第二十七話 捜査3
予想した通り六波羅は私に接触してきた。
それは典侍と話を済ませてから数日がたった頃だった。
私は六波羅に呼び出されて再び護衛をつけてもらい彼らのいる場所へと向かった。
「これはこれは伊勢ではないか」
言葉を発したのは六波羅探題北方に就任している北条兼時である。
「此度はどのようなご用件でお呼び出ししましたか」
「浅原という浪人について聞きたいことがある」
想像通りの質問で私は用意しておいた返答をすぐにする。
「それは典侍がすでにご説明したはずですが」
私の反応がつれないからか男は失笑した。
「なにこの捜査も形だけのものと思ってもらえればよい。別にお主を怪しんでいるわけではない」
北条兼時はそう告げたがその目は笑っていなかった。
「しかしこうして呼び出して改めて話をするということは……」
「あくまで確認だ。お主は先日用があって内裏を空けていただろう」
だから改めて話を聞きたいのだという。
どちらにしろ話はしないといけないようだ。
だが西園寺実兼との約束もある。下手なことは言えない。
「浅原の息子たちは自害しただろう。結果的に篝屋の連中が追い詰めたとはいえその前に誰かと戦っていた形跡があったのだ」
浅原の息子たちは自害したから誰が彼らと戦っていたかは判明していない。
彼はそう言いたいのだろう。
「もし浅原の息子たちを倒した者がいたとして彼の者に褒賞をやらなければならない」
それにと付け足す。
「浅原が戦っていた犬神人も取り調べているが返事もろくにせず黙秘を続けている」
心当たりはないかと尋ねられた。
「なに簡単なことだ。お主に聞きたいことは二つだけ。浅原の息子たちを倒したのは誰かということ。そして犬神人について何か知っているかということ。あの晩事件を目撃しているのはお主と典侍だけなのだ」
「でも私も典侍のいった通りのことしか目撃していませんが」
嘘だったがごまかすには必要なことだった。
「そう警戒するな。後から駆けつけた篝屋たちの情報だけでは足りないから質問しているだけだ」
北条兼時は困ったように笑った。
私は彼の顔をじっくりと観察する。
年は数えで二十七で年相応の落ち着きがある男性だ。
以前にも六波羅探題南方を勤めるくらいだから時の執権北条貞時の信頼も厚いのだろう。
「知らぬ存ぜぬではこちらとしても困るからな」
私の素性がばれてしまっては元も子もない。
どうやってこの事態を切り抜けるか。
「確かに浅原の息子たちが自害したのは痛いことでした」
「確かにそうだな」
男は余裕を持って答える。
「それでお主が見たことをはっきりと教えてくれないか」
声音は優しげであったが目はじっとこちらを見据えている。
「彼らを倒したのは犬神人です」
こうすれば犬神人である成王丸に論功行賞を与えることになる。
「しかし犬神人は浅原とも戦っていたようではないか」
「はい彼は別々に三人と戦っていたのです」
「ほう面白いことを言うのだな」
北条兼時は難しそうな顔をする。
「それではお主に来てもらいたいところがある」
すると護衛とともにある場所へと移動することになる。
そこは牢の中だった。
そこにいたのは。
浅原と犬神人である成王丸だった。
「これはいったいどう言うことです」
「お主の話だけでは埒が明かないのでな。直接彼らと対面したらなにかわかるのではないかと思ってな」
浅原と成王丸は手足を拘束されてこちらをじっと見つめていた。
二人とも何が起きるのかわからず警戒しているらしい。
「さて今度こそ本当のことを話してもらうぞ。あの晩何があったのか」
北条兼時は静かにこちらを見据えていた。
「本当にこの犬神人が浅原とその息子たちを倒したのか聞いてみればわかることだろう」
彼が持つ貫禄に圧倒される。
「さて犬神人の方に答えてもらおうかな」
成王丸は私を一瞥すると首を横に降った。今すぐここを出ていけと目で訴えかけている。
そんなことわかりきっている。だが私は囚われた彼のためにも救い出さなければならないのだ。
「まただんまりか。では今度は浅原の方に聞くとしようか」
浅原は目を充血させて常軌を逸しているのは明白だった。
時おりうわ言のように持妙院の血族をと呟いているのが不気味だった。
「こやつもいまだに人との受け答えがろくにできていないからな」
「では改めて問おう。あの晩浅原の息子たちを倒したのは誰なのか」
「私の息子……?」
その言葉に浅原が反応する。
「私の息子たちは帝の命を狙って行ったはず」
「そうだ。だが彼らは帝の御命を狙う前に何者かにやられた」
「何者かにだと?そんなことわかりきっている」
浅原は常軌を逸していたはずだが淡々と話を続ける。
「それはこの女にだ」
「どういうことだ」
さすがの北条兼時も驚いているらしい。まさか女の身の上で男二人を倒せるとは思いもしなかったから。
「待ってくれ。この女子がお主の二人の息子を倒したと言うのか」
「ああ。かねてよりこの女の命を狙ってはいたがいつも邪魔をされてな。ついには自分の息子たちまで死なせることになるとは思わなんだ」
「命を狙う?何故だ」
「それはこの女が持妙院の血を引く人間だからだ」
「持妙院の血を引くだと。伊勢お主は叔父が伊勢守だと申していたではないか」
「はい」
「それは嘘だったと言うのか」
「申し訳ありません」
「いったい全体どう言うことなのだ」
「この女は歩き巫女だ。かの乙前の一人娘であり持妙院の血筋を引く者である。名前は申し上げられないが去るお方に命をたつよう命じられていたのだが怪しげな妖術で我々を翻弄してきたのだ」
「歩き巫女とはな。私もかの乙前殿については存じておる。後白河院に今様を教えて差し上げたかの乙前様から名前をつけられた絶世の美女だったそうな。それが伊勢の母親だと?」
「ああ私は去るお方からそう聞いている」
浅原の先程までの常軌を逸した姿は鳴りを潜め訥々と語る。
「そして憎き持妙院の血を引くのが今目の前にいるこの女だ」
「持妙院を悪く言うのはここまでにしておけ」
突如犬神人である成王丸が口を開く。
「おい犬神人どういうことだ」
突然言葉を発した犬神人に驚いた北条兼時は改めて問いただす。
「彼女の秘密を知った以上俺が黙っているわけにもいかなくなったようだからな」
「秘密とは先程浅原が申したことか。あれは真か」
「お前さんがそう感じるならば」
成王丸はニッと笑う。
「嘘にしてはできすぎた話だな」
北条兼時は困ったように一人うなずく。
「さて犬神人、今度こそ聞くぞお主らの目的はなんだ」
「それは帝の御命を守るためだ。俺たちはかねてより浅原が帝の御命を狙っているのを知っていた。だからその目的を邪魔するために内裏に潜入した。俺は犬神人で入れないからこの女は女孺として内裏に支えることにした」
そこから先は知っての通りだと話す。
「お主らは我々の目を欺いて潜入に成功したと言うことか」
北条兼時はため息をつく。
「話の全体はわかった。あとはお主らの処分について話させてもらう」
つまりは幕府にすべては任されると言うことだ。
「お主らには一杯食わされたからな」
男は小さく笑う。
「処分が出るまで待機していろ」
かくして私たちの処分は幕府の命令を待つことになった。




