プロローグ
死神の飼い猫を指示する人間の風当たりが強ければ平和なのでしょう。
*
魔王。
かつて、と言ってもとんでもなく昔だ。まだ、人間が魔法を使えなかった時代と使える様になった時代を跨いで存在していた最強にして最悪な魔法使い。
蒼の魔王、蒼の魔法使い、蒼炎の大陸を築きし者なんて呼ばれていた様だ。
この世界は魔法を人間が使うようになってから、千年近くもの間全く技術が進化しなかった。それは魔王が紅の英雄に倒される時に放った呪いのせいであると言われている。
そして、その魔王が現代に甦った様だ。
目の前にいるツインテールの話によれば。
「オーダーにようこそ。でも、なんだって? 飼い猫が、魔王?」
「そうです。彼、彼女? どう呼んだらいいかわからないけど、死神の飼い猫こそが現在に甦った魔王です!」
俺は新人の室井 双葉の発言に頭を悩ませていた。よりにもよって殺人鬼の大ファンがオーダーに入って来るなんてな。昨日の夜にすれ違っていた時点で気付くべきだった。
「首にするわよ、翔太郎。危険な奴に違いないわ、飼い猫を崇める奴は沢山いるけどそれは殆どが犯罪者。危険因子よ」
「まぁ、こいつ自身はまともな方だ。犯罪者を殺そうとか、そんな事は考えていないらしい」
「でも、いつ殺しをしたいと言い出すかわからないわよ!?」
美樹がそう言うが、この双葉自体は人殺しでもなければ、過激な狂信者と言う訳でもないようだ。なんと言うか、マジなファンとでも表現するのか? 兎に角、悪人ではない。
「アタシは死神の飼い猫が嫌悪する無益な殺人をしません! 死神の飼い猫が嫌う人間になりたくないからオーダーで悪を粛清するのです!」
「ヤル気は良し、だがその趣味はあまり話すなよ? 隊員達は奴を嫌っている」
「本日付で、この室井双葉! 尽力させて頂きます!」
俺はその言葉を聴いて、書類に判を押した。
*
深夜に月を眺めながら正明はぼんやりとあのスタンロッドの男の事を考えていた。
(奴が選ばれた鎧の部位は胴体。防御と、身体強化の要だ。それにアイツのスキルはなんだ? 使った様には見えなかった。アイツは遊んでいただけだ・・・・・・本気で殺そうとしていたなら翔太郎は死んでるし、もしかしたら俺が殺されていたかもな)
罠としてあえて見せていた隙を突いてこなかったあの男に正明は強い警戒を覚えた。
だが、そんな事を考えても彼らが行う事は変わらない。
今夜も犯罪者を狩る。標的は
(正明! タイミングバッチリ! 飛べ!)
「わかった、ぜ!」
デバイスから入った声に正明はビルを飛び降りると、真下を走る高級車に着地する。もちろん魔法で衝撃は逃がしているので中の人間は彼に気付いていない。
「野火が覆いし平原よ、床を叩く馬の蹄に逝く先の幸を怨み、一人家に帰したまえ、残りし者に後ろの闇を見せよ。煌めきを喰らえ、上級魔法一級魔術 火論閉城」
その瞬間に車を蒼い炎が取り囲んだ。それは結界、車は炎の壁にぶつかるとまるで鉄の壁に衝突した様にひしゃげて止まった。
車の中には運転手と、男が1人。
標的は男の方だ。運転手は正明が作った防御魔法で無傷だ。
「ひぃ! し、死神の飼い猫」
「自己顕示は大切だ。だが、それは自分が潔白な場合に限る」
正明はそう言うと男を魔法で車から引っ張り出す。
「た、助けて! 人なんて殺してない! 本当だ!」
「でも死には追いやったろ? ふざけた欲望でな。あの世で彼女に、よろしくな」
正明は無造作に炎の壁へと男を放り投げる。すると、男は何かを言うまえに炎に包まれた。喉を焼かれ、叫ぶことも出来ず彼は燃え尽きた。
正明は男に乱暴され、自ら命をたった少女の写真を指でなぞって呟く。
「おやすみ。もう、悩まなくていいよ」
飼い猫のいつもと変わらない日常がまた始まる。
蒼い火を見た。
10歳の誕生日に、窓の外
綺麗な火の粉が星の欠片に見えた
突然しぼんで、降りてきた
小さな子猫、金色の光に
蒼い瞳の君




