サイサリス 3
続きです!
暇な時に楽しんでいただけたら幸いです
3
「遠山! お前、何処に行っていたんだ! 貴様さえ、お前さえいてくれれば、俺達は!」
「恨みの矛先が二転三転しているな! 落ち着つくんだワスレ! 今のお前は誰が見ても正気じゃない!」
「それがなんだぁ! 狂わせたのは貴様らだろうがぁ!」
ブレードを振り回してワスレは遠山に過剰なまでの暴力を振るうが、それらの攻撃は遠山のパワードスーツの前腕から出る同じような魔力のブレードで防がれてしまう。
そこでワスレはふと気がついた様な表情をすると、更にマスクの後ろで歯を噛み締める。
「その、パワードスーツ! 俺達への当て付けかぁ! 遠山ぁあああ!」
「違うね! 俺は代理で来た。戦えない彼女の代わりに!」
遠山は叫んで通信魔法を展開する。するとパワードスーツのマスクから女の子の声が聞こえてくる。
(聴こえてますか? 山吹百合です)
「新人メカニック!?」
(先ずは、謝らせて下さい。私の腕が未熟でした・・・・・・そして、皆さんが悩んでいるのも知ってました)
「止めろ! 黙れ!」
ワスレは拳銃を乱射し、ボディに組み込まれたバルカンからも魔力弾を撃ってくる。
遠山は逃げる様に旋回するが、百合の声が届く距離を保ち続けている。これは遠山の技術もあるが、こうも小回りが効くのはパワードスーツの性能が大きいだろう。そうしている事を当然ワスレも解るからか、更に怒りを燃やして魔法での面制圧を始める。
「この野郎! 舐めるな!」
「舐めてない! お前こそ彼女の話を聴くんだ!」
(せめて、私だけでも味方になりたかった)
「味方? 味方だと? 不良品を作って何がだ!」
(今でも味方のつもりです! 逃げたのは貴方達です! 由希子さんの手も振り払って、復讐なんて事に才能を使っている! 目を覚まして下さい!)
「た、隊長・・・・・・う、くっ!」
ワスレは由希子の名を聴くと攻撃を止めると頭を抑えて身体をけいれんさせ始めた。
これはと、遠山はパワードスーツの腰から下げられた小型のガジェットを空間に投げる。それはまるで意志があるかのように動くとワスレを取り囲んで防御術式を組み上げると、彼を結界の中へと閉じ込めてしまった。
「なに!? これは!」
ワスレはブレードで斬りつけたり、銃で射つが結界は破壊されない。
捕縛様術式に防御魔法を重ねがけしているのだろう。
(イージスシールドエリア。対象の捕縛、確保を目的に製作した装備です。本来、魔力の供給が安定すれば装着する予定でした)
「くそ! お前らは、俺達もそうだった! そうやって他人を見下し、踏みにじって優越を得る! クズどもが!」
(ワスレさんそれは違います! 私はただ、こんなこと止めて欲しいだけなんです!)
「それが、見下してるってんだよ!」
ワスレはパワードスーツに魔法で強化を施すと、ブレードへの魔力の出力を上げていく。
恐らく、パワーで抉じ開けようと言うのだろう。
遠山は目を伏せると、パワードスーツの召喚術式を発動してライフルを空間から取り出す。それと、ワスレが結界を斬りつけるのは殆ど同時だった。
迫り来るブレードに対して結界は抵抗したが、砕け散ってブレードが遠山に襲い掛かる。直撃の一歩手前、遠山は引き金を引く。
放出された光線が、ワスレのパワードスーツを粉々に粉砕した。
「ワスレ、今のは性能差だ。もし、着ている物が逆だったら俺が真っ二つになっていたよ」
(遠山隊員、彼は・・・・・・どうして)
「解らなくなるもんだぜ。信じてたものが、無くなると人はこうも見境がない」
遠山は芝生に倒れるワスレを見ながらそれだけ呟くと彼を捕縛した。
*
「奴が負けたか。おいおい、戦闘用のパワードスーツが捕縛用のパワードスーツに負けんなよ」
「メカニックが優秀だからな! お前の企みもここまでだ!」
俺はサイサリスの銃撃をかわしながら隙を見て拳を撃ち込む。
奴も流石な身のこなしでかわしながら反撃するが、それも俺には届かない。
美樹と魔理の方もやはり、ヴァルキュリアの機動力と二人の戦闘センスに翻弄されて全滅するのも時間の問題だ。
「予想外の強さだ! 全く、化け物揃いかよ約束の四人ってのは!」
サイサリスは身体を俺へ向けると同時に炎を放ってくる。放出の様子はまるでビームみたいだけど、なんだ? これは、避けなくてもいいか?
俺はあえて棒立ちでその炎を受けた。
「直撃! おいおい! 死んだらだめだぞぉ!」
これで死ぬ? アイツ、俺をからかっているな?
なら、お返しで同じ様な魔法をぶつけてやるか!
「ほら、お返しだっ!」
俺は指を弾いて魔法を発動させると炎を放つ。
炎は奴の攻撃を飲み込む程巨大な奔流となって、まるで津波の様に見えた。それは凡そ、サッカー場の半分を観客席ごと消し飛ばした。
「なっ!? んじゃ! こりゃあ!!」
サイサリスはそれだけ叫んで炎の中に飲まれた。
ふぅ、加減もしたし死にはしないか? まぁ、兄弟達だ。殺そうったって難しい。
ふと周りを見渡したら敵の男子隊員も、美樹や魔理が俺を見て固まっていた。
「おい、なんだよ? 倒したぞ?」
「い、今のって何の魔法よ? 上位魔法?」
「いや、下位魔法一級魔術だ。魔力を乗せて撃ったんだよ、やっぱり強制力が違うな」
俺はが笑うと、敵は全員武器を捨てて降伏の証か、両手を挙げた。
よし、何か知らないがみんな降伏してくれたから良いか。
「ぐっあ・・・・・・こんな、糞が! 化け物めぇ!」
巻き込まれたのに動けるお前もな。
背後からの声に俺は振り替えるが、奴は転移魔法で魔理の背後に移ると彼女の首を締めた。
魔理の苦しそうな声が俺の手を止める。
「動くなよ? 少しでもふざけた事を考えたらこの女の、精神を粉々にしてやる。俺のスキルなら可能だ」
「離せ」
「操ってやるのも良いなぁ。自ら俺の盾になってもらうか」
「もう一度だけ言う。その子を離せって言ってんだよ!」
俺の背中から紅い翼が飛び出す。
あのクズ野郎。もし魔理に何かしやがったら!
「し、翔。私、大丈夫だよ。怖くないから」
「嘘が下手だよな、相変わらず」
へたくそな作り笑いしてるお前は、決まって無理してるってわかってんだよ!
俺は脚に力を集結させると、地面を蹴って二人の目の前まで跳んだ。
「転移魔法!? こんな精密に出来るものか!」
「知るか! 離せ!」
俺はサイサリスの顔だけを拳で正確に撃ち抜いて、魔理を引き寄せる。
「く、なんて繊細な魔法を!」
「魔法じゃない」
「なに!?」
「一足飛びでここまで来た。鈍いお前には見えなかったか?」
俺はサイサリスの胸ぐらを掴むとそのまま持ち上げる。
もう、こいつに抵抗する力は残っていない。
「身体、能力か・・・・・・ひ、ひゃはははは! すげぇ、こいつこんな事も出来るのか!」
「終わりだ、寝てろ!」
「良いのか!? 俺を倒したら、スキルの効果が切れてしまうぞ」
「望むところだ!」
俺は叫ぶと、奴を締め落とした。
サイサリスを芝生に転がして吹き飛ばしたサッカー場をみる。いやぁ、流石にやり過ぎたか? まぁ、この場所に所有者はいないし、民家も近くに無いから大丈夫だろう。
*
正明達はサッカー場が吹き飛ぶ様を無表情で眺めていた。
とんでもない威力だが、何処か、覇気の無い攻撃魔法だと正明は感じていた。それは仲間達も感じていたのだろうか、「凄いけど、なんか変」等と話している。
こればかりは感と言うものでしかないが、これだけの威力を出しておいて恐らくだが本気を出してはいない。加減しているが、敵を倒せる様に、尚且つ殺さないように、そんな感じで放った何気無しの一撃だったのだろう。もし、三神翔太郎が気まぐれにフルパワーで魔法を発動していれば、市街地を火の海にしていただろう。
正明は笑うと、懐からSFチックな銃を取り出すと呟く。
「フェーズ2、完了ってね」
正明はその銃を翔太郎へと向けると引き金を引いた。すると、銃が変形し画面に術式データを浮かべた。そこには翔太郎の身体的な情報が浮かんでいた。
魔理の体質を見破ったのもこの魔装である。だが、あくまでこれは魔法と身体の相性しかわからない。
「魔具への適性が低いね。巧と同じ」
「オレ達は魔具の適性が低いのか?」
「いや? 兄弟達の適性が低い訳じゃないんだよ。あくまで仮説だけど・・・・・・約束の四人がそうなんじゃ無いかなって」
正明はそう言うと、少し考える。
そして、巧の顔をじっと見つめる。
「な、なんだよ?」
「巧、約束の四人は元々は五人だったよね?」
「お前が殺したろ? 今は魔力タンクに華麗に転生してっけど」
「魔力強奪犯はもしかしたら、カウンターだったのかもね。この四人が、もしも反撃に出たときの為の」
「はぁ?」
「奴は、パワードスーツを着て戦ってた。それに、翔太郎も。だが、実際は魔具との相性は悪い。データ不足だけど、もしかしたら約束の四人全員が、魔具との相性が悪いのかも」
そう言う正明は彼女がパワードスーツとの相性が悪い事も合点が行く仮説と思うが、そもそも、翔太郎はパワードスーツ意外の魔具は持ってない。
謎過ぎる。
相性は悪いはず、なのに奴はパワードスーツを着ている。だが、武器を一つも持ってないのだ。
「まぁ、この件でまたアイツの扱いは変化するだろうな。由希子さん以上に特別視されるだろう。国家攻防戦力固有保持者、コードネーム❬セフィラ❭これ程の破壊で本気じゃないなら声がかかるはずだ」
「それって、世界に九人しかいない魔法使いの上位互換」
京子が呟くと仲間達は翔太郎をじっと見る。そこには仲間の女の子に驚かれながらも余裕の表情を浮かべる彼の姿。
この前まで、直ぐに殺せると思っていた人間の成長速度ではない。
「でも、まだだよ。アイツは、まだ殺せない」
正明はそう呟くと、警察のサイレンと護送車が近づくと姿を隠した。それは仲間達も同じで、彼が隠れ終わる頃には誰もその場にいなかった。
深紅の星が夜空を横切る
その時に猫は地上で朝日を見つめた
空が最も青い夜明け前
朝焼けが空を染めるまで
地上で、三日月が輝き、薄く消え
朝に消えゆく、夜の夢が如く




