手綱を猫が噛む 2
続きです。
翔太郎と正明がどう思われてるか知りたい今日この頃
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「完全に斬った。他愛の無い」
「首を切り落としてから言えよ、まだ甘いな」
正明の言葉に続いて志雄が速攻の蹴りを椿に叩き込む。油断していた椿は蹴りをモロに受けてまるでダンプカーに跳ねられた様に飛び上がった。
その隙に正明はパーカーを別の物へと変える。魔力切れで攻撃も防御力すらも消えたからだ。今度は紫色の光を放つパーカーに着替えるが、見た目が装甲をまとっているようで正確には装着と言うべきか。
「何ぃ!? 斬った感触はあった! 何ゆえに倒れぬ!」
「斬られたよ。でも、お前はやっぱり独りだな」
椿が混乱する頭で見たものはシャボン玉。その中で何やら怪しげな液体がぐるぐると混ざり会う様だった。
京子は使い魔を再び召喚して椿へと突撃させる。しかし、先程も証明した通り使い魔では時間すら稼げない。
そう思っていた椿は、日本武者のような使い魔の首へと刀を飛来させる。
ガキィィィィ・・・・・・
金属がぶつかり合う音、武者は椿の攻撃を防いでいた。
「バカな! 使い魔ごときに某が!」
「強化魔法。知らない? 私の得意技」
アイリスがそう呟くと彼女の周りに浮かぶシャボン玉が一斉に色を変えて、武者へと自動で強化魔法をかける。
「チッ! こやつら、互いの分野を使い分けて、はっ! さっきの斬撃、効かなかった理由はこれか! 回復させたのだな、あの兎だけ某のスキルの外にいた!」
「奴は任せる。僕は優を相手する、一塊になって動け奴のスキルは見当もつかないがスキルそのものに殺傷能力はない」
正明は八雲にそう伝えると、体勢を立て直した優へと向き直って歩き出す。
「貴様に会いたかった。あの夜に出会えた時は、その場で殺そうとしたが命令があったからな。今は、あの方に牙を向く危険因子・・・・・・この場で粛清しなきゃあなぁ!」
「来いよ、お前なんか僕で・・・・・・いや、俺だけで十分」
正明は腕を前に出すがそれ以上の速さで接近して来た優は嬉々として右腕の義手を使う。
(ライフル・バレット!)
貫通力を高めた瞬間的衝撃力を生み出す拳が正明の胸に突き刺さる。
小さな正明の身体は血液を口からぶちまけながら床を転がり、インテリアとして植えられた木に衝突して背骨がひしゃげる音を派手に立てる。光を失った哀れな死体となった正明を優は踏みつける。
「なぁーんて光景を見てるんだよな? こいつは」
優の背後で正明はそう言いながら呑気に突っ立っている。優はと言うと何もない方向を満足そうに眺めている。
正明は辺りを見渡す。突然の戦闘にもそこまで騒然とならなかったのは人払いの魔法がこの辺りに人を寄せ付けなかったからだろう。
優の懐を悠々とまさぐって正明は魔具を見つける。それは砕かれていたが、デバイスと似ていた。
「これで人払いの魔法を使っていたな? あの方とやら、本気で洒落にならねぇ」
正明は話し合っていたときから準備をしていたのだ。アイリスのお陰だ。
話している時にアイリスは自分の椅子を固有能力のシャボン玉で作り、密かに幻惑作用のある霊薬を作っていたのだ。それを何食わぬ顔でこの辺りにばらまいていたのだ。
その霊薬の効果は薄い、正明が仕上げをしなければならない。それがこの紫色のパーカーだった。このパーカーは精神支配魔法の塊、霊薬の効果を引き出して幻を見せたのだ。難点は辺りの人間にも幻惑を見せる可能性があることだが。
正明達は仮面のお陰で霊薬の影響下には置かれない。
「呆気ないな! 女とは言え容赦はしない!」
「さて、もう少しでこいつの抵抗力なら幻惑も解ける」
しかし、正明には決定打が無かった。
即死魔法の効果を疑う訳ではないが、万が一効かなかったら速くもお手上げだ。ビームを顔面に浴びせたのにまるで効いていない様な振る舞いをされては困る。
毒と言う手も考えたが、効果はあるが殺せるかはわからない。
取り敢えず正明はデッカいハンマーを召喚して優の脳天へと叩き付けた。もちろん、正明はハンマーを持ってはいない魔法で浮かして操作したのだ。
硬質な音に鈍い音が混じりあって優の身体は硬いタイルにめり込んだ。
「ぐぁ! な、何が! 誰だぁ!」
優は急いで身体を攻撃があった方へと向ける。
「俺だ、生きてるよ」
「な、なんで!? 確かに手応えは」
「お前、弱くなったな。以前なら小細工が通じるような人間じゃ無かったのになー? 由希子に戦い方を教えた奴には見えないぞ?」
「貴様! 薬か、精神支配か!」
再び義手に弾薬を入れる優はハンマーを押し退けるが。
「バァーカ。頭に血が登ったか?」
正明は両手を地面に当てると魔法でシールドを形成する。それと同時にハンマーが爆発を起こした。
半端な悪意の次に本命の悪意。
常套手段だが、案外人間は引っ掛かる。
ダメージを負った優へビームを次々に放つが、奴は避ける様子もない。正明はビームを曲げて背後からも攻撃しようとしたが、避けられてしまう。
正明は少し考えると、魔力をパーカー全体にチャージし始める。
好機と見てか、優が上位魔法を撃ち込んでくる。
「逃げよう、はめられているのは僕達かも」
正明はボソッとそう言うと、魔力の衝撃波を撒き散らして目をくらませる。
その隙に転移魔法でゲートの中へと素早く入り込んで、撤退した。それを仲間達も察してか同じように広範囲へ魔法をばらまいて逃げた。
「くっ! 何故に逃げる!? 臆した訳ではあるまい!」
「決定打が無かった様ですね。しかし、連中が申し出を蹴るのは解りきった事。サイサリスを迎えに行きましょう、奴が殺されてスキルを奪い取られたらかなり厄介です」
椿と優もその場から転移魔法で移動した。
それを物影から観ていた華音も、転移魔法で連中の後を追いかけた。
小競り合い程度の事態ではない。
確証はないが、華音の脳裏には戦争の二文字がよぎっていた。
背を向く者へは火を
手をはらう者へは影を
愛を知らざる者へは侮辱を
頭を下げぬ者へは死を
不遜なる者へは軽蔑を
愛する者へは溢れんばかりの希望と祝福を




