第二十九話 ーミズガルズの王ー
今話で登場するキャラクター紹介です。
トント ミズガルズ国王 40代後半、172cm、96kg
「やっぱり便利だな、その石は」
ミズガルズ王国王宮前にて。テツはシグルドの背後から話しかけた。
「ああ」
「ところでだ、後で俺と手合わせでも頼めないか?」
「考えておこう」
シグルドの反応は素っ気無く、テツは話すのを止めた。
王宮内謁見室。通路の左右にライフル銃を装備した軽装の兵士数人が規則正しく並ぶ中、その最奥部中央の玉座に、豪華絢爛な衣類や装飾品を身に纏い、少々小太り気味の体型、王冠に隠れて見えないが頭髪は一切ないであろうことが予想できる壮年の男が座っていた。彼の態度は少々高圧的であった。
シグルドは男に近づくと片膝を付いて頭を下げる。一方のテツは彼の背後で、立った状態で両手を自らの後頭部で組みながら2人のやり取りを見ていた。
「トント王、件の依頼屋を連れて参りました」
「これはご苦労ご苦労。私は彼と話がしてみたい、下がりなさい」
「はっ」
シグルドは立ち上がって男に一礼をした後、男の方をを向いたままテツの隣まで歩いた。そして彼に“行け”と目配せをする。
テツは軽くため息をついてから、男の目の前まで近寄った。
「本日はどのようなご依頼で?」
テツは愛想笑いを浮かべて話しかけた。
「よくぞ聞いてくれた。では単刀直入に言おう」
トントはコホンと咳払いをして話を続ける。
「君の血を献上してはくれまいか? 勿論報酬は相応に出そう」
「おいあんた、どこで何を知った?」
「人の口に戸は立てられぬと言うだろう? もっとも、君の反応を見ると噂は本当らしいな」
(……やっちまった)
かまをかけられたテツは何とか動揺を隠し、男の目をしっかりと見つめながら睨みつけた。
「残念だが、あんたの思っている様な事にはならない。むしろ逆の事が起こるぞ?」
「ほう……ますます興味が湧いてくるな」
「分かった、金は要らん。この話は無かった事にしてくれ」
テツは食い気味に言って踵を返す。すると彼の目の前には両手に剣を持って仁王立ちで退路を塞ぐシグルドの姿があった。通路脇にいた兵士達は皆、隊列を作ってテツに銃口を向けている。シグルドは感情のこもっていない瞳でテツを凝視するが、対してテツは嬉しそうに口角を上げた。
「へぇ、その気になったか」
「貴様に拒否権は無い。大人しく血を渡せ」
「そいつは出来ないご相談だ、欲しけりゃ力尽くで取りな!」
拳を顔の前で構えたテツは素早く不規則に、左右に頭を揺らしながら、低姿勢でシグルドの懐に潜り込む。腰を捻り、その勢いにのせて右拳を追従させ、彼の左肋骨に強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
シグルドはあまりの激痛に顔を歪ませるも、何とか耐えながら後ろに飛び退こうとする。
(鈍い!)
テツはそれを許さなかった。彼はすぐにシグルドの左側に回り込み、しゃがみつつ踏み込んで、再び右拳で先程と同じ部位に腕を内側へ捻りながら突きを放つ。
シグルドは二度襲い掛かった衝撃にとうとう耐えきれず、そのままうつ伏せに崩れ落ちた。
「次は容赦しない」
倒れたシグルドの頭部付近にテツは近寄って言い放った。その背後では一人の兵士が銃の引き金を引こうと指に力を込める。
「お前も……やるかい?」
テツは振り返り、兵士の眼をじっと見つめて構えを取る。臨戦態勢に入ったテツの目は、楽しげかつ狂気を孕み、兵士達の士気を無くすことは容易であった。
彼らの戦意を削いだ事を確認し、テツは今度こそ王宮の出口へと向かう。
「待ちなさい」
テツは荒々しく振り向いて、軽蔑するかのように声の主、トント王を見つめる。
「何だ達磨親父、次はお前が相手か?」
「フフ……ところでこの娘は君の忘れ物ではないか?」
彼は不敵に笑って両手を軽く二回叩く。パンパンと小気味の良い音の後、玉座の後ろから全身を鎖で縛られた赤茶髪の少女が一人の兵士に乱暴に、玉座の隣まで連れて来られる。彼女は猿轡を噛まされ、目隠し、更には首に縄を巻かれていた。
「……貴様ら、何しやがった!!」
テツは少女を見るや否や怒りを込めて叫ぶ。彼が見間違えるはずはない、今朝会ったばかりのフラムの姿を。




