飼い猫の憂鬱と新人メカニック 3
もう、翔太郎は銃じゃなくて石破天驚拳を撃たせるか
3
メカニックはオーダーの技術部でもこの一年で一気に激務となった連中だ。
まぁ、御堂が大学のラボと合併させて負担を減らしたから今はそうでもないらしいが、最早企業レベルの技術を取り扱っているだけあって道具の質は最高らしい。
なんせ、パワードスーツを設計した天才がトップにいるんだからな。
だが、そんなメカニックの一人である山吹百合が機材の山に腰かけてため息を吐いていた。
様子を見に来たが、どうやら頓挫しているようだな。それか、別の悩みか。
「おい、大丈夫か? 何かトラブルでも」
「いえ、そんなんじゃなくて・・・・・・ただ、オーダーの男子隊員の装備も考えていたの」
「なに? 頼んでないけど」
「お金は取らないよ、ただ、あんな杜撰なパワードスーツでよく戦ってられるって思って」
「軽量してるからそう感じるのかもな。でも、あれじゃなきゃヴァルキュリアにはついていけない」
俺がそう言うと彼女は少しムッとした顔をする。
「みんなで協力するオーダーになったって聴いてたけど、勘違いだったよ。女の子達は活躍しているけど、男の子達が踏み台にされてる」
「俺はそんなつもりは!」
「さっきね、古都ワスレって人がこのラボに来たの。男子隊員の士気が下がってるって」
「あいつら、そんな事一言も」
「聞き入れられて無いって、女子達が貴方への意見や何やらを遮っているってね」
俺は彼女の言葉に何も言い返せなかった。
そんな事が、俺の知らない所で起きていたなんて。
「ヴァルキュリアの装備はもう出来てるよ。桜子さんが変形機構を作ってくれて、術式を組み込んで、完成。テストも使い魔で休まずやったから安全性も保証するよ。試しに射ってみたら?」
百合は壁にかけてあった銃を魔法で俺に投げ渡して来た。
レッドの魔力供給ラインが輝く良いライフルだ。俺は銃を握ると背後に伸びる射撃場にある的へと向ける。
どうやら魔力供給システムと同じようだ不完全な術式に魔力が流し込まれていく。
「それがライフルモード。他には」
「銃身が伸びてスコープが現れる、スナイパーモード。そして対物用の特殊弾を打ち出すブレイクモードか」
俺はそれらの機構を変形させながら彼女の説明より先に解き明かしてしまった。
百合はもう驚かないよとばかりに笑う。
俺はライフルモードで、的へ向けて引き金を絞った。
その刹那、光弾が紫電の帯をまとって的ごと壁を吹き飛ばしていた。やべぇ、ブレイクモードにしてた?
「は?」
百合が間の抜けた声を出す。
「ま、待て! 俺はライフルモードで射ったからな!?」
「なんで、ライフルモードでそんな威力がだせるの? 暴徒鎮圧って名目で作ったから殺傷能力は低いはずなのに!」
「なに?」
そんな事を話していると、俺の持ってたライフルがボロボロに崩れ去って、床に部品となった銃身が落ちた。
「待て! 俺は壊して無いからな! どうしたんだ?」
「貴方の魔力が莫大な上に上質すぎるのかも・・・・・・成る程、道理で貴方が武器を持たないはず。武器が貴方についてこれないから」
成る程って、俺は武器を使っても使いこなせないから素手で戦ってただけなんだが。
だが、魔力量だけでこうも違うんだな。
父さんが言ってたな、一流の魔法使いは魔力の質だけで弱い魔法も強く出来るって。俺はスキルでそれが出来てるが、やっぱりそれなしでこんな魔法よりも強力な攻撃を使ってた父さんには及ばない。
「メカニック泣かせだよ、もう」
百合はため息混じりにそう言うと、床に散らばる銃の残骸を片付け始めた。
俺も手伝いながら壁際に立つスーツが目に入った。
緑を主色にしたパワードスーツだ。その隣には少し大型のライフルが立て掛けてあった。
「あれは?」
「男子隊員用のパワードスーツ。の試作品、桜子さんと作ったけど・・・・・・少し制御が難しくて、実用化には遠いかな? 防御力を上げたけど、まだ魔力が任意の装備に供給される術式が不安定なの。爆発はしないけど、銃が暴発したりブースターが任意で起動出来ないとか、問題だらけ男子隊員にはラボにあるパワードスーツは持ち出さないでって伝えてね」
中々面白い物を作っているな。
少し、男子隊員の装備も考えておくか。
「あぁ、伝えておくよ」
「所で、その白猫ちゃんはお友達?」
「ん?」
「みゃあ」
いつの間にか俺の足元に真っ白な子猫がいた。
毛並みと蒼い右目が良い可愛らしい猫は俺のズボンからよじ登って肩に乗って来た。
「へぇ、相棒って奴?」
「いや、始めて見た猫だな。どうした? 迷子か?」
「みゃあー」
元気よく鳴いているが、肩から降りるとその猫はとある図面を前足で叩いた。
それは蒼いヴァルキュリア、魔理の持つ機体の物だ。
「ん? 気になるのか?」
「みゃあー、ふにゃあー」
コロコロとその場で転がりながら、まるで駄々っ子の様に魔理のヴァルキュリアの図面から離れない。
試しに魔理の写真を魔法で見せてやると、今度はその写真を見て鳴き始めた。
「成る程、魔理に会わせろって言ってるな?」
「にゃー」
「よし、連れて行ってやる」
「装備はオーダーの事務所まで届けるよ」
「ありがとう」
「じゃ、その猫ちゃんを届けてあげて」
俺は子猫を抱えると竜王の剣部隊がある大学のエリアへと向かった。
*
正明は光の無い瞳で華音の後をつけていた。
まるでストーカーのようで情けないが、彼を連れてきたのは仲間達の方だ。
正明は無気力感と少しばかりの怒りに機嫌を悪くしてアスファルトに座り込んでいる。
学校を出た華音は、少し劣等クラスの校舎を観ていたが金髪の男子生徒に連れられて街の中に来ていた。そして、落ち着いて話す為か喫茶店に入り、後を追うように正明達も席についた。
メンバーは京子、志雄、アイリスがお守りに来ていた。宗次郎は酷く血走った目でついていくと言ったが、死人を出す訳にはいかないため、加々美が押さえている。八雲と巧は優等クラスの友達に会う様なので護衛をしている。
「華音さんは少し困ってますね? 男が一方的って感じです。正明、希望はありますよ」
「パンケーキにはメイプルシロップって自分決めてるんで、えぇ」
「パンケーキを頼むなぁ! 前はチョコレートが良いって、違います! うわぁ、見事にレイプ目になってますね」
「僕、汚されちゃった・・・・・・痛いよ、ママ」
「パンケーキ待ってる奴の、顔じゃ、ない」
ツンツンと正明の顔をつつくアイリスだが、いつ注文したのかアイスクリームを店員から受け取っている。京子も抹茶のミニパフェを食べている始末だ。
「気にしすぎだよ、高校生だよ? むしろ、華音ちゃん程の美少女が誰にも抱かれてないのは奇跡」
「京子さん? 加々美さんがいないと貴女がその立場ですか? 心苦しいですが、関節を外します」
「やめて! うわあああ! お姉ちゃんがいじめる!」
「卑怯者、その見た目でしか出来ない事を」
そんなメンバーを正明がやって来たパンケーキにハチミツを塗って食べ始めたが、よく見ると複数個に切り分けて様々なものを塗っている。
こんな顔をしているクセにしっかりと甘味を満喫してやがると志雄が呆れていると、華音がこちらを振り向いた。
「あっ」
志雄は焦って顔を伏せる。
しっかりと目が合ってしまった。普段の尾行とは勝手が違う為か、それでもこの四人の姿は個性が強すぎて普通に喫茶店に入っただけで周りの人々は彼女達を見ていた。
昔話のお姫様の様な和風テイストの女の子に、うさ耳のフードがついた白衣を羽織った銀髪三編み丸眼鏡の女の子、高身長で長いポニーテールを揺らす美少女、猫耳パーカーに加えて魔法使い達に喧嘩を売るような蒼い左目をもった女の子。事実、街中でかなりキャッチに合っていた。
このままアイドルデビュー出来る様な顔ぶれだが、如何せん一人一人の個性がバラバラで悪目立ちしてる。
華音は嬉しそうな顔をすると、男子生徒に一言ことわってからクセが強い連中の席にやって来た。
「珍しいね! みんなどうしたの?」
良く通る綺麗な声だ。
金色の滑らかな髪をハーフアップにまとめて、瞳は優しいエメラルドの輝きを放っていた。
だが、彼女の顔を見た正明は今にも泣き出しそうになっていた。
「あっ、いや、これは・・・・・・劣等クラスの授業が速く終わったので」
志雄は嘘をついた。
本当はバリバリに授業中だ。本来なら正明も志雄も真面目に授業を受けたい所だが、正明が最早くたばり損ないの虫のようになっていた事から後を着けたのだ。
華音はそんな事情など勿論知らない。
だから、彼女は絶賛凹み中の正明へと手を伸ばした。
頭を撫でられる正明は幸せそうで、辛そうな、なんとも例え難い表情を浮かべている。
「ん? 正明、機嫌悪い?」
「んー」
正明は、そう猫の様に唸るとヒュルっと子猫に化けてしまった。
志雄はそんな正明を、持ち上げると華音へと手渡した。
「お弁当が食べきれなくて凹んでるだけです」
「え? みんなにって渡したのに」
「華音さんのお弁当は自分で独り占めしたい様なんです。前からでしたが、この際なのでって! 正明止めて下さい! 猫の時は良く動きますね!」
正明は志雄の顔に飛びかかって短い前足を彼女に叩きつけるが、爪を仲間にたてられない優しさから猫パンチになっている。それをアイリスが魔法で正明を元の人間へと戻してしまう。
「あだっ!」
志雄とおでこがぶつかった正明はその石頭に敗北して目を回すことになった。
そんな二人を何も知らない華音は笑顔で見ていた。
力とは変わるもの
それは器により形を帰る水のよう
それは心
形が変われど、その本質は変わらぬもの
彼等は、どうだろう?




