第1話 突入
罠は殆どない。
あるのはカッターナイフのように小さな切り札
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とんだ災難続きだ。
いや、そもそもこの街ではいざこざや大事件はBGMの様な物だが今回のは少しだけ毛色が違う事件だって事は俺でも理解できた。軍人までゴツイ装備で身を固めていれば簡単にこの事件がヤバい事なんか解るだろうが、国の最高クラスの監獄が襲撃を許した時点で奇妙だ。
マイルドに収容施設なんて名前にしているが、此処はどう見ても監獄のそれだ。
「翔太郎、気を引き締めて行きなさい。囚人が放たれてパニックになっている可能性もあるわ」
美樹がヴァルキュリアの最終チェックをしながら俺の隣に並んだ。
空気が違う、この場には黒岳も椿もいる。この二人は何やら神妙な顔をしていたが、それもそうかもしれない。この監獄は要塞だ、そこに突入してくるなんて様々な障害を乗り越えないと不可能だ。
「おい、感じたか?」
突然黒岳が俺の肩を叩いた。
「何がだ?」
「・・・・・・解らないならいい」
その時だった。
俺の脳裏にまた飼い猫のビジョンが浮かんで来た。
「うっ!? な、なん、だ!?」
血と、首を吊った死体、恐怖に震えて土下座をして祈る人間達、そこを歩く小さな後ろ姿。
それが突然頭に飛び込んで来た!
「うわぁあああああ! はぁ、はぁ・・・・・・中は、最悪だ。地獄になってる!」
「見たのか、俺も似たものを見た。これは、お前の所の女どもは連れて行くんじゃないぞ? 足手まとい以外の何物でもなくなるからな」
「・・・・・・そうだな。一般の隊員は外を固めてもらう」
俺は近くで女子隊員たちと話していた遠山に伝言を頼もうとした。
「みんな、この中に入るのは隊長と副隊長である俺。それと猫狩り部隊に所属しているメンバーに限定する。みんなは外で待機して退路を塞いでくれ! 中は狭い、ヴァルキュリアは数機で良い。敵の退路を断つ仕事は最後の頼みの綱ともなる、最大戦力との衝突で消耗した連中にとどめをくれてやれ!」
遠山の号令に隊員達は敬礼で答えた。
「って、事だろ? 隊長」
「ああ、遠山。覚悟を決めた方が良い、中は想像以上の地獄が待っているぞ?」
「俺には解らないが、お前の盾ぐらいにはなれるぜ? それに、飼い猫ちゃんに会いたいしな! ぜってぇ可愛いだろ?」
「お前なぁ・・・・・・相手は殺人鬼だぞ?」
俺は遠山のマスクの頭をコツンと叩くと辺りを見渡す。既に警官と軍は突入の準備は万端だったが、それでも疑問が残る。
竜王の剣部隊がいない。そう疑問に思っている俺に美樹が答えを教えてくれた。
「魔理は来ていたのに、なんで由希子達は来ていないんだ?」
「竜王の剣部隊では陣形を乱す事になるわ。あの連中は室内での共同作戦には向かないわ、連中の武器はイカれた機動力と一撃必殺の剣。今回の銃が主役の作戦だと、魔理が適任って事よ」
美樹がそう言うと蒼いヴァルキュリアを装着した魔理が俺の近くに着地した。
「翔! 朝も言ったけど」
「無茶はしない、だろ? 大丈夫だ。死なない程度に、無茶するさ」
「もう・・・・・・私が見てないとね」
「あっ、魔理ちゃん! どうしたの!?」
魔理の姿を見た真紀が華音と一緒にゲートをくぐって現れた。
どうやら二人は友達だったようだな。
「真紀ちゃん! え? オーダーに!?」
「うん、今日が初任務。夜に教えようとしていたんだけど」
「ビックリしただけだよ。でも嬉しいなぁ、真紀ちゃんも同じ優等クラスだ」
「えへへ、お姉ちゃんも頑張れって言ってくれた」
真紀を見た黒岳はギロッと彼女を睨み付けていた。
「その女、何か・・・・・・変だな」
そう言うと黒岳は真紀の胸倉を掴んだ。
「おい! 黒岳!」
「何処か、飼い猫とダブって見える」
「離せって言ってんだ、彼女は奴を追っていたスキル持ちだ。アイツみたいな殺しをする人間じゃない」
俺はパニッシャーになると銃を黒岳の頭に突き付けた。
プロテクトパニッシュメントと名付けたショットガンとアサルトライフル兼用の兵器だ。ショットガンの状態にセットしてある、引き金を引けばコイツでも無事じゃ済まないだろう。
「・・・・・・お前の女か? いや、それにしてはこの女がキョトンとしているのが説明つかんな」
「離せって言ったんだぞ?」
「ふん、そうするか。お前とは敵だしな、だが、この女は」
「黒岳さん、でしたっけ? 放してください、苦しいです」
真紀が苦しそうな顔をして黒岳の手をタップしている。すると黒岳は彼女を放す。
少し咳をした彼女は怪訝な目で黒岳を見ていた。華音が彼女に寄り添って黒岳を睨み付けている。
「ふん、奴と背格好が似ていたモノでな。うっかりその首をへし折る所だった」
黒岳の言葉にも真紀は瞳から恐怖の色を見せなかった。
俺はパニッシャーを解除して通常モードのパワードスーツに戻す。長い時間稼働すると真紀の助けなしだと自爆してしまうからな。
どうやら出撃の準備は整った様だ。監獄の扉が開かれる、そこに少しずつ進軍していく突入部隊。だが、その瞬間に目の前に広がったのは異様な光景だった。
「いつの時代だ?」
大型の円形盾に槍を構える重装歩兵による密集陣形。
数は詳しくは解らないが、百以上は確実にいる数だ。
何かで聞いた事があるな・・・・・・確か、ファランクスと言う名前の陣形だ。
「なに? どういうつもり? こんな陣形、大火力の魔法が発明されたことで廃れた戦法じゃない」
美樹がそう言ってライフルに魔力を集中して構える。
その前に椿が強大な風を吹き荒らし、竜巻を作って陣形へと放り投げた。これ、この刑務所を横断したら壊しちまうんじゃないか!?
「やり過ぎだ猫狩り部隊! 中には生存者もいるんだぞ!」
「某には関係の無い事よ、あの輩に剣を抜くのもおっくうだ。これで全滅せしめてくれよう」
そう言う椿を他所に敵陣営は盾を長方形の物へと変化させて地面にアンカーの様に突き刺した。そこから姿勢を低くして竜巻を正面から迎え入れた。すると、竜巻は盾に運ばれる様に軌道を逸らしていく。その流れを作るように前の列が動き、竜巻を海の方角へと押し出してしまった。そして、列を変わるように後ろにいた連中が陣形を作り直した。
マジかよ、あの盾は普通の盾じゃないぞ?
「なに!? バカな!」
驚く椿をシカトして黒岳がバカデカい雷を上空から落としたが落雷地点の連中が笠の様に盾を構えてその連なった盾をみんなで回す様に動くと雷は霧散してしまった。そして、元の陣形へと五秒以内に戻っている。
「・・・・・・成程、着いて来い」
黒岳はボソッとそう言うと腰のスタンロッドを引き抜き、パワードスーツをまとうと前へと飛び出した。
「なっ! どうした!」
「連中には遠距離の魔法は無効化されるか大きくカットされる。ここで魔力を余分に使わせるつもりだ、敵は使い魔! 容赦するな、懐に飛び込んで殴り倒すのが最善だ!」
「くそ、そういう事か! みんな、行こう!」
俺はナイトになって先陣を走る。その横に着いた黒岳は腰のワイヤーを真正面の敵に打つとワイヤーを撒き戻して一人を引き寄せると、甲冑の隙間から電流を流して早速一人を撃破する。そこからワイヤーを複数の鎧に巻き付けるといっぺんに電流で複数人を沈めた。
俺も盾を展開して敵の盾を弾くと剣で相手の鎧を切り裂くと、その勢いでランスを構えて魔力を噴射しながら敵を次々と吹き飛ばすていく。
「某の武器はやはり、この刀のみか!」
椿は疾風の如く次々と鎧を果物の様に切り刻んでいく。
「す、すげぇ・・・・・・あの三人、警察隊どころか軍の俺達すら置いて行きやがる」
軍人の一人が必死に鎧と戦いながらそう呟いている。
だが、俺の師匠や相棒も殆ど一撃で敵を撃破しているぞ?
「陣形を崩せ! 止まったら殺されるぞ!」
そうこうしている内に、鎧の数は減ったが警察にも軍にも被害が出ていた。それでも、先に行くしかない。
悪魔の巣窟が口を開けていたようにも感じた。
遊びに混ざる子この指とまれ
隠れ、追いかけ、私はここよ?
奥に歩けば猫がおるのか?
いえいえ彼女は気紛れよ?
でも彼女は甘いから、誘えば来るかも
子猫は逃がす罪なき者を、甘いと自分を嗤いながら




