第二話 自称健全な人々へ
続きとなります!
楽しんで頂ければ幸いです!
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俺の懸念は大当たりだった。
オーダーの事務所はまさに一触即発、双葉が他の隊員に飼い猫の話題を振られて正直に感想をぶちこんだらしい。
「オーダーの隊員として、恥を知りなさい! 殺人犯を崇拝するなんて、巷に溢れる雑魚と同じよ!」
「私は考えを改めるつもりはないです。私は飼い猫様が持つ正義を私なりの方法で実現するだけです」
「それなら、貴女は危険因子ね」
そう言うと女子隊員の一人がライフルを双葉に向けて引き金を引いた。
嘘だろ!
俺は魔法を双葉を張って彼女を守ると、女子隊員のライフルに軽く拳を当てて封印術式で使えなくする。
「た、隊長!」
双葉以外の女子隊員達が一斉に俺へ敬礼を向ける。
「何の騒ぎだ?」
「はっ! その新人が、飼い猫を正義だと言ったので危険因子とみなし、攻撃しました!」
「仲間に銃を向けるな! 双葉がお前達に魔法を使ったか? 銃を抜いたか? いいか? 俺達はチームだ。疑わしきは、俺に伝えろ! 身勝手な私刑は許さん!」
俺は少し厳しめに叫ぶと、女子隊員達は萎縮して中には怖いのか震えている子もいる。銃の封印を解くと、「解散だ」とだけ言って女子隊員達を持ち場へと返す。
「双葉、来い」
「は、はい」
俺は双葉を隊長室へと呼ぶ。彼女は少し暗い顔をしていた。
「昨日の事は、解るな?」
「はい、飼い猫様のことでデモが起きたって」
「あれは、お前から見てどう思う? 仕方ないか?」
「あんなの、飼い猫様は喜びません! もし、あの行進で死人なんて出たら! みんな殺されます! どうかしていますよ、あの集団の思想は強い魔法を糾弾しろ。ですよ?」
俺はその返答に意外だなと、考えていた。
彼女は、飼い猫の正義は違うと考えている。
「双葉、飼い猫の正義ってなんだと思う?」
彼女は即答で返す。
「子供達に笑っていて欲しい、だと思います」
子供。そうか、飼い猫は子供は殺さない。
「誰も未来に生きる資格はあります。でも、子供達は? 守ってもらわないと、誰かに笑いかけてもらえないと、大人になれないんです。それが無惨にも奪われる悲しさを彼は知ってる様な、昨日会って始めて、あの仮面が泣いている様に見えたんです」
俺は彼女の言葉に深いため息をついた。
殺人鬼、魔法使いの天敵、なんて呼ばれているが奴は小さな子供は攻撃しないのか。
だから、子供がらみの事件で犯人を殺すのか。逮捕歴のない連中は堕胎した人間と、虐待の疑いがある人間。
もしかしたら、子供は奴に拐われて何処かに暮らしているのか?
「そうだな。奴は、正義ではないが・・・・・・何か目的があるそれに気付いていない奴らが多いだけだ。それが、何なのか?」
俺は考えるが、その答えは出ない。奴の思いや、記憶が覗ける訳ではないからな。
その時、手首の魔具からブザーが鳴る。どうやら、出撃のようだ。
「双葉、行けるか?」
「バッチリです!」
双葉が返事を返すと同時に俺はゲートを開いた。
現場は殺伐としていた。また、デモ行進だ。奴らが持ってる看板に描かれた猫、可愛くないなぁ。
俺は空中に開いたゲートからパワードスーツのブースターでその現場へと降りる。現状は警察とデモ隊の膠着状態って感じだな、皮肉にも警察の武力が連中を脅すには十分なのだろう。
だけど、みんな引いて行かないのはそれほどにデモ隊も意志が硬いんだろうな。
「オーダーだ、現状は膠着か?」
「ん? おぉ! あんたが高校でセフィラになった三神翔太郎さんか!? あんたが来れば百人力以上だ!」
「期待に添える様に努力するよ」
「まぁ、見ての通りだ。衝突はしていないが、困ったものだな力の無い者に救済をってな。力を持つことは罪、とまで言っていやがる」
俺はデモ隊の方を見るとやはり大声で喚いている。「飼い猫様の下に、我々は一歩も引かないー!」「力を間違った使い方をする奴らに正義の鉄槌を!」とか叫んでいる。やべーよ、見るからに精神がおかしくなってやがる。
「何を言っても無駄だな。だが、どうやって追い返すか」
「隊長! どうしますか!? あの人達、結構キレてますよ!」
飼い猫大好きな双葉が言うぐらいおかしいのか、俺がマスクに右手を着けて考えていると、突然ゲートが開かれ、その中から一人の人物が飛び出した。
手には日本刀、和風鎧をイメージしたパワードスーツ、体型から見て女の子だろう。そして、この雰囲気! 目が、心臓が疼くこの感覚は!
「飼い猫を正義とする者、我々の意に反する者どもよ。某の刀の錆となるがいい!」
「不味い! 双葉、来い! アイツ、デモ隊を殺すつもりだ!」
俺は叫んで空中の日本刀を持ったパワードスーツ、アクの強い奴だ。仮にスピリットとでも呼ぶか。
そいつに拳を撃つが、呼んでいたと言える動きで奴は俺の拳を回避すると流れる様に脳天に刀を振り下ろしてくる。
その攻撃は双葉が放った銃弾で弾かれた。
「双葉! 美樹を呼べ! こいつはヤバい! 俺と同じぐらいの戦力だと思え!」
「邪魔をするか、兄弟よ。致し方なし、貴様もついでに始末するか! 上位魔法一級魔術! 瞬間零度!」
突然辺りに爆風のような冷気の波が広がっていく。
「くっ! 双葉、よけろ!」
「えっ?」
デモ隊への冷気は俺の封印術式で防いだが、警察と双葉の方角にまでは届かない!
くそ! 火炎魔法を飛ばせばギリギリで冷気は防げるか?
「上位魔法一級魔術! 火論閉城!」
俺が何かをする前に、大量の冷気は炎の壁で相殺された。
誰だ? こんな魔法を簡単に使える奴、優等生でも一欠片ぐらいだぞ?
水蒸気が晴れた先にいたのは。
「ハァ! ハァ! ま、まにっ、間に合ったよ」
白い猫耳パーカー、小さな身体に、蒼い右目。
真紀!
「ぬ!? 某の魔法を防ぐ! やるようだ!」
「余所見の暇があんのか!?」
俺は魔力を込めた両手で接近戦に持ち込む。リーチがゼロの俺の拳なら手数で勝てる!
だが、それよりも奴は速い!
「温いわぁ!」
「っち! また強くなってねぇか!?」
「お前はさほど変わらんな? 以前から今まで寝て過ごしたか!」
何とか距離を取って戦いたいが、逃げれば一般人が巻き込まれる!
この場から引き剥がそうにも、突っ込めば首が切り落とされる未来しか見えねぇ。それに、変だ。
こいつに強化の魔法が消されている気がする。
「ん? 気が付いたか? 某のスキルに」
「お前、魔法を無効化しているな? 魔封じの身代わり羊も同じ能力だ」
「違う。奴は魔法を不完全にするもの、しかも、無効化するにも制限がある。某のスキルは決めた範囲内の魔法は全て効果を失う力。某が触れれば、約1分間は対象の魔法を使えなく出来る!」
そう言うと奴は俺のパワードスーツに触れる。
しまった! こいつの言うことが本当なら!
パワードスーツは機動力となる魔法術式を停止させて飛べなくなってしまう。
アスファルトに着地すると俺はパワードスーツを解除して急いで防御魔法を展開するが奴が近づくだけで分解されてしまう。
スピリットを中心に広がるサークルが見える。あれが効果範囲だろうが、あんなのは意味がない。とにかくサークルの中に魔法が入れば奴意外の魔法は効果を失う。
くそ、俺の力も大分ズルいと思ってたが奴も大概だ!
「どんな強力な力だろうと某には無力! 早速一人!」
「くっ!」
「そう言う時は」
背後からの声に俺が反応するより速く、スピリットの日本刀がアスファルトに沈んで行った。
「なに?」
「どうも、椿さん」
「貴様は! 鋼夜の鬼」
俺の背後にいたのは漆黒の鬼をイメージした仮面に、軍服のコートを着て両手には凶暴な手甲を着けた、鬼の姿があった。
そして、万雷の拍手と喝采が響いた。
デモ隊の人々が彼女の姿に興奮しているのだ。
「どうやらスキルは消せないようですね」
「それが、なんだと!」
「私は主にスキルを使って戦います」
ゆっくりと椿と呼ばれたスピリットに鬼は歩んで行く。椿は斬りつけようとするが、重いのか思うように振り回せないようだ、その隙を突かれて一方的にぶん殴られた。
まるで車にでも跳ねられた様に吹きとばされると、椿は必死に構えを整える。
「っ、ぐぅ! 貴様!」
「この場で引導を渡します」
「舐めてもらっては困る!」
椿は咄嗟に大量の氷塊を飛ばす。俺は鬼の隣に並ぶと、炎のカーテンでその攻撃を防ぐ。
水蒸気で辺りが煙って、晴れた頃には椿の姿は無かった。逃げた様だな。パワードスーツの装甲で今の鬼と同じ様に戦えば良かった。
「逃げましたか、私の装備と能力では追えませんね。オーダーの隊長、後は任せますよ?」
「待て、お前。この騒ぎに関係しているのか?」
「騒ぎとは? 私は知りません」
そう言う彼女とは裏腹に、デモ隊が俺と鬼を取り囲んだ。
「やはり来てくれましたか! 信じておりました!」
「鋼夜の鬼! 死神の飼い猫様の右腕を務めるお方!」
分かりやすく鬼は首をかしげる。多分この仮面の裏では困惑していることだろう。
「私が右腕? 冗談じゃありません、あれがリーダーとは認めませんし、私も右腕になりたくはありません」
「私、死ぬのかな? た、隊長! 鋼夜の鬼ですよ! もう、昨日は飼い猫様に出会えて、今日は鬼様!」
あー、ダメだ。双葉も興奮していやがる。
「ん? あぁ、猫が話していた娘ですか。確かに、磨けば良い女性になりそうですね」
「き、恐縮です!」
「成る程、鍛え方も上手い。パワーはありませんが、バランスが良いしなやかな仕上がりですね」
そう言うと鬼は双葉の身体を確かめるように触り始める。
「近接戦と中距離戦に強い感じです・・・・・・しかし、もう少し腹筋を鍛えた方が身体軸のブレが無くなるはずです」
鬼は双葉のお腹に手を添えてアドバイスしてる。お前はインストラクターか。
双葉は感涙までしている始末。
「鍛えたかいがあった、です」
「まだまだ。期待しています、未来の天敵に」
そう言うと鬼は彼女の頭を撫でると、なに食わぬ顔で帰ろうとする。が、周りの人々が鬼へすがるような姿勢を見せる。
「鋼夜の鬼様! なぜ力ある者に!?」
「力が強い者は糾弾されるべきです!」
そのセリフに、鬼は一言呟いた。
「なら、私を殺すことですね」
彼女は黒い霧の向こうへと歩いて消えて行った。
辺りはデバイスで様子を撮影する若者や、双葉の様に興奮する人々。警察も捕まえようとしていたが、デモ隊に押さえ込まれていた。
カリスマ、とでも言うのか? 彼女にはついて行こうとする人間が必ずいるであろう凄味がある。
もし、もしも、飼い猫の仲間全員にあんなカリスマ性があるのなら・・・・・・この連鎖は何処まで行くんだ?
「隊長、私・・・・・・頑張ります!」
「双葉、奴らとも戦うんだぞ?」
「勿論です! 全力で戦います! そうしないと、あの人達に嫌われてしまいますから!」
俺はため息をつくと、消えて行った鬼の背中を思い出していた。
哀れな二つの命は半分を尊ぶ
片や生きる日の光、片や死の月の光
彼女は、下す私は行くと
彼は手を振る
僕とは違う未来を描きなさい




