第二十話 ー宝探しー
「依頼屋テツ」、ここは日常の雑務から果ては用心棒までこなす、所謂便利屋の様な所である。この店の経営者であるテツは、早朝の鍛練を終えて朝食を作っていた。内容は玄米、厚焼き玉子にコンソメスープと質素な物である。
料理を作り終えて食器に盛り付けている最中、彼は付近の窓から視線を感じ取り、恐る恐る気配のする方を見ると……。
※ ※ ※
「おいしーい! やっぱりテツのオムレツはひと味違うね!!」
フラムは箸を器用に扱いながら料理を頬張る。それを見ながらテツは溜め息をついていた。
「玉子焼きだ。というか開店前だぞ?」
「だって美味しそうな匂いがしてきたからさ、食欲には勝てなかったよ……」
「朝飯食ってないのか?」
「ううん、いつも通り食べてきたよ?」
「えぇ……」
更に深い溜め息をテツはつく。そんなことはお構いなしにフラムは茶碗を片手に大盛りの米を掻き込んでいた。だが、彼女が開店前に来るということはテツにとって少し喜ばしい事でもあった。
「この時間に来るってことは、依頼だな?」
「あったりー! 流石分かってらっしゃるぅ~」
「半年も同じ様な事されたら嫌でも覚える。で、今日は何だ?」
笑みをこぼしながらテツは手帳とボールペンを取り出した。そんな彼に少し興奮気味にフラムは話す。
「えっとね、最近北東の方で遺跡が発見されたんだって! 噂によるとお宝が眠っているとか!」
「なるほどな、つまり君のお守りをしろ、と」
「あ、言ったな~? これでも前より強くなったんだからね!」
フラムはそう言うと腰に提げている剣を抜いてその場で軽く振り回す。
「危ない危ない、分かったから止めてくれ」
「ふっふーん、じゃあ、改めてお願いね? 今回はお幾ら?」
剣を納め、フラムがテツに聞いた。テツは顎に手を置きながら少し考えて、彼女の質問に答える。
「よし、今回はそのお宝の山分けといこうじゃないか。質問意見文句は?」
「はーい、お宝の配分は?」
フラムは大きく手を上げて言った。そして、笑顔の彼女にテツも微笑みながら容赦なく言い放つ。
「七対三、勿論俺が七割貰う」
「えぇ~……そこは半分こ……」
「ならやめておくか?」
「う~……分かったよ! でも物は選ばせてもらうからね!!」
「決まりだな、準備するからちょっと待ってろ」
テツはそう言うと2階へ上って身支度をし始めた。
「準備完了だ」
ナップサックを背負って片手には刀を、反対の手には地図を持ったテツが降りてくる。足取りは軽く、どこか楽しげであった。
彼は机に地図を広げてフラムに訊ねる。
「その遺跡とやらはどこにあるんだ?」
「ねえ、まさか歩きとか馬車で行くつもりなの?」
「え?」
今度はフラムが溜め息をつく番であった。彼女は道具袋に手を入れて何かを探している。しばらくすると、透き通った橙色をした石を取り出してそれを机に置いた。
テツはきょとんとした顔で石を見つめながら再びフラムに訊ねた。
「何だ、こりゃ」
「これもメモリアストーンだよ、でも人の記憶じゃなくて場所を記憶させるものなの。テツ、あたしと手を繋いで」
促されたテツは怪訝な表情をしながらもフラムの手を取る。フラムは机に置いたメモリアストーンを手に持って自らの額に軽く当てた。
すると石と同色の淡い光が2人を包み込み、一瞬の内に彼らの姿は消えてしまった。
※ ※ ※
ヴァニル王国北東部にある山岳地帯にテツとフラムは移動していた。割りと標高の高い所に飛ばされており、辺りにはちらほらと白銀に染まる箇所が見受けられた。
「さっむ!!」
急な気温の変化にテツの声と体はガタガタと震え始め、彼は両手で体をさすっている。反対にフラムは平然とした様子であった。
「あ、山頂近くだからここ寒いよ」
「……君は寒く無いのか?」
「うん! 炎魔術で体温調節出来るからね!」
「便利なこった……」
テツは呆れと寒さでものが言えなくなる。流石に見かねたフラムは、テツに先程とは別の赤く輝く石を手渡した。
「大丈夫? はい、これ」
「これは……温まる……」
「魔石の一種だよ。“炎石”って言って、これは暖を取るための物! 体の近くにあるだけで温まる事が出来るから寒い所では重宝するの! 後、同じ炎石でも戦闘用の物とか料理用の物とかもあるよ!」
「……とにかく助かった」
「えへへ」
テツは何か言いたげであったが、言葉を腹に収めて周囲を見渡した。山々に囲まれていて人工的なものは一切見当たらなかったが、彼が後ろを振り返ると“それ”はあった。
「こんな所に……」
「ここがその遺跡だよ。じゃあ、早速行こ!」
「あ、ちょい待て!」
フラムは駆け足で内部へと進んで行き、テツも急いで彼女の後を追うのであった。
遺跡は石造りで内部は暗闇に包まれていおり、灯りが無ければ身動き一つ取れない状況であった。テツが先頭に立って懐中電灯を点けて進もうとするのだが、その灯りはすぐに切れてしまい再び辺りを闇が覆う。
急な出来事にフラムは思わず叫んだ。
「きゃっ!! な、何!?」
「まずい、電池切れだ……」
「で、デンチ? なぁにそれ?」
「灯りを付けるための燃料だと思ってくれれば良い。クソッ、確か替えが……見えねぇな」
「あ! だったら……」
フラムは自らの道具袋に手を突っ込んで感覚だけで中を探り始める。しばらくして彼女は何かを取り出した。手にした物を軽く上下に振ると、それは強烈な光を放ち始めた。石を入れた小型のカンテラであった。
「よし! これで大丈夫!」
「提灯……?」
「えっと、カンテラだよ? 中に光石って魔石を入れて灯りにするの! 光石はちょっと刺激すれば6時間は消えずに光り続けるから、火を使うより便利だよ!」
「……」
ここまでフラムに助けてもらうばかりだったからかテツは少し落ち込んでいた。そんな彼の気持ちを察したフラムが励まそうと声を掛ける。
「ふふっ、戦いの時は頼りにしてるよ?」
「すまんな……」
「もう! 気にしない! 困った時はお互い様、ね?」
「……ありがとう。では早速それを貸してくれるか? 俺が前に出る、後ろは頼んだ」
「まっかせて!」
「うわあああああああああああ!!!!」
奥から絶叫が聞こえてくる。声の大きさからしてそれは近くで発せられたものであった。テツ達は驚きで一瞬硬直する。
「今の何!?」
「明らかに人間の声……襲われているのか?」
「た、助けないと!」
「いいのか? そいつもお宝を狙ってここに入ったかもしれない、先に見つけられて全部取られちまうかもしれんぜ?」
テツは冷たく言い放つ。フラムはそれに対して少し怒った様な口調で返した。
「人助けの方が先! お宝よりもそっちの方が大事だよ!」
「お人好しな……ま、君に従うよ。ほら、それ貸してくれ」
フラムは持っていたカンテラをテツに手渡し、テツを先頭に2人は声のする方向へ慎重かつ急ぎ足で駆けて行く。
※ ※ ※
時間にして1分もしないうちに彼らは声の主を発見する。その者はナイフを持ち腰袋を引っ提げた灰色の髪を持つ少年であった。だが、普通の人間とは違い彼には本来耳があるはずの所にそれが無かった。その代わりに頭部に獣の耳に加えて尻尾が付いていた。そして少年の目の前には、通路を覆いつくす程の体躯を持つ岩石で出来た巨人が敵意を向けながら立っている。
後ろから近付いてきたテツ達に気付いた少年は、怯えた表情で叫びながら後退りした。
「ぎゃあああああ!!! や、やめて! 殺さないでえええええ!!!」
「おい後ろ!」
「へ? そ、そうだったあああああ!!! もうダメだおしまいだ!!」
「助けてやるからこっちに来やがれ! 早くしねぇと本当にぶっ殺すぞ!!」
「ヒッ……」
テツの脅しが効いたのか、少年は一目散にテツ達の後ろに隠れた。
「ゴーレム……テツ、ここは一旦引き返した方が……」
「奥にお宝は眠ってるんだろ? んで、今の所この一本道しかない、ならば」
カンテラを素早く丁寧に地面に置いたテツは抜刀し、構え、ニヤリと笑った。
「行くぞ」




