第三話 ー初陣(1)ー
今話で名前の出るキャラクター紹介です。
クレール フラムのパーティの1人。169cm、57kg
フラムの1つ年上。
リット フラムのパーティの1人。178cm、79kg
クレールとは幼馴染で同い年。
「じゃ、お願いしまーす!」
フラムは輝く笑顔を見せながら張りきった声で言った。
「相変わらず声がデカいな君は……分かった分かった、承った。しかしだ、一人納得してなさそうだが?」
テツはそう言うと、フラムの後ろで腕を組みながら彼を睨む少女に目を向けた。腰辺りまで伸ばした輝く金髪、目の虹彩は小さく、まるで獲物を捕らえた肉食獣の様な目つきだが、美少女と呼べる端正な顔立ち、くびれとふくらみがハッキリした身体をフードのない黒の修道服に包みこみ、先端が槍のように尖った大きめの杖を背負った緑目の少女、クレールは眉一つ動かさないままテツに突っかかってきた。
「やっぱ納得いかねえ! 何であんたみたいな、どこの馬の骨とも分からねえ男に俺らが世話にならなきゃいけねぇんだ!?」
「ちょ、ちょっとクレール! さっきは大丈夫って言ってくれたじゃない!」
フラムは驚きの声を上げた。クレールは構わずにテツに罵声を浴びせ続ける。
「もっとでっかくて屈強なやつかと思ったらなんだ? ひょろっひょろのチビじゃねぇか! 男なのに、俺よりちっせぇこんな奴1人に報酬の4割取られるだ? 冗談じゃねぇ!!」
「まあまあ落ち着いて。でもこの人が僕たちを助けてくれたんだ。僕ら3人で敵わなかった10人の相手をたった1人、しかも素手で倒した。これからの事を考えてここは色々と教わるのが良いと思うけど……」
優しい声でクレールを宥めるのは、皮製の胸当てと木製の弓と短剣を身に付け、逆立てた明るく短めの茶髪に大きな青色の目、クレールとは対照的に、大らかで優しげな雰囲気を醸し出す少々大柄な少年リット。
「1人で素手で倒したって証拠はどこにあんだ? 本当にあんた1人で武装した俺らを運んだのか? フラムの言葉を信用しない訳じゃねえがど~うにも信じられねぇ!!」
宥められてもクレールは言葉を止めない。そんな彼女にテツは提案をした。
「まあ、自分の目で見ないと信じられない気持ちは分かる。なら早速“くえすと”を受けようや。登録は済ませてきた、そこで俺の実力を見せれば納得してくれるか?」
「チッ、もし無様な姿を晒して無能だと分かったら即クビだからな!!」
クレールはそう言うと、そそくさとギルドに入っていった。
「あのテツさん、先日は本当にありがとうございました。彼女の分もお礼を申しあげます」
クレールの後ろ姿を見つめるテツの右隣からリットが深く頭を下げて礼の言葉を伝えた。テツは気にしてないという様子で彼に軽く微笑んだ。
「ん? ああ。そんなに畏まらなくても大丈夫だぞ?」
「いえ、これが僕の性分でして」
「そうか。しかし、それにしてもあの娘なかなか攻撃的だったなぁ……」
苦笑いをしながらテツは言う。そんな彼にリットは再び、今度は軽く頭を下げる。
「申し訳ありません、あいつ、昔に色々とありまして男性が苦手というか嫌いというか……子供なら大丈夫なのですが。無礼をお許し下さい」
「ごめんね、ほんとは良い子なんだけど……」
フラムもリットに続いて謝罪をした。だがテツの様子は気にしていない所かどこか嬉しそうだった。
「誰にだって好き嫌い得意不得意はある。過去に何かあったなら尚更だ。ま、認めてくれるよう頑張りますか。さて、俺たちも行こうか」
テツを先頭に3人もギルド内へと向かった。
※ ※ ※
「おいこら遅ぇぞ! 早く昨日の報告だ! 後、クエスト受けんだろ?」
3人は先に入っていたクレールと合流し、4人で受付へ向かう。受付では先程テツの登録をした受付嬢が彼らに対応を始める。
「お疲れさ……フ、フラムさん!? それにお2人も! 捜索に出た冒険者の方から見つからなかったと報告があったので……とにかく無事で良かったです……」
「お~いおい、なぁにが良かっただぁ? あいつら10人もいたぞ!? 情報とちげぇじゃねぇか、ああん!?」
クレールは受付嬢に食って掛かる。受付嬢は決まりが悪そうだった。
「はい、それも存じ上げています……」
「クレール! 受付の人は悪くないよ! ここで文句言ってもどうにもならないでしょ? とにかく無事に帰って来れたんだから! ね? ほら、早く石出して!」
クレールに落ち着くように、そしてフラムは石を催促する。クレールは何度か深呼吸を行い、苛立ちを抑えて冷静を取り戻していった。
「……分かったよ、ほら。……悪かったな」
「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず。それではお預かりしますね」
謝るクレールに受付嬢は優しく笑って返し、カウンターの裏へと回っていった。
「全く、お前はすぐ喧嘩を吹っ掛けて……もうちょっと落ち着いたらどうだ?」
リットは静かにクレールを叱った。だが頭に血が上りやすいのか、クレールは負けじと言い返す。
「泣き虫が指図すんじゃねぇよ」
「いつまで言い続けるんだ、それ」
「お前が死んでも俺が生きてる限り言い続けてやる」
「はあ……」
「フフッ、やっぱり仲がいいのね」
2人のやり取りを傍で見ていたフラムが屈託のない笑顔で言った。
「はあ!? んなわけあるか!!」
※ ※ ※
3人がそんなやりとりをしている内に受付嬢が怪訝な顔をして戻ってきた。
「お待たせしました。皆さん、1つお尋ねしたいのですが……討伐対象はどのように倒されたのでしょうか? 石を調べたところ記憶が飛んでいる所が見受けられて、討伐される場面が見られなかったのですが……」
「実は……後ろの彼が助けてくれまして。野盗も全員1人でやっつけてくれたんです」
フラムがテツに向かって、紹介する様に手の平を上に腕を伸ばして質問に答えた。
「あなたが?」
「そうなりますね」
頭を掻きながら無表情でテツは返した。受付嬢は険しい表情で顎に手を置き、ブツブツと独り言を呟く。
「捜索隊の報告だと、野盗は瀕死状態で倒れていて裂傷や魔術痕は無く所々の骨が砕けていた……しかもそれは拳で殴ったような……まさか1人であの人数を?」
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
テツは先程石が割れた時と同じように受付嬢に声を掛けた。
「えっ、あ、ああ、ちょっと考え事を。……なるほど、分かりました。捜索隊からも討伐対象の撃退報告がありましたので、依頼成功ということになります。では、こちらが報酬になります。テツさんが退治をしたとしましても、今回は情報に不備がありましたので多めに出させて頂きますね」
そう言うと受付嬢はカウンターの上に銀貨8枚と、それよりも少し小さめの金貨1枚を置いた。
「うおっ! 小金貨!? まず1ヶ月は飯に困らねぇ! んでもっていい酒が飲めるじゃねぇか!!」
「こ、こんなに……!!」
歓声を上げるクレールとフラム。だがそんな彼女らにリットが申し訳なさそうに声を掛けた。
「2人とも。これだけの報酬、僕たちが受け取るべきではないと思うんだけど……」
「……うん、そうだよね。何も出来てないから……」
リットはカウンターの硬貨を持ち、あろうことかそれをすべてテツに差し出した。
「テツさん、貴方にこれを差し上げます。僕たちは何も出来なかった、でもテツさんは1人でそれをやってのけた。だから貴方がこれを」
「ちょっと待てリット。何勝手な事してんだ? 依頼を受けたのは俺らだ、その時こいつは居なかった! 無関係なんだ! ならそれは俺たちのもんじゃねぇのか!? ……フラム、お前も何か言え!」
リットの急な行動にクレールは強く反論した。そんな彼女に少しおどおどしつつもハッキリとフラムは意見する。
「あたしは……リットに賛成する。リットの言う通り、あのままだと何も出来ずにあたしたち殺されてた。それよりもひどい目に遭ってたかもしれない。そんな中テツは助けてくれた、命の恩人だよ? これでも足りないよ……」
「だ~か~ら、その証拠は? 何で2人とも初対面の男を信用するんだ!? お前らお人好しにも程がある……騙されてるかもしれねえんだぞ? 良いように利用されるかもしれないんだぞ!?」
「……」
クレールの主張は間違ってはいなかった。加えてその怒声にリットとフラムは何も言えなくなってしまった。それを見かねたテツが3人に話しかける。
「彼女の言う通り野盗討伐の件は成り行き、それについての契約は何もしてない。過程がどうであれ奴らは倒され、そして依頼を受けたのは君たちだ。ならその報酬は君たちの物だよ」
「ですが……」
申し訳なさそうな様子のリットに微笑を浮かべながらテツは語り掛ける。
「本人が良いって言ってるんだ。大丈夫さ、次からきっちり貰うからよ」
そして、彼は受付嬢の方を向いてニヤリと笑った。
「お嬢さん、“くえすと”の受注を頼みます」
「かしこまりました。では、少々お待ちくださいませ」