突入 2
ボスであり、1人1人が主人公。
2
監獄の中は不気味のそれだった。異常に静かだし、それにこの雰囲気はなんだ?
まるで、目の前で人間が殺されたような不快感がのしかかって来る。
このエリアは殺しをしていない罪人の収容エリアだ。それなのに此処の囚人たちは一言も言葉を発していない。呆然として通り過ぎる俺達を牢屋の中から見ている。
「・・・・・・これ、不気味だな。あの兵隊を倒したら今度は何もいないって」
「何もない訳なかろうが、貴様は能天気な奴よ」
俺に椿がそう言うと、コンクリートの壁を日本刀で突き刺した。
すると、そこには忍者の様な姿の使い魔がクナイを片手に待ちかまえていたようだ。え? ここでコイツが見つかったって事は?
「構えろ! 罠だ!!」
軍の隊長が叫んだ。索敵用の魔具を見て焦っている兵や、警察の機動隊の面々が銃を構える。
その時だった。
「ご明察、皆さん」
正面からの女の子の声。
それに黒岳が銃を構えて容赦なく引き金を引いた。だが、魔力弾はナギナタと呼ばれる武器によって逸らされてしまう。それどころか、何処からともなく冷気と共に大量の氷柱が砲弾の様に撃ちだされて来た。
俺は熱風で作ったフィールドで氷柱を防ぐが、その時に背後で銃声が上がった。
「九群の化け狐か、お前が第一の刺客か」
黒岳がスタンロッドを構えて彼女を睨む。
背後では忍者によって美樹や遠山達が襲われていた。あんな奴に敗けるみんなじゃない、大丈夫だろうがコイツは一筋縄では行かないぞ?
化け狐はナギナタを緩やかに円を描くような軌道で操ると構えを取る。シッカリしたものではない、まるで遊んでいるかのような、どちらかと言うなら演武の型のようにも見える。
「刺客? そんな大層な者じゃないよ、それに私だけだと確実に負けると思うから」
「罠の存在を明かして良いのか?」
「そうだね、私が本気を出すのが策かな? あと、手分けをお勧めするよ」
黒岳に呟いた化け狐は身体を変化させる。頭からは耳、腰からは大きな尻尾そして、足も人間の形ではなくなっていた。
「変身魔法!? い、いや、そんな物じゃないわ! 変形、いや、それならなんで魔力に動きが無いのよ!?」
忍者をライフルで吹き飛ばして、美樹は彼女の変形を見て焦りの声をあげた。
「驚かなくてもいいよ、これは自前だからね」
化け狐はそう言うと、消えた。
「ばぁ」
うっそ、だろ! ナギナタなんて長い獲物持っているのに、彼女は黒岳と椿を通り過ぎて俺の目の前に来て円の軌道を描いて武器を振り回した。俺はパワードスーツの装甲で無事だったが、装甲の薄い黒岳と椿は背中を斬られた。大したダメージではないが、それでもかなり動揺を誘う動きをされた。
「クッソ! 速い、人狼程ではないが!」
俺はパニッシャーになってフルオートで化け狐を撃つが、彼女は自分の足元に盾を持った兵隊を召喚してそいつの盾を足場に上に飛び上がる。だが、それよりも先に飛んでいた椿の一撃を彼女はナギナタで受けて吹き飛ばされる。だが、ふわりと少しだけ浮き上がる動きを見せると綺麗に俺達のいる通路とは一本上の場所に着地した。
俺は召喚された兵隊をショットガンで吹き飛ばそうとするが、盾で防がれて体当たりを喰らった。その隙に俺の後ろに付いていた双葉が拳銃に付いているブレードで急所を突き刺して行動を止めてくれるが、盾がうぜぇな!
上の通路では椿と化け狐が交戦していた。
「シャレにならないです! 化け狐さまの魔法陣! ってか、召喚魔法の質が! 魔法陣を塞いでください! いくらでも湧いてきます!」
双葉はハンドガンを連射して叫ぶ。その先には魔法陣からわらわらと湧いて来る西洋甲冑の兵隊に黒岳は雷をぶつけて床を切る事で魔法陣を無効化する。一塊でいたから倒せたが、散開されていたらヤバいな!
だが、次々とあらゆるところから使い魔が武器を構えて召喚されてくる。
「バカな! 1人でこの規模の召喚魔法を!? 在り得ないんだ。魔力量的に、魔法術式的に、1人で出来る数は最高で60体が精々だ! てっきり何十人も召喚士がいると思っていたが、あの子供が1人で召喚しているようにしか見えない!」
叫んで銃を乱射する警官隊の男が忍者のクナイで肩を刺されながらそう説明してくれたが、彼はすぐに追撃を喰らって床に転がった。
このままじゃジリ貧だ。彼女を沈めた方がいいが、時間をかけられない。こうしている間にも犠牲は増え続けている。
「散開するぞ! 双葉は此処で椿を援護! 遠山と華音は魔理と真紀を守って俺に続け、美樹は隣で戦え!」
「俺は最前線で進む、道は自由に進むからお前達は俺とは別ルートで行け。たった今、裏口と天井、側面から突入した班から通信が途切れた」
俺は通信が途切れた裏口チームのパワードスーツにアクセスすると、視界情報を共有する。すると突然画面に狼の仮面が現れた。
(ヘイ! 見てるでしょ? 裏口は制圧完了しました。刑務所のど真ん中を殺人者収容エリアにしたドーナツ形状だから来るのは難しいよ!?)
境界の人狼? 彼女の背後には血を流して積み上げられた部隊の人々、息遣いが聴こえるから生きているかもしれないが。それでも関節がおかしい向きに曲がっていたりと重症だ。
「クソ! 四人が放たれたのか!?」
俺はアクセスを切るとメンバーを率いて通路を走り出した。黒岳は矢のように走り出すとあっという間に通路の闇に消えて行った。
後ろでは椿と双葉が化け狐と対峙していた。
「双葉! 死ぬなよ!」
「ご心配なくってんです!」
だが、化け狐は双葉のブレードと椿の日本刀を一編に受け止めて力を逸らして小さな体を目いっぱいに使って蹴りや拳を撃ち込んでいる。
強いな。だが、俺は飼い猫に追いつかないといけないんだ!
俺は力をセーブするためにナイト&パニッシャーを常時に発動させていない。暴走したらまた真紀に助けてもらう事になる。
だが、何かがおかしい。なんで、使い魔達は追いかけてこない? 何で急所を避けているんだ? 戦闘不能にするにしては容赦がないが、殺そうとしているとすれば手抜きもいい所だ。
それなのに、本気で戦っている。
飼い猫、今度は何を企んでいるんだ? 何をしようと言うんだ? この刑務所に何があるんだ!?
*
「子ネズミが! 我が刑務所にのこのことぶちこまれに来たのか!」
目の前には何と言うか、エロいお姉さんが仁王立ちで正明を睨み付けて叫んでいた。服装は女性用の軍服風にデザインされた戦闘用の魔具だ。頭にはベレー帽、大きな胸ははだけて綺麗な蝶の刺青が覗いている。細い腰にはデカい拳銃、だが、それ以上に腰の側面がむき出しになってパンツの紐と白い素肌が見えている。
なんて間抜けなズボンはいてんだ?
それが正明の感想だった。積極的に下着の色を無言のうちに暴露する特殊性癖なのだろうと自分を納得させた正明は落ち着き払った口調で彼女の質問に答える。
「下見も良いだろうと思ってね。えーっと、赤紐パンツのお姉さんは此処のどんな立ち位置にいる人?」
「ひ、紐パン言うなぁ! このスケベ何処見てんだ!」
「そっちが何見せてんだ! なんだそのズボン! 恥ずかしいのかよ!? やめろ、ちゃんとした服着て来い! 待ってて上げるから!」
「優しいな! 人殺しのクセに! でも、これ着ると旦那が喜んでくれて」
「畜生! そんな事情を話すな! ド変態じゃないか、アンタの旦那! 胸も隠しなよ、戦ったら丸出しになるよ!?」
「うるさい! 丸出しにならないように魔法で抑えてんだよ!」
「バァアアアカ! さっきから少しずつ魔力下がっているのはそれが原因か! 戦いたくないよここまで間抜けだと!」
「初対面に何言ってんだ! 私は間抜けじゃない!」
「あぁ、なんか飲み友達として出会いたかったなぁ・・・・・・僕は一杯で潰れるけどね」
正明は出会って秒で女王様キャラのメッキが剥がれた女性看守と言い争って大きく溜息を吐いた。
戦っても普通に勝てる。
胸が飛び出ないように魔法でキープしているらしいが、それにしては魔力の減りが速いのだ。他に魔法を組み込んだりもしていない。彼女は普通の魔法使いだ。
それに、彼女の心拍数が異常に早い。強気でいるが目の前に現れた死神の飼い猫が恐ろしいのだろう。正明の背後には数多の囚人の死体が転がっている。さっきまでこのフロアには断末魔が響き渡り、恐怖に自殺を選ぶ者、逃げようとして罠に倒れる者、立ち向かって殺された者、それぞれの死体がその状況の凄惨さを表している。
通路の手すりから自分の衣服で首を吊る囚人もいる。そして今も
「飼い猫ぉああああ!」
隠れていた囚人が棒切れを振り上げて魔法をまといながら背後を取り、狂ったように叫ぶ。
だが、正明は少しだけ床から浮き上がり攻撃を滑るように回避すると掌に鋭い氷柱を作って囚人の首へとタッチする。
貫通属性の魔法を付与した氷柱は豆腐に包丁を差し込むように、囚人の首を貫いた。
ゴボゴボと水っぽい音の後に血が噴き出した。汚れたくない正明は囚人の身体を衝撃波で吹き飛ばす。着地の角度が悪かったのか、何かが折れる音が響いて生きている人間の気配は無くなった。
「さて、どうするかな?」
「ひっ! っ! と、通す訳がないだろ! お前みたいな犯罪者に此処を落とされたら、示しがつかない! 犯罪が増える引き金になるとなぜ解らない!」
正明は強気な女看守の言葉に一言返すと、魔法を掌に組み上げる。
「そうかな? 監獄も安全じゃないぞって言う、見せしめにもなるだろう? ここの死体も役に立つかもな」
魔法は女看守へと真っ直ぐ撃ちだされた。
彼女は涙目で防御魔法を張るが、魔法は大きな音を立てて爆散する。それにビックリした彼女は腰が抜けてしまったのかその場にへたり込んでしまう。
「な、なんで! う、動け、動け! 奴が、くる」
「目の前にな」
「ひっ、ひいい!!」
正明は彼女の顔を鷲掴みにすると左目を彼女に近づけて。
「バァン!!」
「あうっ」
固有能力の恐怖心の増幅で心のキャパシティをオーバーした彼女は気絶してしまった。
「怖いクセになんで逃げないのかなぁ? 義理や義務が、旦那さんと過ごす時間より大切なのかい?」
正明は彼女の魔力を全て吸い取ると、余分に持ってきていた瓶の中に移す。今回はセキュリティと多様性を持たせるために鎧は持ってきていないし、転送も出来ない。
だから、それ以外の武装を沢山持ってきている。それに伴い、魔力は現地調達だ。生憎、魔力の補給には全く困ることは無い。だが、この状態の軍事関係者の介入は予想外だった。
仲間達が迎撃に当たっているが、それでも勝つことは不可能だろう。
「でも、勝利条件が違う」
正明はまた一人だけで奥へとゆっくりと歩いて行った。
何にも、なければ平和だった
彼らは暴虐なら良かった
深い夜に練られた策略なら幸せだった
力なき子なら可愛い者だった
持たざる者であれば凪いでいた
愛に取り残されなければ、良かった




