手綱を猫が噛む 3
僕が彼のライバルになる
3
一般人への被害もあくまで最低限って感じだな!
巻き込まれたり、逃げ遅れもいる。あのゲートも沢山あるが脆い様で簡単に連中の魔法で閉じられているな。
俺はエリアごとにテロリストを撃墜して、施設内を飛び回る。こいつらは大したことない。途中でも隊員の女の子達が避難を手伝っていたが、ヴァルキュリア無しでも戦えている。
「この前のパワードスーツなんかで来られたら死人が出てたかもな」
「飼い猫がこの事態を引き起こしたと思う!?」
「うお! ビックリした、美樹か」
「あの真紀? とか言う娘、何処かに行っちゃったわよ!? 薄情な奴ね」
「いや、あの子は戦えないだろ? 逃げてもらった方が動きやすい。薄情っぽいけど正しい」
真紀はまたするりといなくなっていた。器用な子だな、まぁそこまで強かなら生き残れる。
「でも、このテロリスト達。弱いわね! なんか、拍子抜け」
そう言う美樹の背後から強力な魔法が飛来してくる。俺は彼女を身体の影に隠して防御魔法で攻撃を防いだ。この防御魔法も美樹に教えてもらった。
俺は魔法をすぐに使えるが、教えてもらえればそれを数倍の威力とクオリティで放てる。劣等クラス時代は隠すのが大変だったな。
「油断するなよ、師匠」
「っ、ふん! 防げてたわよ」
顔を赤くしている所を見ると悔しがっているな? それよりも今の魔法はそこいらの雑魚が撃てるものじゃない。
俺はパワードスーツのマスクで辺りを探すと少し離れた所に人影を見つけた。
奴は!
「兄弟! 元気か!? 俺はご機嫌だぜ、ここ楽しいな!」
「サイサリス!」
俺は魔法を腕にまとう。たぶん封印術式だと思う、俺はこの魔法は無意識だからな。使いこなせるか不安だ。
「おーっと! 俺を殴るのか、怖いねぇ!」
「無論だ! 飼い猫がお前を逃がした様だな!」
「あ?」
サイサリスは首をかしげるが、俺の急降下に微動だにせず代わりに何かが俺と奴の間に割り込んだ。
「なんだ!?」
俺は動体視力でそれがなんなのか理解した。
子供だった、子供が両手を広げてサイサリスを守るように立ちはだかったんだ!
「くっ! あぶねぇ!」
「体勢にご注意だぜ?」
体勢を変えた俺の身体にバスケットボールぐらいの火球が撃ち込まれる。身体にダメージは無いが、爆発した衝撃で俺はド派手にプールへと落ちた。
「翔太郎!」
美樹がかけよってくれるが、俺は身体を起こしてサイサリスを睨み付ける。
「よしよし、良いぞ坊主。さっき助けてもらった兄さんが本当はあんなにヤベー奴だったなんてな。怖いなぁ、兄弟?」
「鬼畜が、子供をスキルで・・・・・・さっきのも観てたのか」
よく見たらウォータースライダーで助けた男の子だ。最低な奴め、あの子の両親はもしかしたら。
サイサリスは虚ろな目をした男の子の頭を撫でながらニヤニヤとした顔で腰から銃を抜くと容赦なく俺を撃ってきた。美樹が防御魔法を張ってくれるが
「防ぐな、このガキが死んでも良いのか?」
「っく!」
「美樹、大丈夫だ。俺を信じてくれ」
サイサリスは満足そうに俺に再び銃撃を見舞ってくる。パワードスーツは俺の魔力でガチガチに固めてあるから防御力はそこいらの魔法や武器じゃ通らない。桜子と一緒に改造したんだから間違い無い。
やられっぱなしと思うなよ!
俺は身体を動かさずに魔法を発動する。それは物を浮かせる簡単な魔法。劣等クラスの連中でも簡単に出来る魔法だが、俺が使うと立派な凶器になる。
「ん? なんだ? 引き金が引けねぇ!?」
「浮遊魔法。それは出力が弱い念動力魔法の事だ、俺の魔力量で使えば人間を捻り潰す事だって出来るんだぜ!」
サイサリスの身体を持ち上げると俺は勢いよく建物の壁に叩き付け、男の子をこちらに引き寄せた。
「凄い、魔法の威力と規模がいつ見ても規格外だわ」
「そんなことより、この子をどうする!」
「バカめ、お前の記憶力はニワトリか」
突然の声に俺は反射的に拳を放っていたが、あらかじめ向けられていた銃口? から放たれたビームの様な魔法で俺は身体を男の子から引き離された。
魔法陣を組みながら体勢を立て直すとそこには紫色のパーカー。といっても装甲の様な、近未来的な様子の死神の飼い猫がたっていた。
左目の蒼い光、こいつは何処にでも現れる。
「貴様っ!」
「サイサリスは無事か?」
「問題無し! 怪我もない」
俺を無視して飼い猫はサイサリスの方を向いていた。俺が吹き飛ばしたサイサリスは狐面の女の子が召喚した使い魔に助けられていた。怪我一つ無いな、あれは。
やっぱりこいつらは繋がっていたのか。
「気絶させるとスキルが切れるのは経験してるだろ、その子と他の一般人を廃人にするつもりか! 始めに言った事をもう忘れるな! バァーカ!」
再び奴はビームをぶっ放してくる。結構な威力だが、俺のパワードスーツは撃ち抜けない。しかし、こいつが言うことももっともだ。奴はスキルの発動中に意識を飛ばすと操った人間を廃人にするんだった。
「飼い猫! 止めなさい!」
「よせ! 美樹! お前じゃ」
俺が言葉を言い終える前に美樹がライフルを放つが、斧を持った男が簡単にその一撃を受け止め、俺の方へはあの夜に出会った鬼が拳を撃ち込んで来た。
俺は拳をいなしてカウンターを叩き込むが、鬼は身体をたおすように拳を避けるとそのまま身体を空中で回転させて裏拳を顎に放って来やがった。
何とかかわすが、喰らってたら脳震盪を起こしてたかもな。
「くそ! 重力を無視できるんだったな」
「能力は使ってません」
鬼は一言だけ呟き俺に再び拳を放つ。俺は何とか防ぐが、魔力で強化した腕力でも正面から受けたらガードが弾かれてしまう、コイツのパンチはまるで車の体当たりみたいだ。
サイサリスはと言うと自分を助けてくれた使い魔を撃ち殺している。なんだ? 味方じゃないのか?
「狐はサイサリスを抑えろ! 俺の準備が整うまで意識を保たせろ、兎は援護してやれ! そして北条美樹、父親の事は謝罪できないが、また一緒に戦おう」
「はぁ!? 意味わかんないわよ! 親を殺して、私の弟子を吹き飛ばした奴と共闘? オーダーを昔から良いように使っているけど、冗談じゃないわ!」
「次々と死ぬぞ? お前の家族の様に誰かの父親が、母親が・・・・・・兄が」
「貴様ぁああああああ!!!」
「美樹!」
俺は鬼の拳を胸部装甲で受けて一瞬の隙に奴を全力で殴り飛ばすと、涙を流しながらライフルに凄まじい魔力を充填する美樹に駆け寄って彼女を抱きしめる。
「美樹、落ち着け。お前は俺の師匠だろ? 頼む、早まらないでくれ」
「放しなさい! この屑だけは殺さないとみんな殺されるわ!」
「お前が穢れる必要はない! お前は人を殺すような人間じゃない。美樹、一緒に戦っていこう」
美樹は荒い息を抑えてライフルの魔力をヴァルキュリアに戻してくれた。
その様子を見ている飼い猫を見ると、拍手をしていた。
「殺したくないのは俺も同じだ。罪の無い人間限定でな・・・・・・三神翔太郎、少しの間俺を守れ」
「は?」
「頼んだぞ」
そう言うと死神の飼い猫は腰にホルスターを召喚するとそこにある小瓶を全て空中に浮かべて多くの魔法陣を展開した。
完全に奴は無防備となり、攻撃が飛んでくるが奴は動かない。仲間も助けようと動いていない!
「あぁ! もう! 何が何だか!」
俺は攻撃を打ち消して封印術式を展開すると次々と飛んでくるテロリストの攻撃に加えてサイサリスの高火力の攻撃から奴を守る位置に立った。
「守ってやる! 何とか洗脳を解け! 飼い猫!」
叫ぶ俺に、飼い猫は短く。
「時間があれば、一方的さ」
と呟いた。まるで、昔俺に戦い方を教えてくれた父さんの様だと思ってしまった。
名前など無い
愛など知らない
慈しみなどわからない
優しさなど味わえない
それを知るには人生はあまりに短い




