表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エマニュエルの童話

太陽の王国

作者: 作者不詳


 むかしむかし、あるところに、王さまのいない王国がありました。


 もう何年も前に王さまが亡くなってから、

 つぎの王さまがなかなか決まらず、ひとびとは途方とほうにくれていました。


 なぜなら王さまが決まらないせいで、お城ではあらそいがたえません。


 前の王さまの子どもたちや親類縁者しんるいえんじゃ、そしてちからある家来たちが、


「自分こそがつぎの王さまになるべきだ」


 と言いはって、ケンカばかりしているのです。


 おかげで国はみだれて、ひとびとはまずしく、

 たいへん苦しい日々をすごしておりました。

 だれもがやさしくて立派りっぱな、あたらしい王さまの誕生たんじょうねがっておりました。


 そんなある日のこと。

 王国のはずれのとある村に、マルカムという名の若者がおりました。

 マルカムはえに苦しむひとびとのすがたを見るに見かねて、

 ひとりで村を旅立ちました。


 遠いみやこにある神殿しんでんで、神さまへ祈りをささげるために、

 雨の日も風の日も歩きつづけたのです。


 やがて都にたどりつく頃には、マルカムの服はボロボロ、

 おなかはぺこぺこになっていました。

 けれどもマルカムは、休む間もおしんで神殿へ出かけ、神さまにお祈りします。


「おおいなる神々よ、どうかこの国に立派な王さまをおめぐみください。

 この国をゆたかで、みんなが楽しくくらせる国にしてください。

 もし、願いを叶えてくださるのでしたら、

 わたしは国を良くするために、いっしょうけんめいはたらきます。

 みんなを笑顔えがおにするためなら、どんなにつらいことからも逃げません」


 するとマルカムの祈りにこたえ、空の上からひとりの神さまがおりてきました。

 マルカムの前にあらわれたのは、きんいろにえる王冠をあたまにのせた、

 シェメッシュという名の太陽の神さまでした。


「マルカムよ。おまえの願い、聞きとどけた。

 おまえはこの国に、ひとびとをしあわせにする立派な王がほしいのだな。

 ならばわたしは、おまえにこの王冠をさずけよう。

 おまえこそが王となって、今日から国をおさめるのだ」


 マルカムはシェメッシュのお告げにびっくりしました。だって、

 まずしい村の貧乏びんぼうな若者が王さまになるだなんて、聞いたことがありません。


 けれど神さまの言うことは、王さまの命令よりも大切です。

 マルカムはさんざんなやんだ末に、

 シェメッシュのお告げにしたがうことにしました。


「わかりました。村のみんなのためになるなら、

 わたしが王さまとなって王国をおさめましょう」


 マルカムがそうこたえると、シェメッシュはおおきくうなずいて、

 きんいろにかがやく王冠をマルカムのあたまにのせました。


 すると、なんということでしょう。


 ボロボロだったマルカムの服は、

 たちまち王さまのように立派なけがわの服へとかわり、

 体のおくからちからがわいてくるではありませんか。


「よし。これで今日から、おまえが王だ。

 太陽神たいようしんシェメッシュの名にかけて、この国をすばらしい王国にしてみせなさい」


 マルカムはシェメッシュのお告げのとおり、

 お城へ行って、今日から自分が王さまになることを宣言せんげんしました。

 王さまだけが座れる立派な椅子いすをほしがっていた人たちは、

 みんなしぶい顔をしましたが、神さまの言うことは絶対ぜったいです。


 かくして王さまとなったマルカムは、争いをおさめ、

 となりの王国にかけあって、たくさんの食べものをわけてもらいました。

 まずしかったひとびとのくらしは少しずつ豊かになり、

 みんなに笑顔がもどりはじめました。


 王国にくらすひとびとは、だれもがマルカムを立派な王さまだといいます。

 けれどマルカムには悩みがありました。

 それは、シェメッシュにもらった王冠が、あまりにもまぶしすぎたことです。


 シェメッシュの王冠は、マルカムが立派なことをすればするほど、

 どんどんかがやきをしていきました。

 王冠のかがやきは太陽のようにひとびとをらし、王国を豊かにしました。


 しかし、あたまの上の王冠がまぶしすぎて、

 ひとびとはマルカムに近づくことができません。

 食事しょくじをするときも、ねむるときも、

 王冠はマルカムのあたまをはなれず、つねにあたりを照らしています。


 おかげでマルカムは、いつしかひとりきりになっていました。

 だれかといっしょにいたくても、

 王冠がまぶしすぎて、だれもいっしょにいられません。

 王冠の光はあまりにつよく、見るものの目をつぶしてしまうのです。


 こまりはてたマルカムは、

 ある日ふたたび神殿をたずね、ひざまずいて祈りました。


「シェメッシュさま。シェメッシュさま。

 あなたさまがさずけてくださった王冠は、いまや国中を照らしています。

 おかげで王国は豊かになり、みんな笑顔をとりもどしました。

 けれど王冠の光がまぶしすぎて、わたしはいつもひとりぼっちです。

 王さまとしてのつとめははたしましたので、どうかこの王冠を、

 わたしのあたまから遠ざけていただけないでしょうか」


 すると祈りを聞いたシェメッシュが天からおりてきて、

 マルカムにたずねました。


「マルカムよ。おまえはどうしてもその王冠をはずしたいのか。

 王冠をはずせば、おまえはただのひとにもどってしまう。

 それでもいいというのなら、その願い、叶えてやろう」


 マルカムは大喜おおよろこびで、シェメッシュに王冠をかえしました。

 王冠をうしなうと、マルカムはボロをまとった、

 元のまずしい若者にもどりました。


 王冠の光がなくなったおかげで、

 みんなマルカムのすがたを見ることができます。


 マルカムはそれがうれしくてうれしくて、生まれ故郷こきょうの村へかえると、

 子どもの頃から好きだったマフラというむすめ結婚けっこんしました。

 ふたりはしあわせな家庭かていをきずき、子宝こだからにもめぐまれました。


 ところがマルカムが王冠をかえしたあと、王国はふたたびみだれました。

 マルカムがり、王さまがいなくなってしまったせいで、

 つぎの王さまの椅子をねらい、ひとびとがまた争いはじめたのです。


 王国はたちまちれはて、ひとびとは苦しみました。

 マルカムの家でも、子どもたちがおなかをすかせて泣いています。


 けれどもマルカムは、都へもどる決心がつきませんでした。

 だって自分が王さまになれば、またシェメッシュの王冠をさずけられ、

 ひとりぼっちのくらしにもどってしまいます。


 マルカムはいっしょうけんめい働きました。

 どんなにまずしくとも、家族かぞくといっしょにいられるようにがんばりました。


 ところがある日、つまのマフラがやまいにたおれてしまいます。

 マルカムは必死ひっし看病かんびょうしましたが、まずしさのあまりくすりも買えませんでした。


 マフラはやがて息を引きとり、家にはマルカムと、

 おなかをすかせた子どもたちがのこされました。


 マルカムはなみだをながし、マフラのおはかにあやまります。


「ああ、マフラ。わたしがふたたび王さまになり、

 国を豊かにしていれば、きみを死なせることもなかったのに。

 おろかなわたしをゆるしておくれ。ゆるしておくれ……」


 マルカムは自分のわがままのために、

 あいするひとを死なせてしまったことをふか後悔こうかいしました。


 そしてこのままでは、のこされた子どもたちも、

 いずれおなかをすかせて、いのちをとしてしまいます。

 マルカムは、決意けついしました。

 涙をふいて、都をめざし、雨の日も風の日も歩きつづけました。


 都へたどりつく頃には、服はボロボロ、おなかはぺこぺこ。

 しかしマルカムはそんなことなどおかまいなしに、神さまへ祈ります。


「シェメッシュさま。シェメッシュさま。

 どうかわたしをもう一度、この国の王さまにしてください。

 ふたたび王冠をいただけたなら、二度とおかえししないとちかいます。

 わたしはわたしの子どもたちのため、一生を王国にささげましょう」


 祈りにこたえたシェメッシュは、

 マルカムにもう一度、きんいろの王冠をあたえました。

 マルカムのあたまにもどった王冠は、

 かつてないほどあかるくかがやき、国中を照らします。


 マルカムがふたたび王さまの椅子に座ると、

 王国はたちまち豊かさをとりもどしました。

 マルカムのあたまの王冠は、今日もうつくしく光りかがやいています。


 やがてマルカムがおさめる王国は、だれもがうらやむ太陽の王国となりました。


 マルカムは天に召されるその日まで、決して王冠をはずすことなく、

 立派な王さまとしてひとびとにかたりつがれましたとさ。


 めでたし、めでたし。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ