ノーホープ 3
猫に化けた方が潜入は楽なんですね。
3
「かの卑劣な事件は、市民だけでなく! 街を護ろうとした警察官の命すら、軽々しく奪ったのです!」
街頭演説? 違う、これは生放送だ。街のモニターにも映し出された初老の男性は二人の若い男女の写真を握りしめて叫ぶ様に言葉を続ける。
「奴が街に現れてから犯罪の数は減ったかに思われるでしょう! しかし、それは違います! むしろ増えている! 人間として最も残酷な、殺人と言う犯罪が日常的になっている! それを英雄気取りで引き起こしている、死神の飼い猫を! 我々警察はこの街から駆逐します!」
男性が持っている写真を正明は見て驚愕した。それが本当の事なら、この街は終わっている。
写真の男女は、女性は撃ち殺された人物で、男性は正明が殺した男だった。この二人は警察官だったのだ。
「被害にあった若い二人は、デモ隊への潜入に携わっていました。未来のある二人でした・・・・・・男性は今月末には結婚を控え、女性は美しい花嫁になるはずでした」
正明はそれを聴いて、目の前が真っ暗になった。
どういう事だ? 何故、結婚直前の二人がデモ隊への潜入なんて危険な任務に就いて、どうして男が女を撃ったんだ?
「奴を許してはいけない。殺しを正当化する闇の魔法使いに我々警察が正義の鉄槌を!」
正明は悟った。
全て、罠だ。正明の元へ次々と仲間たちが集結してくる。
「正明! あれは」
「そうだ、やられたよ。俺が殺した男と殺された女は、騙されて巻き込まれたんだ。奴らは、始めからこのつもりで!」
立ち上がると、正明は未だに叫んでいる初老の男性を睨み付ける。
「まだ、確証なんてないけど・・・・・・これをやったのは多分警察だ。本格的に警察が介入して来るよ、連中は一般人の支持を取り戻すために人を殺した」
恐ろしい。
そして、そこまでさせたのが死神の飼い猫と言う存在なのだろうか? イカれている。そう正明は思っていた。力がある事がこうまでも人々を動かすものか。
「さて、挑発に乗るか・・・・・・乗らないか」
*
鳴神華音はニュースを見て難しい顔をした。正明が罪のない一般人、しかも婚礼前の二人を殺す訳がない。
被害者の中には子供も含まれていた。
全てが矛盾している。
華音はデバイスを開くと正明へ繋いだ。
「正明?」
(ニュース、観たんだ)
「これ、仕組まれてるよね? 私」
(男を殺したのは本当の事だよ。男が女性を撃ち殺した場面に遭遇して、男を僕が殺した。でも、デモ隊を焼き殺したのは別人。言う通り、この虐殺は僕達を陥れる為の作戦)
「だ、大丈夫なの!? 正体はまだ誰にも」
(一人の男にはバレた。遠山タケル、こいつには注意して、たぶん君も見張られている)
「え? 遠山君が・・・・・・彼は、これからは翔太郎君の側で行動するみたい」
華音は辺りを見渡す。念のために人払いの魔装を渡されている彼女はそれを発動しているが、かなり不味い。彼女はフリーで活動しているが、遠山も同じだ。しかし、今日は珍しく翔太郎の側にいる。
どうやらこれからは側にいてサポートするそうだ。
(そいつが何を考えているかは解らないけど、動きを見せたのが警察。陽動かもしれないけど、あのおっさんの言葉には焦りがあったよ、たぶん実行犯は連中だ。だけど、何が動いているかは解らない。用心して、僕達は変わらずに動くよ。敵は刺激しない)
「うん、気をつけてね。私もそうする」
デバイスを切ると華音は人払いを解除する。
オーダーはあの放送でも騒がしくなる事はなかったが、別の話題で騒がしくなっていた。
華音の視線の先には翔太郎とタケルが並んで話している姿があった。しばらく見なかったタケルが帰った事で翔太郎はうるさいのが来やがったとうんざりした顔をしているが、何処と無く嬉しそうではある。
タケルが居なかった理由は、正明達の正体を探るため?
たぶんそれだけじゃない。正明は深入りさせないために全ては話していない事を華音は知っている。あの男には恐らくだがコミュニティがあり、様々な人間と繋がっているのだろう。
「寂しかったか!? サイドキックが不在だとヒーローは辛いだろ!?」
「誰がヒーローだ! 俺はそんな立派じゃない」
「そう言うなって! これからは側にいるからよ! コンビで犯人追っかけようぜぇ!」
「うるさい奴だな。でも、お前の力は信頼してる。頼むぜ?」
「はははっ! イエッサー、ボス! んで? 副隊長が美樹さんか、まぁ知ってたけど。翔太郎とはもうしっぽりな仲?」
いきなりとんでもない事を言ったタケルの顔面に美樹の平手打ちが飛んで、彼は駒の様に回転して床に伏した。
「な、ななな! 何よ!? しっぽりって!」
「ひっぱたいたのに、意味知らないんすか? つまりはセッ! ぶへぇ!」
追撃の風弾を打ち込まれてタケルは黙る。
「そ、そんな関係じゃないわ! 師匠と弟子よ! 出来の良い弟子で助かるわ」
「美樹、タケルを殺すなよ? 勘違いしただけだ」
翔太郎がタケルを起こそうとするが、それよりも速くゾンビの様に復活した彼は翔太郎の耳元で囁く。
「ところで、お前女の子二人と同棲だって? やるねぇ、今度そのテクニック教えてくれよ」
「そんなのは存在しない。俺はモテないからわかんねーよ」
「お前、本当にモテない連中に殺されるぞ」
華音はその様子を見ていたが、何故かタケルだけが別の空間にいるような。切り取って来た遠山タケルを張り付けた様な奇妙な違和感。
そう、彼だけWELT・SO・HEILENの皆のような雰囲気を持っている。
そんなとき、翔太郎が華音に気が付いた。
「よう、華音」
「こんにちは、翔太郎君。最近、スキルの調子はどう?」
「暴走はもう無い。それに、毎日うるさい連中と一緒にいるんだ。慣れたよ、イライラは克服だ。薬も捨てたしな」
「良かった」
「華音はどうやって乗り越えたんだ? 最後のライヴで覚醒したって聴いているが」
華音は一年前の事を思い出していた。
正明達と初めて会った時期、一度失って、またもう一度友達になった時期。
そして、初恋の人が死に、もう一人への恋が始まった時期。
華音は翔太郎へと正明のイタズラっぽい笑顔を真似て、人差し指を唇に当てて呟いた。
「それは、秘密」
翔太郎が少しドキッとしたようだが、華音は変な勘違いをさせる前に「じゃあね」と言ってその場を立ち去った。
正明のテクニックは自分らしく無いな、と考える華音は足元に何かいると感じる。
見てみると、白い子猫だった。
「真紀ちゃん?」
「みゃー、ふみゃー」
「どうしてオーダーに?」
「にゃー」
真紀は直接華音に念波を送る。
(華音お姉ちゃんといろって、念のために私も用心した方が良いって言われて)
「そう? なら、パトロール行く? 授業は?」
(ハンゾーが化けて出てる)
「悪い子猫だね、ふふっ」
華音は子猫を肩に乗せると、事務所を出た。少し、街の様子を見ておこうと思ったからだ。
肩に乗る真紀は甘えたように喉を鳴らしてご機嫌のようだ。久しぶりに可愛い友達と一緒にいれて、華音も少し落ち着いて今の状況を受け入れつつあった。
濃霧の中へと引き込む手は主人を隠す
聞こえるは微かな子守唄
赤いランタンの火が輝く
先へ先へ
だけど足りないことを彼女は知る




