表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

僕はエクスカリバーの数だけ強くなる3

 勝てた試合だった。

 ユニットの配置はいちにもうすこ神経しんけいを使えば、結果は変わっていたかもしれない。

 一戦目の時点じてん盾兵たてへいの重要性に気づいていた。

 それを念頭ねんとう戦略せんりゃくを立てるべきだった。


 これ以上の負けは許されない。

 宿泊しゅくはく施設しせつまらないと翌日よくじつ支給しきゅうが半分になってしまう。

 手持てもちのカードの大半たいはんをポイント化する。

 そして、最安さいやすのカプセルホテルへ向かった。


 身軽みがるになった。

 手持ち無沙汰ぶさたになった。

 始めはお荷物にもつでしかなかったエクスカリバー。

 それはもう、僕の右手にない。

 喪失そうしつ感をいだきながら、せまいカプセル内に寝ころがる。


「すいません。僕がふがいないばかりに大事なエクスカリバーを……」

「気を落とさなくていいにゃご。エクスカリバーはまた作ればいいにゃご」


「それは違います。あのエクスカリバーのわりなんてありません。ここへ来る前は、勇者ゆうしゃとして戦う夢を見させてくれた。ここへ着いてからは、ずっとかたわらに付きそってくれた。

 それなのに、能力の高さに目がくらんでカード化した。有頂天うちょうてんになって油断ゆだんしたあげく、友をうしなう結果をまねいてしまった。

 自分が許せません。エクスカリバーに合わせる顔がありません」


金属きんぞくのかたまりに、そこまで感情かんじょう移入いにゅうするにゃご!?」


 右手に残る友の感触かんしょくを思い起こす。

 僕は身を丸めて、しのび泣いた。


「今はゆっくり休むにゃご。一晩寝れば、きれいさっぱり忘れているにゃご」


 ニャゴ様のやさしさが身にしみた。

 けれど、その言葉を受け入れる気になれなかった。


「忘れませんよ。あの〈エクスカリバー〉は必ず取り戻します。もう一度この手にするその時まで、絶対に忘れません」


     ◇


 事前じぜんの約束通り、目がめると現実に戻ってこれた。

 ただ、心にポッカリと穴があいたままだった。

 かたわらに寝ころがっていたニャゴ様が、ムクリと起き上がる。

 かろやかな身のこなしで、窓枠まどわくへとび乗った。


「今晩、また来るにゃご。こっちと向こうでは別腹べつばらにゃご。その時までに、ウェットなキャットフードを用意しとくにゃご。ドライのを買ってきたら容赦ようしゃしないにゃご」


 ニャゴ様の言動げんどう清々(すがすが)しいほどストレートだ。


「あと、シーツがちょっとよごれているにゃご。二週間に一度はあらうようにするにゃご。ニャゴはいつもそうしてるにゃご」


 そういえば、ニャゴ様は向こうで何をしていたっけ。

 記憶をたどっていると、いっそうエクスカリバーがこいしくなった。


「向こうに持って行きたい物で、何かリクエストはあるにゃご?」


「それなら、新しいエクスカリバーとカードゲームにくわしい神のエージェントをお願いします」


「……善処ぜんしょするにゃご」


 ニャゴ様はさみしげな背中を見せながら、窓から部屋を後にした。


 言いすぎたと反省した。

 その日は罪悪ざいあく感につつまれていた


 けれど、その晩もシレッとした顔でニャゴ様があらわれた。

 今日もエクスカリバー(偽)をくわえて。


「昨日のエクスカリバー(真)と全く同じ物にゃご」

「違います。これは昨日のエクスカリバー(真)じゃありません」


「同じにゃご。寸分すんぶんたがわず、同質どうしつの物を作ったにゃご」

「これには僕の想いがこもっていません」


「……もうきずはえぐらないにゃご」


 ニャゴ様には強気つよきであたったほうが、うまくいくのかもしれない。

 でも、そんなことはどうでもいい。


 日中にっちゅうはエクスカリバー(真)をどうやって取り戻すか、高校の授業そっちのけで頭をフル回転させた。

 あらたな陣形じんけいを生み出す意気いき込みで、ノート上で様々(さまざま)なシミュレーションを行った。


「エクスカリバー(偽)の量産りょうさんは可能ですか?」

「うちにも予算よさんがあるから、量産はむずかしいにゃご」


「予算の範囲はんい内でかまいません。できるかぎりの数をお願いします」

「善処するにゃご」


「あっ、オーダメイドじゃなくていいですよ。すぐにカード化しますので」


 さっそく就寝しゅうしん準備じゅんびを始める。

 まだ眠るのには早い時間だ。

 けれど、すぐにでも裏の世界にかけつけたかった。


 おそらく、大男おおおとこは中級に昇級しょうきゅうした。

 もう初級しょきゅうラウンジにその姿はないだろう。

 一刻いっこくも早く、後を追いかけなければならない。


「今日のプランはもう考えてあるにゃご?」


「はい。〈エクスカリバー〉単体たんたいでは本領ほんりょう発揮はっきできず、昨日のように足をすくわれるかもしれません。なので、これはすぐにポイント化して、たけにあったアイテムを買い集めようと思います」


「……そのエクスカリバー(偽)に未練みれんはないにゃご?」

感傷かんしょう的なことは言っていられません。友との約束をたすためには、心を鬼にしなければならないんです」


 それはそれ、これはこれ。物事ものごとにはメリハリが必要だ。


「一つだけ確かめておきたいにゃご。ニャゴとエクスカリバー(真)、どちらかを選べと言われたら、どちらを選ぶにゃご?」


「どちらかだなんて選べないですよ。どちらもかけがえのない仲間なかまです」


「……同レベルってことにゃご?」


「安心してください。僕が冥王めいおうのことを忘れていると思ったのかもしれませんが、大丈夫です。しっかりおぼえていますよ。冥王もきっとこの手で倒してみせます。ただ――、その時はエクスカリバー(真)も一緒です」


 エクスカリバー(真)――君はその身をもって教えてくれた。

 自身の未熟みじゅくさとカードデュエルの奥深おくぶかさを。


 だから、今度は僕が恩返おんがえしをする番だ。

 たくましくなった僕の顔を、いつかきっと君に見せよう。


「さあ、行きましょう。初級ラウンジで足ぶみするわけにはいきません。さっさと、あの大男に一泡ひとあわふかせてやらないといけませんから」


「やる気を出してくれてることだけはうれしいにゃご」


 悲壮ひそう決意けついを胸にいだき、ベッドに寝ころんだ。

 エクスカリバー(真)を取り戻す戦い――カードデュエラーとしての第二だいにまくが、今、始まりをげた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ