第三十三話 ー神を止める者ー
王宮の廊下を静かに歩む赤い影がそこにあった。それは全身から高熱を発し、右手には柄の長い長剣を型取った炎を手にしている。普段のあどけなさは鳴りを潜め、今はただ、禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「撃て撃てぇ!!」
号令と共に幾つもの銃声が鳴り響く。銃口から鉛玉が射出され、フラムに向かって一直線に飛んでいった。しかし、銃弾はフラムの目の前で液体と化し床に飛び散る。
「愚かな」
彼女が剣を横薙ぐと同時に、刃の部分から高熱の衝撃波が発せられた。銃弾よりも速いそれは兵士を吹き飛ばしかつ、彼らを燃やし始める。
「熱い!! あつい!! ああああああ!!!!」
「たすけて!! たすけてたすけて!!」
もがき苦しみながら助けを求める兵士達の脇を、その声を無視してフラムは通り過ぎる。しばらくして再び別の兵士が彼女に襲い掛かってきたが、彼らの末路は目に見えていた。
そして、王宮を出たフラムは南東へと進行を始める。
※ ※ ※
「……」
異変に気付いたフラムは歩みを止めて辺りを見回した。今まで心地好く頬を撫でていた風が急に止み、風景から色が失われてまるで時間が止まったかの様であった。
「はーい、そこまでっ」
突如、弾んだ声と共に何処からともなく煙管を右手に持った紫髪のグラマラスな女性、ノルンがフラムの目の前に現れる。
「久しぶりねフラムちゃん……いえ、ムスペル」
「貴様と話すつもりはない」
「ちょっと位いいじゃない、数百年振りの再会なんだから」
ノルンは口角を上げるが目だけは笑っていなかった。フラムは舌打ちをして彼女に訊ねる。
「何をする気だ?」
「私もそれを聞こうと思ってたのよ」
「分かりきった事を」
「あら、じゃあ貴方も理解してるって事でいいわね?」
ノルンはそう言って煙管を吸うと、すぐさまフラムに左手を向ける。それと同時にアメジストの様に綺麗な瞳が一瞬妖しく光り、フラムの足元に大きな魔方陣が形成された。
「捕らえろ」
その一言で、魔方陣から樹木の根の様な物が無数に飛び出した。それらはフラムに纏わり付くと彼女の膝を地に着かせ、両腕を引っ張って大の字に拘束する。
「その程度か」
対してフラムは不適な笑みを浮かべて雄叫びを上げた。すると、彼女に纏わり付いた根は瞬時に灰となり、拘束を解いたフラムは両手で剣を構えながらノルン目掛けて突っ込んで行く。しかし剣の切っ先は彼女に刺さる寸前で見えない壁に食い止められてしまう。
「魔障壁か、小癪な」
「貴方、何だか弱くなった?」
「……貴様ぁ!!」
ノルンの挑発に怒声を上げて全身に力を込めるフラム。次の瞬間、フラムを中心に炎が円状に広がり始め彼女の周囲を徐々に焼け野原にしていくが、物の数秒で炎の進行は止まってしまった。
そして彼女が手に持つ炎の剣はその形を崩して霧散し、フラムは眠り込むかのようにその場に倒れこんだ。
※ ※ ※
「魔力切れね。まだ完全じゃない…………今のうちかしらね」
ノルンは倒れたフラムを哀れみの眼で見つめながら、彼女に再び魔力を込めた手をかざす。
「さようなら」




