第十六話 ー安息ー
今話で登場するキャラクター紹介です。
ファーヴニル スキアに仕える少年 見た目年齢12歳位 143cm 33㎏
「フレイ王!!」
スキアがフレイに駆け寄って彼の左胸に手をかざす。スキアの手から青白い優しい光が放たれると、フレイの身体も同色の光に包まれ、数秒でそれは消えた。それと同時にフレイの呼吸、表情が穏やかになっていくのが見て取れる。
続けてスキアが周囲の騎士に指示を出す。
「王の自室までお連れしろ、団医と魔術師部隊の優秀な者を呼べ。私は王に化けていた不届き者を追う」
「スキア団長、先程奴が消えるのをこの目で確認しました。魔力も感知出来ないので追うのは至難かと……」
「何?」
騎士の1人が意見した。驚きの声をスキアは上げるもすぐさま冷静に返す。
「分かった、では王は私がお連れする。団医だけ呼んでくれ、私が回復魔術を掛ける。他の者は各々の持ち場に戻れ」
「はっ!」
その場にいる騎士達全員が返事をし移動し始める。さらにスキアは続けた。
「ファーヴニル!」
「はいはーい」
スキアが名を呼ぶと、どこからともなく気の抜けた返事が聞こえる。直後、一瞬にしてスキアの目の前に、真っ白な服を身に纏い、白い短髪と垂れ気味の赤い瞳を持つ少年が現れた。彼はのほほんとした雰囲気でスキアを見つめている。
「あ、王様無事だったんだね。良かった良かった」
「ああ、全くだ……」
「それで、どうしたの?」
白髪の少年ファーヴニルは微笑んだ。
「エルンストさん達を、あちらの方々を今すぐ客間にお連れしてくれ」
「うん、分かった。あ、あの人は?」
ファーヴニルはテツを指差す。彼はうつ伏せに倒れ動かなくなっていた。
「彼は……」
「スキア君、彼は私達が運んでおこう。早く王をお連れしなさい」
エルンストが優しい声で言う。
「……承知しました、お願いします」
スキアは承諾すると、エルンストからフレイを受け取り駆け足で出ていった。
ファーヴニルに案内され客間に移動する4人。テツは未だ意識を失っており、エルンストに運ばれていた。
エルンストはテツをソファに寝かせ、自身はその近くの椅子に腰掛けた。フラム達3人はテツが寝ている反対のソファに並んで座る。
辺りを見回すフラムが感嘆の声を上げる。
「すごい……」
城の客間ということもあって豪勢な造りとなっており、100人以上人が入ってもまだ余裕がある位の広さであった。
「多分スキアが来るはずだから、もうちょっと待っててね。あ、僕お菓子持ってくるよ!」
ファーヴニルはそう言い扉を開けて駆けて出ていった。
※ ※ ※
15分程してスキアが客間に入ってきた。兜を外したその顔は、中性的かつ端正で、耳元まで伸ばした白髪と黒い瞳を持っている。その後ろにはケーキ5つと同数のティーカップ、ティーポットを1つ乗せた金属製の台車を押すファーヴニルが見えた。
ファーヴニルはケーキとカップをそれぞれの目の前に丁寧に置き、カップに紅茶を注いだ。
「じゃ、僕は行くね~」
ファーヴニルはニコッと可愛らしい笑顔を見せて姿を消した。
ファーヴニルが消えると、スキアはフラム達の前まで歩き深々と頭を下げる。
「王を救って頂き誠に感謝する、貴方達は国の救世主だ」
「救世主だなんてそんな……」
リットは遠慮がちに言った。続いてエルンストがスキアに質問をする。
「スキア君、何故王はあのような所に捕らえられていたのだ?」
「1年前、私は一小隊を連れてここから東にあるヨトゥン帝国との国境付近に向かい、向こう側から侵入してきた魔物の討伐を行っていました。2、3時間程で魔物の殲滅を確認し城に帰還すると、どうも様子がおかしかったのです。城全体の雰囲気、魔力に微妙な違和感を感じ、王の身を守らねばとすぐさま王の自室へ向かいました。王は確かにいました、しかしそれは王本人ではありませんでした。私が剣を構えその者に問い詰めると、“余に従え。逆らえば王の命は無い”と」
スキアは一呼吸置いた。
「奴は、騎士団を含む城の者全員に魔術を掛け、奴自身がフレイ王であると思い込ませていたようです。かなり強力な魔術でしたが、私は防衛魔術で洗脳に掛からずに済みました。それを分かって王を人質に取ったのでしょう。王を助けようにも助けられず、更には友好国で護衛をしていたアールヴ王国から団の撤退も命じられ……歯痒い思いを何度もしてきました。ですが貴方達のお陰で王は救われ奴を追い出すことが出来た、感謝してもしきれません」
スキアは再び深く頭を下げた。
「何だ、そういう事だったのか」
テツがゆっくりと起き上がり、あくびをしながらスキアの方へ振り向きつつ言った。そんな彼をスキアは申し訳なさそうな顔で見た。
「先程はすまない……」
「先に手を出したのは俺だ。そんな事情があれば仕方ないさ」
テツは口角を上げ、気にしていないと身振りをしながら言う。それを見たスキアも安堵の表情を見せた。そのままの表情でスキアはテツに話しかけた。
「ありがとう。そして先日の分隊救出の件、重ねて御礼を申しあげる」
「……何のことだ?」
「テツさん、あれですよ、竜を……」
エルンストがテツに耳打ちをし、テツは納得する。
「ああ、あの事か! 確か騎士の嬢ちゃんと片腕喰われちまった兄ちゃんがいたはずだが?」
「リーベとシュトルツか……彼らは今休養中です。あの事件で心身共にやられてしまい……」
「そうか……」
スキアの顔が打って変わって暗くなり、テツも言葉を詰まらせる。だがスキアはすぐに表情を戻して全員を見回しながら話し始める。
「さて、御礼の話をしなければいけませんね。王からの言伝です、何でも言って下さい」
「酒!! 極上のやつ!!」
クレールが我先にと手を上げ、声を張り上げる。続けてフラムも元気な声で言った。
「じゃあ、あたしはお肉!!」
「僕は大丈夫です、そんな事の為にやった訳では……」
リットは遠慮するが、スキアの目は穏やかながらも有無を言わさなかった。
「じ、じゃあ、武器の新調をお願いします、弓と短剣を」
スキアは目を少し細めてにっこりと笑った。
「承知しました。エルンストさん、貴方は?」
「私もか!? うーむ……」
エルンストはいきなりの事に悩んだが、しばらくして答えを出した。
「ならば、私の分は彼に譲ってくれまいか? 私も彼には借りがある、王であれば私よりも良い物を与えて下さるであろうからな」
エルンストは微笑みながらテツに手を向ける。テツは驚いた。
「いいんですか? 王様からですよ?」
「良いんだ、私はもう足りている」
「……ありがとうございます。」
座ったまま膝に手を付いてエルンストに頭を下げるテツ。そして彼はスキアへ向き直る
「俺はだな……」