僕はエクスカリバーの数だけ強くなる2
デュエルはフェイズ3に突入した。
少しずつ、誤算が表面化してきた。
やはり、戦略では大男が一枚上手。
50戦以上の戦歴があるだけのことはある。
「俺は山間のさびれた町で鉱夫をしていた。そこで毎日のように酒場に入りびたって、すさんだ生活を送っていた。しかし、血のにじむような努力をかさね、ついに初級卒業が手に届くところまでたどり着いた」
余裕のあらわれか、大男が唐突に自分語りを始めた。
自:「騎兵」で『盾兵2』に突撃(ダメージ11)
対:『弓兵1』で「槍兵」に攻撃(ダメージ5)
敵の『盾兵2』をしとめたものの、次ターンは行動不能。
ただ、ケガの功名か、敵の『弓兵1』はこちらの「騎兵」を攻撃できない。
位置の関係から、「槍兵」が盾になっているからだ。
自:一回休み
対:『弓兵1』で「槍兵」に攻撃(ダメージ5)
あっという間に「槍兵」が敗走した。
敵方に〈突撃〉を用いるユニットがいないため、槍兵のスキル〈カウンター〉は宝の持ちぐされだ。
盾兵ならだいぶ状況が変わったんだけど。
「どうにゃご? 勝てそうにゃご?」
ニャゴ様がのん気に口をはさんできた。
全くルールを理解していないし、説明するのも面倒だ。
はっきり言うと、もう先の展開が読めていた。
ユニット数的に敗色濃厚だ。
結局、〈エクスカリバー〉があっても2ターンで1ユニットしかしとめられない。
これは〈鋼の弓〉を装備した敵の『弓兵1』も同じ。
盾兵を絶妙な形で活用された。
敵の残存ユニットは横一列にならんでいる。
敵の『弓兵1』は攻撃可能で、〈突撃〉を使わなくても1ターンでしとめられる。
しかし、となりの『盾兵3』が〈身代わり〉を発動するだろう。
いや、待てよ。
大男に「ちょっと待ってください」と言い置いて、ガイドブックを開く。
盾兵の〈身代わり〉の項を確認する。
そこには『両サイドにいるユニットのダメージを代わりに受け止める』と書かれていた。
光明が見えてきた。
つまり、〈身代わり〉は攻撃でなくダメージを肩代わりするもの。
これは1ターン得したようなもの。
終盤では尋常じゃなく大きい。
自:「騎兵」で『弓兵1』に攻撃(ダメージ11・〈身代わり〉発動)
対:『弓兵1』で「騎兵」に攻撃(ダメージ4)
とうとう、敵の盾兵を全てしとめた。
「騎兵」に防御+1が付いているので、敵の攻撃を3ターン持ちこたえられる。
ここにきて歯車が上手くかみ合ってきた。
大男が初めて見せたあせりを、僕は見逃さなかった。
確かな手ごたえを感じながら、フェイズ4へ突入する。
対:『弓兵1』で「騎兵」に攻撃(ダメージ4)
自:「騎兵」で『弓兵1』に攻撃(ダメージ11)
ようやく、目の上のたんこぶだった敵の『弓兵1』を撃破。
〈鋼の弓〉は敵の手札に戻った。
けれど、再装備に1ターン浪費する余裕はないだろう。
対:『弓兵2』で「騎兵」に攻撃(ダメージ3)
自:「弓兵」で『弓兵2』に攻撃(ダメージ2)
「騎兵」が敗走したことで〈エクスカリバー〉は役目を終えた。
ご苦労様。予想通り――いや、予想以上の働きだった。
おたがい、フィールドに残ったユニットは弓兵のみ。
プラス付きのため、攻撃力の面では敵の『弓兵2』が1上回っている。
けれど、先に攻撃したのはこっちだ。
もしかしたら、最後のターンの手番で勝敗が決するんじゃないか。
どっちだ。興奮していて頭が回らない。
対:『弓兵2』で「弓兵」に攻撃(ダメージ3)
自:「弓兵」で『弓兵2』に攻撃(ダメージ2)
フェイズ5に入って、先攻後攻が入れかわる。
敵の『弓兵2』をしとめるのに、あと3ターンかかる。
フェイズ5に入ったばかりだから、最後のターンは――こちらが先攻だ。
まだデュエルは終わっていないのに、思わず小さくガッツポーズをした。
自:「弓兵」で『弓兵2』に攻撃(ダメージ2)
対:『弓兵2』に〈鋼の盾〉を装備
勝利を確信した矢先の出来事だった。
大男がドローした〈鋼の盾〉を『弓兵2』に装備させた。
その効果は『防御+2』。
こちらの攻撃力も2なので、これではダメージを与えられない。
そういえば、そんなアイテム持ってたっけ。
最後のユニットがなすすべもなく、敵の『弓兵』に敗走させられた。
僕はそれを見守ることしかできなかった。
「兄ちゃん、ありがとよ。いい戦いだったぜ。だが、一つ言わせてもらおう。〈エクスカリバー〉なんてAランクカードを一枚だけ持っていたら、どんな戦法を取るかバレバレだぜ?」
大男の言う通りだ。
カードの力を過信しすぎて、視野がせまくなっていた。
デッキ開示後のカード交換の時に、うまくまぎれ込ませるなど、工夫する手があった。
「この勝利で俺は中級ラウンジへ進む資格を手に入れた。ひと足先に羽ばたかせてもらうぜ。酒場にたむろするゴロツキだった過去と決別し、さらなる高みをめざす。この俺様の〈エクスカリバー〉と一緒にな」
説教されたあげくに決めゼリフまではかれた。
それはお前の〈エクスカリバー〉じゃない。
そう言い返したかったけど、もうあいつの〈エクスカリバー〉になったのか。