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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
力の代償と飼い猫の憂鬱編
45/289

アリス 3

続きです。

楽しんで頂けたら幸いです!

 剣部隊への加入を除隊させられたみんなに伝え、古都ワスレは上機嫌でいた。剣部隊は統率の取れた騎士団だ。

 守るものは弱者。

 弱き者の盾であり、剣。

 竜崎由希子はそんな人だ。指揮官と言うにはいささか難しい性格をしているが、士気を上げる軍隊長としては大きな器をとカリスマを持つ人物だ。

 そもそも、彼女の代の先輩方は戦闘能力がおかしい人々ばかりだった。

 多分、誰も逆らわなかったのはそのせいだろう。

 オーダーの事務所には戻れない。技術部のラボに置いてきた装備がないか確かめようとした時、古都ワスレの肩に何者かの手が置かれた。


「なっ?」

「君の、本当の姿を見せてあげよう。」


 彼が最後に見たものは、赤い二つの光だった。


3


 伊達正明は午前中の授業が終わり、昼休みにのんびりと屋上で

寝そべっていた。仲間達の姿はない、基本的に自由な連中そうだったから何処かへ遊びに行っているのだろう。

 そんな正明を見つけた伊藤柚希はふと一言漏らす。そこにあったのは悲しみ。


「まさか、彼女がソッチだったとはな」


 太陽に涙が反射し、柚希は少し赤くなった目を正明に向ける。


「女を襲うのは、少々気が引けるが。それでも、俺は彼女が好きだ! その為に、お前に決闘を申し込む!」

「来ると思ったよ。僕はね、待っていたんだ」


 正明はぼんやりとそう言って柚希の右足を触る。


「掴んでも無駄だ!」

「下級魔法一級魔術 風呼び(かざよび)」


 正明が唱えると、柚希の身体は右足から噴出された風によって派手にバランスを崩す。

 正明は腰から生やした魔力の尻尾で仰向けから四つ這いになってから、身体を魔法でアシストして回転蹴りを柚希に叩き込む。そこで靴に仕込んでいた魔具を発動させる。


「下級魔法一級魔術 撃接げきせつ


 軽い衝撃だが、頭部に喰らっては流石に柚希も本気で防御魔法でガードしつつ、転移魔法で距離をとる。

 なんて奴だと、柚希は内心で焦った。

 魔具でしか魔法は使ってない。それに、柚希は中級魔法を自由に使えて上級魔法も一種だが使える。圧倒的に有利、体力戦でも柚希は空手を使える上にスポーツ万能だ。相手は女の子、魔法のアシストでないとろくな戦闘的身体活動が出来ない。

 なのに、彼女は臆してない。

 微塵も攻撃魔法、防御魔法、機動力、フィジカルでも負けているのにその顔には静かな笑み。


「防御魔法。中級魔法一級魔術の類いかな? 僕の手持ちでは壊せない。なら、どうしようか」

「ふん、それなら敗けだ! 速く降参しろ、一発殴るだけで済ませてやる!」


 正明はのんびりとした足取りで屋上を歩く。

 柚希はハッとすると、決闘用の障壁を張る。多分直ぐに逃げられると踏んで余裕な顔をしていたに違いない。そんな柚希の期待を踏みつけて正明は障壁を無視して、こちらに向かって歩き出した。


「正気じゃねぇな! じゃ、あばよ!」


 柚希は手のひらから電撃を放つ。


「白鳴雷砲か」


 その言葉に、柚希は目を丸くした電撃は空中でグニャリと曲がりって屋上の隅へと飛んでいく。


「は?」


 訳がわからなかった。

 正明は魔法を一切使ってない。それなのに狙った様に電撃が曲がったのだ。

 柚希が呆けている間に正明は懐から青い液体入りの試験管を取り出して、投げて来た。投てきのそれではなく、軽くパスをしたような。

 それでも、得体が知れない。

 柚希は防御魔法でその試験管を包み込んで割れるのを防ぐと、正明の舌打ちが聴こえた。どうやら割れたら危険らしい、それなら!


「返すぜ! ホラよ!」


 魔法で試験管を投げ返すが、正明は腰の尻尾で試験管を空中で叩き落とす。と、同時に彼女は着ている猫耳パーカーのフードを被って後方へと飛んだ。

 柚希は訳が解らないが、防御魔法を張ろうとした瞬間に試験管が割れて白い大量の粒子が辺りへと撒き散らされた。

 それの余波を受けで柚希の身体に張った防御魔法が砕かれてしまう。


「氷結魔法の簡易手榴弾!? なんて武器マニアだ! このクソアマ!」

「ばぁ」

「っ!?」


 白い粒子に目が眩んでいるなか、突然に正明がイタズラっ子の様に目の前に現れた。

 この氷結魔法の中をどうやって突っ込んで来たかは知らないが、柚希は腹部に走った衝撃に身体をよろめかせる。多分だが、先ほどの撃接を受けたのだろう。

 もう一度防御魔法を張ろうとするが、また投げられた試験管を今度は直撃してしまった。今度は赤い液体だったが、効果は言わずもがな、爆炎であった。

 成す術なく吹き飛ばされ、体制を整えて魔法を正明がいた方向へと乱射するが、そこには広がった白い粒子と爆炎で視界が効かない状況になっていた。


「くそ! 魔力視覚化!」


 柚希は正明の魔力を追おうとするが、見えない。この魔法はあくまでも人間の魔力量を見る技だが暗所でも敵の位置を知ることも出来る。

 が、何も見えない。

 特殊な魔具か、もしかしたらすでに魔力が尽きて倒れているか。


「な、なんでだ?」

「向いている方が逆だからだよ」

「うしろっ」

「下級魔法一級魔術 重複詠唱 撃接」


 その声を最後に後頭部への衝撃で柚希の意識は身体の外へと追いやられた。

 倒れる柚希を見て正明はフィールドが崩れてから、柚希を起こす。


「僕の勝ち」


 満面の笑みで柚希を出迎えた。

 柚希は飛び上がると、直ぐに両手に魔法陣を出すが周囲のフィールドが消えているのに気付いて顔を青くしてうなだれる。


「ま、負けたのか? お、俺が? 在り得ない! 劣等クラスの貴様なんかに!」

「魔法はそっちが圧倒的に有利。僕は手も足も出せずに負けていただろうね、だから勝てる状況を作り上げたんだ」


 柚希は顔をしかめる。

 痛みもあるが、それよりも勝てる状況と言う言葉に耳を疑ったのだ。


「まず、場所を周りに殆ど何もない上に罠と疑われる事の無い屋上を選んだ。そして、四隅に魔法用の避雷針の様な魔具を設置したんだ。その効果範囲にこの屋上は包まれている、だから僕は何かを撃ちだすタイプの魔具を選ばなかった」


 屋上の四隅を見るとそこには確かに魔具が置かれている。それに彼女が言う通りに身体に触れる必要がある魔法、もしくはその場で爆発する魔具しか使っていない。これまでを全て計算していたという事だ。


「それに、君は決闘をする時には遠距離攻撃を好んで使う癖があった。少し驚かせば距離を取るとは考えていたけど、正直試験管を受け止めるとは思わなかったよ。もしあの時遠くへと退かされていたら僕は自爆するプランしかなかったよ。舌打ちに気付いてくれてありがとう、そうすれば意趣返しをしてくれると思ったんだ」

「ふざけっ! てめぇ、なんで俺の決闘の仕方を知っているんだよ!」

「始めて会ったその日に調べた。いつか敵対するかも知れないと思ったからね、転移魔法を日常的に使う魔法使いを敵に回すのは命取りだよ」


 なんて狡猾な奴だ! コイツとんでもない悪女だ!

 柚希はそう心の中で叫んでいた。人を信じる心がコイツには無いのだろうか? 敵対するかも知れないから相手の事を事細かに調べる。その為に、敵を完全粉砕するべく自分のアンダーグランドに誘い込んで盤の上で駒を動かす様に敵を策略の中で息の根を止める。

 控えめに言って異常過ぎる。

 最近、男子隊員をほぼ全員くびにした三神翔太郎も変な奴だと思ったが、この女は別のベクトルで危険な性格をしている。


「さっきの試験管もね、氷結じゃなくて白い粒子をばら撒くだけの魔法解除術式だよ。ビックリしたでしょ? 中々ユーモアの効いたジョークグッズと少し高価な魔具を組み合わせたもの。最後の試験管も同じく煙幕と最低威力の爆裂魔法の組み合わせ」

「魔力は、魔力が見えなかったのはなんでだ! どんな魔具だ!」

「それは・・・・・・えーっと」


 正明は困った顔をして少し考え込むと、人差し指を自分の唇に当てて。


「秘密、てことで」


 蒼く光る左目の所為で可愛らしく思えるその仕草もとても邪悪な物に思えた柚希は寒気に身体を震わせた。その事については詮索しない方がよさそうだと、本能が言ったのだ。

 正明はブレザーを脱ぐと、逆さまにひっくり返す。

 すると、大量の魔具が落下した。


「色々仕組んだからね。で、僕の勝ちなんだけど。どうしてくれようかな」

「チッ! このクソ女! お前はまるで殺人鬼みてぇだ!」

「もしそうなら危ないよ?」


 突然目の前まで顔を近づけて来た正明は白くて細い人差し指の先端で柚希の首を横に優しくなぞる。くすぐったい様な感覚だが、まるで刃物の先端でなぞられた気分だ。その時に微笑む彼女を美しいと感じた自分を柚希は必死に振り払った。

 まるで奈落の底から綺麗な蒼い月を見上げている様な気分だ。


「うっ! お前、なんで優等クラスに来ないんだ? やっていけるぞ?」

「やっていける? 冗談言わないで? 僕が君に勝てたのは準備したから、準備してなかったら黒焦げになっていたよ」


 彼女はそう言うと、柚希に缶コーヒーを投げ渡す。

 そして一言だけ。


「華音を傷つける事はしないでね」


 とだけ言うとブレザーをはおり直して、今度は邪悪な顔ではなくパッと明るい笑顔でそう言うと走って屋上から出て行った。

 柚希は手元に残った缶コーヒーと、去っていく彼女の後姿に何処かスッキリしたような顔になる。


「ったく・・・・・・華音への気持ちは、見栄だったのかもな」


 オーダーの中心事物でもある彼女と恋人関係になれば優等クラスでの立場も良いものになる。そのまま行けば更に彼女をダシに使って。なんて言う気持ちが奥底に眠っていた。

 自分の気持ちが恋ではなく、欲望だと理解した柚希は大きなため息を満足気に吐き出す。そして去り際の正明の笑顔を思い出して彼は叫ぶ。


「気に入らねぇなぁ! ったく、お前を好きになったらどうするんだよ!」


 笑いながら彼はそう言って缶コーヒーを開けて一気に口に流し込んで。


 盛大に吐き出した。


「ゴホゴホっ! ぐあっ! 辛っ! ゴホッ! ゴホッ! やっぱり、アイツ嫌いだ!」


 缶コーヒーの表面には(激辛コーヒー)と緩い文字で書かれていた。

この後半の詩がまたまた思い付かにゃあー。

関係ないけどラッキースケベ的な展開ってまだ需要あるかな?

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