第二話 動く信仰と眠る猫
続きです。デビルメイクライ5面白い
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WELT・SO・HEILENの訓練場では高速で動き回るパワードスーツが岩に激突してから追撃の魔力弾を喰らって地面に墜落していた。
墜落したパワードスーツへと狼の仮面を着け、忍者をモチーフにした軽装の鎧を身に着けた加々美が馬乗りになってその喉元にクナイを突き付ける。
「前よりも速さに振り回されなくなって来たね! 凄いよ、正明は出来なくて何度も泣いてたのに」
そんな事を言ったらゴッ! と加々美は後ろから剣の腹で殴られた。そこには鎧姿の正明が立っていた。
「うるさい。でも、岩にぶつかったのはいただけないよ。余計なダメージを負ってちゃ直ぐに動けなくなるよ?」
「ごめんなさい、速度を落とそうとしたの」
真紀の言葉に正明は成程、と首を縦に振ると付け足して真紀へと教えた。
「パワードスーツの耐久性を信じるなら苦肉の策として使う事は在るけど、その時はなるべく止まった時の追撃に気を付けてね。でも、決して褒められた方法じゃないからクセにならないようにね? 後、魔力が危ないぐらい減っているよ?」
正明は少し声を低くして真紀にそう言うと、キューブ状の魔具で真紀の魔力を回復させる。鎧姿の正明は妹の真紀でも恐ろしいらしい、彼女は丸くなって身を守ろうとしている。
「ま、真紀? どうしたの?」
「正明、怖いんだよ。その鎧だと声も男声だし、デカいし、顔コワイし」
「うぅ、仕方ないでしょ? でも、そうだね。鎧ならパワードスーツを使った戦いを教えやすいかなって思ったけど」
正明は鎧を解除するといつもの正明の姿に戻る。すると真紀はパワードスーツを脱いで正明へと猫の姿で駆け寄って行く。
白い猫になった真紀を抱き上げるが、真紀は少し痛そうに小さく鳴いた。
「怪我しているのに飛び込むからだよ。アイリスは?」
そう言って正明が辺りを見渡すと物凄い速度でウサギの耳が付いたフードを被ったアイリスが飛んで来た。シャボン玉を出して自分の勢いを殺すとゆっくりと正明の前に降りて来た。
「志雄は、手加減しない。吹き飛ば、された」
「丁度良いや、真紀の傷を頼むよ。今日は宗次郎に泣かされて、志雄をスパーリングして、僕と魔法での戦闘訓練、最後に加々美と逃げ方も練習したからね」
「宗次郎? へー、泣かせるんだ」
「チェーンソーにズタ袋の男が襲い掛かって来たら、普通の女の子は泣くと思う。しかも突然」
「その訓練、何の意味?」
「異形な奴が突撃してきた時に驚きを少なくするためだってさ、真紀が腰を抜かして動けなくなるとは思っていなかったらしくてね。罪悪感から京子にイタズラして今は大量の使い魔に袋叩きにされてるよ」
猫から人間に戻った真紀は汗だくで体中にアザが見られる。正明はその姿を見ると辛そうに顔をしかめると真紀を抱きしめて頭を撫でる。
「アイリス、お願いね。僕は、あ、あれ?」
正明はふらつくと片膝を付いた。真紀が彼に寄り添うが、彼の顔色は誰が見ても良くは無かった。アイリスは正明に魔法をかけると彼の身体の状態を大よそに把握する。
「疲労、寝てないね。食欲、無かったし・・・・・・精神的な、ものだね。原因は、目に見えて明らか」
「だ、大丈夫だよ! 少し目まいがしただけ、それにあの黒岳って言う兄弟達の対策も付けていないし、八雲がせっかく戦って集めてくれたデータもあるし・・・・・・それに警察の動きが気になる。あのデモ隊を焼いたのは、たぶん警察だ! でも、証拠がない! それも見つけないと」
「お兄ちゃん、こっち見て」
「どうしたの、真紀?」
「捕獲」
正明はいとも簡単に真紀の魔法に身体の自由を奪われ、その隙に加々美が正明の小瓶ホルスターを奪い去る。
「休憩、お兄ちゃんは疲労用のオイルだね」
「うぅ・・・・・・真紀。あはは、腕を上げたね」
「休め、子猫! 掘るぞ!」
「やってみろ、アホ狼」
笑いながら正明をアイリスのシャボン玉に放り込むと加々美は笑顔でアイリスと双子を送り出した。
その加々美も、その後に飛んで来た宗次郎とぶつかって加々美ももれなくアイリスの世話になったのだが。
*
あの日から数日たったが飼い猫はまたパタリと姿を見かけなくなった。劣等クラスの様子は良くは解らないが、あの伊達姉妹は相変わらず仲が良さそうだが、姉の正明は少し疲れたような顔をしていたな。色々あるんだろうが、アイツは妹に甘い様に見えるんだよな。
だが、真紀は見た目以上にずっと強い。正明とは違った強さだ、彼女はエネルギーに溢れた力を感じる。
そんな事を考えながら俺は優等クラスの授業を退屈と言わんばかりに聴いていた。難しい授業だとばかり考えていたが、そんな事は無かったな。昔、親父に教えてもらったことが多い。
そんな時に、少し離れた席の魔理と目が合った。彼女はニッと笑うと俺に小さく手を振って来た。子供の時を思い出すな。
授業が終わって魔理の席に向かうと彼女の頭を俺は指で突く。
「さっきはどうしたんだよ?」
「ん? 居眠りしてないかなぁって、翔は居眠り常習犯だからのー」
「中学か? 退屈もいい所だろ、簡単でな。でも、良い点数とか取ったら変に注目されるだろ? そうしていたらこの高校に入って劣等クラスに入ったんだが、優等クラスの風習が無ければ劣等クラスは居心地が良かったんだがな」
今はセフィラとなった俺だ。辺りの生徒は俺の事を遠巻きに見ているし、話しかけて来る女子の数は急に多くなって来た。今でも教室では俺は注目の的だ。
「翔太郎さん、最近はオーダーだけでは無くて死神の飼い猫を追っているそうですね」
またか、突然身なりの良い生徒が俺に話しかけて来た。金持ちの子供だろう、人の事は言えないがコイツらは如何にもって感じだ。この優等クラスには金持ちが多い、七光りで入学する奴もいるだろうが大体は皮肉な事に実力だ。
巨万の富を築けるなんて親がスキル持ちか、優秀な魔法使いのどちらかだ。そうなると当然見栄とかで子供に英才教育を施すんだ。
俺の父さんは身を守るために俺に知識と戦い方を教えてくれた。でも、コイツらは見栄や他人を見下すためだ。一緒にはされたくないし、仲良くもしたくない。
「それがどうしたんだ? オーダーに身を置いているんだ。それぐらいは普通の事だ」
「流石、セフィラの一人に選ばれるだけの事は在りますね。どうですか? 今度、魔法やお仕事の事をお話しするついでにお食事でも」
「すまない、いつ出動になるか解らないんだ。それに、俺は現場の人間だから礼儀作法なんて知らなくてね」
俺はそう言うと、魔理を連れて教室を出ると屋上に向かった。その時に少し、違和感を覚えた。音が少しだけズレて聞こえたのだ。
屋上の扉を開けると、先客がいた様だ。ギターを片手にグーッと身体を伸ばして鼻歌を歌いながら空を嬉しそうな顔で見上げている。
鳴神華音の姿があった。
「あっ、鳴神華音さんだ。翔は、知っているよね? オーダーのイメージキャラクターだもんね」
「イメージキャラクターってそこまでもてはやしていないが、でも、そうだな彼女の歌は何処か不思議な力がある」
俺と魔理に気付いたのか、華音は笑顔で俺達に手を振る。
太陽の様な笑顔を見せる彼女だ。金色の髪がまるで日光の様に見え、エメラルドグリーンの瞳は生命力を象徴するかのように美しい輝きを放っている。
「隊長に、魔理ちゃん! どうしたの? 屋上になんて珍しいね」
「華音こそ、どうしたんだ? ギターなんて持って、それに解りにくいけど校舎に音が行かないように魔法をかけているな?」
俺は屋上に来る時の違和感の正体が理解できた。彼女が屋上以外の場所に音が漏れないように配慮した魔法だったのだ。屋上をライブ会場にしちまっている。
大人しそうに見えて結構アグレッシブだな。
「隠れてライブか?」
「そうだね、別に隠している訳じゃないよ。でも、私のスキルは少し危ないから」
「歌を五感に届けるってスキルだよな。不思議なものだ、君の歌には匂いもあれば味もある、冷たくもなれば熱くもなる。歌が肌を撫でて、光の帯を見るんだって? 凄い力だ」
「でも、これは諸刃の剣だからね。麻薬みたいなスキル・・・・・・でも、少しでもこの力で人を癒せるなら使いたいなってだから、友達や本当に辛いことがあって苦しんでいる人にだけ聴かせているの。後は非常事態にだけ」
そう言うと華音は劣等クラスの校舎を眺める。
俺はパワードスーツのマスクを着けると、魔法を視認するどうやら劣等クラスの方までこの魔法は続いているらしい。簡単な魔法とは言え、凄いな。ここまで広範囲に張り巡らせるのはやはり並みじゃない、劣等クラスにも届いてしまうのだろう。でも、劣等クラスの屋上は除外されている、これだと向こうの屋上の連中には聞こえてしまうな。
「どうする? 静かにしたいなら私は大人しく戻るけど」
「大丈夫! ねぇ翔、聴いて行こうよ! 一年前の卒業ライブには人数を制限しても満員の一万人ぐらい来てたんだよ? 引退しても人気だし、聴いて行こうよ!」
「俺も止める気はない。むしろ、俺達が静かにしなきゃな」
魔理の言葉に俺はうなずくと、華音を見る。彼女は笑顔で「ありがとう!」と言うとギターを少しピックで弾いて音を確かめると徐々に激しくかき鳴らして行く。
すると、ギターが蒼い火花と電流を弦に絡ませながら莫大な音を生み出し、彼女の身体の周りに無数の魔法陣が展開される。
「凄い! 1人で色んな音を作り出してる!」
勿論、こんな事が誰でも出来る訳じゃない。
プロの演奏家でもここまで多彩な音を同時に操るなんて事は難しいだろう。たぶん、自分の覚えている曲を魔法陣で音に出しているんだ。それでも彼女が演奏していることに変わりはない。
十分に天才の領域にいる人間だ、音楽の世界では誰もが欲しがる才能だろう。
「RED・BARON!!!」
その曲名の後に風景が変わった。
美しい虹色の光が空を満たしたようにも見えた。俺の鼻孔には表現が難しいがとてもいい香りが流れ込んで、身体にはパチパチとした心地い刺激と、胸から衝動が湧きたつような感覚に支配された。魔法なんて日常に溢れたこの世界だが、やっぱり何処までも驚きは隠れている物だ。
それにしても普段は大人しそうな華音がこんな激しいロックを歌うなんてな。隊長なのに全く聞いた事ないのもおかしいが、意外な印象だ。でも、この曲・・・・・・REDって色を名前に使う割には勝利の曲じゃないんだな。
下剋上か、意地のぶつかり合い? 自分よりも強い奴への宣戦布告を謳っている様な。
歌が終わる。一分以上のカット版だったようだが、非常に惜しいような、これだけでも満たされたような感覚が二つ存在する。
「次はどうしようかな、ARIADNEはみんな好きな曲だけど。今日は少し気分を変えて新曲にしようかな? 新しいお客さんもいる事だしね、そうだな・・・・・・しんみりしてもいけないけど、少しクールダウンして」
華音はギターの音を調節している、そのギターは魔具だな。高価な魔具だろう数々のパーツに分けて組み替えて多様性を持たせているな、これ作った奴は職人だろう。
「うーん、これで行こうかな。BLUE・MOON!」
また彼女がギターを弾くと魔法陣は寒冷色に変わると、静かに蒼い炎を灯す。ギターにはサファイアブルーに輝く光の粉を放ち、空中でその粉は水になると華音の周りで音に合わせて形を変えて踊るように彼女の周りをゆっくりを回っている。
曲調は先程とは変わって落ち着いているが、胸が熱い。さっきの曲よりも落ち着いているのに、何処か訴えかけて来るようだ。
「貴方はそんなに優しいのに、誰よりも冷たく私に微笑むの?」
静かに歌う彼女の熱量はまた上がった様だ。だが、なんだか悲しい感じもするな。
「すれ違うのは運命なの? 認めたくないけど私の狂気は君を傷つけるから、側に居られるけど、嘘をつかないとね」
澄み渡る様なミントの香り? いや、スミレか? そして口の中にあるこの味は何だ? フルーティーだが、風味がまるで酒の様だ。
華音が歌い終わるとその感覚は消え去った。
「ふーっ、このタイトルねカクテルの名前なんだって。未成年だから飲めないけど、少し悲しい意味と少し嬉しい二つの意味を持つお酒なんだって」
「どおりで、少し酒っぽい味がしたのか」
「ノンアルコールだから大丈夫だよ? でも、蒼い月って不吉かな?」
「どうだろうな。不吉って言うけど・・・・・・魅力が無い訳じゃない、でも紅い月より優しそうだ」
俺の顔に華音は柔らかい笑顔で頷く。
その時に俺の後ろで歌を聴いていた魔理が胸を抑えて泣き始めた。
「うええええん、ひっく、ああああああ」
「ど、どうしたんだよ! 魔理!? 大丈夫か!?」
「わ、わかんない、悲しくて・・・・・・でも、なんかホッとした様で」
「あ、当てられちゃたんだ・・・・・・大丈夫だよ。少ししたら落ち着くと思うから、魔理ちゃん大丈夫? 水ならあるけど」
華音はそう言うが、心配そうにカバンからペットボトルを引き寄せて来て魔理に手渡しする。
魔理はそれを受け取るとぐずりながら飲んで少し落ち着こうとしている。でも、この歌は聴く人間によっては感情を強く揺さぶるんだな。
俺は魔理の背中をさすっているが、その様子を見て華音は何かを察したような顔をすると「代わるよ、ホック外れるかもだから」なんて言って代わりに背中をさすってくれた。なるほど、確かに泣いている時に下着のホックなんて外れたら更に号泣だろうしな。
「魔理ちゃん、そうか・・・・・・うん、わかったよ。辛いよね、大丈夫だよ。少しずつだけど、気持ちを落ち着けてね」
華音は泣く魔理を前に静かに鼻歌を歌っている。そのメロディーは一気に焦った気持ちを鎮静化させてしまった。それを聴いた魔理は呼吸を落ち着けてきた。
「ごめんね、私の歌でこうなる人も沢山いて・・・・・・私が辞めた理由もこれが1つ」
「華音ちゃんは、悪くないよ。私もごめんね、泣いちゃって・・・・・・歌を聴いていたらなんかわかってくれたような気がして」
「少しはわかったよ。よし、決めた! 今から私は魔理ちゃんの味方! ねぇ、辛い事があれば何でも話しに来て? 話してくれたことは誰にも言わないし、歌が聴きたいなら何度でも歌うよ。大丈夫、私の力は上手く使うと少しなら心を埋められるから」
華音はそう魔理に言うと太陽の様に笑った。何も知らない偽善の笑顔ではない、気持ちを理解しない独りよがりの笑顔ではない事なら愚か者でない限り解るだろう。それほど説得力があったんだ。もしかしたら俺は凄い人間と同じ部隊に配属されたのかも知れないな。
だが、なんだ? なんで、正明を思い出すんだ?
そしてなんでいつも俺の中から、真紀が消えないんだ?
華音と別れて、屋上から校舎に魔理と帰っている途中に彼女は少し屋上を振り返る。
「どうした?」
「いい人だね。友達だって、私にデバイスの術式も教えてくれて・・・・・・あの歌、まるで私の事を言っているみたいだった。そして、華音ちゃんも私の事を知ろうとしてくれている。いるんだね、あんな人」
「あぁ、まれだけどな」
「ふふっ、また会いに行こう。真紀も不思議な感じがするけど、華音ちゃんも同じ感じがするな」
魔理は笑顔でそう言うとさっきの歌を鼻歌で歌いながら俺の隣まで戻って来た。
今は何も起きていない、願うならもう少しこの平和が続いて欲しいが、俺は飼い猫に会わないといけない。この力と兄弟達のこと、約束の四人のこと、俺は知らないとダメだ。
華音が言う様に力は上手く使わないと危険だからな。
俺がのんきな事を考えている時に、手首のアラームが鳴るなずだったんだ。そうしていれば、少なくとも被害は少なかったのかも知れない。
夜は黄金に始まり蒼に終える
朝は蒼に始まり黄金に終える
命は愛より出で、恋なくしては愛は育たず
尊さを知らぬ者人の道より外れん
答えを見つけし者は正義を示さん




