エクスカリバーくわえた黒猫2
◇
「最後に、僕が選ばれた理由をお願いします」
「裏の世界はちょうどこのA市の真裏にあるにゃご。だから、そこで活動できるのはA市近郊に住む人間に限定されるにゃご。さらに、資質を持つ人間でなければならないにゃご。
該当者は百名すこしで、壮齢の男子にかぎれば、三十人ほどにゃご。頭がやわらかい二十代前半までにしぼったら、両手で数えられる人数しか残らなかったにゃご」
サイコロで一の目が出る確率と変わらない。
これは光栄に思っていいのだろうか。
「その中から、ニャゴの独断と偏見で健吾を選んだにゃご。名前が剣豪っぽくってかっこよかったにゃご」
「……それだけですか?」
選定基準が適当すぎる。
勇者の資質に一番すぐれていたとか。
求めているのは、そんな感じのコメントです。
「強いて言えば、健吾は言うことを聞きそうな気がしたにゃご。ニャゴとも一番気が合いそうだったにゃご」
聞かなければよかった。
友達でもほしかったのかな?
「それに、ちょっとニャゴの好みのタイプだったにゃご」
初めて好意を口にしてくれた相手は、生まれたての黒猫(神のエージェント)でした。
黒猫が途端に静かになった。
照れ隠しなのか、シーツをガリガリと引っかき出す。
やめてください。シーツ切れるじゃないですか。
◇
「ちょっとエクスカリバー持ってみてもいいですか?」
気まずい雰囲気になったので、エクスカリバーをかまえた。
たちまち、気分がもり上がってきた。
天井に当たるので、素振りできないのが残念だ。
「様になってるにゃご」
「これで冥王と戦うんですか」
さすが、伝説の聖剣と呼ばれるだけのことはある。
手になじんでくるような持ちやすさだ。
剣道の竹刀とくらべれば、だん違いに重い。
けれど、思ったよりも軽いのが、正直な感想だ。
この程度なら、いずれなれるだろう。
「そうにゃご。きっと健吾ならやれるにゃご。レベルを上げれば、エクスカリバーは山をも真っ二つにする最強の武器になるにゃご」
山を真っ二つにするって……。
人類のためになりそうにない凶悪さだ。
世界を平和にしたら、エクスカリバー拡散防止条約でもつくろうか。
「ビックリするほど持ちやすいですよ」
「当たり前にゃご。健吾の手にフィットするよう作った特注品にゃご」
「伝説の聖剣もオーダーメイドする時代に入りましたか」
それは贋作とかレプリカと呼ばれるものじゃないだろうか。
「それに意外と軽いんです。まあ、本物の剣を持つの初めてなんですけど」
「刀身以外は炭素繊維で軽量化をはかったにゃご。最先端技術の粋を集めたにゃご」
「へぇー、文明の賜物ですね」
エクスカリバーの定義は何だろう。
金ピカに光ってるとか?
「もうすでに、スペアが一本でき上がっているにゃご。五本ぐらいなら、すぐに用意できるにゃご。だから、多少手荒にあつかってもらってかまわないにゃご」
もはや、何をもってエクスカリバーを名乗っているのかわからない。
左右の腰に一本ずつさげて、残りの三本を背負ったら、千手観音っぽくてカッコいいかも。
「それで裏の世界にはどうやって行くんですか?」
「このベッドで眠りにつけば、自動的に裏の世界へ転送されるにゃご。合計百キログラム以下なら、何でも持ち込み可能にゃご」
とてつもなく自由だ。
エクスカリバーに頼る必要ないんじゃないか。
もう、ちょっとコンビニに行くぐらいの感覚だ。
「善は急げです。さっそく向かいましょう」
「その意気にゃご。所詮、冥王は中世の未開人を苦しめられる程度のやつにゃご。愚昧なモンスターどもに現代科学の力を思い知らせてやるにゃご」
そういう趣旨だったかはともかくとして。
電気を消し、エクスカリバーをかかえてベッドに横たわる。
最初はぬいぐるみのように抱いていた。
けれど、寝返りの拍子に鞘からぬけたら大惨事だ。
そんなわけで、脇のほうに寄せておいた。
テーマパークにでも行く気分で、まぶたをとじる。
言葉たくみに乗せられた気がしなくもない。
冒険に出向くわけだし、すこしぐらいは葛藤しておくべきだったろうか。