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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
力の代償と飼い猫の憂鬱編
46/289

アリス 4

続きです。

アリスは聖書で最初の人類をたぶらかした蛇です

4


 俺はオーダーへ届いた劣等生専用校舎屋上での決闘への対処へと向かっていた。

 屋上へ続く階段を上がろうとした時に、一人の女子生徒が屋上から降りてきた。無傷と言う事は野次馬か、だが、彼女からは微かに何かが燃えた匂いがした。

 それに、彼女は。


「待って、真紀!」

「ん? 翔太郎君。どうしたの? オーダーは今大変な騒ぎじゃない? 忙しいだろうね。それに僕は、姉の方ね?」


 そう言う正明は可愛い笑顔を見せる。

 だが、その笑顔には真紀の様な暖かさは無いと気付く。

 俺には何故かこいつに警戒してしまう。真紀も同じ顔をしているのに、偉い違いだ。

 だが、そう思うのは失礼だろうな。彼女は真紀に慕われているし、それに俺が劣等クラスにいたときから噂をよく耳にしていた。厄介事を解決する伊達正明の名を、な。


「屋上で決闘があった。観たか?」

「あー、そうだね。もう決着付いたってさ、いやー劣等生相手に容赦無かったね」

「嘘だ。お前の魔力の減りは尋常じゃない、今日は魔法を使えない、倒れずに動ける分の魔力しかない。戦ったのは、君だな?」

「元々少ないんだよ? これは、授業で使ってね」

「いや、今日の劣等クラスのカリキュラムには魔法実技は無かった。それに、制服に白い粉が少しだけ着いている。魔法で生成した物だ。言い逃れ出来ないぞ」


 正明は制服を首を傾げながら見てため息を吐いた。

 そして、観念したのか正直に話し始めた。


「僕だよ。そう、決闘したのはね」

「戦いは向こうが驚かしただけか?」

「いや、倒したよ? 僕の勝ち」

「は? 勝ちって、君が? 倒したのか!? 優等生を?」

「うん、倒して来た。でも、怪我はしてないよ? 気絶させただけだから」


 おいおい、優等クラスは攻撃魔法が使える連中の集まりだぞ?

 それに、身体も利く連中だ。こんな細くて小さい彼女が?


「罠にはめて、騙して、何かをする前に魔具を使って後ろからね。危なかったよ」

「って! それは卑怯じゃないか!?」

「なんで?」


 凄い力を隠し持ってると思ったが、不意討ちで倒したのか。見た目に似合わないな。

 攻撃魔法が顔を掠めたら腰を抜かしそうなイメージだったが。


「勝てば良いんだよ? 僕の出来る事をして戦ってね。正々堂々だよ広い意味で」

「それでも、それじゃ自分の力じゃない」

「何かをどう使うかも僕の力だよ。出し惜しみも、手加減も出来ないのが弱者なんだから」


 俺はその言葉に少し不快感を抱いた。

 勝利は、不意討ちで決まるものじゃない。そんなもので決まったら、負けた人間の努力や思いはどうなる?

 そんなのはあんまりじゃないか?


「正明、それは違う」

「僕にはその方法があっている」

「それは本当の勝利なんがじゃない。本当の強さはそんなものじゃないよ、君には君の強さがあるはずだ。戦いなんがじゃない強さと、勝利があるはずだ」

「君は・・・・・・優しいね」


 正明は切なそうな顔をすると、少しだけ何かを堪えた様な感じがした。


「でも、人の優越感は君の様に優しくない」


 それだけ彼女は言うと、背中を向けて去ろうとする。

 悲しい顔をしていたけど、なんでだ? なんで君の瞳は光を失わないんだ?

 そこにもう一人の正明。真紀が姉を迎えに来ていた。


「勝った?」

「作戦成功。ほら、傷一つないよ。相手が油断していて助かったよ、じゃなきゃ大怪我していただろうし」

「またお金消えちゃったね。魔具ってなんでこうも高いのかな?」


 白い真紀と、黒い正明。

 服の違いで見分けがつくけど、なんと言うか。


「あっ、翔太郎君もいたの?」

「あぁ、決闘の後始末にね。でも、片付いたらしいから。その、お姉さんが勝ったようでね」

「負けないで良かった。あ、この前はありがとうございます。魔理が怪我をしたとき、犯人を追ってくれて」

「当たり前の事をしたまでだよ。で、なんで正明の後ろに隠れてるの?」


 真紀は俺を警戒する様に正明の背中に隠れている。正明は彼女の頭を撫でているが、甘えているのだろうな。なんだか合法で頭を撫でられるのは少し羨ましくもあるな。

 正明とは対称的な真紀の持つふんわりとした雰囲気が俺は好きなんだが。


「まだ慣れて無いからかな? その内、出てくるよ」

「翔太郎君は真紀のこと気に入っている様だけど?」

「え? 嬉しいけど、お友達から」

「待て! 勝手に変な方向に話を進めるな! あぁ、そうだ! 倒した奴はそのままか!? 怪我は無いが、倒れているなら」


 このまま話していると変な勘違いをされてしまう!

 最近は美樹や魔理の目が何故か厳しいんだ。女の子と話していると凄い顔で睨まれるからな。

 俺の質問に正明はのんびりとした口調で答えた。


「アイツなら今頃、火でも吐いているんじゃない?」

「ん?」


 正明の言葉の意味は解らなかったが、真紀は苦いと言うかペロッと舌を出して手で顔を扇いでる。多分無事だが、何かイタズラでもしたのだろうな。

 真紀が正義なら、正明は悪って感じだ。

 正直者の白猫に、イタズラ好きの黒猫。この二人はなんだか見ていて飽きないな。

 その時、俺の視界に一人の男の影が見えた。

 足を引きずり、片手には何か長い道具を持っている。何か、おかしいぞ?


「お姉ちゃんあのコーヒー渡したの?」

「うん、前に真紀が冷蔵庫から盗った奴」

「うわぁ、御愁傷様だね」

「号泣するんだもん、驚いたよ。辛くて人は泣くんだね」

「お姉ちゃんもワサビで泣いてた!」

「ワサビはノーカウント! あれは罰ゲームでワサビシャリなんてふざけた事をしたから」


 楽しそうに話す姉妹へと、いや、俺達へと男は手に持っている物を向ける。

 もうここまでくれば解る、あれは銃だ!


「二人とも! 伏せろ!」

「ん?」


 二人は揃って呑気な声で答えるが、その直後に巨大な光が迫って来た。


「クソ!」


 俺はパワードスーツをまとって封印術式を組み上げる。どうやるかは不明だが、俺は男の放ったレーザーの様な魔法を封じ込めて俺の中の魔力で術式を壊して無効化する。

 はぁ、やれやれ。

 魔力があれば基本的に魔法は自由なものだな。


「大丈夫か?」

「直ぐに追って! アイツを放って置いたら他の生徒も危ない!」


 正明が直ぐにそう叫んだ。

 確かにそうだ! 今の男は!?

 俺は弾かれる様に男の元へと飛ぶ。意外にも男は逃げていなかった。虚ろな瞳でライフルを構えている。


「終わりだ、おとなしくしろ」


 俺は右手から衝撃波を出して銃を叩き落とすと、男の顔に蹴りを一発お見舞いしてやる。

 簡単だな。


「真紀!」

「うん!」


 二人の声がしたと思ったらもう一人が何処とでも無く姿を表した。隠れていたのか!?

 くそ、こいつは速い! 一回攻撃を受けるか!

 俺は防御魔法をパワードスーツに張って腕をクロスさせる。が、それより速く男が床に転んだ。

 そいつの足元には二つの青白い猫の様な尻尾が巻き付いていた。そして、男の手にした武器は蹴りで弾かれる。スカートをはいていたから真紀だろう。

 俺は直ぐに防御を解いて見ると。

 武器を失った男は直ぐに腰からナイフを引き抜こうとするが、それは真紀の尻尾で防がれ、彼女の掌底が彼を気絶させた。綺麗に顎を捕らえている。

 その時に正明は妙な事をしていた。

 急いで回りを見渡すと、あるところを睨み付けて丸いグラスを投げつける。そして、丁度ゲートが開き入ろうとしてきた新手にぶつかりグラスは爆散する。新手は吹き飛ばされ、ゲートは強制的に封じられてしまった。

 ピッタリと呼吸があっている。

 魔法は尻尾だけ、後は体術と魔具だ。

 本当に正明はこのようにして勝ったんだろうな。


「銀の粒子で結界を張ったから転移魔法でここにはこれない。早くオーダーに出動養成。たぶんだけど、内乱だよ」

「お姉ちゃん、どうする?」

「それは、任せるよ。オーダーの隊長さんにね」


 正明は俺を見るとそう呟く。

 彼女は全く怯えた様子が無い、それどころか警戒を緩めてもいない。それに比べると、真紀の手は小さく震えている。正明が強く握ってくれているが、それでも解るという事はかなり怯えているんだろうな。

 俺は正明の言葉に答える。


「内乱か、確かにな。連中の服は確実にオーダーの制服だった」


 白いロングコートにエンブレム。

 それにあのライフルは男子隊員達の装備だったモノだ。何かの当てつけか? それとも、俺への復習か。

 何れにしても、この姉妹を巻き込んでまで攻撃したのは異常だな。


「そうだよね。あれって辞めさせられた事に関係するのかな?」

「解らない、でもアレは仕方なかった。一般人を危険晒す隊員をオーダーにはしておけない」

「そうかもね、でも、危険に晒す奴を解き放ったって考えも出来るよね」


 正明はそれだけ言う。

 そして、俺に粉が入ったグラスを二個投げ渡して来た。


「翔太郎君、その魔具は空間や結界を作り出すタイプの魔法に効果的だよ。行きつけの魔具専門店のイカれたクソジジィのお墨付き。一個八千円の使い捨て魔具だから大切に使ってね」


 ありがたいが。

 魔具は俺だと魔力が強すぎて使えない。


「待て、俺は魔力が強すぎて魔具が使えないんだ!」

「大丈夫だよ、それは魔力を込めるものじゃないくて敵か物にぶつけて発動させる物だから。魔力の消費はゼロだよ」


 スゲェ、魔具を使えないと諦めていたがそうか俺が着ているパワードスーツも俺が作ったものなんだ。

 もしかしたらこんな風な魔具を自分で作ればいいのか?


「ありがとう! 使わせてもらう」

「速く行動しないと。そして、見てた? 転移先の風景だけど」

「いや、爆発で俺の所からは何も」

「何処か広そうな場所だったよ。何と言うかグラウンドかな? 観客席も見えた」

「嘘だろ? 本当に劣等クラスか!? お前のその抜け目の無さは素人じゃないぞ!」

「お姉ちゃんは昔から喧嘩ばかりしてたの、私を守るために・・・・・・だから、警戒心は強いし魔法が使えなくても戦えるようにって鍛えて来たの! そうしないと、生きていけなかったから」


 俺が正明に詰め寄ると、真紀がそこに割って入って来た。

 彼女の言う事は切実なもので、正明と真紀は魔法自体は全く使えていない様だった。それは、純粋に才能不足とうだけの事。彼女達は努力を魔法ではなく、人間としての強さを磨いて来たという事だろうか。

 それなら俺もそうしてきた。

 俺は深呼吸で落ち着くと、真紀の頭を撫でる。


「大丈夫だ。もう問い詰めたりしないよ」

「もう、行ってください。これは緊急事態だよ?」

「あぁ、行ってくる! 今度、暇があったら話そう。何処か、興味が湧いて来た」


 俺はそう約束すると窓からオーダー事務所へ向けて飛ぶ。

 もし、男子隊員達が全員こんな事をしてたなら最悪の事態にもなりかねない。



「お兄ちゃん! バレるかも知れなかったよ!」

「ごめん、でもあそこで何もしなかったらアイツは手掛かりすら掴めないでしょ? それに、転移魔法を封じなかったら巻き込まれていたよ? 翔太郎君はまだ手加減を学べていないんだから」

「手加減してアレなのかもよ?」

「それはコントロールとは言わないよ。凡人レベルの攻撃も手加減で再現出来ないのは強みでもなんでもないよ? 今の彼なら僕だけでも軽々と殺せるからね」

「そうだけど、もし彼にバレたら?」

「記憶を奪うか、引っ越しかな?」

「嫌だよ? 私もやっと慣れて来たのに・・・・・・いちごちゃん、魔理ちゃんと今度映画行く約束する程の友達になったんだよ?」

「大丈夫、上手くやるよ。そうだね、僕は接触するのを避けようか」

「え? いやだよ。彼と一対一じゃ話せない」

「照れてるの? 可愛いねぇ、僕の妹にも春が来たようだね!」

「からかわないでよ! お兄ちゃん!」


 そう言う二人は笑いながら教室へと戻って行く。

 今ので周りは大騒ぎで、下校が早まるだろう。正明は少しあの襲撃者の見た目を考えていたが、その特徴が以前杉崎夫妻を襲った男への進行を防いだ人々の特徴に似ていた。


「はぁ、戦闘では助けは要らないだろうが・・・・・・様子を見た方が良さげだね」

「その前に、華音お姉ちゃんに一言なにか伝えてからね?」

「えぇ?」

「結果だけ伝えるの」

「わかったよ」


 正明はそう言うと少しだけ赤くなって緩んだ顔を真紀からそらした。

終わらないワルツ

恨みと後悔

私は解らない、何が真実なのか?

裏切る心が砕け悪意を滲ます

暗闇に光照らすライトの奥に深紅が覗く

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