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ふと、横の道には 3

ヤキモチを焼くけど、殴りに行ったのは頭にも来ていたからだね。


「何をしているんですか! 殴りに行きたかったってそれが仲間を危険に晒す理由になりますか!?」

「ごめんよ、でも、僕でもわからないよ。なんかこう、モヤモヤして・・・・・・あの野郎の顔面を殴らないと収まりがつかなかったんだ」

「はぁ、八雲が無事だったから良いですけど。下手をすれば殺されている所です!」


 正明は文字通り鬼の形相で怒る志雄に説教を喰らっていた。

 しかし、彼にも自分のしたことがバカで危険な事だったと理解している。強い衝動に突き動かされてそうなったのだ。とにかく三神翔太郎を殴り倒したくて仕方なかった。


「志雄ちゃん、それぐらいでいいよ。僕も腕試しになったし、結果オーライ。それにしても僕って前よりも硬くなった気がする、いや、柔軟さも兼ね備えて最強かな?」

「それはもう、鉛の弾丸を跳ね返す程の強度に加えて女の肌の様に柔らかいのかな?」

「僕は男だから難しいかなぁ」


 包帯でぐるぐる巻きの八雲は笑っているが、志雄は面白くないと言う顔をしている。


「バカな事を言わないで下さい! 宗次郎の援護が無かったら危険でしたよ!?」

「死んでないからいいよ。志雄ちゃんがいてくれたら、勝てたんだけどね」


 八雲がそう言うと志雄はため息を吐いてそっぽを向いてしまった。その隙に正明は逃げ出そうとするが目の前に狐が座ってじっと正明を見ていた。


「京子」

「ガブっ」

「いだぁ!!!」


 無言で狐に噛まれた正明はのた打ち回るが、そこに巧もやって来た。彼女は狐を抱き上げると頭を撫でてそのモフモフを堪能し始めた。


「京子も怒っているんだね」

「オレはお前の気持ち、わからなくもないぜ? 嫉妬だろ? 三神に妹が取られるかもって、最近は訓練を始めて嫌われてないかとか華音に話してたことも、オレは知ってるぞ」

「嫉妬? 僕が? ん~、そうだね。正直、あの野郎をぶっ殺したい」

「あー、完全に嫉妬してる。真紀でこれか、華音はどうなるんだ?」


 巧にそう言われながら正明は立ち上がると真紀のいる診察室に転移魔法で飛んで行った。


「嫉妬? 正明が・・・・・・成程、でも、それで無茶はやめて欲しいです」

「志雄も良かったな、八雲が無事で」

「え!?」

「ん? それで怒っていたんだろ?」

「うぅ、言わないで下さい」


 少し赤くなる志雄を遠くから八雲が不思議そうに眺めていた。



「御堂、俺の武器は作れないのか?」

「はははっ、ふざけ倒せ」


 御堂は俺の要望をまるでつまらない冗談のように聞き流した。近くには山吹百合の姿もあった、オーダーを止めてコイツの元に付いた技術部門の優等生だ。

 

「山吹君のデータで既に君のパワーが桁違いである事と、上手に魔力を魔具に供給できない事実は解り切っている。大人しく魔法でも掌からぶっ放しているんだね。武器って言うのは元々、弱い人々が使うものだ。君の様にアホみたいな魔力量を持つ奴がなんで武器なんて」

「武器が使えないと、飼い猫に勝てない! 奴は、俺よりも・・・・・・下手すれば、黒岳よりも強い! 解るんだ、アイツが強さにかまけていない事を!」


 俺の言葉に御堂は表情を少し興味ありげだと変えた。


「アイツは、強くなってる! 始めて会った時よりも強くなっている。プールで黒岳とあった時、飼い猫は明らかに黒岳の力を恐れていた。でも今は違う、仲間をけしかけてその仲間が黒岳を追い詰めていた」

「ほう? 強いね、セフィラであり戦闘のエキスパートである彼を」

「俺は強くなれない。俺を鍛えてくれる奴がいないからな」

「呆れた自負だ。誰も君と渡り合えないと? 師匠はどうなんだ?」

「彼女は、あくまで魔法の先生だ。戦い方はまた別だ」

「強さ故のってか、はぁ~あ! しゃーねーなー! 山吹君!」

「はい、先生?」

「この、強さ故に孤独な男の戦闘データ! あと、魔力の平均出力。最後に、本人の趣味を聴いておいて!」

「先生は?」

「材料集め・・・・・・いや~、交渉しなきゃ。クッソ頑丈な魔具を作るための材料は、正規ルートじゃぜってー手にはいらないからぁあああよ!」


 うるせえ奴だ。

 だけど、俺は設計は任せたいが造るのは。


「なあ、設計が出来たら桜子に渡してくれて良いか?」

「ほう? 僕は造らなくて良いと?」

「彼女は少なくともお前よりは俺を知ってる。せっかく造ってもらうなら、親しい奴の方が良いだろ?」


 俺はそう言うと、ラボを後にした。桜子は優秀なメカニックだ、御堂の設計図があれば良い物を造ってくれる。それに、御堂は少し怪しいんだよな。



 飼い猫信者はまだ多くいる。

 その中でも死者を出したデモ隊焼死事件に関わった人々は微々たるものだ。あの事件が死神の飼い猫への怒りを買って殺された愚か者共への粛清と考えて、更に行動を激化させている連中が水面下で活動を進めていた。

 これまでも信者が事件を起こす例は多々あったが、それはオーダーの手によって全て鎮静化されてしまう。

 この、死神の飼い猫信者が結成したカルト集団<蒼い魔剣>は今日もミサを行うために街外れにある古い協会に集っていた。


「皆よ、己の行いを悔いて頭を垂れよ。審判はすぐそこに来ているのだ、夜な夜な主の審判として彼の者はさ迷い歩く! 黒い霧と六人の同胞と共に、罪人を裁くのだ! 人を死に追いやる輩に報いを、罪を犯した者を守る無能な法では無く、神の法に則った裁きを!」

「「「裁きを! 裁きを! 裁きを!」」」


 教会に掻き集められた人々は黒ずくめのローブに猫と剣のエンブレムを付けて両手を祈るように組んで叫びをあげている。教祖である男は棺の様な形の十字架の前で祈りを捧げていた。その光景は神聖な物に見えて、教会の壁には様々な人間の写真が張られており、その顔には統一感は無いが各々に刃物が突き立てられていた。

 その写真は何枚かにはその人間の物かは定かではないが、白骨化した手が張りつけられている。


「今夜も、現れては下さらないのですか? 死神の飼い猫よ、我々信徒は警察に変わる新たな秩序を貴方様と築きたいのです」


 そして、その教会には一人の男が入り口の扉に立ってそのミサを見学していた。その男は忍び込んだ訳でもなければ、この教団の敵でもない。寧ろアドバイザーとしての側面が大きいだろう。


「死神の飼い猫が、今日の昼間に現れた様だ。猫狩り部隊と交戦し、隊長を追い詰めてかのオーダー隊長すらも抑えた。奴の被った被害は仲間が1人大怪我した事ぐらいだな」


 突然そう口にした男の言葉に信徒達は騒めき始めた。心配や批判の声ではない、セフィラを2人も相手取り仲間に死者を一人も出さないその強さと、まるでギャンブルでも楽しむかの如くに自分を捕らえる事を目的に組織された連中へ挑発を行う余裕に歓喜の声を上げているのだ。


「おぉ、飼い猫さま。なんと、なんと素晴らしい」

「あぁ、でも飼い猫さまは本当に慈悲深い方だ。自分を殺そうとする連中に慈悲を与えるなんてな」

「なに!? ど、どういうことだ!」

「あれ? 知らなかったのか? 猫狩りは文字通り、死神の飼い猫を殺すために編成された部隊だ。もし、街中で連中が飼い猫を見かけたら袋叩きにして殺す事になっている」


 狼狽する教祖にそう囁くのは、かつてオーダーを1人で半壊にまで追い込んだ男であり、紫の瞳を持つ男である優の側近、他人の心を支配するスキルを持つ兄弟達。

 サイサリスはそれだけを伝えると教会を出て通信魔法を展開する。


「優さんよ、仕事はやったぜ? で、ご子息に危険が及ぶがいいのかよ」

(ご子息には呼びかけよう。しかし、翔太郎様には伝えぬ様にあの方からご命令は受けた。これで飼い猫は姿を露わにするはずだ)

「んで? どうするよ。スキルを使う必要もなく連中はテロでもなんでも起こしそうだぜ?」

(起こしたなら煽れ、起こさないならお前のやり方を試すんだな。どちらにせよ、飼い猫を弾圧する動きと比例して奴を擁護する連中が勝手に事を大きくするだろう。ご子息同士の神聖な戦いの為には、飼い猫が邪魔なのだ。そして、以前学園で見て来た奴の調子はどうだ?)

「まぁ、そうだな。奴にはきっかけが必要になるだろうが、まぁ任せてくれ」


 それだけ伝えると、サイサリスは通信魔法を切る。

 紅い瞳に、全てを見下したかのような笑みを浮かべて。

不穏なアラームは朝の目覚めには向いてない

闇夜に溶け込む清んだ殺意

夜と昼の間に顔を見せる

昼より蒼く、夜より悲しい空

彼が告げる言葉を聴く者はいない

間違いは時に残酷な結末を運んで来る

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