蒼の魔剣と深紅の子供達よ 3
スカビオサ
不幸な愛情
3
ラボと言っても二つある。桜子の指揮っているオーダーのラボと、御堂のラボだ。俺は真っ先に桜子の居るところへと走っていた。彼女は戦闘の分野では魔具に深く依存する魔法使いだ。強襲されたとなれば、最悪だ! 体術も魔法もバランス良くこなす戦闘員の中では上位レベルの強さを誇る双葉すら重傷を負った相手だぞ!
俺はラボの扉を体当たりで破壊して転がりながらパワードスーツを装着して拳を構える。
そこには、目を丸くして固まる桜子の姿があった。
「・・・・・・えっと、私なにか悪い事しました?」
「桜子! 大丈夫か!? 怪我は!?」
「え? 作業は順調ですよ? 怪我なら心配しないで良いですよ、1人じゃないし」
よく周りを見渡すと、他の連中も俺を注目している。本当に何も異変は無い様だ。どういう事だ!? ラボの情報は此処の事じゃ無い?
クソ! 御堂は多分かなりの実力者だから死ぬことは無いだろうが、奴は俺の装備を作る材料探しで今は学園にいないはずだ。
と言う事は! 百合か!
「桜子! 美樹に連絡してオーダーを大学エリアへ集めろ! 竜王の剣部隊にも知らせるんだ!」
「え!? ど、どういう」
「確証はないが、これが本当ならかなりヤバい!」
俺は手首の魔具を発動させるが、やはり繋げない。桜子も試しているようだが、発動しないからだろうな。困惑した声をあげている。
「転移は自由だ! 速く! 俺が向かって原因を探る!」
「わ、わかりました」
俺は転移魔法で御堂のラボの前に出て、扉を殴り飛ばす。
鉄がひしゃげる音に、何かの機材が壊れる音が辺りに響くが、人の声は聴こえない。だが、嫌な予感がした。どす黒い気分になる最悪な予感だ。
「っち、速いねご子息。情報収集は他人にやってもらわないとキツいか? ったく、何なんだあの猫みたいな女」
「お、お前は! サイサリス!」
俺は魔法陣を掌に出して魔力の矢をぶっ放したい顔にマスクの裏で舌打ちをした。
サイサリス、以前にオーダーを半壊させた兄弟達の一人。他人の心を自由に操ることが出来るスキルを持つ危険すぎる魔法使いだ。
コイツがカルトの一人!?
「よう、飛んできたって所か? こっちはようやっと目を付けていた奴の仕込みが出来てな、少し甘いが。いやぁ、良い女だよコイツは」
「なに? まさか!」
サイサリスは身体を少しずらして背後を見せる。そこには光の無い目で、ボーっとしている百合の姿があった。
「き、貴様ぁ!!! 百合を元に戻せぇ!!!」
「おや? コイツだけでいいの? 以前の男子隊員達は? まさか、お忘れか?」
「うるさい! 今は彼女が第一だ!」
俺は拳に力を込めてサイサリスに突き出す。奴は手元の銃を撃つがそれよりも早く俺の拳が奴を吹き飛ばした。
様々な機材を吹き飛ばしながらサイサリスは壁に衝突する。
「百合! 逃げるぞ!」
俺は彼女の手を掴むが、代わりに飛んで来たのは魔力弾だった。
咄嗟の防御魔法で防いだが、俺はその魔力弾の先にいる人物に唖然とした。
「何しているんだ? 百合!」
彼女は俺の手を振りほどいて更に魔力弾を打ち込んで来る。更に魔力の濃度を上げた攻撃だ、俺の防御力を突破する程ではないが、ヴァルキュリアやそこいらのパワードスーツなら砕け散る程の威力だぞ!?
俺の驚きをよそに、百合はさっきとは打って変わった表情で俺を睨み付けて言葉を発する。
「お前の指図は受けない。お前達の正義なんか、所詮は綺麗事を正当化しようともしない矛盾だらけの戯言だ」
「百合? どういう事だ!?」
「お前は、部下だった男達を見捨てた。そして、思い出しもしない! ワスレを思えているか! 男子隊員のリーダー格だった男だ!」
「ワスレ? あぁ、覚えている!」
「嘘を吐くな! 彼がどうなっているのかお前は知らないだろ! ベッドから窓の外を指差して笑う事しか出来ない彼を、お前は見た事も無いクセに!」
百合の顔には激し過ぎる怒りと失望の色が、素人の俺でも見て取れる。
「他の隊員達もそうだ。家族がどういう気持ちで・・・・・・お前の先走った中途半端な正義感の所為で奴らは物になり下がった!」
百合は近くの銃を手に取ると俺に銃口を向ける。
その銃は貫通術式を込めたライフルじゃないか!? ヤバい、俺の装甲でも手甲以外に当たれば撃ち抜かれるかもしれない!
俺は後ろに下がりながら防御魔法を張って彼女が放った弾丸を防いだ。
「クソッ! 魔力で無理矢理固めているな!」
「落ち着けお嬢さん。あの時はすまなかったな、だが、俺も信念があってやったことだ。アイツの様に善意を笠に着て、他人の幸せを砕くような真似はしないさ」
サイサリスは彼女の肩に両手をおいてそう呟くと、俺を見てニタァっと下卑た笑みを浮かべる。
「百合! 目を覚ませ! 人を助けるパワードスーツを作るんだろ!? お前の魔具はそんな連中の為に使われて良い訳ない!」
「黙れよ、偽善者。周りに女を囲えて良かったな、私はお前の餌にはならないよ? いつか、殺してやるよ・・・・・・それまで、せいぜい遊びほうけてな!」
な、何の事だ!? 身に覚えの無い事で彼女は俺を嫌悪している。サイサリスに何かを吹き込まれたのか?
「サイサリス! 何を吹き込んだ!」
「ん? 何も? 俺はスカウトしに来ただけ。あっ、後は通信妨害とバカな狂信者共をご招待しただけだ。彼女は彼女の意思でこうしているんだよ?」
「ふざけるなぁ! お前のスキルは知っているんだ!」
「紫のがうるせーんだ。そうだな、奴のペンネームでもなけりゃ面倒だ。スカビオサって名前はどうだ? 語呂が悪いから、スカビオーサって呼ぶか。不幸な愛情って花言葉がある、アイツの事を知ればお似合いだな」
「下らない花言葉の講義はいらねぇよ! 百合の洗脳を解け!」
「嫌だ。じゃーな! 色男!」
奴はそう叫ぶと、転移魔法で百合と一緒に消えた。
「それを追えないと思ったか!」
だが、置き土産に銀の爆弾を奴は投げて行きやがった。
「っく! 馬鹿め、それだと何処に行ったか見えるんだぜ!」
俺は転移で奴を追うが、出たのは噴水庭園だった。
「なっ!? こっちに逃げるはずない! 狂わされたのか!? 探知魔法!」
探知魔法で学園全体を探るが、何処にも反応はない。
どうやら、銀の爆弾は転移魔法での追尾を狂わせる事も出来る様だな。転移魔法殺しな魔道具だ。
「くそっ! 百合・・・・・・最悪だ」
俺は噴水の縁に腰掛けて頭を抱えていた。
その時だった、劣等クラスの校舎からの視線に顔を上げるとそこには小柄な女の子が俺を見降ろしていた。
正明か? でも、それにしては落ち着くような。
そう思っていたら彼女はニコッと笑って手を振ってくれた。
「真紀?」
手を振る彼女にマスクのカメラをズームすると、彼女の右目は蒼い光を放っていた。俺はマスクを解除して彼女に手を振り返していた。
まるで世界が違うようだな。正明やその仲間達の様な例外はいるが、此処はまるで、いや、彼女を見ていると別の世界の様に平和に感じる。
*
「サイサリスが、百合をさらった。いや、落としたって感じかな?」
正明はそう言うと頭を抱えた。授業は終わった後に、正確には生徒がさらわれたと大騒ぎになった優等クラスの煽りを受けて授業が持ち越されたのだ。生徒がラッキーと笑いながら帰宅する中で正明達は転移魔法で隠れ家の1つであるBARでのんびりしていた。
だが、のんびりもしていられない様だった。
「優が、絡んでいるな。これって何のための茶番だ? しかも、タイムリーだな。御堂から物質のお買い物したいってメールの嵐だよ」
宗次郎が呆れた様にデバイスのメール画面を仲間に見えるように拡大して空中に放つ。
それを見た京子が眉をひそめた。
「アダマンタイトとヒヒイロカネの合金素材? バカなのかな? 何を作る気なのかな? 小型魔道炉でも作ろうとしているの?」
「いや、これの使い道を普通にするわけがないね。それに、この発注の量から見て作るのはそれよりも小型のモノ・・・・・・あ~、ハイハイハイ。オッケー」
八雲は1人で納得すると手元のスナック菓子を1つ口に放り込んだ。
それに続いて志雄がふふっと笑う。宗次郎はニヤニヤとしており、アイリスは鼻で笑うと板チョコをかじっている。加々美は散々考えて突然爆笑した。
「あはははははは! く、狂っているよコイツ! あはははははは!」
「もう! みんなどうしたの!?」
「解らないか? 京子」
京子の頭を優しく撫でる巧はニッと笑う。
「巧ちゃんは解るの?」
「全くわからん!」
「だと思ったよ!」
憤慨する京子に正明は答えを言う。
「三神翔太郎専用対魔法戦特化型近接戦戦力増強多機能型高出力魔力ブレードって所? それぐらいしか浮かばない」
バカ長い名前だがこれは正明がその場で思いついたこの材料で生まれるであろう兵器の要素を名前として答えただけだ。その他にも様々な材料やら何やらが注文されている所から、剣以外にも何かしらを作り出すつもりらしい。
何やらバカっぽい雰囲気が出ている。ロマンの塊でも作るつもりだろうか?
「んー? どうやら、剣以外にもパワードスーツを何機か作るつもりらしいですね」
志雄の言葉に正明は正面からそれを否定する。
「違う。奴はそんな事を個人に当てはめやしない。わざわざ着替えるのか? それに、手甲は形を変えらるが外せないぞ?」
「ならこの物資は何のために!?」
「さぁ? 考えて見たらどうだ? 面白いね、サービスしたいが・・・・・・これでフェーズ3の完了となる。俺達も、集団でかからないと難しくなるぞ?」
そう言って正明は空中に悪い顔をして何やら妙な形のカバーの様な魔具を浮かべてそれを腕につける。
すると、それは蒼い光の線をまるで剣の様に前腕から前方へと突き出した。
「魔力を高出力で照射する魔具だ。俺は小瓶から一々魔力を送らないと発動できないが、普通の魔法使いなら意識を向ければ誰でも使える。でも、ネックなのが燃費が悪い。常人なら3分で魔力切れだ」
「ゴミだな」
「そうだな、宗次郎の言う通りゴミだ。でも、アイツが使うとどうだろうな? 無限の魔力を作り出すあの男なら、無二の相棒となるんじゃないか?」
正明はそう言うと御堂の注文の品全てと、その魔具を送り付けてしまった。
「強くなれ、そして、いつかの日に・・・・・・英雄となれ。今! 勇者が剣を引き抜く時だ!」
正明は叫ぶと魔法陣を一斉に展開すると、街外れにある刑務所のリアルタイムの映像を出す。
「負けていられないだろ!? 手始めに、この国の治安維持組織の弱みでも握らせてもらうとするか!」
そう叫んだのは宗次郎だった。
正明は途端に切なそうな顔で彼を見るが、仲間達はその言葉で拳を振り上げている。
「え・・・・・・僕のセリフ」
盛り上がる仲間達を見ながら正明はため息を吐くと、1人の男を指差した。
「コイツは・・・・・・」
一抜けた
今度は向こうで遊びましょ
子供たちの声
簡単な真理は子供の中にあり
小難しい者よ
人は人を作るが、神にはなれない




