エクスカリバーかついだカードデュエラー3
近くのベンチで、この世の終わりって顔をした男性に声をかけた。
ユーザーカードで相手の戦績を確認すると1勝4敗。
初めてのデュエルとしては打ってつけの相手だ。
こちらがズブの素人とわかると、向こうも俄然乗り気になった。
こちらは何もかも手探りの状態で不安はある。
とはいえ、相手のデュエル経験もどんぐりの背くらべ。
しかも、負けがこんでいる初心者でもある。
デュエルはガイドブックを確認しながらでもかまわない。
軽い気持ちでデュエルを始めた。
最初に自陣3×3マスのフィールドにユニットを配置する。
ガイドブックにのっていたオーソドックスな陣形をしく。
一列目の両サイドに剣兵、二列目中央に騎兵、三列目の両サイドに弓兵を配置。
ユニットでバツの形をえがいた。
アイテムはあまり役に立ちそうにない。
敵のアイテムドローを制限する〈牽制〉は、高等すぎて使いどころが難しい。
〈木の盾〉は名前的にもポイント的にも最弱レベルのアイテムだろう。
だけど、念のため手札には入れておこう。
相手は剣兵を一列目に3枚並べ、二列目中央に盾兵、その背後に弓兵を配置。
Tの字をえがいた攻撃的な布陣だ。
全てのユニットにプラスもマイナスも付いていない。
経験値の少ない――というかゼロのこちらが先攻。
ただし、先攻と後攻はフェイズごとに入れかわる。
アドバンテージは極わずかでしかない。
デュエルが始まった。
ユニットのカード上に立体映像が表示された。
チェスのような精巧な駒が、肩で息をするように動いている。
フィールドの左下には各ユニットのステータスが、右下にはコマンドログが表示されている。
アイテムをドロー。
〈木の盾〉が出た。装備せずに手札へ戻す。
一列目の剣兵で〈突撃〉を敢行。
相手も全く同じ行動をした。
その後の展開は、攻撃できるユニットで攻撃するのみ。
おたがいに、さしたる戦略がない。
その上、1ターン消費するだけの価値があるアイテムを持っていない。
はたから見れば、いかにも初心者同士の、眠気をもよおすデュエルだったかもしれない。
けれど、自分的には息もつかせぬハラハラドキドキの展開だった。
結果を先に言うと、普通に負けました。
無為無策のまま淡々と。
ビックリするくらい、何事もなく。
とはいえ、最後は紙一重の差。
次ターンで敵を全滅させられるところまで追いつめた。
デッキ的に策をろうす余地がないので悔いもない。
反省点をあげるなら、ユニット構成と開始時の陣形だろうか。
結果的に、攻撃力の低い弓兵の多さがあだとなった。
デュエル前は攻撃力がゼロの盾兵という存在に疑問を感じていた。
けれど、相手が弓兵の前に配置した盾兵が予想外に曲者だった。
これをしとめるのに手間どったのが敗因かもしれない。
デュエル後、相手が要求してきたカードは〈牽制〉。
「よっしゃあ! 今日は大盛りチャーハンにギョーザ付きだ!」
そう喜んでいたので、高ポイントに目がくらんだのだろう。
現時点では活用しづらいアイテムなので、デュエル上のダメージは少ない。
でも、ケタ違いに高価だったので、ポイント的なダメージは大きかった。
◇
デュエルに負けたとはいえ、手ごたえは感じた。
同レベルのデュエラーが相手なら、ユニットの配置――すなわち、陣形が勝敗を分けるという教訓も得た。
さっさと次の戦闘に移るべきか。
それとも、ルールのおさらいをして万全を期すべきか。
ただ、手持ちの盾兵にマイナスが付いている。
カードの交換をしないかぎり、戦法を変える余地がない。
ふと、ニャゴ様に目を移す。
退屈そうに、ベンチの角で爪をといでいた。
デュエルの結果にも全く興味を示さない。
この猫、協力する気が毛ほどもないな。
「健吾、お腹が減ったにゃご。腹ごしらえをするにゃご」
かくいう自分も小腹がすいていた。
ゲーム丸出しの世界でも、お腹は減るし、トイレにも行きたくなるようだ。
エクスカリバーのせいで腕もお疲れ気味だ。
「あそこにコンビニがあるにゃご」
ニャゴ様が指さす先に――コンビニがあった。
ラウンジと同様にサイバーチックな外観。
だけど、店内はまさしくコンビニ。
おにぎり、パン、お弁当と品ぞろえも日本のコンビニそのもの。
さすが日本の裏側にあるだけのことはある。
支払いに普通のカードを使用している人が結構いる。
店頭にも『カード支払いOK』と書かれていた。
いちいちポイントに交換しなくても、プリペイドカードのように使えるようだ。
自分用に菓子パン一つと子猫用のキャットフードを買った。
支払いには利用価値がないわりに、意外とポイントの高い〈木の盾〉を使用した。
「こんなパサパサのかたいエサは食えないにゃご。ニャゴは生後一ヶ月の幼気な子猫にゃご」
幼気な子猫はそんなこと言わない。
菓子パンよりも高かったんだぞ。ガマンして食えよ。
胸のうちで悪態をつきながら、その思いを眼差しにこめる。
「でも子猫用って書いてありましたよ?」
「一口に子猫といっても幅があるにゃご。当然、猫の好みにも幅があるにゃご」
ニャゴ様は頑としてゆずらなかった。
捨てるのはもったいないので、菓子パンより高いミネラルウォーターを買い、ドライのキャットフードをふやけさせた。
ダブっていた槍兵(マイナス付き)1枚を追加で失った。
ワガママを言うばかりで何もしない。
そんなニャゴ様への気持ちが、猛スピードで離れていく。
反比例するように、エクスカリバーへの思いが強まった。
正直に言えば、買い物の時も重くて邪魔だった。
だけど、その重みはエクスカリバーがこの世界に存在する証。
この世界で生きている実感を、僕に与えてくれていた。
それに、ここは右も左もわからない世界。
武器を持っているだけで、安心感がだん違いだ。
予定外の出費で2枚のカードを失って残りは7枚。
精鋭ぞろいだから、デュエル自体に支障はない。
けれど、宿泊料金のことを考えると、今日はあと1戦が限度かな。