突入 3
続きです!
3
「遠山! 付いて来ているか! 遠山!?」
殺人事件を起こした囚人のエリアの手前で俺は背後にいた遠山の姿が無い事に気がついた。
遠山、魔理、華音の姿が消えていた。今は俺、美樹、真紀の三人だけだった。
「後ろにいたよな!? 美樹、はぐれた所は!?」
「見ていないわよ、見ていたなら知らせているわ。それよりも、この状況はかなり不味いわよ? 見事に分断されてしまったわ、あの化け狐はこうなる算段は付けていたのね」
「いや、それ以上に・・・・・・この状況が」
俺がそう言うと、足音がゆっくりと俺達へと近づいて来ている事に気付いた。
暗闇の通路、だが、囚人たちが騒ぎ始めていた。足音の聴こえてくる先から命乞いの声や、嗚咽、短い悲鳴などが聴こえてくる。
「誰だ? 次はどいつだ!?」
俺が両腕の魔具を装着する。これの名前はショック・ガントレットとしよう、手甲が守っていない部分をカバーして、掌から魔力の衝撃波を爆裂する様に放射する桜子の作ってくれた武装だ。
掌を向けて構える。美樹もライフルを構えて警戒するが、真紀は銃を構えずに正面をじっと見ていた。
「新人! 銃を抜きなさい! 死ぬわよ!?」
美樹が叫ぶが、真紀は静かに口を開く。
「構えると、逆に死にますよ先輩。この空間では銃は効きません、彼女には良いカモですよ?」
「なに!? 翔太郎、この娘おかしいんじゃないの!?」
「・・・・・・まさか!? 美樹!、避けろ!」
俺は美樹を突き飛ばすと、さっきまで彼女がいた場所に拳があった。
凶悪な爪と一体化したような指に、瓦のように重なって作られた黒い手甲、遅れてやって来た重々しい金属音。
「鋼夜の鬼か! クソっ! 美樹、接近戦に!」
「甘いです」
一言後に俺の全身に衝撃が走った。
ショットガンブローだ! くそ、これは流石に効く!
「これでは倒れないぞ! 鋼夜の鬼!」
「・・・・・・」
彼女は黙っていたが、直ぐに俺は顔面に蹴りを撃ち込まれた。
その隙にライフルを構えなおした美樹にターゲットを移す。
「美樹! 動け、防ぐな!」
「っ! 速っ!」
出鱈目なパワーで美樹のヴァルキュリアの翼はもがれてしまった、その隙に彼女は組み付かれると投げられてしまう。硬いコンクリートに叩き付けられたら、美樹の身体では耐えられない!
「中位魔法三級魔術 空集防壁!」
真紀が放った空気を集めてクッションにする魔法が叩き付けられそうな美樹を守って、美樹は反撃とばかりにライフルを鋼夜の鬼へと向けて引き金を引く。
だが、ライフルは弾丸を発射するよりも早く粉々に殴り壊されてしまった。
アイツの拳はどんな動きをしているんだ!? 速すぎる、彼女の動きは人狼みたいに複雑な軌道で動けないが、パンチだけは異常だ! 一秒間に何発ぶち込んでんだよ!
「普通の兵よりは強いですね。しかし、悲しいですね貴女は自分の性質をまだ否定しています」
「何を!」
美樹は魔法を放とうとするが、わき腹を蹴られて人形のように俺の方へと吹き飛ばされて来た。
「美樹!」
俺は彼女の身体を受け止めるが、鋼夜の鬼は真紀へと拳を突き出していた。
最悪だ、彼女は!
「止めてみなさい」
その言葉と共に豪速の殺意が真紀へと放たれた。
彼女は防御魔法を両手に張って二重の防御を行うが、無残に砕かれ身体は吹き飛ばされた。
「がはっ!? う、え・・・・・・はぁはぁ」
背中を強打した真紀はうずくまるが、鋼夜の鬼は容赦なく追うと走っている勢いを乗せるように右足を回す様に上げる。なんて速度で踵落としを決めようとしていやがる!
「死にますよ?」
「はっ! ぐっ! ううう・・・・・・」
鋼夜の鬼が放った踵落としは正面から真紀の防御魔法に防がれた。が、直ぐにヒビが入ると魔法を砕いて真紀の肩口をかすめて床を粉砕した。彼女の服が破けて肩がむき出しになっている。
危ねぇ、当たっていたら腕がもげていたぞ!?
「格上の攻撃力を正面から受ける奴がいますか?」
俺はナイトフォームになって鋼夜の鬼へと斬りかかった。だが、彼女は真紀を掴み上げると盾にする様に差し出した。刃をギリギリで止める。くそ、人質なんか取りやがって!
「てめぇ! 卑怯者が!」
「解りましたか? 力を使う人間が戦うとこうも非情な事をするんですよ?」
「何を言っている!?」
「責任と危険は圧し掛かります。逃げてみなさい、この手から」
鋼夜の鬼はそう言うと真紀の首を掴む。
「止めろ! 彼女は人を殺してない! それに、彼女は新人だ!」
「それが何ですか? 私が本気なら、彼女はもう死んでいます」
真紀は苦しそうな声をあげながらも魔法を組み上げて鋼夜の鬼へと火炎魔法をぶつける。大爆発に彼女は真紀を放した。
「真紀、退け!」
「このぉ!!」
俺の言葉も聴かずに真紀は飛び上がると怯んだ鋼夜の鬼へと浴びせ蹴りを食らわしていた。それも魔法付きでだ。
鋼夜の鬼は体の中に沈み込む衝撃にぐらりと床に膝を付いた。そこに真紀の飛び後ろ蹴りが炸裂する。
「ぐぁ!? あ、あはははは! 怒らせてしまいましたか?」
鋼夜の鬼は笑いながら身体を起こして真紀の追撃を受け流すと、掌底で真紀をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「真紀!」
「はぁ、さて・・・・・・私はどうやらはずれを引いてしまいましたね?」
「そうか? 俺にとっては大当たりだ! 鋼夜の鬼!」
「少なくとも、仲間二人を見殺しにしましたよ? 貴方は」
鋼夜の鬼はそう言うと、仮面の瞳をハチミツ色に輝かせた。
*
「どうして、こうも、運がない」
遠山の前にはうさ耳フードの白衣を着た。少女が立っていた。
小さな体の女の子だが、電子回路をイメージした仮面に注射器を片手に持った姿はとても不気味で気味が悪い。
見るからに人を殺していますって風貌だ。
遠山はパワードスーツのバックパックに取り付けられていた銃を引き抜く。
「はははっ! これは可愛いね。ウサギちゃんだ!」
「魔医学の兎・・・・・・魔法医学界の根底を覆す技術を持つ、殺人鬼」
遠山は一応銃を構えるが、兎は注射器を仕舞うと近くのベンチに腰掛けると道を明け渡した。
その姿はやる気の無いバイトの学生の様だが、誰も動く人間はいなかった。隙だらけの様で、全く隙が無いのだ。横切ろうものなら、首が地面を転がるイメージを全員が持ってしまう。
ベンチに体育座りの様な体制になるウサギは短いズボンから伸びる白くて細い脚を抱えとボソッと一言。
「通らないの?」
「は?」
「奥に、行かないの?」
「は? いや、お前が邪魔して」
遠山は間の抜けた声を出してしまうが、ウサギは武器すら出していない。注射器も袖の中に引っ込めて、ベンチに座っているだけだ。
魔理はその態度に首を傾げると、遠山を見ると小声で呟く。
「通っても後ろから来るつもりなのかな?」
「いや、もしかしたらこの先には何もないんじゃないか?」
「この先、殺人事件を起こした人間の、エリア。死体、気絶した看守、大怪我した突入部隊、それだけ」
「聴こえてやがるのか」
ウサギは耳をすませるような仕草を取る。
とうとう彼女はベンチにぐでぇ~っと寝転んでしまった。余りにも緊張感が無い。先程の嫌な感じも消え去っていた。本気で戦意が無いのだろう。
どうも読めない。
「警戒は怠るな。動くなよ!」
「動かない、いや、口にチョコは入れる。勝手に進んで」
取り出した板チョコをウサギはのんきに仮面に取り入れるようにしてかじっている。
何故が歯形が付いている仮面はまるで実体がない様だ。
遠山と魔理は銃を構えてじりじりと前に進んだが、華音は堂々とした足取りでウサギの近くまで行くと拳銃を彼女の額に押し付ける。
「華音!? 何してんのぉ!?」
遠山は叫ぶが、華音は静かにウサギに一言。
「私にも撃てる。撃たないと大好きな人が、悩んで苦しむなら・・・・・・私、撃つよ」
「お、落ち着いて華音ちゃん!」
魔理がショットガンを構えるが、ウサギは懐から棒付きキャンディを取り出すと華音に差し出す。
「はい、舐めておいた方が、いいよ? 良く、気が付いたね。既にここが、ガス室状態だって」
その一言で魔理の顔が驚愕の色に染まった。その一言で背筋が汗でぐっしょりと濡れた様に感じだ。
「解毒剤を人数分渡して」
「いいよ。はい、これは、毒じゃないよ」
仮面を下半分だけ解除してウサギはピンク色の舌で三つのキャンディを舐める。華音はそれを受け取ると口に咥えて遠山と魔理にも渡す。
「パワードスーツの遮断能力なら大丈夫だ」
遠山の言葉にウサギの口元がニィ、と一瞬だけ吊り上がる。
華音は遠山のマスクの口に無理矢理キャンディを押し付けると、彼はマスクを外してそれを咥えた。
「パワードスーツだらけの機動隊に毒で脅しをかけているんだよ? その毒、普通じゃないに決まってるでしょ?」
「ふふっ、だよねー。間接キスだけど、恥ずかしいとかは? ウサギちゃん」
「死ね、豚野郎」
ウサギはそう言うと中指を立てる。
魔理もキャンディを複雑な顔で咥えると、堂々とした足取りで奥へと進んで行く華音を見る。
「あれ? この奥には」
「この先は殺人事件を起こした囚人のエリアでしょ? そのエリアはどこからでも中枢、最奥のシャレにならない囚人たちが収容されている場所に通じているよ? ウサギちゃんの嘘、そして、その囚人達は十中八九解放されると思うの」
華音はそう言うと腕時計の魔具から地図を出す。そこには最高セキュリティエリアの経路が記されていた。
だが、現在の立ち位置が解らないのだ。
「ウサギちゃんの目的は、この通路を通って来る囚人の始末。そして、奥に行こうとする機動隊の無力化って訳か」
遠山の言葉にウサギは思い出したとでも言いた気に一言。
「そのキャンディの解毒作用だけど、舐めきる前に、このエリアを出ないと・・・・・・死ぬよ」
「急ぐぞ!」
遠山は弾けるように背中のブースターをふかして飛び上がった。華音はその遠山の脚に掴まる、その後ろを魔理が付いて行く。
残されたウサギ、いや、アイリスはベンチに再び寝そべるとキャンディを口に運んだ。どんな薬学系、毒系統の魔法と物体に耐性を持つ彼女は解毒が必要ないため、これは普通のお菓子だ。
「この通路、通れば麻痺して動けなくなるだけ・・・・・・囚人には、地獄だよね。通りゃんせ、此処は
何処の細道じゃ?」
死人と罪の細道じゃ。
いやー、遅くなってすみません




