第二話 仮面の後ろに
キボウノハナー
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「プールではしゃぐなんて、元気な奴等だな」
「貴方は楽しくないの?」
俺の何気無い一言に美樹がボソッと呟いた。小さな声だが、それを聞き逃す俺じゃない。
「楽しいさ、ただ・・・・・・想像してもいなかった。劣等クラスからの転属、オーダーの隊長への昇進に、セフィラの一人に名前を連ねちまった」
「それに見合う力があったって事よ。それに、人の心を貴方は救ってる」
「なに? 考えた事ないな」
「私、魔理、オーダーのみんな、それに劣等クラスも」
「劣等クラス?」
「紅の優等生達と蒼の劣等生。その溝は深いわ、私も見下していたしね。今は見くびってないわ一人に負けて、もう一人に救われていればね」
美樹はそう言うと俺を見上げて来る。
始めてあった時に比べて別人だな。こいつ、本当は穏やかで大人しい女の子なんじゃないか?
「なんか、嫌ね。私は今年で卒業、もう一年遅く生まれれば良かったわ」
「それだと俺が困る。頼れる師匠がいなくなっちまうからな」
俺の言葉に美樹は少し言葉をつまらせてた。
そして小さく。
「そう言う所よ、バカ」
と言う。俺は聞こえないふりをする。
なんか、ずいぶんと向こうが騒がしいな?
俺はウォータースライダーに登る魔理達を見上げて、パワードスーツをまとった。
二人の段の下、そこから手すりを抜けて子供が落ちそうになっている! 多分遊んでいて足を滑らせたな!?
「翔太郎!」
「わかってる!」
俺はブースターから紅い光を放ちながら急上昇して、落下する男の子を優しくキャッチすると、安全な所まで降りてその子を下ろしてやった。
男の子は泣きべそをかいて俺を見上げている。膝をついてその子の目線になると頭を撫でてやる。
「安心しろ。もう大丈夫だ」
「う、うぅ」
「怖かったろ、よく長く掴まってられたな。お陰で間に合った」
「うわああああん!」
ほっとしたんだろうな。
抱きつかれるのは少し照れるが、まぁ無事ならいいか。俺はその子を力を加減して抱き締める。こうされると結構落ち着くものだ。
そんな時に回りからは万雷の拍手が送られていた。
「スゲェ! マジのパワードスーツだ!」
「いいぞ! ヒーロー!」
「男の子無事なの!? 凄い!」
「白いパワードスーツ!」
おいおい、マジかよ。
目立ちたくねーんだけどな。
「よし、親の所に戻りな」
「お兄ちゃんは、ヒーロー?」
「違う。ただの高校生さ」
俺はパワードスーツのマスクを解除してそう言うと男の子を送り出した。その子の両親が頭を下げてお礼をしてくるが、当たり前の事にそこまでされなくてもいい。
話をつけて振り返ると、俺は降りてきていた真紀と目が合った。
ニコッと柔らかく笑う彼女に思わず心臓が跳ねてしまう。
なんでだ? あの右目に見られると、暖かくて安心を感じる。彼女とは特に親しくもないのに。
「良かった。無事なのね?」
美樹が回復魔法を右手に組ながら駆け付けて来たが、男の子には怪我はなくすぐに両親と去っていった。お礼をしたいと言われたが俺はそんなのは望まない。続いて楽しんで欲しいとだけ伝えた。
落ち着いてパワードスーツを外そうとしたときに、周りにいた人々が俺に詰めよって来た。
「凄かったです! 男の子は無事だったんですね!」
「すっげー! 警察とかしか着ねーんじゃねぇの!?」
「一緒に写真いいですか!?」
な、なんだ!?
「み、美樹! 助けてくれ!」
「ふん、ずいぶんモテるのね? 鼻の下伸ばしてればいいわ」
「え? なんか、怒ってるのか?」
「怒ってないわよ」
そう言うとほっぺを膨らまして彼女は人ごみから抜けて行ってしまった。
魔理は!?
「翔! 近くで待ってるね!」
「いや! 助けてくれ! 俺はこんな。真紀は!?」
真紀は小さな女の子と一緒に遊んでいる。
「にゃーにゃ!」
「みゃー」
「えへへへ! にゃーにゃ!」
「うみゃー!」
猫耳パーカーを被ってにゃーとか言ってる。
可愛いなぁ、ちくしょう!
「あーもう! 一例にお願いします!」
俺が芸能人のマネージャーの様な事を叫ぶ事になるとは、人生何があるのかわからないな。
*
「いたな。あれだ」
仮面を着けた正明達は滝のふもとに来ていた。ジャングルをイメージしたもので、これもプールの一つの様だがその滝に打たれる人影が。
「心頭滅却すべし、次こそは恐怖に勝ち、あの死神の飼い猫を討ち取るべし」
「お前、本当に約束の四人か? 俺の見立てが間違って、いや、鎧が選んだからそうなんだろうな」
あまりにも間抜けな光景に思わず正明は話かけてしまった。競技用水着で滝行をするバカを始めて見たと言うのもあるが、敵側も遊んでいたのは意外だったのだ。
「貴様! 自ら刻まれに来たか!」
「お前のスキルはなんだ?」
「言うものか! 愚鈍な貴様には我が真髄、読めはせぬ!」
瞳を紅く染め上げ、近くの水を刃に変えた真田椿は身体を深く沈める動作を取る。攻撃の予備動作だろうが、彼女の攻撃は巧が前に出る事で中止された。
「き、貴様は!」
「兄弟、いや、この場では姉妹か? アメリカでの斬首騒ぎ、犯人はお前だろ?」
「ふん、口封じはそっちの常套手段でもあろう。貴様は何故に死神の飼い猫になどに組みするか?」
「友達になったからな。お前はどうなんだ? 随分と、進んでいるようだが?」
進んでいるのは精神汚染の事だ。巧も魔装のタバコで精神系の魔法を身体にかけ続け、アイリスの霊薬と正明が作る精神術式を組み込んだカートリッジで精神をまともに戻している。
やめると彼女は、生きながらに別人へと変貌を遂げて殺人犯へとなるだろう。
「進んでいる? 某はいたって健康である」
「心だよ、お前も助けてやりたい」
水の刃が巧の首にあてがわれる。
「仲間に感謝するのだな。後ろの眼鏡の男が守らなければ、貴様の首は落ちていたぞ」
巧の首には小さく魔法陣が張ってあり、後ろでは宗次郎が魔法と固有能力を発動していた。
「オレの首は落ちねぇよ。残念だ、帰っては・・・・・・来れそうにもないか」
巧は椿の殺意に濁った瞳を見つめて悲し気に呟くと、帽子を深く被った。
その時に、紫の瞳を持つ男が空間から現れた。
「お嬢様、そして死神の飼い猫。こっちだ」
正明達は付いて行くと広い空間に置かれているテーブルが目に入った。
周りに客の姿は無い。人払いの魔法が使われている事は明確だった。
(魔具か? もしかしたら魔装かもな。それとも、使える奴が?)
左目で辺りを見渡すと、正明はとある場所で目が留まった。それは紫色の瞳の男だった。
正直、驚いていた彼だが内心ではヤッパリなとも感じていた。この男は、まだ全力を出していないのかもしれない。
椿を席に案内すると、紫色の瞳の男は巧を見ると深々と頭を下げる。
「お嬢様、偉大なるあのお方の血を受け継ぎし最も優れた魔法使いの一角よ。お会いできて至極光栄でございます」
「気持ち悪いな、オレにだけは遜るのか?」
「えぇ、死神の飼い猫には殺しても足りない程の恨みがございます故。そうだろ! 飼い猫!」
正明はその言葉に首を傾げた。本気で心当たりが無い、頭のおかしい殺人野郎以外にあるのか? とも考えたが、奴が前髪をかきあげた瞬間に正明は仮面の後ろで目を見開いた。
それは仲間達も同じだった。
「・・・・・・お前、何してんだよ?」
「忘れと事なんか一度もない。貴様が俺から何もかもを奪ったんだ!」
憎悪に満ちた声、見開かれた紫の瞳、それらはかつて正明が知る男のものでは無かった。
正明は動揺のあまり、声を荒げる。
かつて死闘を繰り広げ倒した男、敬意を表していた男、尊敬する女の恋人だった男。
「元オーダー隊長・・・・・・優さん。アンタ、何やってんだよ!」
正明は由希子の元恋人だった男に叫んでいた。
残して来た足跡が音を立てた
足音でもなく、後退りもなく
這い上がる音
蒼い月に紫の雲がかかる
変わり果てた男の様に




