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白い飼い猫とナイト&パニッシャー! 3

一難去ってまた一興。


 俺の一撃はいとも簡単に霧散した。

 サァッと言う感じで俺の魔力の奔流は空間に散って、その先にあの存在が立っていた。左手をかざして一言発さずに、冷たい空気を周囲にばら撒きながら、情けなく腰を抜かす教祖を見下していた。


「魔力の収束力は大したものだが、まだまだ荒いよ? まぁ、この男を死なせない様にだろうけど」


 なんで、なんで死神の飼い猫が来るんだ!?


「飼い猫さま! おぉ! 遂に、遂に私の眼前に!」

「さて、紫の瞳をした男は何処かな?」

「それって、サイサリスが言っていたスカビオーサの事か?」


 俺がそう言うと、飼い猫は首を傾げる。


「スカビオーサ? スカビオサ、不幸な恋・・・・・・ふふっ、皮肉な名前だ。アイツのコードネームにはお似合いだね。」


 飼い猫の言葉に被せるように転移魔法のゲートが開き、その中からスカビオーサと百合が姿を現した。二人共妙な魔具で武装している。そして、百合の瞳は紫の色に染まっていた。

 百合の顔はもう、方向音痴であわてんぼな面影はない。


「随分な名前だが、貰うとしよう。お似合いだとは思っていた」

「来たな? 優、いや、スカビオーサ。サイサリスは元気か? 此処の信者も、この教祖の武器も全部アイツの御膳立てだろ?」


 不気味だ。

 新装備も手に入れた。今の自分が本気で戦えばこの連中にも勝てるような自信がある。だが、なぜだ? この連中に攻撃が当たるイメージが湧かない。

 飼い猫は足元で跪く教祖の頭に手を優しく乗せる。


「その、百合の力は・・・・・・あのお方の物じゃない。お前の固有能力によるものだ」


 恍惚の表情をする教祖を犬の様に撫でながら飼い猫は淡々と言うと、突然召喚した拳銃でスカビオーサの顔面と百合の心臓を撃ち抜いた。


「おい! 百合!!」


 俺は彼女に駆け寄ろうとしたが、彼女は動じていない。

 それどころか、意にも介していない様だった。どう言う事だ? 彼女は、それにスカビオーサも顔面を撃たれたのに倒れないしかも顔の傷が高速で治って行く。


「その力を固有能力と勘違いした俺もバカだったよ。本当の力は同じ存在の生産だ、違うか?」


 飼い猫の静かだが自身に満ち溢れた言葉に、スカビオーサは苦い顔を一瞬だけするとにやっと顔を歪めると叫ぶ。


「貴様は、何処まで天才なんだ! あの夜もそうだ! なんだ! 俺の考えも、力も、統率も、思惑すらも超えて来る! 俺はあの時まで順調な人生を送っていたんだ! お前さえいなければ、俺はいまでも由希子と一緒にいた!」

「そうだな」


 飼い猫はそっけなくそう言った後に。


「俺の仮説だったんだが、図星の様だ。俺に対して怒りを覚えてくれていてありがとう、その媒介がどうだかは知らんが・・・・・・人体実験は容易になったな。兎、やれ」


 その瞬間に、百合が突然現れた境界の人狼に蹴り飛ばされた。飼い猫が魔法でスカビオーサの身体を縛るが一瞬で破壊されてしまう。

 その一瞬で魔医学の兎がデカい注射器を奴の心臓辺りに突き刺して血を奪い取ってしまった。


「がぁあああ!!! な、なにを!?」

「お前の主が行ったのは間違う事も無い、人外化施術。その為には人外化した者の意思がないと発動しない、恐らくそいつは人外化した人物、そして、人外化施術の目撃者。杜撰な真似事でも良くお前を作ったものだ。だが、俺は人外化施術のもう一つの鍵だお前の遺伝子を媒介にして、固有能力を再現する事は俺には造作もないんだよ」


 飼い猫の左目が輝くと奴から取り出した血を受け取り、それが蒼い液体に変質してから紫に変色する。


「教祖、俺の為に人間を辞めてくれ」

「は、はい。仰せのままに」

「よし、いい子だ」

「やめろ!!」


 俺が肩のキャノンで飼い猫を撃つが、人狼の蹴りで砲身ごとずらされた。

 注射器の液体は教祖の首筋から流し込まれ、教祖は大声で叫び声をあげて床をのた打ち回る。


「貴様ぁ! あの方の御業を、真似事と言うか!」


 スカビオーサの叫びも飼い猫は無視して教祖を魔法で無理矢理立たせるとその眼を確認した。俺からも見えた。奴の眼は紫の瞳へと変貌していた。さっきも見た、不死身の力をあの教祖は得てしまったんだ。


「お、おぉ!!! 飼い猫さま! 私は、貴方の、貴方様方の! そこの席に就かせていただけるのですか!」


 教祖は喜びの表情をしていた。まるで子供の様だったが、飼い猫はその言葉に優しい声色で笑かける。

 そして、左手で奴の顔を触った。俺はその意味が一瞬で理解できた。


「おい! 逃げろ!」


 俺の言葉が届く前に教祖は苦しみに膝を付いた。


「うっがぁ!? ああああああああぁ!? がいねご、さま!」

「普通の即死魔法よりも弱くかけた。それでも効果はあるな、仮説は立証されて実験は成功だ」


 教祖は身体が少しづつ崩れ始めていた。

 目を背けたくなる光景だ。こんなのは、人間の死に方じゃない。


「飼い猫さまぁああ! わだじは! あなださまに忠誠を!」

「都合のいいモルモットがいてよかった。じゃーね、ネズミ野郎」


 飼い猫はナイフを首に突き刺してとどめを刺した。だが、そいつは再生する。声だけ出せないようになって、もがきながら床に沈んだ。飼い猫は邪魔だと言わんばかりに衝撃波をまとった蹴りを教祖に放って、ぬいぐるみをどかす様に奴を吹っ飛ばしてしまった。

 コイツ、やっぱり正気じゃねぇ!

 人間の殺し方のなかでもこれは残酷すぎる!


「飼い猫ぉ!! 貴様ぁ!」

「熱くなるな、お前。そのスーツ脱げ、爆発するぞ」

「なに!?」

(翔太郎! スーツを解除しろ! 魔力がコントロール仕切れない、解除したら魔力がお前に逆流して暴発を引き起こすぞ!)

「なんだって! おい、設計は出来たんじゃないのか!?」

(こればかりはお前の技量だ! どうもならない、魔力を何処かへ逃がせ!)


 焦る俺をよそに、百合とスカビオサは飼い猫に憎悪の眼を向けてゲートに退避して行った。

 そして、俺のスーツが最悪な状況も検知した。美樹と遠山が応急処置をしてくれていた双葉のバイタルが低下している。


「クソッ! 最悪だ、こんな過剰な魔力なんか! 欲しくなんかなかったんだ!」

「兎、双葉は救えそうか?」

「ハッキリ、言う。彼女は、助からない。ここに、万全の装置があったとしても、彼女は、ほんの少しのショックでも、死ぬ」


 飼い猫の仮面が少し笑っている様な気がした。その時だった天井の穴から一人の人影が降りて来た。

 その姿は白い死神の飼い猫だった。


「なっ!? 飼い猫が、もう1人!?」


 驚愕する俺をよそに、飼い猫が静かにその存在に語り掛けた。


「・・・・・・こうなるとは、感じていたよ」

「ごめんなさい・・・・・・私は無情になんかなれない」

「・・・・・・そうだな。なら、仕方ない」


 飼い猫はナイフを取り出すとそれを投げ付ける。

 白い彼女はそれをかわすと機敏な動きで飼い猫に迫って行った。飼い猫は服を掴まれると鮮やかな背負い投げで床に投げられるが、するりと床を抜けた飼い猫は白い彼女の背後に回って氷の矢を無数に召喚して撃ちだす。

 白い彼女は右手を振ると紅い火柱がその矢を全て溶かしてしまう。

 だがその直後にその炎が変質して彼女を飲み込んだ。飼い猫が左手を前に出しているが、それが原因なのだろうか? だが、彼女はその炎の中から水の球体で自信を守りながら飛び出して来た。

 凄い、何て繊細かつ大胆な魔法戦だ。


「俺は真逆の力だけで、渡り合えるような甘い敵じゃないぞ?」


 飼い猫はそう言うと、すぐさま霧の中へと人狼と兎を連れて逃げて行った。どう言う事だ? 真逆の力ってどういうことだ?


「その子を見せて下さい!」


 白い彼女は双葉に駆け寄る。

 

「ちょっと! 何者かもわからない奴に」

「黙ってください! そんな事で人を殺す気ですか! 退きなさい!」


 白い彼女は美樹を突き飛ばすと、双葉の顔に両手を添える。

 

「かい、ねこさま?」

「大丈夫、ゆっくり息をして・・・・・・何が来ても受け入れるようとして」


 すると、白い彼女は双葉に白い光を浴びせる。

 両手から放たれた優しい光は彼女の身体を包むと、彼女の傷をみるみるうちに塞いでしまう以上に彼女の表情を生き生きとしたものに変えていく。


「え? え? な、なんですか! この魔法!?」


 双葉はすっかり回復して飛び上がった。

 

「・・・・・・双葉? 何ともないの?」


 美樹の問いに双葉はパワードスーツを解除してシャツをまくり上げて綺麗になったお腹を見せて来た。傷が消滅しているどころか、術式すら消えている。

 それどころか、双葉が一番元気に見える。


「翔太郎君、ゆっくりそのスーツを解除して」

「なに?」

「大丈夫、信じて。私が何とかする」


 俺は膨大な魔力が渦巻いて暴走状態にあるスーツを解除するのを躊躇った。そうだ、いくら彼女でもこの奔流を止められるか。


「やめろ! 死ぬぞ!」

「大丈夫だよ、誰も傷ついたりしない。私に任せて」


 優しい声と右目の蒼い光に俺は伸ばされた彼女の手を取る。


「ありがとう、翔太郎君。解除して」


 俺は大きな安心感を覚えていた。そして、少し考えてから。


「信じるぞ」


 そう言ってゆっくりとスーツを解除する。その時に莫大な魔力が俺の中へと帰って来る感覚がした。


「ぐっお!」

「大丈夫、力を抜いて」


 彼女が触れている俺の手から何かの力を送り込むと、残っていたパワードスーツの背部の放熱機構から紅い光の粒子が翼のように噴き出して空間へと散って行った。

 そして、俺の身体から今の魔力が駆け巡った時の痛みが嘘のように消える。それどころか何故かとても活力に満ちていた。


「こ、これは・・・・・・どういうことだ? それに、この魔法! まさか!」


 黙って消えようとするその白い飼い猫の手を掴むと俺は彼女を引き寄せる。


「きゃっ!?」

「お前、真紀なのか!?」

「・・・・・・違う」

「正明は、知っているのか!? この事を!」

「違う、知らないよ」

「大丈夫だ、俺は見方だ」


 そう言うが、彼女は俺の手を振り払ってバランスを崩してその場に転んでしまった。そして、顔の仮面が外れてしまった。

 その顔は俺が良く知る伊達姉妹の妹、真紀だった。


「あっ! み、見ないで」

「真紀・・・・・・ありがとう。君がいなかったら、俺も双葉も危なかった」


 今にも泣きそうな真紀を抱きしめて俺は静かにそう呟いていた。

 腕の中で振るえる彼女がどんな秘密を抱えているかは俺は知らない、だが、支えにはなれるはずだ。俺も君と同じ様に、凄まじい力を手にしてしまったんだから。



「お兄ちゃん・・・・・・私」


 翔太郎が上に報告するのを遅らせると言ってくれた真紀はその日は普通に帰された。

 WELT・SO・HEILENに帰った真紀は一言も発さない兄にビクビクして慎重に言葉を紡いでいた。メイド長と執事長が遠巻きに心配そうに見ているが、仲間達は厳しい顔つきで部屋のソファやイスに座っている。

 この光景は真紀にとってはかなり恐ろしいだろう。


「見ていられなくて、双葉ちゃんも死んじゃったら」

「あの場でのお前の行動は否定されるもじゃない」


 正明は真紀の言葉を遮るようにそう言うと振り返って真紀を正面か見た。その眼差しは明らかに怒っている顔だ。さらに彼は言葉を続ける。


「力は使うなと言ったはずだ。それでも、お前は使ったんだ・・・・・・その意味を理解しているのか? よりにもよって、翔太郎に見せてしまっている。いや、そもそも遠山もあの場にいた。これは、大変な事になる可能性が高い」

「ごめんなさい! どうしても」

「謝る必要はない。真紀、質問するぞ?」


 正明はゆっくりと真紀に歩み寄って行く。

 自分と同じ顔の、最愛の身内がまるで恐怖の塊に見える。殴るなどの暴力は振るわないが、本当に恐ろしい巨大な影にも見えた。

 

「生き抜く覚悟はあるか?」

「え?」

「死なずに最後まで生き抜く覚悟は!? 死んでもいいなんて甘ったれた事を言うんじゃないだろうな!!」


 小さい身体から出るとは思えない声量の怒りの叫びに、真紀は身体をビクッと動かす。


「嘘は付けないぞ? 真紀、俺の眼を見て言え! 覚悟を決めて力を見せたんだろうな!? これからお前は普通には生きていけなくなる! それでも、最後まで生きる覚悟を決めて力を使ったのか!?」

「・・・・・・・・・・・・」


 真紀は言葉に詰まってしまった。

 すると正明は真紀の胸倉を掴んで再び叫んだ。


「答えろ!!!! 真紀!!!!」

「ひぃ!」

「正明様! どうか、どうかお時間を! 真紀様にお時間を!」


 その時に執事長が正明と真紀を引き離す。

 メイド長は真紀の肩を抱いて落ち着かせようとしている。


「邪魔をするな! 大切なんだ! 蘇生魔法はそこいらの魔法とは訳が違うんだぞ!!!」

「真紀様も考え無しに力をお使いになる様な愚か者ではありません!! 正明様が一番ご理解が深いと存じます! しかし、人間は落ち着いていない状態では正常な答えは言えません! ご自分の姿をお考え下さい、妹君を脅す様に叱りつける貴方ではないはずです!」

「脅しているんだ! 下手をすれば、殺されるんだぞ! アイツは周りも時には俺ですら騙さないと生きてはいけない! 殺しだってしないといけないかもしれない! 何度も言って来た、それなのに真紀は俺達のいる次元にまで足を突っ込んだんだぞ!!!」


 執事長に正明は掴みかかる。

 その顔には大粒の涙を流していた。


「そうです。執事長、真紀さんは私達の次元に来ました」

「正明の演技で戦おうっていう意思も自分で汲み取って、戦っていたし・・・・・・一人でも十分な戦力にはなったよ。でも、それは蘇生魔法を隠すための訓練だったのに」


 志雄と加々美は後ろから一言だけそう言う。

 言葉には確かに重みがあった。


「お兄ちゃん・・・・・・私」


 メイド長の腕の中から真紀が小さいが、呟く。

 しっかりと正明を見つめ返し、彼に敗けない程の迫力を発しながら彼女は叫んだ。


「私は生きるよ! 何があっても、何をしても、どんな事をしても!! 死んだりしない、死ぬつもりで動いたりしない!!! お兄ちゃんにもみんなにも、誰にも負けないぐらい強くなって私は最後までこの力と一緒に生きる!!!!」


 真紀も負けない程の声でそう叫ぶ。

 正明はその答えに大きく息を吸うと、ニッと笑う。


「良く、覚悟を決めた。真紀、今日からお前もWELT・SO・HEILENの船長の一人だ」


 真紀の懐にしまってあったパワードスーツが収納されている魔具を正明は蒼い炎で飲み込んで破壊した。


「補助輪はもういらない。お前は俺と同列になって、自由になった。自由に生きろ、ただ、自由に死ぬな。これはお前の責任だ・・・・・・生きるんだ」

「お兄ちゃん。私、オーダーに入れられる事になりそうなの」

「お前の自由だ。蹴っても良い、入っても良い、お前はそれだけの力がある」

「私、オーダーに入る! お兄ちゃん達は、私の事は気にしないで! オーダーを盾にして私は自分の身を守るから」


 その言葉に正明は思わず噴き出した。

 それは仲間達も同じだった。みんな、さっきまでの雰囲気なんかかき消す程に爆笑していた。執事長もメイド長も口元を抑えている。


「え、え? ど、どうしたの?」


 戸惑う真紀だが、宗次郎がその答えを言ってくれた。


「この悪女め、正明みたいなことを考えやがる! 大丈夫だ、俺達並みに図太いぜ!」

「真紀、その案は採用だ。連中は奇しくもお前を欲しがっている、翔太郎に頼め。私は国に支配されたくない、一緒に戦うからかばって欲しいってな。そうすれば彼はきっと守ってくれる」

「解った! それに、彼は危なっかしいから私が守るよ! 必要な人なんだよね?」

「真紀、アイツの事を援護しろって言ったけど。そうだね、真紀その時まで彼を守って」


 正明はそれだけ呟くとソファに腰掛けた。

 真紀は正明の側に行くと、ギュっと抱きしめた。


「お兄ちゃん怖かった」

「うん、そうだね」

「仲直りしよう?」

「はい」


 正明はそう言うと彼女のおでこにキスをした。そして、真紀も彼のおでこにキスを返した。

 その様子を見て執事長とメイド長は目頭を押さえていた。

 勿論、正明は完全には落ち着いてはいない。だが、翔太郎と共にいれば彼女はある意味では安全だ。それまでに正明が目的を達成すればいいだけの話だ。

 そのカウントダウンは刻一刻と迫っているように正明は感じていた。

白い影が生まれた

悪を知らずに悪を真似る

隠しきれない善の心

兄の不安と恐怖は未来を見る

理解者を得た少年よ


彼女を観よ、その奥に映る貴様の恐怖に刮目しろ

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