第十二話 放免
問題は放免とどうやって出会うかであった。
放免は検非違使のなかでも地位は下の方である。仕事は犯罪人の捕縛や拷問。
普段は京の町をふらふらしている。
でもあの派手ななりだから見つけるのは一目でわかるだろう。
「おいおまえ本当についてくるのか」
「もちろんです」
成王丸は苦笑した。
「お前ほど肝の座ったやつは久しぶりだな」
「そうでしょうか」
私は成王丸から借りた装束を身に付け彼の後をついて回る。
「その格好にもなれたもんだな」
「これで私もあなたの仲間ってことです」
もう彼に渡すことのできる報奨はない。
だから私にできることはなんでもするつもりだった。
「これからいく場所はどこですか」
「賭場だ」
白川法王がいったように思い通りにならないものは賀茂川の水、双六の目、山法師なんて言葉がある。
博打は昔から流行っていたがこの時代になると武士の間でも博打は流行り御成敗式目の追加令では十回以上賭博禁令が出されていたらしい。
双六だけでなく四一半というものが武士の間では流行っていた。
「行ったことがないのですが私などでもできるものでしょうか」
「おまえは黙って眺めていれば良い」
成王丸は懐から銭を取り出す。
「幸いおまえからもらった一貫がある」
自分が一生懸命働いたお金を賭け事に使われるのは内心複雑だったがこれも放免を見つけるためだ。
「じゃあ行くぞ」
成王丸が私の手を引いて歩き出す。
その扱いが子供扱いのようで私は顔を赤くする。なんだか気恥ずかしいのだ。
「よっ旦那。寄っていくかい?」
賭場はとある武家の屋敷にあった。
私たちは犬神人の格好から武家が身に付ける直垂を来ていた。
これは成王丸の伝で手に入れたものだった。
相変わらず彼の人脈は謎だ。
中にはいると皆が賭け終わったところだった。
「コマが揃いました」
中盆がそういうと次に。
「勝負」
と声を出す。
「サブロクの半」
二つある双六の目が三と六となっていた。
「くそっサブロクかっ」
「俺の勝ちだな」
男たちは思い思いの反応を示し再び賭けが始まる。
「俺たちも入って良いか」
「おお新入り。いいぞ」
中盆がうなずくと私たちも武士たちの中に混じって賭を始める。
まずは男たちが各々サイコロをふり、縦中央にいるツボ振りが縁起の良い目が二回出るまでサイコロをふる。
そして横中央にいる中盆が合図を送る。
これで賭の始まりだ。
「はいツボ」
「はいツボかぶります」
ツボ振りは茶碗に賽を入れて右手で盆茣蓙の上に伏せると、左手を客に見せた。
「あれはどういう意味ですか」
「種も仕掛けもありませんよってことだ」
静かに成王丸は答えた。
ツボ振りはツボを三回前後に振る。
「どっちもどっちも」
中盆が客に声をかける。
「さあどっちにかける」
ツボ振りの手前にコマを投げれば丁方、奥に投げれば半ということらしい。
決まりがよく分からないので私は手前に投げた。
「コマがそろいました」
そしてツボ振りは左手の股をよく開いてツボの横に手をつく。
「勝負」
サイコロの目は二つとも一だった。
「ピンゾロかよ」
「おいおまえ勝ったぞ」
成王丸が声をかける。
「えっそうですか……」
まさか自分が勝つとは思わなくて驚く。
「だけど今回は一が出たから半分は胴元のものだ」
これが四一半だからなと成王丸は笑う。
「喜んでいいのかどうかわかりませんね」
「まああんまりのめり込むとろくなことがないからな」
小声で付け足すと成王丸は私の腕を引く。
「次はあっちだ」
今度は別の賭場に足を踏み入れる。
かくして成王丸と賭場に入り浸ること半日。
大体要領がつかめるようになった。
「おまえも随分やるようになったな」
成王丸は苦笑した。
どういうことか私は今のところ勝ちが多かった。
とはいえ目をつけられたら厄介なのでほどよく勝ったら次の賭場に移動するということを繰り返していた。
「今日だけで結構勝ったな」
「その目で見るのやめてくださいっ」
成王丸は潤った懐を眺めニヤリと笑った。
「おまえこれだけで生きていけるんじゃないか」
「たまたまです」
こればかりは誉められてもあまり嬉しくない。
どうせならまっとうな方法で稼ぎたいものだ。
「次のに行ったら今日は終わりだな」
最後の賭場は没落した公家の屋敷だった。
そこでは異様な熱気がありしばらく外で眺めていた。
そして気になることがもうひとつ。
豪奢な着物を見にまとった男が一人いたのだ。
「あれは……」
「放免だな」
二人してうなずくと中にはいる。
「参加していいか」
「今はあの男が大勝しているぞ」
指差されたのはあの放免の姿だった。
「大丈夫だ俺たちには秘密兵器がある」
「それって……」
私のことですよねと言いそうになるのをグッとこらえる。
「ふっ頼んだぞ」
「他力本願ってどうなんでしょう」
チクリと嫌味を言ってみても成王丸は笑うだけだった。
「勝ってこい」
そう言われて私はゆっくりと賭に出るのだった。