プロローグ
今回から三神サイドに視点を傾けます
1
俺は家のリビングでぐったりとソファに身体を沈めていた。最近は色々な事が一辺に有りすぎた。父さんの多忙ぶりに昔はイライラしたけど、なんとなく父さんの気持ちがわかったよ。
セフィラになった時も父さんはアメリカに行っていて会えなかったしな。日曜日の休みぐらいのんびり過ごしたいな、ヤバいこの歳でおっさんみたいな事言ってる。
だが、そんな事を同居人は許してくれないらしい。
「翔太郎! 私のヴァルキュリアだけど、改造するわ! テーマは考えてあるのよ? 動けば動く程速くってね!」
突然テーブルに設計図の様な映像が飛び出して来た。そこにはヴァルキュリアのブースターに四肢の装甲、胴体のインナーアーマーのデザインが浮かび上がっている。
美樹は相変わらずの天才っぷりだ。普通の魔法使いはこんな芸当を何もない状態から自分で組み上げれはしない。専用の魔具を買ってようやくこんな設計図は書けるのが普通だ。まぁ、これぐらいは俺も出来るが。
「ヴァルキュリア? 御堂に頼めよ。奴なら嬉々として改造してくれるぞ?」
「アイツは何か気に入らないのよ。物作りになると変態見たくなるし」
「あー、確かに。話が進まねぇ所か、やたらとピーキーな物を造るよな」
「それなのに強いのがムカつくのよね。だから、私の方で改造するわ」
「出来るのか?」
「オーダーのラボでならね。技術部の桜子と協力すればすぐね」
そう言う美樹は設計図をしまう。
「いきなり改造なんてどうしたんだ? 今のじゃ不具合でもあるのか?」
「あ、アンタのためよ」
「なに?」
「アンタ、一人で敵に突っ込んで行くから。私はアンタに魔法を教えているけど、強さはアンタが上。なんだが、荷物になるのは嫌だって思っただけよ」
「心配するなよ。大抵の奴には負けやしない、飼い猫は難しいけど」
「そいつよ!」
「は?」
「その飼い猫をぶっ飛ばす為にも、新装備がいるわ! 翔太郎、早速作りに行くわよ!」
美樹は叫ぶと俺の手を強く握ると、突然開いたゲートに俺を引きずり込んだ。
「おい! 俺は行くって言ってない!」
「なに眠たいこと言ってんのよ! アンタも付き合いなさい!」
「ちくしょう!」
俺はそのままゲートを通り抜け、ラボの床に頭を打ち付けた。
*
「いつかは来てくれると思いました。飼い猫様」
凶兆の蒼い月を背にして双葉は黒い霧にそう呟いた。その霧から硬質な足音と、身震いするような冷たい気配と共に一人の少女が現れた。
正確には顔には左のスリットから蒼い光を放つ仮面、服は猫の耳が付いたフード付きの上着に腰にはホルスターに納められた小瓶。体型は小ぶりで女の子のようだがかなりの貧乳で胸の膨らみはない。
だが、そのは姿は悪魔と呼ぶにもふさわしいほどの凄味をまとっていた。
「ずっと月を見上げていたからね。で? 僕をまっていたなら、何かあるの? 罠とか」
「そんな手は使いません」
「今日は少し暗いね。辛いことでもあった? でも、僕への敵意とかは相変わらず無いね」
「飼い猫様、人の命って簡単に消えるものなんですか?」
双葉は胸を抑えて叫ぶ様に死神の飼い猫へと問いかけていた。通りに転がった焼けた子供の手が脳裏に浮かぶ。目の前の死を人の形にしたかのような存在へ思いをぶつける。
「疑って無いの? 僕が焼いたかもって」
「貴女は、子供を殺す様な人じゃないです! 教えて下さい! 簡単何ですか、人が死ぬのってそんなに、簡単なんですか」
「簡単だよ」
飼い猫は即答していた。
双葉は驚愕に目を丸くする。
「殺すのも、死ぬのも簡単だよ」
「でも、あの人達は」
「あんな人々がいるから、警察やオーダーがいるんだよ」
飼い猫は双葉の隣に歩いて来ると夜の街を眺める。
「でも君は簡単だって思って、諦めたらダメだよ?」
「え?」
「それが嫌だし、助けたいから君は僕を追ってきたんでしょ? 僕は人殺しで、正義を語れない。でも君は違う、人を助けたいって心から言える」
「飼い猫様、私は怖いんです。助けられない方が多いんじゃないかって」
「怖い? 大丈夫。君には力があるし、優しい気持ちもある。それが君が正義を持ってる証明だよ、死ぬのは簡単だけど簡単にしちゃいけない。命って、脆いけど優しい人の魂ってしぶといし、悪い心と同じぐらい消えないし、色褪せないものさ」
飼い猫はそう呟くと大きく息を吸い込んだ様に見えた。夜明け前の蒼い空が広がっていく。
「綺麗・・・・・・こんな景色だったんだ。朝って」
「蒼を嫌わないんだね」
「飼い猫様の色ですから! それに、色は色です! みんな綺麗です!」
「ふふふっ、元気に戻ったね」
「え? あ、あれ?」
「君が猫狩り部隊にいるのは知ってるよ。でも、僕は君の事を応援しているよ」
飼い猫はそれだけ呟くと白い霧の中へと歩いていく。
「あ、あの! 私、負けません! 飼い猫様にも、お仲間の皆様にも!」
「僕もだよ、双葉」
飼い猫は霧の中に消えて行った。
「ふふっ、やっぱり憧れちゃいますよ! ん? あ、いま名前! よ、よ、呼ばれ! ひゃあああ!」
朝日が登る街にまた新たな1日が始まる。
人の命を財宝と呼ぶのなら、彼は宝の山で呑気に眠る子猫なのだろう
正義感があるのが人ならば、彼は人間になり始めた男なのだろう。




