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ふと、横の道には 2

殴りに行こうか


「翔太郎! 中々いいわよ、このヴァルキュリア! パワーも、スピードも桁違い!」


 オーダーの訓練場には新しいヴァルキュリアで飛行訓練をする美樹の姿があった。彼女の改造はどうやら上手くいったらしい。飛べば飛ぶほど、動けば動くほどに機動力が上がって行く・・・・・・凄いな、魔力を増やすんじゃなくて継続時間を増やすってやり方か。


「いいんじゃないか? 凄いな、もう完成か?」

「そんな所ね、でも、あの蒼いヴァルキュリアには届いてないわ・・・・・・あの機体おかしいわよ? 直角に曲がる事が出来るし、魔力を巡らせる効率も恐ろしいレベルで良い」

「あの機体は、飼い猫が持って来たものだ。ギルドがらみの気体だろうな、地上では御堂のパワードスーツは最高の機動力を持つが、空はアレがナンバーワンだ」


 ここでも奴の名前を出した。

 何処にでもいるみたいだ。彼女は、何なんだろうか・・・・・・しかし、今は音沙汰がない。飼い猫の不在の所為で皮肉にも犯罪の件数が増えた。それだけの影響力を持っていたんだ、オーダーではどうしても後手に回らざるを得ない。

 それに猫狩り部隊は奴の出現と同時に出ないといけないから、常に警戒態勢だ。

 その時は突然来る様だ。


(こちら黒岳、奴だ。久しぶりだが誰も殺していない、気味が悪いから警戒を怠るな)


 隊長様からの呼び出しだ。


「翔太郎!」

「あぁ、何しに現れたんだ?」



 翔太郎とわかれてから正明は少し複雑な感情を抱いていた。

 あー、アイツに惚れられたか・・・・・・真紀に魅かれるとは。なんて考えながら正明はWELT・SOHEILENの船室でアイリスに身体に霊薬を塗られている妹を見る。

 上半身裸でうつ伏せで何かを塗られているその姿はエステの様だが、霊薬は塗った方が効果が高い。ポーションも霊薬の1つだが、アレは効力が高い劇薬だ。

 アイリスは女の子にはこうしてしっかり塗ってくれるのに男衆は霊薬の詰まった湯船に放り込まれる。正明は塗ってやると言われるのだが、公平を期すように正明も湯船に浸かっている。


「気持ちいい・・・・・・怪我するのが楽しみになる」

「危険、それはやめて・・・・・・疲労用のオイルもあるから、頼めば、やるから」


 正明はため息を吐いて壁に寄りかかる。

 妹が初彼氏を手に入れるかもしれないが、この子が大切な人の為に力を使うには少し時期が速い。

 何もかも早すぎるのだ。真紀は普通の女の子じゃない、この死神の飼い猫の妹にして、世界で初めての死者蘇生の成功例なのだ。

 こんな事を口外したり、あの翔太郎にバレたら、考えたくも無い。


「真紀・・・・・・翔太郎君の事、好き?」

「え? どういう事? お兄ちゃん」

「もし、彼に告白されたら恋人になる?」

「ならないかな。私はお兄ちゃんやみんながいるから、寂しくないし・・・・・・それに男の人ってなんでか苦手なんだよね」


 それは・・・・・・と正明は言いかけたがその言葉を彼はかみ砕いた。

 

「いつかは、真紀も彼氏を作って恋愛を学ばないとね。いつまでも僕達は側に居ないんだから、将来には家庭を築いて自分の子供を育てる事になるかもだし」

「お兄ちゃん、気が早いよ? 私はまだ17歳だよ?」

「普通ならそれぐらいの時には・・・・・・はぁ、宗次郎? チェーンソーを取り出しながら階段を下りて来るな」


 正明はそう言う先には何かヤバい顔の宗次郎が立っていた。


「真紀ちゃんを穢そうとするゴミはどいつだぁ! はらわた引きずり出して豚に食わせる! いたいけな少女にかかる毒牙を粉砕するのだ!」

「まて、まだ解らないよ。でも・・・・・・ん~、真紀にその気がないならいいけど」


 正明はモヤモヤした気持ちを振り払う様に黒い霧を召喚してその中に消えて行った。


「どうしたんだ? アイツ? やぁ、真紀ちゃんちょうしどう?」

「ひっ、あ・・・・・・で、出て行ってください!」


 顔を真っ赤にした真紀は宗次郎から顔を逸らすそれはそうだ。今の彼女は同性か身内以外には見せたくない格好をしているのだから当たり前だ。


「出ていけ、殺す」

「ごめんごめんってごぼっばぁ!? アイリスさん!? 毒を真顔で流し込んじゃあばばばばば!」


 宗次郎は空気の抜けた風船のように何処かへと吹き飛んで行った。



「死神の飼い猫!? 何処にいるのよ!」

「こっちだ、ビルの上にいる。鎧の姿だ・・・・・・だが、動きはない。街を眺めているだけだ」


 美樹は黒岳に突っかかるが、彼は冷静にビルの屋上を指差した。

 そこには、魔王の様に荘厳な雰囲気を醸し出した奴が立っていた。あれは、何をしているんだ?


「罠かもしれない。アイツは自分を餌にする作戦もいとわないだろう、そこで候補を募りたい。奴へと挑発をしかける者をだ」

「それなら俺が行く。主力の内で1人が動けば向こうにも牽制になるだろ?」


 俺が黒岳の言葉に手を上げた。奴には聴きたいことがあるからな。


「良いだろう、援護する。炙りだして来い」


 俺はパワードスーツを着てビルの影から飛び出して奴の目の前まで飛んだ。


「飼い猫! 何をしている!?」

「何も? ただ、そうだな・・・・・・ありがとう。出て来たのがお前だったのは好都合だ」

「どういうことだ?」

「うらああああああああああああああああ! この屑がぁあああああああああああああああ!」


 奴は突然叫び声を上げると俺の顔面に拳を叩き込んで来た。

 とんでもない力で、俺はアスファルトにめり込むほどに殴られた。


「ぐぁあああ! な、何だ!?」

「朴念仁のバカが! このアホ野郎! 歯ぁ食いしばれ! もう一発ぶん殴ってやる!」

 

 飛び出して来た黒岳が飼い猫に体当たりすると首元にスタンロッドを押し当てたが、それすら飼い猫は頭突き、いや! おいおい、なんだあれ!?

 頭部、装飾かと思っていた顎の牙がガバァッと開くと黒岳の腕に噛みついたのだ。


「なんだ? 生き物、なのか? その鎧」


 黒岳の言葉に口からの炎で答えた飼い猫は距離を取った黒岳を放って、俺の方をギロッと見る。とんでもなく怖い、アレが鎧だって思えなくなった、まるで生き物だ。


「お前は殴らないと気が済まない!」

「お披露目ね! 吹き飛びなさい!」

「ん?」


 飼い猫が顔を上げた瞬間に奴の顔面にビームが直撃した。更に様々な覚悟から飼い猫に攻撃が撃ち込まれる。

 

「・・・・・・出力が、上がった? いや、機動力も段違いになったな。伸びるような加速だ、魔力量を引き上げた無理な加速じゃない」


 ん? なんだ? 飼い猫の奴。

 冷静に、なってないか?


「効率化を測ったな? でもそれだとビームの出力は? そうか、蒼いヴァリキュリアと同じ発想」


 飼い猫はガバッと開いていた口を閉じる。

 そして飛び回る美樹を見上げると右手をかざすと何かを召喚した。それが何かを知るのに時間がかかったが、あれは銃だ! デカイ銃、もはや砲身とでも呼べばいいかもしれない。


「飼い猫!? 何をする!」


 俺は走る、魔法をぶつけようとも奴は魔法を分解する。それに、あの鎧は不気味過ぎる! そもそも、あれは鎧なのか? いずれにしても最大出力で放たないと落とせない。

 広範囲を巻き込んでしまう!


「美樹! 防御魔法を張って逃げろ! 絶対に止まるな!」

「速いが、当たらない事はないはずだ・・・・・・そこか!」


 飼い猫は少し集中すると、妙な所に引き金を引いた。すると、美樹がその射線に飛び出して来て直撃を受けた。

 

「そんな! 美樹!」


 声を出す余裕も無いらしいが、美樹は必死に体制を建て直すとカウンター気味に飼い猫へとビームを放つ。それには反応してなかったのか、飼い猫は銃を破壊されて焦った様な声をあげて腰の剣を抜くと飛びかかってきた黒岳と切り結ぶ。

 美樹を撃った後に近づいて来ていた黒岳へと切り替えるつもりだったらしい。


「美樹! 動くな。今、病院に」

「げほっ、大丈夫・・・・・・これ、凄い威力だけどただの水鉄砲よ。くそ、バカにしてる」


 水鉄砲?

 アイツ! 意味の解らない奴め!

 俺は武器が使えない、魔力が多すぎて魔具がついてこれないんだ。パワードスーツはこの手甲で強化しているから何とかなるが、剣や銃まで強化するにしても効率が悪い。

 そう思ってた、けど違うんだ。今は、俺が武器を使えれば美樹は傷つかないで良かった。


「飼い猫ぉ!」

「ん? くそ、誰か手を貸せ」


 飼い猫がそう言うと、俺の前に騎士風の仮面を着けた男が現れた。こいつは、魔封じの身代わり羊だ。


「退けぇ!」


 俺は怒りに任せて奴の胸板に拳を撃ち込んだ。

 確かに入った、割りと本気の一撃だ。普通なら死ぬかも知れない一撃、なのに。


「鍛えておいて良かった。前より、強くなったね」


 嘘、だろ?

 びくともしねぇ! まるでバカデカイ金属でも殴ったみたいだ。


「交換だ。死ぬなよ、少しこいつを任せる」

「了解、殺すつもりで戦うけど良い?」

「出来るなら殺せ」

「わかった、よっと!」


 背中合わせで戦っていた二人が入れ替わった。飼い猫はまるで舞踏の様に剣を振るう。ワルツでも踊っているみたいだ。

 回転剣舞とでも言えば良いのか? 実用的じゃない攻撃だ。驚かすためのオーバーアクションなのかもしれない。

 だが、この速度に一撃が骨に染みるような衝撃! 実用的とかそんな次元じゃない! まるで必殺技だ!


「貴様は人を愛した事はあるか?」

「な、何を!? 訳の解らねぇ事を!」


 くぐもった男の声で飼い猫はいきなり変な事を聞いてきた。


「言い方を間違えた。女が欲しくなった事は無いか? その女を奪おうとする男に嫉妬したり、傷つけた奴を消したくなったりとか」

「恋かは知らねぇけど! 俺の師匠を傷つけた借りは返してやる!」

「成る程、本命はその美樹とか言う女か・・・・・・幼なじみは何だ? アイツはお前の気持ちを明かしたか?」

「魔理がどうした! あの子の両親が死んだのはお前のせいだ! 今でもうなされている、俺の家の隣がその家だった所だからな。アイツは俺が両親に代わって守る!」


 飼い猫は鼻で笑うと、俺の拳に剣を絡めて一気に俺の脇へと切っ先を滑り込ませた。腕が持っていかれる!

 俺は魔法で衝撃波を出して距離を取る。


「この、天然たらしが! 貴様は力だけのボンクラだ!」


 ゴッ!! 

 飼い猫は両手で剣を上段に構える。打ち下ろす事は知っていたが、俺は避けた。受けて、カウンターなんて欲張りは出来なかった。そして、かわして正解だった。

 飼い猫の剣は何も起こさなかった。様に見えただけだ。

 ビルの壁に薄い線を見つけるまでは俺は油断していた。その線は後で調べたらビルの中にあるマネキンやテーブル、柱や壁を関係なく通過していた。

 破壊ではなく、斬ることだけを追及した一撃。この手甲でも防げるか自信が無かった。


「フー・・・・・・少し熱くなってしまった。帰るとするか、羊そっちはどうだ?」


 羊と黒岳の戦いは苛烈を極めていた。高度な魔法戦だ、防御魔法を得意とする羊に接近を許した黒岳はだいぶ苦戦した様だが傷が多いのは羊の方だった。


「くっ、強いね! 当たってくれないし、魔法の密度が異常に高い。不完全にしても、余波を利用するなんてね。猫ちゃん、ごめん負けた」


 羊は笑いながら斧を落とす。

 その隙を黒岳はランスになったスタンロッドを突き立てるが、黒岳の身体に光の矢が大量に突き刺さった。

 だが、黒岳はその矢を気にも止めてない。矢は粉々になって砕ける。

 しかし、動きを止めて防御に入らないと行けなかった様だ。


「強いな。攻撃を当てるのすら難しい羊を倒すなんてな」


 現れたのは魔眼の闇鴉だ。


「よくやった。帰って休め、後は俺が引き受けよう」


 飼い猫が左腕に盾を出して俺と黒岳を相手取る。だが、黒岳も満身創痍だ。かなり痛手を喰らったな、凍傷になっている。


「さて、俺も長くは持たないか。とにかくお前も休んでおけ」

「お前を排除する」


 飼い猫は黒岳に盾の裏に仕組んでいた小型の流弾を高速で射出する。黒岳は防御するが、吹き飛ぶとビルの壁をぶち抜いていった。


「よし、三神翔太郎! 殴らせろ」

「くそ! 何なんだ!」

「飼い猫。戻りなさい」


 背後の声に飼い猫は動きを止めた。

 霧の中から現れたのは鋼夜の鬼だ。


「どうして?」

「殴りたい気持ちは同じですが、戦争でも始めるつもりですか? この場で殺す事は可能かもしれませんが、今はまだ、その時ではありません」

「はぁ、そうだな。君の言う通りだ・・・・・・でも、殺すわけじゃない。言うなれば、八つ当たりだ!」


 俺は不意を突かれて飼い猫にぶん殴られた。

 俺のパワードスーツを貫くほどの衝撃が俺の脳を襲った。俺が何とか見たのは霧の中へと去っていく飼い猫の後ろ姿だけだ。

 完敗だ、訳の分からないまま。猫狩り部隊は主力2人を抑えられたんだ。

 くそ、俺はどうやって強くなればいい?

嫉妬に猫が鳴く

抱き上げれば爪が来る

側に寄れば牙が来る

みゃー、みゃー、みゃー

鳴きながら当たり散らす猫の鼻先に


金の蝶が羽を休める

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