第十一話 ー告白(1)ー
フラム、クレール、リットの3人は再びエルンストの村に向かっていた。エルンストからの礼を貰いに来たのである。テツが彼女らの元から姿を消してからいくつかのクエストを受けていたが、短い間にも関わらずその顔はわずかではあるが頼もしいものになっていた。
フラム達が到着すると、村の開けた所に人が集まっていてやけに騒がしい。彼女たちが走ってそこに向かうと見慣れた顔が見えてきた。
※ ※ ※
エルンストの屋敷の、一室のベッドでテツは意識を取り戻す。ゆっくりと起き上がりボーっとした表情で一点を見つめる。
(あらら、俺はどうしてこんな所に……)
「よう、目ぇ覚ましたか」
声のする方向へ顔を向けるとクレールがいた。眉一つ動かさずにテツを凝視しながら彼に近づいてくる。
「まずは、と」
クレールはテツの頬目掛け勢い良く拳で殴りつけた。ゴツッと骨同士がぶつかる音が部屋中に響き渡る。テツは困惑しつつも再びクレールの方を見ると彼女の表情は怒りで満ちていた。
「ふう、俺の気は半分済んだ。あともう半分は……」
クレールはテツの胸倉を掴み思い切り迫る。勢いに圧され彼は顔を逸らした。
「てめぇ、何でいなくなった? お前は何者だ? 全部吐けよ」
溜息を吐きながらテツは答える。
「言えば君の気は収まるのか?」
「多分な」
「なら、一生収まらないな」
テツが鼻で笑いながら言うと、クレールは胸倉から手を放しどこからかナイフを取り出してテツの顔を2度切りつける。痛みに怯まずテツは顔を逸らしたまま動かない。顔の傷はすぐに塞がっていった。
「へぇ、やっぱりエルのおっさんが言ってた通りだ。欠損部位を再生できるならこの程度の傷は屁でもねぇんだな」
乾いた笑いを浮かべながらクレールが言う。
「何がしたい、こんなことに付き合ってる時間は」
「エルフの連中の事か? 諦めろ、森は全焼した。皆攫われたり殺されたり……殺された奴の中にはエルフの王もいたそうだ」
テツは言葉を失った。しばらくの沈黙の後クレールが口を開く。
「アリッサとエルフのガキは無事だ。お前らの近くを通りがかったのがここの村の奴で良かったな、後で礼言っとけ」
「……そうか」
「さて、話が逸れたな」
そして彼女は再びテツの胸倉を掴んで凄む。
「何で急にいなくなったんだ?」
質問に溜息交じりにテツは答える。
「……俺は化物だ、君らの言う魔物と何ら変わりない。そんな奴が人間様と一緒にいるのはまずいだろう?」
自嘲気味にテツが言うとクレールは彼の頬を先程よりも強く殴る。流石に今度は痛かったのか、テツは小さく呻く。
「俺らを信用できないってのか!?」
「そういう問題じゃない。ただ、俺の正体を知ってそれでも関わり続けた人間の末路は悲惨だったぞ?」
「ハッ、似た例なら俺も知ってるぜ」
クレールはテツの胸倉から手を放す。そしてベッドに腰掛けてうつむき気味で話し始める。
「お前、俺の特徴に見覚えは無いか?」
(特徴? 金髪に緑目……)
テツはクレールをしばらく見つめ考える。
「……そういうことか」
「そう、俺はエルフと人間の混血だ」
そう言った彼女は悲し気な笑みを浮かべていた。
「今でこそ少なくなったが、前は迫害が酷かったもんだ。人からも拒絶されてエルフの国に行けば追い返され……俺は何もしちゃいない、取って食っちまうなんて事をするつもりは無いのに。」
クレールの声は震えていた。
「そんな俺を助けようとしてくれた奴もいたが、大抵はそいつも迫害されていなくなっちまったり、そもそも俺を助ける気が無く好奇心や……いや、何でもない。……でもな」
クレールは顔を上げる。目は潤み頬には涙の痕が残っていたが、表情は穏やかに笑っていた。
「リットとフラム、エルのおっさん、それに教会の連中は俺を受け入れてくれたのさ。皆言ってくれた。出自は関係ない、お前がどう生きるかだ、ってよ。そう言って皆良くしてくれたんだ、信頼せざるを得ないだろ?」
そしてテツの方を向いて彼女は気恥ずかしそうにしながらも明るく言う。
「だからよ、その、何だ、そういう連中だ、少しは信用してくれ。大丈夫だ、お前の秘密は誰にも言わねぇよ」
「君は違うと思っていたが、何故皆そんなにお人好しなんだ」
優しい笑みを浮かべクレールは答える。
「そりゃ、誰に対してもって訳じゃねぇよ。多分、お前の人柄じゃねぇか? 分からねぇけどな」
「そうか……」
その答えにテツは穏やかに笑う。そして何かを決心したかのように彼女に向かい言った。
「クレール、君がいるってことはフラムとリットもいるんだろう? 彼らを呼んでほしい、出来ればエルンストさんもだ」
「はいよ、ちょっと待ってな」
クレールはそう言って部屋から出ていった。
※ ※ ※
5分程経ってクレールが皆を連れて戻って来た。フラムが真っ先にテツの方に向かって駆けて行き、勢いよく彼に抱き着いた。
「何で! 何でいなくなっちゃったの!! 寂しかったんだよ!!」
「悪かった悪かった、ほら、皆見てるぞ」
「やだぁ……」
フラムは抱き着いたままテツの体に顔をうずめて離そうとしない。
「なあ、何でフラムはあいつをえらく気に入ってるんだ? 恩人とはいっても、会って1日ちょっとしか関わってないはずだぜ?」
クレールは疑問であったが、彼女の後ろからエルンストがそれに答える。
「多分彼の面影がフラムの兄貴に似ているからかもな、私も初めて彼を見た時は驚いたよ。まあ、それだけじゃないとは思うが一番の要因ではあると思うよ」
「にしたってなぁ……」
フラムのテツに対する懐っこさに苦笑いしながらクレールは言った。しばらくしてエルンストがわざとらしく咳ばらいをして話を切り出す。
「テツさん、体の具合はどうかね?」
テツはフラムを抱き着かせたままエルンストの方を見て返す。
「ええ、何も問題はありません」
「そうか、それは良かった。それと……」
エルンストはテツの目の前まで歩き深々と頭を下げた。
「娘を、アリッサを見つけてくれて本当にありがとう。君には感謝してもしきれない。村の件と合わせて是非お礼をさせてくれ、今度はどこにも行かないで欲しい」
テツはフラムの頭を撫でながら照れくさそうに笑って答える。
「仕事ですから。……分かりました、お礼を頂くまでは何処にも行きません。ただ、その前に俺にはやらなければいけないことがあります」
「エルフの救出か……娘から話は聞いた。街でもその話で持ち切りだ、何でもエルフの王様は殺されてしまったみたいだね、素晴らしいお方だったよ……」
悔しそうにエルンストは言った。彼は言葉を続ける。
「娘から話を聞いた後、私の方で色々と調べさせてもらった。実は犯人はもう分かっている」
エルンストの言葉に耳を疑うテツ。
「どういう奴なんですか?」
「名はヨルムンガンド。個人名称じゃない、いわゆる盗賊集団だ」
エルンストは説明を続ける。
「連中は私が若い頃から悪名高くてな、組織としては私が生まれるより前から活動していたそうだ。エルフの誘拐に関しても、全てとは言わないが昔から連中の名前が挙がる事が多かった。何度か奴らの討伐に向かったことがあるが、その全てで逃げられてしまったよ。だが拠点は分かっている、これも昔から変わらんよ」
「どこですか?」
「ミズガルズ王国、エルフの森からさらに西に進むと見えてくる国だ。この村から馬車で9日は掛かる、ただ……」
溜息交じりにエルンストは言った。
「その間にエルフ達は奴隷として売り飛ばされる可能性が非常に高い。いや、もう手遅れかもしれない……あまりこんな事を言いたくはないのだが……」
「それでも俺は行きます」
そういうテツは無表情であったが、その目は怒りに満ちていた。それを見て、もう彼を止めることは出来ないなとエルンストは思った。
「そうか……分かった、なら馬車を用意させてくれ。村の者にも協力をお願いしてみるよ」
「ありがとうございます」
「話が長くなってしまってすまない。テツさん、君は私たちに何か伝えたかったのではないか?」
エルンストが言うと、テツはフラムを優しく引き剥がして立ち上がり自分の荷物を探す。見つけるとそこから愛刀を取り出して鞘から抜き、自分の姿が皆に見える位置に立った。
「お話しますか」




