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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
力の代償と飼い猫の憂鬱編
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アリス 2

お待たせさまーです


 由希子は戻って行ったが、彼女は完全に動転してる。

 許可は理事長のお墨付きだ。俺の意見が上の人間に通ったという事は、男子隊員達はそれだけの事をしたという事だ。そもそも、女の子を攻撃して物を強奪する連中なんかとは到底治安の維持なんてできない。

 それで学園でどんな仕打ちを受けようとも、自業自得だろうな。

 連中も劣等クラスの人間達に散々な事をしていた。

 今は、こうなってしまった以上俺達が盛り返さないといけない。


「どうもおかしな事ばかり起こるわね。なんで男子たちがあんなことを」

「さぁな、でもヴァルキュリアに嫉妬していたんだろうな」


 俺は技術部のラボに美樹と向かっていた。鍛えられた男子たちに襲われたんだ、きっと精神的にも滅入っているかも知れない。

 ラボには御堂と桜子に、百合の姿もあった。

 

「よう! 由希子に殴られたか?」

「なんで知っているんだ? 彼女から聴きでもしたか?」

「ふふ、いいや? アイツの顔を見ればわかる。あの顔で一発も殴らない訳ないからな」

「彼女は完全に気が動転している。御堂もそう思わないのか? 女子を気絶させてラボの不完全なパワードスーツを強奪たんだぞ?」

「ふん、連中はプライドだけやたら高いがバカでも間抜けでもない。オーダーの中で不和は無かったのか? 例えば、手柄を上げやすくなった女子隊員が功績を盾に男子隊員を立場的に圧力をかけていたとか」

「そんなことは無い。みんなが協力する事に賛同してくれた! 焦っていたなら何かアクションがあったに違いないだろ」

「そのアクションが、今回の事かもな。ま! そんなのは関係ない! 俺は技術屋だ。組織のいざこざになんざ詳しくない! で? 何か用か?」


 御堂はそう言うと、捜索中のパワードスーツから離れる。

 そのパワードスーツは欠陥があった男子隊員達のパワードスーツだった。


「おい、百合の前でそのパワードスーツを出すな」

「は?」

「お前には彼女の気持ちが解らないのかよ! 曲りなりにも彼女にも責任があるって当てつけか?」


 御堂は俺の顔を見ると軽く笑う。

 何を言っているんだコイツは? って感じの顔だ。百合はそのパワードスーツを少し悲し気な目で見ると席を外してしまった。

 御堂はそんな彼女に連絡を入れるようなノリで


「あ、百合さん。このパワードスーツの調整はしておくよ、でも、最終調整はよろしくね。完成させちゃおう!」

「はい、御堂さん」


 百合はそう言うと、ラボを出ていった。その足取りは重い。

 こいつ、本当に最悪な奴だ。

 そこらの優等クラスと変わらない!


「お前、百合を追い詰めるな!」

「追い詰めているのは君の方だ色男。お前、彼女の何なんだ?」

「何でもない! だが、それでも傷付いた女の子を放って置くなんて出来ない! 無情なお前達とは違う!」


 御堂はその言葉に驚愕した様な表情を浮かべて両手を上げる。降参と言う意味だろうな。

 美樹はそんな俺の姿を見て誇らしそうにしている。

 誇らしい事じゃない、これが普通の事なんだ。


「負けた。君の勝ちだよ、俺が悪かった」

「謝るのは俺へじゃない。百合へだ」

「わかった。だから離してくれ、服が破れる」


 俺は御堂を離すと、心を落ち着ける。

 少し桜子と百合を怖がらせてしまったのは反省だな。


「そのパワードスーツを二度と百合に見せるな」

「それは出来ない。これは彼女も望んでいる事だ。僕の一存で破棄なんてとんでもない、誰かさんとは違ってね」


 俺は御堂を殴りたくなったが、百合を追ってラボを出た。



 力は大きなリスクを持つ事は十分に百合は理解していたはずだが、所詮は兵器でしかない。

 だが、存在することで無条件に誰かが傷付くのだろうか?

 翔太郎が言っていた責任は確かに自分にもある。

 百合が考える精一杯の方法で、居場所を無くしてしまいそうな男子隊員達を助けようとしたが、全ては無駄になった。あのスーツは、欠点を解消すれば安全に使える。

 せめて誰かの力になってくれるなら。


「結局は、みんなをオーダーから追い出す原因になっただけかぁ」

「ん? 優等クラスの奴が何してんだ? ここは劣等クラスの校舎だ。弱いものいじめで来たなら失せろ」


 突然頭上からした声に百合が顔を上げるとそこには一人の女子生徒が機械的なタバコを吸っていた。

 帽子に缶バッチ、片手のタバコ、鋭い目付きにぶっきらぼうな態度。不良って感じの女の子だ。


「ち、違います! それに、ここは優等クラス専用校舎の屋上じゃ?」

「ん? そのメカクレ。お前、2日ぐらい前にここに来た奴だな?」

「へ!?」

「また間違えてやがる。そもそも、劣等生は優等クラスには入れない」

「ま、また間違えて! ご、ごめんなさい!」


 急いで逃げようとする百合だが、タバコの女の子に手を捕まれてしまう。

 殴られると、目を強く閉じるが、頬に手が優しく触れる感触に目を開ける。


「悩んでるなら、話しぐらい聴くぞ。オレで良いならな、だが他の優等生に聴かれるよりましだろ?」


 タバコの女の子はそう言って笑顔をみせた。

 百合はそんな彼女の顔に何処と無く翔太郎の面影を見た。もしかしたら親戚か、兄妹なのかもしれない。


「え、えっと・・・・・・うん」

「よし、じゃあ聴くとするか」


 そう言うとタバコの女の子は魔法で椅子を作り出した。百合はその当たり前の様にそんな事をする彼女に驚きを隠せなかった。見た所椅子は防御魔法で作られた代物で、それを形にして椅子に仕立てているのだ。

 なんて繊細な使い方をする魔法使いだろうか。


「座れよ、弾け飛んだりしねぇから安心しな」

「あ、じゃあ」


 百合は椅子に言われたまま座るが、彼女が言う様に外敵を弾くタイプの防壁じゃない。


「オレは、神井巧。こんなカッコしてっけど女だ、よろしくな」

「わ、私は山吹百合。オーダーの、メカニックをしてます」

「メカニック? パワードスーツとかの? スゲェな、出来て一年だぞ? 造れたりするのか?」

「その事で考える事が、あって。この前起きたパワードスーツの自爆事故、わかる?」

「あぁ、オーダーの男子隊員がほとんど全員除隊されたってな。劣等クラスで大騒ぎだ」

「あの、自爆したパワードスーツを作ったのは私なの」

「へぇ、でも未完成だったんだろ?」


 百合は一瞬、この巧に危機感を覚えた。

 知りすぎている。劣等クラスで積極的にオーダーの情報を知ろうとする人間はいないし、パワードスーツを百合が作ったとは言ったが、未完成だったなんて言ってない。

 だが、その不安はすぐに消える。


「見た感じだけど、お前けっこープライド高いだろ? 押し留めてるだけでさ。だから、未完成品を男子隊員に配って吹き飛ばすなんてメカニック失格な事できねぇ」

「そうです。出来ないですよ! だって、私はみんなを少しでも助けたくて!」


 百合の感情が溢れだした。

 怒りと、焦燥感が彼女を支配しそうになる。


「誰も話を聴かないで勝手に競い合って! 結局誰かを陥れて! 自分の首まで締めて! みんなバカばっかりだ!」


 肩で息をしてそう叫んだ百合は涙をボロボロとこぼしていた。


「そうだな、バカしかいねぇよ。で? お前は、どうしたいんだ?」


 巧はそう言うとタバコを吸って紫煙を吐く。とても高校生には見えないが、彼女の声は優しかった。

 

「わかんないですよ。私はもう、何かを作って良いのかなんて!」

「作って何が悪い?」

「え?」

「悪いのはだな? それを使って悪さをする奴、説目を聞かない奴、俗に言うバカだ。そんなバカの為に迷って、涙まで流すなんて、良い奴過ぎると思うけどな?」

「でも、それで人が」

「メカニックってのは使う人間の安全を考えれば後の善悪には関わらないって、知り合いのイカれ野郎が言ってた。良いんだよ、作れ。人を守る奴らを守る装備をな」


 巧はぶっきらぼうにそう言うが、百合はその言葉に救われていた。人を自分が作った物で傷付けてしまった。それが嫌で、恐くて仕方なかった。

 なんで、あの作りかけのパワードスーツを完成させたいと思って調整していたかわかった気がした。

 とっくに答えは自分の中にあったのだ。それを、この劣等クラスの彼女は気づかせてくれたのだ。

 百合は巧の手を握ると頭を下げる。


「お、おい! オレはそんなの嬉しくねぇよ! 頭を上げろ!」

「私! やります! もっとこれから私に出来ること。善悪じゃなくて、私が胸を張れることを!」


 百合の言葉を聴くと、巧は短く笑うと椅子を立つ。


「どうやら、余計なお世話を焼いたようだな。頑張れよ、メカニック」


 彼女はそう言って屋上から出ていった。

 その時、走って来た翔太郎と巧がすれ違う。その時、彼が慌てて振り返ったように百合には映った。


「百合! さっきは」

「もう大丈夫。私はもう悩んでないし、追い詰められてもないよ」

「私ね、オーダー辞める」

「え? な、なんで」

「私のしたいことは、オーダーではきっと出来ないから。竜崎さんの部隊に行く、そこでメカニックをする」

「でもあの部隊は、私兵だぞ? 認められてない。だから、気安く活躍なんて」

「活躍じゃないの。私は人を守る人を、守る装備を造りたい。使ってくれる人の所へ行きたい。私の造る力は、競争に使うものにされたくない」


 百合はそう言うと、手のひらに除隊届けを召喚すると魔法でそこにサインをする。

 自主的な除隊に特に制限は設けられていない。

 書類にサインしてしまえば、隊長でも止める事は敵わない。


「本当に短い間だけど、良くしてくれてありがとう。さようなら、隊長」


 百合はそれだけ呟くと屋上から去った。

 ついさっきまでいた、巧の真似でもしたのかもしれないと彼女はふふっと小さく笑った。

カラクレナイの瞳

夕日に染まる彼女にふと彼を思う

手招くは子守唄

のぞくはとるに足らぬ小競り合い

そこに、目だけが光っていた

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