目標なしには動けない定行君
どうも初めまして。スギスケです。小説家になろう初投稿です。未熟で稚拙な文章ですが楽しんでくれたら幸いです。
なお、この作品に出てくる人物は実在の人物とは全く関係はありません。。
京都の某有名大学に進学してひと月が過ぎゆこうとしている。まさに光陰矢のごとし。時がたつのは驚くほどに早い。
高校三年間は熾烈な受験戦争を勝ち抜くことだけを考え、勉強漬けの毎日。当然、よくある学園ラブコメのようなリア充ライフなど送れるわけもなく、ただただ勉強した。
しかし、つまらなかったか、というとそうではない。むしろ今まで生きてきた中で最も充実した日々をおくっていたといえるだろう。午前午後と授業をこなし、放課後になれば数人の友達と馬鹿な冗談を言い合いながら下校する。帰宅後には、愛する妹との団らんを楽しみ、次の日の予習をしてから就寝する。周りから見たらつまらない生活なのかもしれないが俺にとって、大学に主席合格する、という明確な目標に向かって邁進する毎日は誰がなんといおうと楽しく充実した青春だった。
そして今年、春。三年間の宿願叶って見事主席合格を果たし、大学生活が始まったのである。
入学して早々にわかったことだが主席合格したこの神楽坂定行は超難関大学であるこの大学においても突出した頭の良さであるらしい。そのおかげかよく勉強を教えてほしいとお願いされる。しかも大半は女の子。
今も講義中だが、右隣には大津玲奈が座っている。彼女曰く「どうせ定行君に教えてもらうんだから最初から隣に座っている方が便利。」なのだそうだ。いや、違うやつに聞けばいいじゃん。俺以外にも頭いいやついるでしょ。何なのほんと、俺のこと好きなの。そうなの?そんなわけないか。などとどうでもいいことを考えていた矢先、ペンを持っている右腕に重みを感じた。こいつ、俺の肩により掛かって寝ていやがる・・・。
「おーい、大津さん。俺の肩はあなたの枕じゃないんですけどー」と呼びかけてみると
「うーん、じゃあ太ももに・・・。」などといって膝枕をご所望になった。おい、ふざけんな。肩がだめなら膝枕ってどんな思考回路してんだ。
「おーい。そのプ二プ二のほっぺつねんぞ。」
ギュー
「痛いよー、定行君。って痛い痛い本当に痛い!起きるからっ!許してっ。許してっ。」
といってようやく起きた。
ほっぺをさすり少し涙目になっている。大津は顔が幼いから涙目になるとほんとかわいいんだよなあ。言ったら絶対ぶっ飛ばされるから言わないけど。
「定行君、痛いよ。何すんのよ。」
「それはこっちの台詞だ。講義中に隣でグースカピースカ寝たあげく膝枕までしやがって。そんなこと妹にもしたことないんだぞ。」
「定行君ってほんっとシスコンだよね。」
「おい、シスコン言うな。妹に対する愛情が深いだけだ。」
「いや変わんないから。」
などといつものように言い合っていると、
「マジで仲良しだよなおまえら二人。」
と左隣の飛騨正宗がからかい半分の口調で話しかけてきた。こいつ、こういうときの顔無駄にイケメンだからマジで腹立つんだよなー。
「どこをどう見たら仲良しに見えるのかな、中学校以来の腐れ縁で無駄にイケメンの正宗君?」
「どこからどう見ても仲良しでしょ。あと、無駄に、は余計な。おまえには言われたくねーし。彼女いない歴と年齢が一致している無駄にイケメンなガリ勉定行君。」
などと舌戦を繰り広げていると、大津が
「えっ!定行君って彼女いたことないの?絶対モテてたと思った。でもこんなイケメンなのに彼女がいないなんておかしい・・・。まさか、ほんとにシスコン。」
「いやっ、違う。断じて違う。ただならぬ関係とかじゃない。」
「そんなに必死に否定するなんてまさかほんとに。」
「ほんとに違うんだって。俺、高校三年間はもちろんだけど小学校中学校もこの大学に主席合格するって言うことを目標にして勉強してたからさ、恋愛する暇もなかったていうか興味もなかったって言うか・・・。だから、彼女がいねーんだよ。つーかなんで同回の女子にこんなカミングアウトをしてるんだ。」
などと恥ずかしさにもだえていると大津が
「ふーん、そっか。なーるほどね。ま、そういうことにしといてあげる。」
そういって笑顔を見せてくる。くっ、卑怯な。かわいいから文句が出てこねー。少し言葉に詰まっていると大津が正宗に
「定行君はこう言ってるけどほんとのほんとにそんな感じだったの?すっごい頭いいのはわかってるけど」と聞かれ正宗はなぜか得意げな表情で
「いや、こいつマジでガリ勉で、うちの高校かなりの進学校だったんだけどさ、ぶっちぎりで一番賢かったんだわ。模試の成績なんてこいつが全国一位じゃないとこ今まで見たことないもん。偏差値八十なんて当たり前のようにとってたんだぜ。」
「へー、そんなにすごかったんだ。そりゃ勉強ばっかで彼女なんていないわけだ。」
「そうなんだよ、こいつ見た目もかっこいいし引く手あまただと思うんだけど恋愛には一切興味なくてさ。もったいねーよな。俺だったらかわいい子たちとつきあいまくるのに。」
「それはそれでどうかと思うよ、正宗君。」
などと会話している。俺を飛び越えて会話のキャッチボールが行われているのでなんかものすごく寂しい気持ちになります。ハブらないでっ。会話に入れてっ。という念が伝わったわけではないと思うが大津が急に真剣みを帯びた表情で
「じゃあさ、定行君。今はどうなの?大学主席合格という野望を果たした君にはもうそこまでガリ勉する理由がないよね。これからも変わらずに勉強にいそしむの?それとも新たに何か目標ができたりしているのかな?」と聞いてきた。
それについては俺自身これまでのひと月幾度となく考えてきたお題だ。自分は何を目標として大学生活を送ればいいのか。大津の言ったとおり俺にはもう高校時代の時のようにガリ勉する理由が見当たらない。そのせいで勉強はするが思ったように身が入らない。昔からそうなのだ。目標が存在しているときには、そこに向かって一心不乱に努力することが楽しくてしょうがなく、日々の生活も充実したものになるのだが、いったんその目標を失うと路頭に迷ったような感覚に陥り、何もかもに全力になれない自分が訪れるのである。大学主席合格という野望を果たした俺は絶賛その泥沼にはまっているのだが、解決策はとうの昔にわかっている。それは夢中になれるだけの目標を定める、というシンプルなものだ。だからおれは大津にこう答えた。
「考え中。」と。
それ以上的確かつ簡潔に今の俺の内情を表現する回答はなかったのだが、大津には不満だったらしく
「何よ、教えてくれたっていいじゃない。友達なんだから。」と唇をとんがらしている。
まあ確かに少し無愛想過ぎたなと思い直し、
「まだ目標とかは決めてないな。でももう勉強にそれほど未練がないことは事実だ。だからまあ、正宗にイケメンの無駄遣いと言われるのにも飽きてきたし、本格的に恋のアバンチュールでもしますかね。」
とあまり考えずに言うと正宗が「いや、しますかねー、じゃねーよ。したくてもできないの間違いだろう、定行君よ。おまえ勉強は偏差値八十だけど、こと恋愛になると偏差値三十ぐらいしかないもんな。」
としたり顔。
こいつのこの顔何度見てもくっそ腹立つ。
「なるほど、よかろう。正宗、おまえは俺をろくに彼女も作れないガリ勉非モテ野郎というのだな。よし!わかった!そこまでこけにされて何もしない俺ではないわ。よく聞け、正宗、俺は今から一年以内に彼女を作るとここに宣言する!」
どうだ、ここまで言えば正宗もさすがに馬鹿にしないだろう。そしてすぐに言い返してこないところを見るとどうも俺の宣言に面食らっているらしいざまあみろ!と思っていたが周りがやけに静かなことに気付く。あれー、今って講義中だっけ。完全に忘れてたー。これはやらかしたかもー、とおもい左を向くとそこにはこめかみをひくつかせた教授。そしてありがたいお言葉を頂いた。
「静かにしてね、神楽坂君。」
「はい、すいません。」
「よろしい。」
優しくたしなめられてしまった。いっそ怒鳴られた方が恥ずかしくなかっただろう。今までの頭の悪い会話が教室中に響き渡っていたかと思うと死にたくなる。
両隣をみると正宗も大津も声を殺して大爆笑している。いや、こいつら少し酷くないですか。声大きいよ、とか一言注意してくれてもいいのに。正宗はわかっていたが、まさか大津にまで裏切られるとは。こいつら絶対許さん。などと復讐心をめらめら燃え上がらせていると講義も終わり、三人で食堂に向かった。
「定行君、面白すぎ。あんな大声出さなくてもいいでしょ、もう。というか超絶頭脳の定行君も結構抜けてるところあるんだねー」
「だよな。」
「うるせーな、もう二度とあんな宣言するもんか。」
「ふふっ、面白かった。あ、あと聞きたいんだけど」
「ん?」
「あの宣言って本気?一年以内に彼女作るって言うやつ。」
「ああ、本気さ。一度決めた目標は必ず達成する。」
「ほんとにできんのかー?」
「やるといったらやるのさ。」
「ふーん、そ。ま、いいんじゃない。」
「なんで大津少し不機嫌になってんの。」
「不機嫌じゃないし。」
「いや絶対不機嫌になってるだろ。見たらわかるぞ。」
「うー、何でもないったら、ないの。」
おかしなやつだ。何か気に障ることでも言っただろうか。
「ま、やれるだけやってみるさ。」
そう言って残りのご飯をかき込んで次の講義へと向かった。
その後午後の講義を三つこなし帰路につく頃には、空はあかね色に染まっていた。
正宗は電車通学なので俺と大津の二人とは反対方面。校門前で正宗とは別れ、大津と二人で歩き出した。
「定行君って下宿してるんだっけ?」
「ああ、そうだよ。ここから十分ぐらいのとこ。」
「一人暮らしって寂しくないの?」
「いや、一人暮らしじゃない。妹との二人暮らしだ。」
「やっぱりシスコン。」
「違ーよ、妹もこっちの方にある高校に進学するって言うから一緒に住んでいるだけだ。」
「ふーん、じゃあさ今から定行君の家上がっていってもいいかな?」
「なんでそうなる。」
「ほんとにシスコンじゃないのか妹さんに確かめないと。あと、普通にどこに住んでるのか気になるし。」
こいつほんとに俺のことシスコンだと疑っているのか・・・
「ならま、上がっていけよ。なんも出せないけど。」
「うん!ありがと。定行君の家かー。なんか楽しみだな。定行君が溺愛する妹さんはどんだけかわいいのかも気になるしー。」
「言っとくが、超かわいいぞ。」
「む、まあ見てみないことにはなんともいえないしね。それは見てから判断するよ。」
「お、見えてきたぞ。あれが俺の家だ。」
「へー、あれが定行君の下宿先・・・。いやっ、二階建ての一軒家なんですけど。下宿にしては家大きすぎない?もしかして定行君のおうちって結構なお金持ちなんじゃ。」
「そうか?普通ぐらいの大きさだと思うが。さっきも言ったが妹と二人で暮らしてるから二階建ての方がいろいろと都合がいいんだよ。ほら家着いたぞ。まあ何もないけど上がれよ。」
「お邪魔しまーす。」
ドタドタドタドタドタッ
「お兄ちゃんっ、おかえりー!」ギューッ
「おう、ただいま。」ナデナデナデ
「定行君っ!何これ、どういうこと!」
「お兄ちゃん、この女の人だーれ?」
「ああ、こいつは大学の友達。大津玲奈さんだ。」
「初めまして、玲奈さん。私が定行君の妹である、神楽坂いろはと申します。なにとぞお見知りおきを」
「これはご丁寧にどうも・・・ってそうじゃなーい!なんで妹のいろはちゃんが定行君に抱きついて、しかもそれを当たり前のように定行君は頭ナデナデしちゃってんのよー!」
「何をそんなに怒ってるのやら。別に仲良し兄妹ならおかしなことじゃないだろ。なあ、いろは?」
「うん!おかしなことじゃないよ、お兄ちゃん。」ナデナデ
「ナデナデやめんかー!」
「お兄ちゃん、玲奈さんもナデナデしてほしいからこんなに怒ってるんじゃない?」
「ああ、そういうことか。それならそうと早く言ってくれたらいいのに。」
「違うわよー!違わないけど違うの。兄妹にしてはスキンシップが過ぎるんじゃないかと言ってるんです。とにかく離れて離れて。」
そういって大津は俺といろはを引き離す。
「わかったわかった。離れるよ。」
「次ひっついてたらわかるわよね。」ゴゴゴ
「はい、わかります。」ブルブル
大津コエー。とりあえず今は逆らわないでおこう。
「そんじゃ、リビングに案内するよ。」
そういって俺はリビングのドアを開けて大津を招き入れた。俺の家には基本的にものが少ないため比較的きれいだと思うのだが、女の子を家に招いたことなどないので内心はドッキドキである。
「お邪魔しまーす。おおっ!やっぱり定行君の家だけあってきれいだねー。ものも少ないし。うわー、このソファーおっきーい。座ってもいい?」
「いいぞ、くつろいでくれ。」
「やったー!では、いざ。とう!」ボフッ
大津がソファーに倒れ込んでいる。あいつ何してんだ。はしゃぎすぎだろ、と苦笑していると
「お兄ちゃん、玲奈さん、コーヒーと紅茶どっちがいいですかー?」
「俺はコーヒーブラックで。」
「私は紅茶をお願いします。」
「了解です!」
そういっててきぱきと用意をしてくれる。やはり俺の妹だけあってできる妹である。
そのころ大津はというと未だにソファーの上ではしゃいでいるので、俺さっきからたちっぱなしなんだけど。いい加減普通に座ってくんねーかな。
「おい、大津。いい加減普通に座れ。俺が座れねーだろ。」
「あ、ごめん。ついテンション上がっちゃって。やっぱりこんだけ大きくて柔らかいソファーがあったら楽しみたくなっちゃうよね。」
「いや、なんねーよ。そんじゃ、隣、すわんぞ。」
「う、うん。」
そう言って体を起こし俺が座るためのスペースを空けてくれる。
「よっこいせ。」
「定行君、おじさんみたいだね。」
「ほっとけ。」
「お兄ちゃん、勉強しすぎて精神年齢がおじさんになっちゃったんだよねー?」
そんなことを言いつつ頼んでいた飲み物を運んできてくれた。
「はい、玲奈さん。紅茶です。」
「ありがとうー」
「はい、お兄ちゃん。コーヒーです」
「サンキュー」
「お兄ちゃん、隣座ってもいい?」
「おう、いいぞ。」
そう言って俺の右側に腰を下ろした。しばし穏やかな時間が流れる。あー、妹が淹れたコーヒーをこうやって静かに飲んでいると幸せを感じる。口には出さないけどね。大津いるし。あいつそんなこと言ったら次こそ殴ってきそうだし。ズズー。うまい。大津の方をチラッと伺うとあっ、おいしい。この紅茶。などと言っているのが見える。
「いろはちゃん、この紅茶おいしいよ。淹れてくれてありがとうね。」
大津がいろはに笑いかけながらお礼を言う。それにたいしていろはも笑顔で
「お口に合ったようでよかったです。この紅茶私も好きなんですよね。お兄ちゃんにも飲んでほしいんだけど、お兄ちゃんコーヒー派だから。」
「ま、定行君はコーヒー好きそうだもんね。」
「紅茶も人並みには飲むんだが、どうにもコーヒーが好きでな。」
「私はコーヒー苦手。苦いし。」
「ガキめ。」
「何をー!」
そう言って大津がポカポカ左腕をたたいてくる。ゆれる、ゆれる。こぼれるー。
「おい、やめろ。こぼれるだろ。」
「うー、馬鹿にして。ほんとにいっつもそうなんだから。」
「ごめんごめん。」
そんな会話をしていると、右側からなにやら視線を感じ、そちらを見ると、妹のいろはがじーっとこちらを見つめている。どうした妹よ。俺の横顔をそんなに見つめて。まさか惚れてしまったか。しかし、俺とお前は兄と妹。こらえてくれ、許されざる恋だ、それは。などとくだらないことを考えていると、いろはが
「もしかして、お兄ちゃん。玲奈さんって彼女?仲良すぎない?でも妹的にはお兄ちゃんには一生彼女できないんじゃないかと心配だったから安心したよー。そうならそうと大学の友達なんてごまかさずにつきあってますって言ってくれればよかったのに。ま、ようやくお兄ちゃんも妹離れだね!」
この子すごくうれしそうに言ってるんですけど。なに、もしかして俺、いろはに嫌われてる?やだ、そんなことになったらショックで死んじゃう。いろはだけが俺の心の癒やしなのに。
「いや、大津は彼女じゃないぞ。」
「私は定行君の彼女じゃないよ!何言ってんのよいろはちゃん。」
「あれ?違うんですか。そんなに息ぴったりなのに。」
「「息ぴったりじゃない!」」
「ほーら、息ぴったり。」
にやにやしながらいろはが俺たち二人を見てくる。我が妹ながら腹立つ顔しやがる。
「では、お邪魔虫は二階に退散しようーっと。」
そう言うやいなや立ち上がり
「ごゆっくりー」
と言い残し、リビングから出て行ってしまった。リビングに残されたのは大津と俺の二人。やべー、女の子と部屋で二人っきりとかどんなシチュエーションだよ。何やればいいのか全然わかんねー。とりあえず、大津の様子は、と思い左を見るとなにやらブツブツつぶやいてうつむいている。どした、こいつ。
「やばいやばいやばいよー。定行君と二人っきり。二人っきり、二人・・・。」
「おーい、大津大丈夫か。」
「ひゃっ!なななに?定行君。」
「いや、だから大丈夫かって」
「だだだいじょうぶだよ、何言ってんのさ。」
「あー、そうか?」
こいつ顔真っ赤だけどほんと大丈夫か。まさか、熱でもあるんじゃ。
「おい、大津。こっち向け。」
「ん?何よ・・・」ピトッ
「ななななにしてんのよ定行君」
「いや、熱でもあんのかと思って。」
うーむ、おでこに手を当ててみたが熱はどうやらなさそう。
「熱はなさそうだな。」
「うん、心配してくれてありがと。」
「いや、どうした、やけに素直だな。」
「素直に受け取っておきなさいよ!ばか。」
「ようやく調子戻ってきたな大津」
大津も少しずつ平常運転してきたし、そろそろいいかな。
「大津、一つ聞いてもいいか。」
「何さ改まって。」
「この大学にいる女の子の中で一番モテる子って誰かわかるか?」
「なんでそんなことしりたいのよ」
いぶかしげな表情で返してくる大津。質問に質問で返してはいけない、って習わなかったのかしら。しかしここは大津を説得することが先決だ。
「正宗にあんな宣言したからには必ず達成しなくちゃならない。だけど、俺は目指すなら一番を目指す。それが俺の流儀だ。あんなしょうもない約束でも約束は約束だからな。最高の形で達成したいんだ。最高の形、それはこの大学のマドンナとおつきあいする。これしかありえない!だから大津。俺の唯一の親しい女友達であるお前にはそのサポートをしてほしいんだ。」
そう、これは俺の今後の大学生活を左右する大きな問題だ。このまま無気力に惰性で生きていくか、充実した生活を送れるかは大津を今説得できるかにかかっている。情けないことにこの目標を達成する上で彼女ほど頼りにできる友達がいない。なんとしても説得しなければ。と意気込んでいると。
「唯一・・・親しい・・・友達、えへへへー」
なんだかとてつもなくにやけたというよりとろけた顔してるんですけど、この子。だらしないわよ、全く。というか、実際すこし気色悪いくらいだな、うん。絶対口には出さないけど。で、説得の結果はいかに・・・
「しょうがないわね、協力してあげるわよ。親友のよしみで。感謝してよね。」フフン
そう言って胸を張る。いや、君ね小さくないんだから割とある方なんだからもう少し慎みを持ってください。目線を持って行かれそうになるのをどうにかこうにか勉強で鍛えた鋼の自制心でこらえた。
でもよかった協力してくれるみたいだ。
「ああ、よろしく頼む。」
「任せて!」
どうにか大津の説得に成功したようだな。よかったー。しかし、これでようやく新しい目標にたいする手段を得ることができた。目標も手段も手に入れた。あとは実行に移すだけだ。
「とりあえず、まずは一番モテるやつのリサーチなんだけど、大津誰か目星着いてる?」
そう聞くと、大津はあごに手を当て思案顔である。
「うーん、はっきりとはわかんないんだけど、私の入っているテニスサークルにすっごくかわいいこがいるよ。同回の男子で知らない人なんて定行君ぐらいかもしれないってぐらい人気の。」
「なにっ!そんな子がいるのか。その子なら俺の目標達成にふさわしいかもしれん。名前はなんて言うんだ?」
「白石千鶴っていう子よ。知らないの?」
白石千鶴、聞いたこともなかった。俺の女子への無関心は今に始まったことではないが目標が目標なだけにこれからは積極的に女子の名前を記憶していくことが必要だ。情報の集積には自信があるが女子の名前という新ジャンルには自分が思っている以上にアンテナを張っておこう、と自分を戒めていると
「ちょっと、聞いてる?知ってるの知らないの?」
と大津が怒り気味で聞いてきている。あれ、やっぱりしおらしい方がいいかも、なんて考えながら
「聞いてるよ。でも初めて聞いた名前だ。ほかに何か情報はあるのか。」
好みのタイプ、性格、趣味これらの情報は彼女にする上では必須になってくるだろう。自分でコンタクトをとってからでもいいが事前に知っていることに越したことはない。
「私、千鶴ちゃんと仲いいから結構知ってるよ。性格はねー、結構気が強い感じかな。昨日も告白してきた男子に「きもっ」っでばっさり断っちゃってたからねー。結構イケメンだったんだけど。なんで断ったの?って聞いたら「え、だってよく知らない人から告白されたらことわるでしょ、普通。」だって。すっごく正論でびっくりしたなー。あと、趣味は合気道。かなりの達人らしいよ。」
「なるほど、かなりの難攻不落感を放つ子じゃないか。いいぞー、敵は強い方が燃えるからなー。」
、と口では強気に言ってみたが本当にこの目標達成できんのか?まあ、なんとかなんだろ。なる気がする。うん。気を強く持て定行。
「うん、かなり難しいと言うことは覚悟しておくことね。まあでも安心なさい。あなた一人では絶望的だったかもしれないけれど、なんてったって私というパートナーがいるんだからどうにかなるわよ。」
「心強い、頼むぜ相棒!」
「任せなさい!」
コツンッと拳を合わせ、二人ともにっこり笑った。こいつとなら本当にその冷血女を攻略できるかもしれないという期待感で胸が高鳴っていた。