第二十三話 事件2
二人を倒した私は浅原のいる方へと向かう。
刀と刀がぶつかり合う音がしてすぐに場所はわかった。
斬
成王丸が浅原と戦っていたのだ。
「おのれ犬神人めっ。何度私たちの前に現れれば気がすむんだ」
「お前が倒れるまで何度だって戦ってやるさ」
二人は刀で切りあう。お互い切り傷だらけだったがそんなことに構わず戦いは進む。
「成王丸っ」
邪魔になってはいけないと思いつつも彼に声をかける。
すると成王丸の視界に入ったようで彼が目線を一瞬だけ合わせた。
「邪魔が入ったか」
浅原も私のことに気がついたようだ。
「お主は……。あの殺し損ねた女か」
彼は再び刀を成王丸に向ける。
「だがこれ以上私の使命を邪魔立てさせない」
斬
ぱさりと音をたて成王丸の白い頭巾が切れる。
月夜に照らされ顔が露になり彼は鋭い眼差しで浅原を睨む。
「お前もなかなかやるな」
ふっと笑い成王丸は刀を再び構える。
「行くぞ」
彼は駆け出し浅原の懐を狙う。
だが。
「このくらい」
浅原は見事に避けてきた。
「なんだお主の力はこれまでか」
「俺もずいぶんと舐められたものだな」
成王丸は今度は浅原の足を狙う。
すると。
「くっ」
急所ははずしたがわずかに傷を残すことに成功した。
これで状況は圧倒的に有利になってきた。
あとは止めをさすだけだ。
「行くぞ」
「何だっ」
成王丸が口を開くと止めをさす時となる。
浅原もそれを察してか刀で受け止める体勢に入る。
「これで止めだ」
「そうはさせるか」
一矢報いてやろうと浅原が独特の形をした刀を振るう。
それを。
斬
相手の太刀筋を読みきって敵の肩に傷を追わせることに成功する。
そして次は敵の懐を狙う。
「お前は何が狙いだ」
「それはこの女と一緒に帝を闇に葬ることだ」
もののけの類いがついているのか浅原の目はどこか虚ろで口調も間延びしていた。
「それがお前の本当の気持ちか」
「ああ当然だ」
どこか哀れむような口調で成王丸は目を眇める。
「ならば俺もお前を葬るまでだ」
成王丸は有無を言わせぬ太刀捌きで相手の方へと一気に切り込む。
「ぐっ」
浅原は呻き声をあげた。
これは相手を倒す絶好の機会ではないか。
「これで最後だ」
成王丸が止めの一撃を与える。
「くそっこれまでか」
浅原は息を荒げこちらを睨み付ける。
「だがここまで来たらお主らも道連れだ」
彼は尋常ではない速さで私の方へと駆け寄る。
目は血走り肩は震え化け物のようにこちらを睨み付ける。
「せめてこの女だけでもあの世へ連れていかなければ」
浅原が私の喉元に刃を当てる。
「成王丸っ」
「待ってろ浅黄っ」
成王丸が私のもとへと走ってくる。
これでは私が足手まといになってしまう。
「助けになるどころか足を引っ張ってしまい申し訳ありません」
「何気にするな」
成王丸はいつもと変わらない様子で私を励ましてくれる。
そのことに内心安堵した。
「すぐに助けたやるからな」
間合いを図って成王丸は浅原ににじり寄る。
浅原は既に息も絶え絶えで辛うじて気力だけで生き残っているようすだった。
「この女がどうなってもいいのか」
「そいつは困るな」
脅しているのは浅原だったが優位にたっていたのは成王丸の方だ。
成王丸はじりじりと間合いを詰めて浅原を追い詰める。
そして。
浅原の腕を切り落とし彼の独特な形をした刀が地面に落ちていく。
「よかった」
そう安堵したのもつかの間。
「おい何事だ」
篝屋に詰めていた兵士たちがやって来る。
「不審者か」
兵士たちは二人を押さえつけて拘束した。
「待って」
「女孺がこんなところに危ないぞ」
兵士は私を宥めるように部屋へと移動させた。
「違います。聞いてください」
「お主も落ち着いて。それから話を聞かせてもらおうじゃないか」
兵士の一人が報告する。
「帝は既に逃げられたとのこと。それにあと二人敵を捕捉しましたが彼らは我々に気がつくと自害いたしました」
浅原の息子たちのことだろう。彼らを倒したのは私だから少しだけ安堵した。
これ以上被害が出ることはないのだ。
だが成王丸が浅原と捕縛されてしまった。
この事態をどうにかせねば。
「この男二人のどちらかが帝の御命を狙いにきたということになるが」
「しかし一方は犬神人、もう一方は浪人だ」
捕縛された成王丸は押し黙っていた。その一方で浅原は息も絶え絶えになりながらもぶつくさとなにかを呟いている。
「この私が持妙院の血を断絶せねばならないのだ。なぜ邪魔をする」
「お主名前は何という」
「源為頼」
「源、そんなわけあるか」
兵士は一笑に伏すといった様子でその言葉を取り下げさせた。
「息子たちから名前は聞いている。奴の名は浅原為頼だ」
「浅原というとあの霜月騒動で連座した男だな」
つまり彼は浪人の身の上だということだ。兵士たちはお互いに目を合わせる。
「もし犯人がこの浪人となれば幕府も黙ってはいられまい」
「しかし帝の御命を奪いにきたということは西園寺実兼様のお耳に入れなければ。彼も関東申次の役目を担われているのだから」
この場合西園寺実兼が仕切ることになるのは目に見えていた。
だが予想外のことに。
「やはり武士が絡むとなると六波羅に相談した方が良いのではないか」
「確かに。浪人とはいえもとは鎌倉に仕える武士。彼らに責があるのではないか」
兵士たちはうなずくと二人を拘束して詰め所へとつれていく。
「待ってください、そこの犬神人は私を助けてくれたのです」
「しかし部外者がここにいるとなると助けてくれたとはいえ一応疑わざるをえないのだ」
「そんな……」
「悲しむな。きっと彼の無実は晴らされる」
兵士はそう口にすると詰め所へと去っていった。
「成王丸……」
私が成王丸の無実を証明しなければ。そう固く誓ったのであった。




