表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/289

動く信仰と眠る猫 3

続きです!


「はぁ・・・・・・少し感情的になったよ」

「正明、落ち着いた?」

「うん、君は? 大丈夫? 出血のルーンだから回復は」


 正明がそう言うとアイリスからメスが投げ付けられた。メスは正明の顔の擦れ擦れを飛んで壁に突き刺さる。


「私の、治療。そこいらの、下手な医者とは、違う」

「そ、そうだね。WELT・SO・HEILENの医療技術を体得するのは普通じゃできない。僕が何度やっても体得は出来なかった分野だしね」


 アイリスは無表情で小ぶりな胸を張っている。

 その診察室には仲間達が集結していた。もちろん華音や真紀もいるこうして見るとかなり大勢いる事を正明は再認識する。全員が一騎当千の才能と情熱を持った人々だ。今の世界がこの場にいる全員の才能と努力を利用したり、黙認したり、踏みにじった意味は言わずもがな恐怖からだ。

 だが、その中でも正明は人一倍冷静でいる事に努めなければならない。

 形だけとはいえ、代表格でありこのバカ騒ぎの主催者であり、全ての元凶でもあるからだ。


「正明、珍しいね。直ぐに興奮が収まるなんて、はっ! 華音ちゃんとしっぽり」

「黙りなさい、スケベ狼!」

「ぶふっ! 志雄ちゃん、顔を掴むのは勘弁して!」

「しかし、珍しいな。正明が直ぐに落ち着くなんて」


 騒ぐ志雄と加々美を尻目に宗次郎がコーラの栓を抜こうと悪戦苦闘しながらそう呟く。わざわざ瓶のコーラを飲もうとしている彼に栓抜きを放った京子が華音にひっついてもう一言付け加える。


「こんなに華音ちゃんを怪我させた相手なのにね」


 正明はため息を吐くと施術台に座ってデバイスを開く。

 空間に映し出されたそこには、カルト集団のシンボルマークに加えて構成員の人数などの情報が記されていた。


「にわか集団だ。僕の顔を見てもわかってなかったからね、で、今は猫狩り部隊を標的に動いている。華音がこんな目に遭わされたから勿論けじめはつけてもらうよ? だけどここで怒りに任せて暴れたら、華音がもっと大変な目に会う」

「そうか? そうでもないだろう? 彼女はお前を追う立場だ」

「そうじゃないよ、巧。ねぇ、華音。僕を撃てる?」

「う、撃てないよ」


 華音はそう言うと正明から銃を隠した。その反応で仲間が頭を抱えた。そうだ、華音は一年前の卒業ライブで正明や仲間達の護衛を受けてライブを完遂し、オーダーはWELT・SO・HEILENの援護によってギルドを検挙するに至った。関係を指摘されれば、攻撃を最低限の証拠としてメンバーに見せつけなければならない。


「既に魔理、双葉、華音は死神の飼い猫が気に入った人間として認知されている。もし、本格的に交友関係があると勘付かれれば今の警察なら人質にするかもしれないって訳か」

「あー、成程。それは避けたいね」


 巧の回答に八雲が感心したような声を上げる。

 そして、正明はもう一言。


「それに、この件はオーダーと猫狩り部隊に任せようと思う。僕達は裏から助けよう。勿論、教祖は僕が殺すけどね。奴は確実に人を殺してるからさ」

「それは良いけど、私はどうすればいいの?」


 華音は甘えている京子を撫でながら正明に真剣な目を向ける。


「カルト集団を三神達と追い詰めて欲しい。危険な目に会うと思うけど、僕は表立って君を守れない。ごめん」

「そうじゃない。正明が、暴走したら誰が止めるの?」

「大丈夫だよ、落ち着いているし仲間達もいるから」

「さっきの正明、凄く怖かった・・・・・・ね、約束して? 昔みたいにならないで、そっちに行ったら正明はもう帰ってこれないよ!」

「・・・・・・さっきは怖がらせたね。信用して、大丈夫・・・・・・君と真紀が無事でいてくれれば、僕は壊れたりしないから」


 正明は華音にそう言うが、真紀は正明の手を握る。

 最近の正明は少し不安定になっている。 

 真紀の事も、華音が襲われた事で一番気が動転しているのは間違いなく彼だ。正直に言えば正明は泣き叫びながらベッドに潜り込んでいたいと考えている。自分を勝手に崇めたてた変態集団が暴れ回って、それを見ていた組織がプロパガンダとして正明に罪を擦り付けて大量虐殺。おまけにはその変態集団が自分の為だと言って好きな女の子に大怪我させたのだ。

 華音が激情すると凶暴になる性格じゃないと正明の到着以前に殺されていた可能性がある。


「嘘つきだねお兄ちゃん。震えているよ? 妹だもん、解るよ・・・・・・怖いんでしょ?」


 真紀の言葉に、正明は黙って子猫に変身して逃れようとするが真紀はそんな兄を魔法で捕まえると華音へと放り込んだ。


「甘えたいなら甘えればいいのに! お兄ちゃんのようやってため込むの悪い癖だよ!?」


 真紀の怒った姿に仲間達は一斉に笑い始めた。


「ははははははは! 正明、貴方の妹はもう守られる立場ではなくなってきてますよ?」

「そうそう! 強いね、正明も見習わないとさ!」


 志雄は満足そうに真紀の頭を撫でる。その光景は姉と妹の様だ。その後ろから真紀に抱き着く加々美はほっぺをぐりぐりしている。


「ったく、俺達に任せたいことがあるなら任せればいいんだ。心配させるな! 何とかするのは得意分野だ」

「そうだな、オレもいくらでも手を貸す。スキルも十秒程なら影響なく使える様になっている、オレも戦うぞ」

「あっ、巧ちゃん。酒じゃないよね、飲んでるの」

「瓶に入ったブドウジュースだがら大丈夫だ」


 デカい瓶から豪快にジュースを飲む巧はマジでワインを飲んでいる様でならない。宗次郎がツッコムのはそうだが、彼女はニコチンもアルコールも摂取してない。だが、持っている物がアウトな見た目をしている。


「さて、どうしようね! こうなればもう、やるっきゃないよ!」

「そう、デモ隊殺しの黒幕は・・・・・・警察って仮説を、証明する」


 京子とアイリスはやけに現実的な事を言うが、それに至っては正明は既に何かしらの策はあるらしかった。子猫の彼はデバイスに短い前足を乗せると何かの図面を出す。それは、巨大な施設の様だがそこがどんな場所だかは華音は一目でわかった。


「それって・・・・・・ラヴィリンス国立魔法使い収容施設? 強大な力を持つ魔法使いを閉じ込めておく刑務所だよ? なんで?」

「犯人が、いる」

「え!?」 


 アイリスの言葉に華音は驚愕した。

 正明は京子から華音の胸を奪うと、抱えられながら浮かせたデバイスを前足で器用にテシテシと


「僕がここ最近何もしてないのはそれだよ、警察の連中に目を光らせていた。そしたら、1人の男が捕まっていたよ・・・・・・そいつは警察の内でも目立った活躍はしていなかったが爆発系の魔法の才能はあった。言うなれば爆裂魔法の解除もお手の物、でも、本題は爆発させるのが限りなく上手い奴でもある事だよ。コイツが表舞台所か、裏舞台にもいないのはその才能はこの世の中では邪魔な物だ。使わなかったんだろうね、でも今回の事件でその才能は利用されることになる。この、ちっぽけな子猫を殺すための動機付けにね」


 つまり、その男を回収して尋問を行う。調べによればその男は一方的な裁判で死刑が決まっている。元々身寄りがない人間だったのだ。こうも扱いやすい爆弾魔はいない、文字道理に爆弾の様に使い捨てるつもりなのだ。


「しかも、この情報も簡単に集めることが出来た。来るなら来いと言っているんだろうな」


 宗次郎がそう言うと鼻で笑う。

 正明は華音にひとしきり撫でられて少し元気が出たのだろう。人間に戻ると悪い笑みを顔に浮かべると、腰にホルスターを出現させる。


「舐められたものだ。見せてやろう、俺達に無言の挑戦状を叩き付けた事を後悔させてやる」


 その言葉を聴いて、華音はクスッと笑った。

 やろうとしている事は犯罪だし、物騒極まりない話だ。しかし、やはり好きな人が嬉しそうにしているのは見ていて気分が良くなる。華音は正明の正義を後押しできないが、正明の拠り所にはなりたいと感じているのだろう。

 偽善や、矛盾があるのだろう。狂気の沙汰なのだろう。

 それでも、華音は正明の抱える深い影にマッチのようなか細くとも確かな光を落とす。

王は死なず

騎士は受け継がれ

農民はただの数

悪党は駆逐され

善人は本に名を落とす


歌は形を変えるも伝える事は変わらず

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ