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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
死神の飼い猫は正義なのか?編
70/289

6年前の夜に 3

正義は、正気を失って悪になる。

3


 昨日の飼い猫との会話の後に、街でまた騒ぎが起きていた。どうやら不満を爆発させた魔法が苦手な人々のデモ行進がテロレベルにまで膨らんだらしい。

 死者は出なかったが、その理由が最悪だ。

 飼い猫を除いたスペクターズが場に現れた。ただ見ていただけだ、なんか騒いでいるから見に来ましたって感じでな。それを見て暴徒は暴れるのを止めた代わりに祈りを捧げ始めやがった。まるで救世主を祭り上げる邪教徒の様だった。

 鳥肌が立ったよ、不気味過ぎてな。スペクターズは何かをお互いに話し合うと散り散りになって去って行った。それで、観衆は大喝采。後は世の中への不平不満を言いながら警察へと連行されて行きやがった。

 そして、その影響はすぐに俺の元へと襲い掛かって来たんだ。


「警察とオーダーへのバッシング?」

「そう、それが問題になっているわ。警察とオーダーは縛りが多いから解決出来る事件や、やれることも思い切った事は出来ない」

「つまり、飼い猫達の正義に皆が流され始めているって訳か」

「そう言う事ね」


 俺は学園のテラスで美樹と飼い猫の記事を見ていた。最悪にも肯定的な意見が大多数だ。

 殺人が誉められた事になる。これは飼い猫すらも良いとは思ってないだろうな。最も、案外楽しんでファンサとかしそうなのが悲しいが。

 俺は飼い猫を殺人犯で、危険な魔法使いだとは思っている。少なくとも、魔理の両親が死ぬ遠因を作った事は許せない。だが、美樹を救ってくれたり、戦いかたを教えてくれたり、本当に罪のない人間は殺さないだけでなく守る。俺もコイツのお陰で人殺しにならなくて済んだ。俺がスキルの暴走を何とかコントロール出来るのもコイツが立ちはだかってくれたからだ。

 奇妙な連中だ。

 犯罪歴のない女性が殺される事件も起きているが、その殆どが堕胎の経歴のある人々だ。つまりは、法律では触れられないが人を殺している。

 その他にもいじめでクラスメートを自殺に追い込んだ奴らも行方不明の後、精神を魔法で操作されて見つかっている。最悪なのが感情、自己顕示欲や嗜虐心って言う感情がぶち壊されて罪悪感を増強させているのだからヤバい。おまけに自殺できない魔法、いや、呪いを付けているおまけ付きだ。そいつらは一生を罪悪感と悔やみの中で生き、毎晩自殺した奴の夢を見るだろう。


「アイツは、本当に人を殺した奴を殺している。殺していなくても達の悪い奴は精神をボロボロにして腕か脚をへし折っているんだろ?」

「ふん、義賊のつもりか解らないけど。私にとってはただの化け物よ! お父様や、お兄様も奴に殺された。あの二人は、法で裁いて欲しかったわ・・・・・・あんなことになる前は、お父様はまともな人だった」


 美樹は隠せない憤る気持ちを俺に向ける。彼女の父親は、そうか奴に殺されていた。

 遺体は無造作に転がされていたようだ。そして、彼女の兄だった魔力強奪犯は誘拐されて行方不明。

 殺された可能性が高い。


「奴は人殺しよ。正義なんかじゃないわ! 勝手に裁きを下して、神のつもり?」

「それは解らねーが。奴らは、スローガンなんか掲げてなんかいないだろうな。飼い猫だけじゃない、鋼夜の鬼、境界の人狼、九群の化け狐、魔医学の兎、魔眼の闇鴉、魔封じの身代わり羊。アイツらは全員がそれぞれの恨む者だけを殺している」


 連中はまとまっているが、何処かでバラバラだ。

 俺は何回か連中と戦った。そのなかで気付いたんだ。アイツらは一人一人が独立していて、繋がっている。お互いが抑止力で、お互いが頼りになる武器。

 その中で飼い猫が目立っているだけだ。

 実際には、飼い猫以上に仲間達の方が強いかもしれない。


「どうでもいいわ。こっちにはセフィラが要るんだもんね」

「実際には何が変わったのやら。俺にはさっぱりだ」


 俺は手元のコーヒーを一口飲むと一人の女子生徒と目が合った。青いネクタイ、劣等クラスの生徒だ。スラッとした体格に綺麗な黒髪をポニーテールにまとめている、あの長さは縛らないと腰まで髪の毛がありそうたな。瞳は由希子と同じように硬い意思を感じさせる魅力があり、一言で言うならダイヤモンドのような女の子だ。

 なんで、優等クラスのエリアにいるんだ?


「ん? どうしたのよ」

「いや、なんで劣等クラスの女の子がいるのかなって」

「え?」


 美樹が振り替えると視線の先には彼女はいなかった。あれ? さっきまでいたんだけどな。


「おかしいですか? 劣等生がこんな場所にいて」

「っ!?」


 突然の声に俺は思わず手甲を召喚してしまう。


「怖がらないで下さい。私はそこまで魔法が得意ではありません」


 いつの間にこんなに距離をつめたんだ?


「オーダーの隊長。三神翔太郎さんですね?」


 あれ? この子、何処かで会ったか? なんか、初対面では無いような。


「そうだ。君は何でこの場にいられるんだ? 劣等生なのに」

「呼び出されましてね。少しだけ居ることを許されました。この前、私の友人が仲良くなったと聴いたので」

「友人?」

「アホで、犬っぽい。やけに素早い女の子です」


 プールで会ったあの子か!

 その言葉を聴いて美樹が舌打ちをしている。


「彼女はアホなので、何かご迷惑はかけませんでしたか?」

「気にしないでくれ、彼女には助けられた」

「ねぇ、劣等生。死神の飼い猫をどう思う? 正直に答えなさい。オーダーの目の前で」


 突然、美樹が意地の悪い質問を彼女に飛ばした。

 ポニーテールの女の子は顔色を一つ変えずに即答した。


「ただの人殺しです」


 そこには何の感情もない。普通に答えたようにしか感じられなかった。


「へぇ? 人殺し? 人を助けてるわよ?」

「あの殺人犯を応援するように仕向けて何になります? 下らない遊びに付き合わせるのは辞めて下さい」


 美樹は鼻で笑うと、彼女も、「では」とだけ言って去って行った。

 

「おい、何もあんなこと」

「あの女。なんか、気に入らないのよね。あなたがいなければ決闘を申し込んでたかも」

「それは止めておけ」

「なんでよ?」

「確実に負けるぞ」


 俺の言葉に美樹は分かりやすく表情を不快なものにした。


「私が劣等生に勝てないって言うの!?」

「彼女、相当鍛えているな。多分、魔法よりも速く拳が飛んでくるぞ? 美樹は格闘は苦手だろ? 相性が悪すぎる」

「何で解るのよ」

「身体を観ればわかる」

「このスケベ!」

「はぁ!? 観察だ! 観察!」


 そう言いながらも去って行く彼女の背中を見て、俺はやはり始めて会った気がしない感情にとらわれていた。

 不思議な魅力がある。正明や真紀、プールで出会ったあの子、そして彼女。

 何かを背中に背負っているような、昔の父さんもあんな雰囲気を持っていた。



「あのスタンロッドの男は現時点ではオレ達の中でも最強だ。純粋な力や未来性は三神翔太郎が最強だが、あの男は繊細な強さがある」


 巧はタバコを咥えてそう言うとため息と一緒に煙を吐き出した。その腕には一匹の兎が抱かれていた。垂れ耳で眠そうな顔で鼻と口をモソモソと動かしている兎は大人しく彼女に撫でられている。


「もう解放してあげたら? アイリスはその姿で眠ると中々起きてくれなくなるの」


 加々美がそう言うと巧の腕から兎、アイリスを取り上げる。だるーんと力を抜いた兎は可愛いが、中身が中身だ。

 兎は床に落ちると人間の姿へと戻った。


「中途半端に、眠い」

「ったく、オレが可愛がってたのに」

「で? そのスタンロッドが何?」

「そうだな、奴とは近い未来にまたぶつかるだろう。その時は、オレがスキルを使うしかないな。プールで出会った時、奴はオレが一番殺し易いと言った。貸しを返してやる」


 アイリスに催促されて巧はそれだけ言うと開き教室を出ていった。

 巧の後ろ姿に不安な感じを隠せていないが、加々美は机に腰掛けると昨日の事を思い出していた。


「アイリスは、どう思う? 昨日の、アレ」

「・・・・・・私達、神格化、されてるのかも」

「かも、じゃなくて確実だよね。正明がシンボルみたいだけど」

「アイドルグループだったらファンサしちゃうのになーって、思ったり?」


 沈んだ雰囲気の中に宗次郎が窓から入り込んで来た。彼自身はそこまで落ち込んではいないみたいだ。


「宗次郎は平気? 勝手に神格化されて、掘られるよ?」

「なんで!? 関係ないだろ! さてはそこまで落ち込んでないな? 加々美、いつもの嘘か!」

「ちっ、バレちまっては仕方ねぇのぉ。ファンサって何すればいいかな!? 脱ぐ?」

「脱げぇ! 良いぞ!」

「わかった」


 加々美はそう言うとすんなりと上半身だけ下着姿になる。


「だれが今やれと言ったか、スケベ狼」

「あれぇ? 照れてます? 宗次郎ともあろう人が私の下着姿でオッ起したのかねぇ?」

「服を着ろ! 今は脱ぐな! 誤解されるから!」

「大変だー、変態だー、友達が穢されるー。見切り発車の、エロ同人の様に」

「兎! やめろ!」


 宗次郎がアイリスの顔面をぶにゅっと両手で押しつぶす。

 加々美は服を着ると笑いながら黒板に自分のサインを練習する。そこには大雑把な書体で、天道と書かれていた。


「ねぇ、このサインカッコよくない!?」

「いや、本名! それはダメだろ! それなら、少し絵も交えて」


 宗次郎は鳥の絵をサラッとかいて大きく「鴉」と書く。


「うお、カッコいい。ズルいな、狼って難しいよ」

「私は、こう」


 アイリスは可愛い兎の絵の隣にラビットの英単語を書いている。


「いいなー! 私は思いっきり和風に転ぼうかな? いや、どうだろう。私ってどんな感じ?」

「ネオンサインっぽくしたらどう? キャラに合うんじゃない?」


 そんな話で盛り上がっていると。


「お、お前ら。ホントに緊張感の無い連中だな!」


 戻って来ていた巧が顔を抑えて三人を見ていた。


「へぇ? 緊張感の無い? なら行こうか、稽古にでもさ」

「稽古? 似つかわしくないな。お前達は実戦で強くなったんじゃないのか?」

「実戦? それもあるけど、俺達は真面目に訓練して戦えるようになったんだぜ? 最初は正明も全く頼りにならなくてさ、情報漏らしてWELT・SO・HEILENに乗り込まれた事もあるんだぜ?」


 そう言うと宗次郎はゲートと言うよりは霧を発生させると、その中へと消えていく。それに続いて加々美とアイリス、巧もそこを潜った。

地を揺らす軍靴の音

心を撃つ銃が構えられた

立ち上がる民衆

構えられた冷たい銃口は

容易に標的を変えるのだろう


ただいまが懐かしく感じるその日まで

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