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操魔学園支部治安維持学生部隊オーダー 2

続きとなっております!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです!

2


 俺の日常は変わった。


「翔、この人いつまでいるの?」

「私は師匠よ? 翔太郎は私が一人前の魔法使いに育てるって、決めたの」

「そんなの、翔だって迷惑です」


 学校前まで俺はこの二人の言い争いに挟まれていい加減飽き飽きしていた。学校の橋に差し掛かると、俺は端の方によって歩くことにした。

 その行動に、周りの劣等クラスも優等クラスも一斉にぎょっとした表情になる。

 そんなに変な行為だろうか? 暗黙の了解とはいえ、正式なルールではない上に悪しき風習だ。俺はそんなものに縛られたくはない。


「ちょ、翔太郎! 何してるのよ⁉」

「端によって歩いているだけだ。口喧嘩ならよそでやれ、今朝の精神安定剤が効いていなかったらと思うとゾッとするぜ」

「アンタは優等クラスなのよ⁉ 端を歩くなんてみっともない真似は止めなさい!」

「関係ない。俺は元々、劣等クラスだ! こっちの方が落ち着くんだよ」


 美樹はかなりの剣幕でそう言うが、俺にも意地がある。


「アンタはこのオーダー隊長である北条美樹の弟子なのよ⁉ 優等クラスとして毅然としてなさい!」


 そう叫ぶと、美樹は俺の腕を乱暴に掴む。

 彼女は魔法で肉体強化しているのだろう、相当な力で俺を引っ張ってくる。

 

「離せ、俺は」

「そうですよ、隊長さん? ここは少し穏便に行きましょう?」


 突然の声に俺は肩をびくりと震わせた。その声は背後から聴こえて来たのだから。

 俺が振り返るよりも早く、小さな手が美樹の手を掴むとゆっくりと俺の手から離していく。


「彼はまだ環境に慣れていないからこんな行動を取るんですよ?」

「えっと、ごめんなさい。しゃしゃり出てしまって」


 そこに現れたのは黒と白の猫耳パーカーを来た双子だった。

 

「劣等クラスの伊達姉妹が偉そうなことは言わないで。先代と仲が良いのはここでは関係ないのよ!」

「アンタがその椅子に座るのも楽じゃなかったでしょ? 僕も、先代だけと仲良くしたい訳じゃありません」


 黒い猫耳パーカーがそう言う。確か彼女は伊達正明だ。その様子を心配そうに眺めているのは彼女の妹である真紀だ。


「その言い方はダメだよ、落ち着いて」

「ん? あ、ごめん」

「ごめんなさい、北条美樹先輩。優等クラスの人間には相応の振る舞いがあるのは勿論知ってます。でも、いきなり環境が変わった人を無理矢理に型にはめたら勉強にも余計なストレスで影響が出てしまいますよ」


 真紀は怖がりながらもしっかりと自分の意見を正面きって美樹に述べている。俺と出会った時も、相手がどんな人間かを決めるのは自分って言い切ったこともある。

 勇気がある良い娘だ。


「へぇ? 貴女は最近転校してきた妹の方ね? 姉と同じ顔して立場位はわきまえてるようね」

「僕もわきまえています。でも、端を優等生が渡るのはいけないと言うルールはないはずです。ここで決闘騒ぎは嫌でしょう?」


 真紀の口調と比べると正明の口調は利害やルールなどを盾にした交渉の様に聞こえて来る。

 同じ顔、声、背格好なのに性格はまるで逆だ。


「言う事はもっともね? しかし、忘れていないかしら? 校則でも優等クラスの意見が優先されるわ」

「争いますか? 端の真ん中を歩く歩かないの小さな事で」

「止めましょうよ、直ぐそこの校門まで行く手段でケンカとか、トラブルとかは意味が無いですよ」


 しかし、このままでは不味い。一色触発だ、オーダーは戦闘慣れしている奴らが多いのは当たり前だしこの美樹は隊長。その椅子に座っても誰も文句を言わない程の実力者でもある。

 例え二人掛かりでもこの双子はコテンパンにのされてしまうだろう。

 ここは俺が大人になるしかない。


「もういい、俺が橋の真ん中歩けば済む話なんだろ? 友達を巻き込んでまで意地なんか張れねぇよ」

「え?」


 真紀が意外そうな顔で俺を見上げて来る。子猫みたいで可愛いが、その隣にいる正明は物珍しいとでも言いたげな顔をしている。

 俺は橋の真ん中に立つと、伊達姉妹に手を振る。


「ありがとな! かばってくれて」


 その言葉に姉妹は少し複雑そうな顔を見合わせると笑顔で手を振り返して来た。


「お礼なんて良いよ! 僕は友達をかばっただけだから!」

「私も同じ! 困った事があったらいつでも協力するよ!」


 笑顔で手を振る二人を見送ると、俺は美樹と魔理を連れて門をくぐった。


「とんでもない双子よ。アイツらは、劣等クラスだけど優等クラスの人間でも噂をする程の影響力があるわ」

「あの二人なら、私も知ってる! 確か、劣等クラスの白黒姉妹。お姉さんの方はオーダーの総取締役と友達で、他にもオーダーのOB達にも知り合いが多いって」


 美樹は忌々しげに呟くが、その言葉を魔理が全く別の印象に聴こえるように言い換えた。どうやら優等クラスの上位陣に個人的なコネがある奴らなのだろう。

 しかし、それだけじゃない。


「戦った姿を見た人間はいないわ、妹は脅威では無さそうだけど、姉は厄介そうね。あの左眼、見ただけで寒気がする。ん? はい、私よ」


 美樹はそこまで言った所で、彼女に通信魔法が来たのだろう。いきなり別の話を始める。


「また!? 今度はうちの管轄に? 現れたばかりよ!? わかったわ、すぐにむかう。翔太郎、早速事件よ! 魔力強奪犯が出没して、オーダーの隊員もやられたわ! 現場に向かうわよ!」


 通信魔法を切ると、美樹は空間にゲートを召喚する。

 空間転移魔法だ。俺も出来なくはないが、1人分しか開けない。


「お、おい!」

「し、翔」


 心配そうに魔理が俺の袖を引っ張ってくる。

 オーダーは誇り高い集団で、正義の味方のような印象だが命の危険も当然高い。魔理は俺がオーダーに入れられた事に対して酷く心配していた。


「まだ現場になんて行く必要ないよ! 入ったばかりで、しかも、殺人鬼と戦ったばかりなんでしょ⁉」


 涙目になる魔理は叫ぶように言うが、俺の決心は固まっていた。


「魔理、大丈夫だ。俺は意外と強いんだぞ? 今日も、晩飯作ってくれよ。俺も手伝う」

「だ、だめ!」

「翔太郎! 仲間が死にかけているのよ⁉ 速く!」


 俺は魔理の手を優しく解くと、ゲートに飛び込んだ。


「必ず帰る!」


 それだけ言うと、俺の視界は街中に移された。



「僕を止めないでよ」

「止めた訳じゃないが、落ち着いてくれ」

「みんなに説明も無しに、注文だけするのは感心しないな。巧」


 伊達正明は劣等クラス専用校舎にある噴水庭園でとある人物と話していた。

 すらりと長い脚に、引き締まった女性らしい身体、瞳は黒曜石の様に硬い決意を帯びた様に輝いている。頭には帽子をかぶっておりそこには魔法陣が描かれたバッジが付けられ、口には機械仕掛けのタバコのような魔具を加えている。制服も着崩されており、傍から見れば不良少女だ。

 

「オレも隠し事なんてしていないさ、でも、みんな・・・・・・オレの事、信じてくれてないだろ」

「今回の事はな、いいから教えろ。あの神の血統をどうするつもりだ?」


 正明は左目を輝かせて巧を睨み付ける。

 巧は少し悲しそうな目をすると、口からミントのような香りのする煙を吐く。


「奴は、もしかしたらオレの異母兄弟かもしれねぇ。三神翔太郎と、同じ原初の血を引く奴・・・・・・魔力への直接干渉がその理由だ、奴のスキルは直接他人の魔力へと干渉しているだろ? オレのスキルは少し特殊だが、他の連中は決まって魔力へ関係が深いスキルが目覚めている」


 正明はため息を吐くと、巧の目を見つめる。その瞳は黒曜石のような黒から、力強い深紅に染まっていた。


「それに、正明。お前もオレに言ってないことがあるだろ」

「なに?」

「なんで三神翔太郎に加担する? オレもわからねぇ、アイツは危険だ。あのスキル・・・・・・正体は掴めないが、他の連中と比べてもかなり異質だ」


 正明はその言葉に気難しい顔をする。


「俺、いや、僕にもわからないんだ。なんで、アイツを庇うのか? 妹をアイツに合わせたのは何故か? どうして万が一を考えて様子を見ようとしているのか」

「お前、少し変だぞ? 付き合いが浅いのは承知だが、なーんか違うんだよな。お前のスタイルじゃねぇ」

「そうかもね、でも・・・・・・あの鎧、兜が君を選んだ様に後三人が選ばれる様な気がする」


 巧は自分の帽子を指でなぞる。正明はその様子を見ると、顔に笑みを浮かべた。その表情はいつも彼が作る愛嬌のある笑顔ではない、まるで蒼い月だけを浮かべて静かに過ぎていく夜の様に、美しくも残酷な表情。

 その顔に答えるように紅い瞳を輝かせ、巧も凶暴な笑みを浮かべる。


「ふふふっ、はははは! 成程、そういう事か!」

「まだ、始まってもいない。アイツ次第だ、その時は始まるぞ」


 正明はそれだけ言うと腰のホルスターにある魔力からゲートを産み出す。

 小さいが、2人分は余裕である。


「心配しなくても奴は殺さないよ、でも、気にならない? 三神翔太郎」

「そうだな。もしもの時は、確保しろよ?」


 正明は巧がゲートに入ると、扉を閉める。

 視界が街中に移され、その視界の先には三神翔太郎と北条美樹の姿があり、更に魔力強奪犯の姿もあった。


「みんなも来ている様だぞ?」


 巧の言葉通りにこの場には正明の仲間達が集まっていた。隠れてはいるが、三神翔太郎と北条美樹の様子を見ている様だ。


「さっきの会話、聴かれたね。全く、みんな隠し事が嫌いなんだから」


 正明は仮面を顔につけると、服装も変えると首にはマフラーを巻く。そのマフラーはなびかずに彼の背中に流れる。

 ビルの屋上に居場所を移すと彼はデバイスを自分のそばに置くと、三神翔太郎と北条美樹の観察を始める。


4


 現場には直ぐについた。

 だが、状況は最悪だった。辺りは魔法で破壊された建物の残骸、道端に転がっている人々はオーダーの隊員だけではなく一般人もいる。と言うよりも、被害にあったであろう女子高生の姿が目立つ。

 仮面と鎧を装着した魔力強奪犯は俺達の姿を見つけると、おかしいと言わんばかりに喉の奥で笑いを噛み潰したよな声を出していた。


「兄弟! 会いたかったっ! お前の上質すぎるその魔力! 忘れられない、それがあれば俺にはもう敵はいない! あの、死神の飼い猫すら討取る力が俺の物に!」

「うるせぇ! お前の詭弁は良い!」


 俺は叫ぶと心臓に意識を集中する、心臓から熱い血が全身を巡るのを感じると速攻で奴の懐まで飛び込んだ。

 本気だ! ここまで来たなら何も加減もいらない。


「吼えるなよ、兄弟」


 突き出した拳が直撃した。

 その手応えはあったが、それでも妙だ。まるで中途半端に軟質な物を殴ったかのような。


「翔太郎! 下がりなさい! 中級魔法二級魔術 嵐刃争覇らいじんそうは‼」


 俺は両脚に意識を集中させて飛ぶ、その直後に線状の竜巻が奴の身体に入る。その時に奴が何をしているのかが理解できた。スキルで作り出した電流のような糸を防壁に編み込んでいるのだ。防弾チョッキが衝撃を逃がす様に、魔法を分散させている。

 ただ硬いだけの防御魔法なんて役に立たないぞ!


「逃げるなよ、ナルカミ!」


 広大な雷が真下から放たれる。


「中級魔法三級魔術 白鳴雷砲はくめいらいほう‼」


 俺は力に任せて思いっきり魔法を放つ。

 魔法の威力は互角だったらしく、空中で霧散して消える。


「は、白鳴雷砲で、上位魔法を打ち消したぁ⁉」


 その声を挙げたのは美樹だった。

 魔力強奪犯も同じ感想だったようだが、奴は冷静だ。


「いいねぇ、魔力の質そのものが違うのだろう」


 糸を指先から出しながら近接戦に持ち込んで来た魔力強奪犯は俺の着地を狙って糸を伸ばしてくるが、軌道自体は単純なものだ。ガキの頃に父さんとやった組手と比べたら捌くのは容易い。


「魔力の許容量も上がっている事だろう! はははっ! 急成長し過ぎじゃないか!」

「父さんに感謝だな! 普通じゃねぇ身体してんだ! 普通の鍛え方はしてねぇよ!」

「だが! 甘い! 死神の飼い猫へ向けた準備運動にはなりそうか!」


 魔力強奪犯は糸を背後へと伸ばす。

 何をしているんだ? そう思いながらも俺は奴の仮面に拳をめり込ませる。

 だが、仮面にも糸が編み込んであったのか大したダメージにはなっていない。もう一度拳を撃ち込もうとするが。


「良いのか?」


 その言葉の後に目の前に美樹が現れた。

 なんだ! 転移魔法か⁉


「っ!」


 拳を必死に止めるが、その隙を付かれて衝撃波を腹部に撃ち込まれて俺は吹き飛ばされる。

 簡単な魔法だが、優等クラスの制服じゃ無かったら気絶していたかもしれない。


「人質取られたのは初体験かな?」 


 美樹は糸にからめとられ、首には魔力強奪犯の腕が回っている。

 

「離しなさい! くっ、魔力が」

「暴れるなよ。隊長さん、弱いなぁ。まるで何も出来ないじゃないか」

「だ、黙れ!」


 魔法を使おうとしたのだろうか、俺にはそう見えたが。


「あああああああ!」

「ほぉら、暴れるからだ」


 美樹の目から力が抜けている事が見て取れる。

 どうやら、魔力を抜いたのだろう。


「お前・・・・・・彼女を離せ」

「離せ? 嫌だよ。彼女は良いカモだ、弱いクセに上質な魔力を持っている。こんな風に、才能や力だけの雑魚こそが、俺やお前みたいな神の血統の最高の獲物だ!」

「貴様ぁあああ!」


 心臓が爆発するような感覚に襲われる。

 それと同時に、俺の背中に熱を感じる。

 まるで翼が生えたかのような。


「おぉ! 遂に覚醒したか! お前のスキル! 背中の翼がそうか⁉ メビウスの輪の様だな!」

「ごちゃごちゃうるせぇ! 彼女を、美樹を離せ!」

「美しい! まるで、深紅の天使! この魔力、欲しい! 欲しい! この世界の全ては俺の物になるんだぁ!」

「うああああああ!」


 美樹の身体がさらに痙攣する。

 魔力が尽きてしまったのか、力無くその場に倒れ込む前に、俺は彼女を抱き留めると同時にクソ野郎の腹に思いっきり蹴りをぶち込む。

 たっぷりと魔力を込めて蹴り飛ばしてやった。


「大丈夫だ、ここで待ってろ。俺でも行けそうだ!」

「あ、あぁ・・・・・・私は」

「そこに居ろ!」


 俺は美樹を安全な所に寝かせるが、どんどん頭の中に熱い靄がかかって行く感覚に襲われる。

 最悪だ、理性が、飛ぶ。


「うおおおおおおお! まだっ! もってくれぇ!」


 俺は精神安定剤を飲むが、瓦礫の中から現れた魔力強奪犯を見ると怒りが止まらない。

 マグマでも脳の中に撃ち込まれた様だ。


「どうだ? 良い気分だろ? 自分の正直な感情に満たされて行く感覚」

「ふざけんな、お前は一般人だけじゃなくて美樹にも手をかけた! ムカつかねぇ奴はいねぇ!」

「言い訳だ。お前は免罪符が欲しいだけ! 人を攻撃しても良い、殺しても良い、戦っても許されるこの状況はうってつけだろ? ここに来たのも俺を戦いたかったからだぁ!」

「違う! 黙れ、お前みたいな奴と俺は違う!」


 この男に何を言っても変わらねぇ!

 こんな奴が生きても犠牲者が増えていくだけだ。なら、この場で殺した方が良いに決まっている。そうだこれは正しい事なんだ!


「死ねぇ! 屑野郎!」

「お前も同じだぁ!」


 俺の拳は届く前に奴の防御魔法に遮られるが、俺はその防御魔法に手刀をぶち込む。ひびが入り、そこに手を突っ込むと無理矢理こじ開ける。


「おおおおおおおおおおおお!」

「な、なにぃ!」


 俺になら簡単に出来る。

 本能でそれが解る、本当なら拳でも割れるだろう。


「お前、無意識でやっているのか? 化けモンが」


 糸が身体に巻き付けられる。

 それと同時に体の中から魔力が大量に吸い取られていく。だが、それがなんだ。食い尽くせるのなら、食い尽くしてみろ! 

 俺は心臓へとさらに意識を向けると吸い取られていく魔力以上の魔力があふれ出してくる。


「チキンレースか⁉ いいぜ、付き合うぜ! 兄弟!」

「ぶっ潰れろぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は奴に組み付くとさらに魔力の出力を上げる。

 紅い雷のような余波が周りに飛び散って行く。この現象の事は俺も知らないが、お互いのスキルがぶつかり合って起きている事なのだろう。


「やはりお前は甘いよ兄弟。上位魔法三級魔術 龍炎砲!」


 至近距離で高熱の火球が生成されていく。

 くそ、防御魔法を張っても無事じゃ済まねぇ!


「三神翔太郎! 防御魔法を張って下がれ!」


 俺は咄嗟に防御魔法を張って糸を手刀で斬ると後方へと下がる。

 すると、空から大剣が降って来た。

 それは魔力強奪犯の目の前に突き刺さると、放たれた火球を防いでしまう。炎が辺りに撒き散らされるが、それを追いかけるように大剣から広がった冷気が炎を消してしまう。


「良く戦った。美樹を連れて撤退しろ、この場は私達が受け継ぐ」


 大剣の前に全身を鎧で固めた女性が降り立った。

 その姿はパワードスーツで隠れていたが、声で中にいるのが竜崎由希子である事は想像できた。パワードスーツの瞳は黄金の輝きを放っている。

 白銀の装甲に黄色の装飾、左肩から伸びている紅いマントはまるで中世の騎士を思わせる。

 何をしに来た? 被害が広がってからやって来ておいしい所だけ持って行くつもりか?


「冗談じゃねぇ! あんたみたいな傲慢な奴の言う事は気かねぇ! 奴は俺がぶっ殺す!」

「おい!」


 俺は竜崎の言う事を無視して魔力強奪犯に連続して火球を撃ち続ける。

 

「面倒だな! でも、十分もらったしな! 竜崎由希子! 部下に恵まれなかったな!」


 糸で火球が全て防がれた。

 しかも、片腕でだ。空いた手ではゲートを開いていやがる。


「待て!」


 竜崎由希子が信じられない速度で魔力強奪犯に接近すると、ゲートから離れた位置にまで吹き飛ばす。

 周りを見ると、銀の鎧に剣の紋章をマントに入れた6人の竜崎由希子の部下が一般人の安全を確保するために動いている。

 

「邪魔をするなよ、竜崎由希子! 俺はもう満足してんだぜ!」

「生憎だが! 私は仕事中だ! 今日は二人きりだ!」


 冗談じゃない。

 あの男は俺が倒す、上司だろうと邪魔はさせない!


「邪魔だ! どけ!」


 俺は竜崎由希子に真横から蹴りを入れる。


「ぐぁ! な、なにを⁉」


 建物に突っ込んで瓦礫に埋もれていく竜崎由希子を無視して俺は魔力強奪犯にお返しの特大の火球を至近距離で打ち込む。

 魔力強奪犯は火だるまになりながら転がるが、直ぐに体制を立て直して糸を伸ばしてくる。


「何度もかかるか! って何⁉」


 背中に網にでもかかったような感覚が走る。

 その瞬間に俺の身体は糸に巻き取られていた。


「ありがとよ、兄弟。竜崎由希子が相手だったらヤバかったよ。上位魔法三級魔術 爆極!」


 糸を通して魔法が俺に炸裂する。

 爆発は俺を巻き取る糸から広がり、俺の身体を道路へと叩き付ける。かすれ行く視界の中で美樹の方を見ると、そこには一人の人間が立っていた。


「バカだな、お前」


 それは


「死神の・・・・・・飼い猫」

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