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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
力の代償と飼い猫の憂鬱編
47/289

第四話 サイサリス

敵のスペックが三倍って聴くと中々の絶望感。


 オーダーの隊員達は大慌てで装備を整えていた。

 俺はパワードスーツを解除すると、必死に自体の収集をしている美樹へと駆け寄る。彼女は俺の顔を見るとホッとした顔をするが、少し赤くなると慌てて真面目な表情に変わった。


「翔太郎、不味いわ。元隊員達が暴走したようだわ! 怪我人も出ている!」

「くそっ、俺の所為だ。直ぐに場所を特定するぞ! アイツ等の場所は大体だが解る! この近くに広い運動場か、球場が無いか調べてくれ!」

「なんで? そんな所なんかに」

「俺じゃないが、見た奴がいる。転移魔法のゲートの先に広い観客席がある空間を見たってな! 探してくれ! もしかしたら奴ら此処にまで」

「翔太郎!」


 美樹が俺の背後に風で作った斬撃を飛ばすと、転移魔法で襲撃していた敵を切り倒した。

 俺はそこで、正明の様に辺りを注意深く観察して観る。すると、空間にひずみがある事に気付く。これは良く見なくちゃ解る様な物じゃないぞ? なんでこんな物があるって学園では教えないんだ?

 そこへと俺は正明から貰ったグラスを投げ付けてみると、グラスは砕け散って広い範囲へと銀色の粒子を広げていく。そうしたら、空間の歪みが見て取れる様になった。阻害じゃないのか? この効果は阻害なんかじゃない!

 これは、どういうことだ!?


「え!? これは、何!? 何をしたの翔太郎!」


 俺は少し考えながら辺りを警戒する。

 すると他の空間にも歪みが現れるのが見えた。俺はそこに向けて攻撃魔法を撃ち込むとゲートが開き、入ろうとして来ていた元隊員達に直撃した。

 凄い、この魔具! いや、そもそもこの空間の歪みは知っていなければ気付けない。

 面白いものを見つけた。

 正明は多分この事を知らないだろうな。知っていたならばオーダーに来ているはずだ。


「今のって、空間の歪み? 転移魔法でこんな事象が? こんな事文献にも授業にも無かったわよ!? 大学のカリキュラムにもこんなの聞いた事ない!」

「これをくれた奴が辺りを注意深く観察しながら使っていたんだ。そいつは偶然出て来た奴にぶつけてたけど、この魔具の真価は空間の歪みを見つけてそれにぶつけて発揮される。辺りに注意しろ、説明だとこの魔具は転移魔法を阻害する物だったが、記憶違いだろうな! この魔具は転移魔法のゲートを見えるようにするものだ!」

「凄い、凄いわ! 翔太郎! こんな緊急事態に新しい発見を!」

「ふっ、今はそれ所じゃないだろ? みんな! 空間だ! 空間の歪みを見ろ! そこから来るぞ、ヴァルキュリアを着て飛べる奴から周辺の運動場を偵察! 二年生は残って迎撃! 出鼻をくじいてやれ!」

「「「はい! 隊長!」」」


 俺の号令に隊員達の声が響く。

 俺の魔力量なら、行けるか? この粒子の範囲を広げられるか!?


「美樹、手を貸してくれ! この粒子の術式は初めてかもしれないが」

「えぇ! ふん、こんなのは! なるほどね、この術式を開くからそこにこれを使いなさい!」

「助かる!」


 美樹はヴァルキュリアへ俺の魔力を移すための給油機型の魔具を渡す。

 空間に彼女が開いた銀色の魔法陣へと俺は魔力を流し込む。すると、銀色の魔法陣が一瞬だけ深紅に染まり更に魔法の効果範囲は広がる。

 襲撃して来る奴を捕まえて話を聴こうにも気絶するまで攻撃を止めないから尋問にもならない。

 クソ、範囲を広げたのは良いが空間の歪みを見つけるのは確かに難しいか!?


「きゃ! た、隊長」

「しっかりしろ! まだ行ける!」


 攻撃を受けた女子隊員をかばって、俺は押し入ってきた簾中を蹴り倒す。

 そうしている間にも次々と来る。


「くそ、せめてもう少し見やすければ!」


 その時、何処からかもう一個のグラスが投げられた。

 見える! 更に見えやすくなった!

 女子隊員も余裕は無いが、押され気味だった情勢は逆転に向かっていた。

 誰だ?


「翔太郎、今のは!?」

「さぁな! 誰かが助けてくれたのかもな!」


 事務所の通路の先に再び見えたのは白い影と黒い影だった。

 やっぱりあの二人だ! 抜け目のないイタズラ好きな奴らだな!


「隊長! ここから北にある今は使われてないスタジアムで不審な人間が集まっているとの目撃情報がありました! 偵察してきた所、ゲートを開いている魔法使いが複数人いたので間違いありません!」

「俺が行く! 偵察を戻して、この場を頼む! 攻撃が止んだら俺の応援に来てくれ!」

「了解しました! 伝達します!」

「美樹、一緒に来てくれ!」

「言われなくたって一緒に行くわよ! 師匠を差し置いてバカなこと考え無い事ね!」


 俺は笑顔で答えると、そのままパワードスーツを装着する。

 美樹は顔を赤くして「その顔は反則」だとか何とか言っているが、俺はすぐに飛び立つ。


「あっ! 待ちなさいよ!」


 美樹もヴァルキュリアの姿になると俺の後を付いて飛んでくる。


「この格好、やっぱり恥ずかしいわね」

「今更かよ、安心しろ。俺が守る」

「ちょっ! もう! 私の方が年上なのよ!?」

「ハイハイ」

「翔!」


 突然頭上から声が響いて来た。姿勢を地上へと背中を向けて変えると俺の身体に魔理が落ちて来た。


「きゃあ! あっ、ありがと」

「慣れてないな?」


 彼女を抱き留めると、ゆっくりと姿勢を正してやる。

 蒼いヴァルキュリアを装着した魔理は一生懸命バランスを取っているが、まだおぼつかない。


「どうしてここに?」

「由希子さんが、実戦して来いって! 銃はレールガンモードは出来ないようになったけど、力になれるよ!」

「よし、やるか!」

「はぁ、足引っ張らないでよ!? カバーしきれないわ」

「美樹先輩、お気遣いは不要です。私は一人でも行けます」

「着いたぞ! 着地しよう」


 天井の空いたサッカー場に俺達は急降下すると、芝生の上に着地する。

 すると目の前には奇妙なパワードスーツを来た連中が立っており、その奥には瞳の紅い男がにやけ面で椅子に座って足を組んでいた。

 あの瞳は、間違いない・・・・・・


「兄弟達」



 予想通りの非難と言う形で劣等クラスは解散となった。

 そのまま家に帰している所から本当に扱いが雑だと感じてならないが、正明達には好都合だ。するりとその場を抜け出したメンバーはそれぞれの体で仮面を着けて、オーダーの様子を見ていた。

 どうやら目的はオーダーの様だった。

 波乱の展開だが、スペクターズは動かない。

 動けば確実にオーダーも敵に回した大乱闘になる。その為には、正明と真紀が少し手助けして戻ると言う形が一番いい形であった。

 事務所内にグラスを投げ入れて、正明と真紀は撤退しようとしたが入り口から押し入ろうとした連中に見つかってしまった。先程は成り行き状に真紀も戦わせてしまったが、正明自身は彼女に戦って欲しくなかった。

 傷つけたくないのではなく、彼女をこれ以上自分たちの世界には入れたくないのだ。


「クソ! 邪魔だな!」

「お兄ちゃん、私やれるよ!」

「無理は言わない! 腰が抜けそうなのに、よく言うよ。真紀、わかった? こんなにも怖いんだよ? だから、ここはお兄ちゃんに任せて」


 正明は前に出ると、腰にホルスターを召喚する。

 そして、両手に液状の魔力をまとわせて魔法陣を展開すると両手を広げる。


「見せてやろう。本当の魔法使いの闘争と言うものを!」


 かっこつける正明だが、睨み付けた相手は突然割って入った人物に蹴散らされてしまう。

 両手に拳銃を持って、靴には電流が走っている。それを駆使して、しなやかながら力強いキレのある動きで敵を叩きのめしてしまった。見事な体術だ。


「ふぅ、こんなものかな?」

「か、華音!?」

「え? ま、正明!?」

「なんで、ってオーダーだから当たり前か」

「変な魔法使う人がいたから誰かと思ったよ」

「ふふっ、変なって失礼だよ?」

「へへっ、ごめんね?」


 華音と正明は少し気まずそうだが、お互いの顔を見て落ち着いたような笑みを浮かべる。

 だが、そうしている内に辺りは敵に囲まれていた。


「話は後、今はこの人達を止めなくちゃね。殺しちゃダメだよ?」

「殺さないよ。この人達は無実の人たちだ、操られている」


 正明は両手に蒼い魔法陣を、華音は両手の拳銃を構える。


「華音」

「なに?」

「15秒!」

「うん!」


 正明は地面に魔法陣を叩き付けて地面を伝えて敵の足を止める。そこへ華音が突撃し、顎先を銃のグリップで殴って一発で意識を奪うが、離れていた連中の一斉砲火を受ける。だが、正明の防御魔法が張られてその攻撃から逃れたら華音は魔法を自分の銃にかけると、空に打ち上げてそしてもう片方の銃で正明の防御魔法を内側から撃つ。

 正明はそれに合わせて術式を変化させると、電気を放つ弾丸へと繰り込んで敵陣の真ん中で爆裂させる。

 隙を突いた敵は真紀を襲おうとするが、華音が撃っていた魔法弾が空から落ちて来てそれに直撃して意識を失う。

 その間、15秒。


「華音、強くなったね」

「正明も、前より術式を組み直すの上手くなってない?」

「まぁ、僕はそれが無いと戦えないから」

「もう、結婚すればいいのに」


 その様子を見ていた真紀の言葉に華音は「へぇ?」とかいって顔をゆでだこの様に赤くする。正明も顔を伏せる。


「け、けけけけ、結婚なんて! まだ、高校生だし! 正明は女の子だから赤ちゃんなんて作れないし!」

「か、華音!? 何言って!」


 焦り散らす二人の様子を見て真紀は笑うと正明の事をむぎゅと抱きしめる。


「じゃぁ、まだお姉ちゃんは私のものだね」

「じゃあ、真紀ちゃんは私のものだ!」


 華音はそう言うと笑顔で真紀を抱きしめる。

 その様子を見ていた正明だが、上空を蒼いヴァルキュリアが飛び去って行くのを見て、真面目な顔になるとデバイスを開いて。「奴らを追って」とだけ言う。

 華音に向き直ると、正明はまだ少し赤い顔で叫ぶように告げる。


「華音、えっと決闘は勝ったよ。それと、今度ご飯行こうね!」


 そう言うと彼は転移魔法で何処かへと消えてしまった。

 

「やったぁ! お姉ちゃん一歩前進だ!」

「え、え? ご飯? え? それって?」

「デート行こって! 華音お姉ちゃん、またね!」


 真紀は華音の身体をもう一度強く抱きしめると、正明とは違って黒い霧の中に消えて行った。

 残された華音は顔を両手で抑えて「仕事中なのに・・・・・・もう!」と言うが、そこに新手が襲い掛かるが手にしていたナイフを避けて華音はカウンター気味に非殺傷弾を撃ち込む。


「今、恥ずかしいのと・・・・・・嬉しいのでいっぱいなの! こんなに、興奮しているの久しぶり! 邪魔しないで下さい!」


 敵に向き直ると彼女は拳銃を構えて叫んだ。



 大きく深呼吸して興奮を納める正明は仲間達と合流すると、案の定ちょっかいを出された。


「やるじゃない、色男!」

「結構、肉食ですね?」

「うるさい!」


 宗次郎と志雄の言葉に叫んだ正明だが、その時にデバイスに御堂からのメールが送られて来た。

 その内容は「新しいパワードスーツを開発したー。少し経ったら参戦するかも。見れば?」との事だった。

 今回は万が一のための待機だ。

 兄弟達の始末、残党狩りが目標であり事件自体の解決はオーダーに任せたい。

 メンバーは興味津々の様だ。

 そこでアイリスが呟いた。


「さぁ、見せてもらおうか? オーダーのパワードスーツの性能とやらを」

「三倍で飛べるの? っと」


 正明はそう返信をした。そして返って来た返事を正明は読み上げる。


「赤くないから解んないって」

ぬるま湯に浸かる時間は過ぎた

新たな脅威、増える不安

眠ることを妨げ、目覚めを遅くする

悪意のゼンマイ

カタカタ歩くは、過ちの形

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