って来たのは焦った様子のフィノであった。彼は息を切らしながらシグルド達に駆け寄った。


「シグルドさん、軍の連中が!」

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