第一話 6年前の夜に
モービル再登場
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街での騒ぎは最早一種のBGMの様なものだ。オーダーに入る前は特に意識していなかったが、こうもいざこざが多いとどうした物かと考えてしまう。
俺は新人を連れてその現場に赴いていた。
ケンカだろうか、低レベルな魔法が飛び交っていやがる。
「この程度なら、あの人が来ることはないと思います。殺しの現場ではないので」
研修ってことで双葉を連れてきたが、相変わらず奴の事を話している。確かにあの程度なら飼い猫が入り込んでは来ないだろう。
だが、奴は神出鬼没だ。
「さて、アホを片付けますよぉ! 粛清します!」
双葉は走り出すとケンカする男の間に防御魔法を張って割り込んだ。
「ストップ! ケンカは迷惑です、今すぐ辞めて話し合いをしなさい! 私が仲裁役をするのです」
「うるせーぞ! チビッ子!」
頭に血が登った男が殴りかかろうとするが。
「カウンター!」
技名を叫んで双葉は男に蹴りを叩き込んだ。こら、スカートでそんなに脚をあげるんじゃない。
「オーダーだ。ケンカはそこまでにしろ、何が原因だ?」
俺がコートの紋章を見せてそう言うと、ケンカをしていた男は大人しくなったが、何か妙だな。
「おい、何が原因だ?」
「こいつが死神の飼い猫を人殺しの化け物って言いやがったんだ! 彼女はヒーローだ! 警察が何をしてくれるんだ。お前達オーダーも! 悪人の人権ばかり大切にしやがって!」
あっ、なんてタイムリーな。
俺は双葉を見ると、彼女は瞳を輝かせている。同士を見つけたオタクの目だ。
だが、もう一人の奴も言い返す。
「ヒーロー? 正気か!? あんなに恐ろしいスキルと魔法を操る奴を野放しにする方がおかしい! もし、一般人へと矛先が向けば何人も死ぬぞ!」
「あの人はそんな事はっ、むご」
俺は双葉の口を塞ぐと場をつくろう。
「個人の思想はそれぞれだから否定はしない。だが、それを理由にして怪我人が出る恐れがあるケンカをするのは危険だ」
俺の言葉に連中は無言になるとばつの悪そうな顔をする。この場は警察の厳重注意が一番だな。
駆けつけて来た警察に後を任せると俺達は再び学園へと戻る。
「なんで止めたんです!?」
「白熱したら飼い猫否定派が更に怒るだろ? 中立の立場にならないとな」
「そうですけど」
「現に、否定派の意見は正しい。大きな力がどんな形であれ、人殺しに使われている。しかも、罪は奴の匙加減だ。少しでも後ろ暗い連中は気が気じゃない」
「悪い奴は、力の無い人を悪意で追い詰めたり殺したりする連中ですよ。助けてくれる危ない力を否定して、自分達はなにもしない。私は嫌です、だから強くなったんです」
難しいな。間違っていないし、正しいと胸を張れる事でもない。
怯える人々を責められないし、戦えるから正しい訳でもない。俺は戦えるが、戦えない人々は持てる武器は何でも使わないと立っていられないんだ。
「私は人殺しはしませんよ。でも、悪人は許しません! 弱い人間を一方的に殺す奴とは誰とだって戦いますよ!」
双葉がそう叫んだ時だった。何かを感じた、と言うより、聴いた。
「この音・・・・・・モービル?」
「おい、おい! 冗談だろ?」
俺が顔を挙げるとビルの間を高速で突き抜けていく化け物モービルが目に入った。
あのモービル、つい最近見たものだ。
「うわー、凄いですね。あんな魔具扱うなんて相当お金持ちです」
「双葉。先に帰れ」
「なんでです? あのモービルがどうしたんです?」
「あのモービルは兵器だ! 戦ったらお前だと死ぬぞ!」
俺はパワードスーツをまとうと飛び立ち、モービルを追いかける。
直ぐに見つけるが、以前の物とは変わっているな。武装が1つもついていないし、なんだか全体的にゴテゴテした見た目でなくてスタイリッシュな外装になっている。
ん? 兵器ってよりは乗り物っぽい?
「おい! そこのモービル! 止まれ!」
モービルは案外素直に止まると方向転換して俺の方へ向いた。コックピットに乗っていたのは。
「翔太郎君か、どうしたの? 僕はこれから遊びに行くんだ」
死神の飼い猫だった。この前の様に鎧姿じゃなく、仮面になんか、私服姿だ。半袖の猫耳パーカーに七分丈のズボンと言う動きやすそうな格好だ。本気で遊びに行こうとしていたのか?
女の子の身体に怪物の顔が張り付いた様な仮面が不自然な感じを助長していやがる。
「お前、バカなのか? こんなモービルを走らせたら目立つに決まってるだろ?」
「カッコいいでしょ? こんな良いものなのに四千万円で作れたよ。安いよね、どうやって安くしたかは聴かないでね」
「四千万円!? お前は感覚がズレた金持ちか! でも、安いのか?」
「パワードスーツの相場知らないの? 一台で億は下らない代物だよ? 君のスーツは僕の手甲が制御ユニットとして君の体の中から召喚するから膨大な魔力で済むけどね」
確かにパワードスーツは高い。
ヴァルキュリアの製作も実はコスト削減の意味もあったのかもしれないな。
「あ、あぁ! あ、あなたは・・・・・・もしかして」
俺は後ろからの声に顔を青くした。
「し、しししし、死神の飼い猫さま!」
「ん? 様? なんだか、変な女の子だね。人殺しを様なんて」
「やっぱりだ! 会いたかったんです! もう、大ファン過ぎて朽ち果てるようです!」
「・・・・・・僕行かなきゃ」
明らかに逃げようとして、飼い猫はモービルを反転させるが俺よりも速く双葉がモービルに飛び移った。飛行型のヴァルキュリアじゃ無いのに飛んでいたのは自前の飛行魔法のお陰だろうな。
だが、武装していないがそれな巨大モービル。加速力は怪物の域だろう、そんな所にしがみつくのは危険だ。
「待って下さい! 探してたんです! 遠目からは何度も観ましたし、それに6年前の夜に会ってるじゃないですか!?」
6年前? アイツが10歳の頃? 幼なじみなのか? それにしては出会ったばかりのような雰囲気だ。
てか、飼い猫は何歳なんだ? 見た目は16歳か、いや? 身長のせいでもう少し幼く見える。
「6年前の夜・・・・・・あの、女の子? 両親とはぐれて泣いていた。旅行で来ていて、はぐれたって言う」
「アタシの事、覚えて・・・・・・う、うええええん」
「泣かないでよ! 加速出来ないよ!」
「だって、忘れているって思ってたから・・・・・・鎧は着てないんですか?」
「もう、僕はそこの翔太郎君が恐いんだけど?」
「大丈夫です! 邪魔したら股間を蹴ります!」
「おい!」
なんてやつだ! このバカ、殺すとかじゃ無くて的確に戦闘不能にする方法を言いやがって!
飼い猫はため息を吐くとモービルを止めると空中に泊まった。
「迷子がこんなに大きくなったとはね。僕も嬉しいよ、でも僕を尊敬したらダメだよ? 人殺しは」
「しません! あなたの嫌悪する人間には決してなりません! アタシのプライドに誓って!」
「よし、良いことだよ」
「あ、あの、不躾ですが、よ、鎧の姿も見せて下さい・・・・・・で、でも! 面倒なら! いいんです! アタシの記憶はそのお姿から始まっているので、あっ」
飼い猫はいつの間にか鎧の姿になっていた。
小さな飼い猫とは似てない巨大な鎧の男。身長、2メールはあるぞ? あの鎧姿。
「この姿を好きとは、変わった娘だ」
双葉は号泣して飼い猫を見上げている。俺は双葉の後ろで飼い猫を睨み付ける。
それに気付いた飼い猫は指を弾く。
すると、視界が別の場所に変わる。
「近くのビルの屋上だ。立ち話、いや、浮き話もなんだからな。それにこの娘は腰を抜かしている様なのでな」
「うぅ、死神の飼い猫さま」
「泣くな、あの日と同じように手を引かれる程子供ではあるまい?」
飼い猫はそう言うとモービルから降りて双葉の前に膝を着くと頭を優しく撫でた。まるで父親のようだが、その姿に、双葉が言った魔王の姿を重ねた。
そうだ、まるでこの姿は魔王だ。
「もう、頭洗いません!」
「女がそんな事をするな。美しくあるよう努力しろ、お前には立派な大人となる責任と自由がある。泣いてばかりの自分と決別し、余裕の笑顔を浮かべる女性となるのだ」
なんだか、性格も変わるな。じっくり観察すると、本当に何人もいるみたいだ。
双葉は洗礼を受ける信者のようになってる。
「はい。あ、あの!」
「ん?」
「あなたは、その・・・・・・男の人なんですか? それとも、女の人」
「両方だ」
「えぇ!?」
「ふふっ、冗談だ。好きに考えろ、教えないことにしている。ではな、俺はこれから」
そこまで言うと飼い猫は小さな姿に戻る。
「遊びに行って来るから!」
女の子の声に柔らかな口調。
双葉はまだ何かあるようだが、飼い猫はモービルに飛び乗ると凄い速度で空へと消えて行った。
「あぁ! どうしよう! 頭! 頭撫でられた! もうダメ! 尊死する! 尊死しますぅ!」
「落ち着け、また会える。奴はいつも、オーダーをからかいに来るからな」
俺は幸せそうな双葉をみながら、こんな感じのファンが増えてるのかと思うと少し、ゾッとした。
思い浮かばねぇ!




