第三十一話 ー覚醒ー
暴力的な描写がありますので苦手な方はご注意くださいm(__)m
「どういうこと?」
「君はムスペルの末裔だとあの爺さんは言っていた。君は知っていたのか?」
「……」
テツの問いにフラムはしばらく口を閉じていたが、ちょっとしてからおどけた様な明るい声で答える。
「ごめんね、実はあたしも知らなかったんだ。でもいざ言われてみても何だか実感も湧かなくてさ。まさかあたしがあの最強のムスペルの末裔だなんてねぇ~、えへへ……何だろう、ちょっと分かんないや」
「不安か?」
「えっ?」
優しく穏やかにテツは声を掛けた。
「……うん」
「大丈夫だ、それでいい」
※ ※ ※
数時間後、再び牢に白衣の老人が、鉄の仮面を付けた大柄で屈強な上裸の兵士を二人、両隣に引き連れて現れる。ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべながら彼はテツの牢に近づいた。
「やあやあ、気分はどうだね、お二人さん?」
「あんたが来るまではそこそこ良かったよ」
「ホウホウ、つまりより元気になった訳だな」
テツは殺意のこもった目で老人を見つめた。しかし老人は臆することなく、さらに口角を上げて話し続ける。
「早速だが依頼屋君、今から実験に付き合ってもらおう。なに、少々その体を調べさせてもらうだけだ」
「何だ、あんたそっちの気があるのか」
テツは馬鹿にしたかのように鼻で笑って答えた。
「ふむ……どうやら知能はそこまで高くないようだな」
「あぁ?」
老人は自身の右隣の兵士に首を動かして指示を出す。すると兵士はフラムの牢へと歩み、格子を開けて内部へと入っていった。
「えっ……!?」
突然の出来事に、フラムは困惑の表情を見せる。そんな彼女の事は気に留めず、兵士は左手でフラムの頭部を力を込めて握り、自身の目線辺りまで持ち上げた。
「いだ……ぁ…………」
か細い呻き声と、ミシミシと骨の軋む音が響き、テツは思わず老人に怒号を飛ばす。
「てめぇ、何しやがんだ!!」
「殺さず続けろ」
老人の一言で、兵士は空いている右手でフラムの腹部に拳を勢いよくめり込ませる。
「うっ……」
兵士は続けて二、三度、同じ部位に打撃を与えた。あまりの衝撃にフラムは耐え切れず嘔吐してしまい、吐瀉物が兵士の足元に撒き散らされる。兵士は、まるでゴミを捨てるかのようにフラムを投げ、脚に飛び散った汚れを振り払いながらそそくさと元の位置に付いた。
老人は倒れたフラムを見やって独り言を呟く。
「う~むムスペル族、彼らは感情の高ぶりによってその力を増大させると言うが……所詮はまだ子供か……」
(大男二体、年寄り一体。……ろくに飯は食えてない、五分、いや十分持つか……)
テツは目を瞑って深呼吸をし始める。しかし呼吸音に気付いた老人は、テツの方に顔を向けて仏頂面で言い放った。
「知ってるぞ、君は何やら特殊な呼吸法でその身体能力を増大させると。ヨルムンガンド潰しも君の仕業なのは把握済みだ」
「……」
「そのまま枷を壊して暴れてもいいが、今のでどうなるか理解出来たはずだ。お友達を傷つけたくなければ余計な口を利かず素直に従ってもらおうかね?」
「……さっさとしてくれ」
目を伏せながら力無くテツは答え、それに老人は満足したかのように微笑む。そして格子の錠を開けてテツに近づき、彼の目の前で呪文を唱える。
「弱まれ、“脱力せよ”」
(力が……入らない……)
枷を外され、重力に従ってテツはうつ伏せに倒れこむ。そして老人は先程フラムを甚振った兵士に再び命令する。
「運べ、こいつは雑に扱っても構わん。何なら殴りながらでもいいぞ」
兵士は嬉しそうに鼻息を荒くしながら小走りでテツに駆け寄り、彼の胴回りを片手で握り潰すかのように掴み持ち上げる。激痛に襲われ、抵抗する力も無いテツはただ叫ぶことしか出来なかった。
「があああああ!!!!」
「ヌホホォ~、やはり悲鳴は聞き心地が良い! 後で沢山聴かせて貰いましょうかな!!」
老人達は地下牢を後にしようとご機嫌に歩み始める。だが、もう一人の兵士はその場から微動だにせず、ある一点をじっと見つめていた。
「おいどうした、お前も付いて……」
老人は振り返って兵士の見つめる方を向いた。彼らの目には、堂々と立ちながら虚ろな瞳でこちらを見つめるフラムの姿が映っていた。




