第二十一話 ー撤退ー
今話で登場するキャラクター紹介です。
ヴァルト 獣人の少年 15歳、157cm、50kg
タイガ 獣人の青年 18歳、182cm、86kg
シルヴァ 獣人の少女 17歳、160cm、47kg
「行くぞ」
テツは刀を構えてゴーレムに飛びかかる。一瞬で間合いに詰め寄り、石造りの両大腿部を綺麗に切断する。ゴーレムはテツの俊敏な動きに一切反応出来ずに一方的に斬撃を受けて仰向けに崩れ落ちた。
2人の方へ振り返り納刀するテツ。
「へっ、口ほどにもねぇ」
「すごい……」
獣耳の少年は感嘆の声を漏らすが、フラムは険しい表情でテツに注意を促した。
「気を付けて! 多分そいつ復活するよ!」
フラムが声を発した直後であった。切断したはずの脚が倒れているゴーレムに引き寄せられていき、断面同士が隙間なく引っ付いた。するとゴーレムは何事も無かったかのように再び立ち上がり、ゆっくりとテツ達の方へ向かい始める。
テツは振り返り再び抜刀するが、ゴーレムは長い腕を利用してテツ目掛けて右ストレートを放つ。歩きと攻撃の予備動作は鈍重だったが攻撃そのものは素早く、テツは拳が当たる寸前の所で自らの腕で防御する。
しかしテツはあまりの衝撃にフラム達の後方まで吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れて苦しそうに呻き始めた。
(まずい、骨が幾つか折れた。一分、二分あれば治るが……あいつら!)
「テツ! ……頑張って治して! それまであたしが守るから!」
「あれ……」
少年は震える声で後方を指差す。その言葉にフラムは置いてあるカンテラを取り、振り向いて彼の指差す方を確認する。暗闇から複数体のゴーレムがこちらにゆっくりと、地を鳴らしながら向かって来ていた。
「もう、ダメだ……皆死んじゃうんだ……」
「諦めないで! 君、何か武器か道具は持ってる!?」
「な、ナイフと外傷薬と内傷薬を一本ずつ……後は魔封石を……」
(ゴーレムは魔力で造られてる……なら!)
フラムは少年に力強い声で指示を出す。
「魔封石貸して!」
「う、うん……!」
魔封石を取り出した少年はフラムにそれを山なりに投げ渡す。彼女は見事に手に取るが、触れた瞬間に魔封石は一瞬にして粉々に砕け散った。予想外の出来事にフラムは動揺してしまうが、そんな事はお構いなしにゴーレムは徐々に彼らへ迫っていた。
「な、何で!?」
「今度こそ終わりだ……ごめん、兄ちゃん姉ちゃん……」
「……」
獣の少年の言葉でフラムの表情が変わる。その瞳は決意に満ちた力強いものであった。
「正面突破するよ。彼を運んであたしに続いて!」
「え?」
フラムはゴーレムの顔に向けて左手をかざす。それを目視したゴーレムは歩みを止めずに拳を構え、胴を右にゆっくり捻り攻撃の準備を始めた。
(行け!)
かざした手から、手の平大の火球が生み出されそれは勢いよく射出された。見事に狙いへと命中しゴーレムの頭部を破壊する。頭部を失ったゴーレムの構えは解かれ、再び仰向けに倒れこんだ。
そして、砕け散った頭部の破片が元あった場所へと引き寄せられ始める。フラムは振り向いて少年に指示を出した。
「ほら、行くよ!」
「う、うん! ……!!」
後方から迫るゴーレムが彼らのすぐそばまで迫って来ていた。そして先程倒したはずのゴーレムも立ち上がり、3人は絶体絶命の状況に陥っていた。2人は力無く崩れ落ちる、その表情は絶望そのものであった。
「あ……ああ……」
「もう……終わりなの……?」
(…………よ、力を、…………の力を……)
「え……?」
突如空間に声が響き渡る。だが、声に反応したのはフラムだけで後の2人には聞こえていない様子であった。
次の瞬間、フラムは頭を抱え、呻き声を上げながら苦しみ始める。彼女の全身からは汗が噴き出され、肉体は熱を帯び、目の焦点が合わなくなる。そして彼女は膝立ちの状態でうなだれた。
それを気に留める様子も無くゴーレム達は攻撃態勢に入り、片方は拳を突き出そうと、もう一方は彼らを踏み潰そうとしていた。
少年が小声で、涙を流しながら呟いた。
「いやだ……死にたくない……!」
少年が言葉を発した直後、うなだれていたフラムが立ち上がる。そして彼女は顔を前に向け、小さくもハッキリとした低い声で言葉を放つ。
「消え失せろ」
その瞳には光が無く、虚ろに敵を見ていた。
言葉に呼応するかの如く、ゴーレム達の身体が同時に、胸部を中心に内側から爆発した。粉々になったそれらが再び集まって構築される事は無く、ゴーレムは完全に沈黙した。
※ ※ ※
肉体を修復していたテツが起き上がる。動きは軽やかで先程の怪我が嘘の様であった。
「ふぅ、やっと治った……フラム、すごいな君は。一体何を」
フラムは倒れて動かなくなっていた。呼吸が荒く、全身から高熱を発していた。テツは彼女に駆け寄って体を抱え寄せる。
「おい! どうした……熱っ! こりゃ、人から発せられる体温じゃない……」
「だ、大丈夫なの?」
「分からない、……俺らは一旦引く。君はどうする?」
「僕は……」
「ヴァルト!! そこにいるのか!?」
入口方面から大きな声が聞こえてくる。テツ達がそちらを見やると、灯りと共に二つの人影がこちらに迫っているのが確認出来た。テツは警戒するが、獣耳の少年はフラフラと声のする方向へ歩いて行った。
「おい! そっちに行くんじゃねぇ!」
「タイガ兄ちゃん……?」
「ヴァルト!!」
人影が、ハッキリ見える範囲までこちらに向かってきた。一人は少年と同じく灰色の短髪を持った筋骨隆々かつ長身の青年、もう一人は眩い金の長髪を持つ華奢な少女で、どちらも獣の耳と尻尾を持っていた。
ヴァルトと呼ばれた少年は青年の元へ駆け寄ろうとするが、金髪の少女が青年の前に割って入り、少年の頬に思いっきり平手打ちを放つ。直後、力強く彼を抱きしめて泣きながら話しかけた。
「この大馬鹿!! 何で心配掛けさせるの!!」
「……皆を、助けたかったんだ。ここにある“あれ”を使えばヨトゥンの連中を」
「何でそれを知ってるの……?」
金髪の少女は驚きの声をあげる。
「集会の時に聞こえてきたんだ……それで僕も何かしなきゃって……」
「そんな事考えなくていい! 貴方が危険を冒す必要は無いの!! 貴方が死んだら、父さん母さんにどんな顔を向ければ良いの……」
「……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
「何はともあれ怪我も無さそうだ、本当に見つかって良かったよ」
獣耳の青年タイガはニコリと笑っていたが、ヴァルトはテツ達を指差して早口で焦った様にタイガに言った。
「兄ちゃん、あの人たちが僕を助けてくれたんだ。だけどあの赤髪の女の子が倒れちゃって、すごい熱を出してるんだ。どうにか助けられない……?」
「人間……。ダメだ、奴らは敵だ」
「でも、あの人たちは背が大きくないよ? それに僕を殺すつもりなら」
「ヨトゥンの奴らが全員デカい訳じゃない、それに回し者の可能性もある。もしかしたらお前を先導させて“あれ”の所まで行かせた後に殺されたかもしれないんだ」
タイガの声は優しくも冷酷であった。ヴァルトは彼の言葉に何も言えなくなってしまった。その最中、荷物を体の前面に提げてフラムをおぶったテツが彼らの脇を通り過ぎようとする。タイガはそれを確認すると、テツの目の前に立ちはだかった。
「どこへ行く気だ?」
「家に帰るんだ、退いてくれ」
「信用されるとでも?」
「どうでもいい、病人がいるんだ、急がないといけない」
「兄ちゃん……退いてあげようよ……」
「……」
タイガは少し考えて通路の端に移動する。そしてテツが闇に消えていくまでジッと彼を睨みつけていた。
※ ※ ※
遺跡の入口まで二人は戻って来た。フラムは未だに呼吸を荒くしており、苦しそうな状態であることは一目瞭然であった。テツはフラムの道具袋を漁ってメモリアストーンを取り出し、テツの家で彼女が使ったようにそれを額に当てた。
テツの脳内に複数の風景が流れ込んでくる。
(こっからどうすりゃいいんだ? ……とりあえずやってみるか)
テツは、流れ込んできた風景の一つに向かいたいと念じる。すると、淡い光が二人を包み込んだ。しばらくして光が消えると、彼らの姿は消え去っていた。




