蒼いヴァルキュリア 4
悲劇は予期せぬ時に顔を出す
4
俺もまだまだ経験が足りない。
まさかたった一人に抑えられてしまうとは予想外だ。それでも、隊員達は上手くやってくれている。男子の隊員達はギルドの構成員とこの紫の瞳をした男にやられてしまったが、女子たちは流石だ。こんなにも長期戦なのにヴァルキュリアの魔力を上手く調節して使いこなしてくれている。
しかし、これでは埒が明かない。
この男も俺と似たような戦闘スタイルだが、瞬間火力が高いんだよな。
「ご子息よ、まだまだ伸びしろがございます」
「親父は小間使いを雇うような人間じゃねぇよ!」
「いえ、貴方様の本当の御出生を知るお方の事にございます」
「意味が解んねぇ! 何を企んでんだよ!」
「すべては俺の主のため、そして、ご子息たちの成長でございますれば」
(バレット)
不味い! またあの拳が来る!
俺は奴の右手の拳を逸らして衝撃波の方角へと沿って男を投げるが、奴は肩の関節を外して着地すると俺の顔面へと刺すような蹴りを撃ち込んで来た。
右腕の装甲で受けるが、距離が開くと奴は銃弾を見舞ってくる。
背中のブースターで避けながら機会をうかがって中距離から連続して火球を撃ちだし、視界を眩ませてから奴の位置を索敵魔法で探って何十本もの雷を撃ち込んでやる。更にはカマイタチの渦で出来た風の球を投げ込んで、指を鳴らして爆発させる。
熱でアスファルトは焦げ、電気の所為か、魔力供給ケーブルは焼き切れ、カマイタチで建物はナイフて切れ込みを入れたバターの様になっている。
「流石、ご子息の魔法。身体の構築に時間が掛かりますが、まだですね」
「おいおい、お前不死身か?」
紫の瞳をした男は確かに傷を負ってはいたが、健在だった。
今俺が放ったのは中位魔法一級魔術クラスの魔法で、俺の魔力で上位魔法クラスの威力に跳ねあがっている。
それを喰らったのは確実だ。
だが、意にも介してない様だ。奴の身体には傷はあるが、倒れる気配はない。
「貴方の魔法にはまだ足りないものがあります」
「勉強中でね! 牢屋にぶちこんでやるよ!」
俺が腕に魔力を集結させて掌からレーザーの様な攻撃を加えるが奴はそれを避けずに受けながら俺に飛ぶと一気に攻撃を食らわしてくる。
速い!
(ショットガン・バレット)
パワードスーツ越しに凄まじい衝撃が数発分も一気に襲い掛かって来た。
俺は堪らずに後方へ下がるが奴は更に弾丸を変えて来る。
(ライフル・バレット)
「クソッ! 舐めるな!」
痛手ではないが、音ゲーとかでミスをしたような気分だ。
その時、奴の背後に蒼い光の翼を持ったヴァルキュリアが現れた。
「翔から、離れて!」
ドッ!!!
放たれた何発もの魔力弾は紫の瞳をした男に直撃すると、爆裂して奴を吹き飛ばした。
どうやら殺傷能力は低いようだが、近距離の戦闘で真価を発揮する強力な武装だな。切り詰められているから室内でも良い戦いがって・・・・・・魔理?
「魔理!? な、なんだそのヴァルキュリアは! なんで、ここに! 寝てなきゃダメだろ!」
「もう大丈夫! それに、私・・・・・・翔が、オーダーの隊長なんて心配に決まってるでしょ! 私も戦う、昔から一緒だったでしょ! 今更、遠くへなんて行かないでよ!」
「俺は!」
俺が魔理に何かを言おうとした時に、大規模な電撃魔法が背後から魔理へと放たれた。
「魔理!」
しまった! 電気はヴァルキュリアの弱点だ!
「っ! う? だ、大丈夫みたい」
彼女の周りに蒼い膜の様な球状のバリアが展開されており、それが電撃を散らせたのだろう。
スゲェ、ハイテクって言うのか? 自動で術式が発動されている。
「ほう、素晴らしい技術だ! しかし、持ち手はド素人か」
瓦礫から飛び出して来た紫の瞳をした男は転移魔法で魔理の頭上を取った。
そのまま組み付いて落とそうと言うのだろう。
だが、魔理は凄まじい速度でかわしてなおかつ奴の頭上を取る。そしてブースターの加速を利用して踵落としと食らわせて、地面へと叩き付けると追い打ちで散弾を更に見舞う。
使いこなしているのか?
「え? え? 凄い! これ、こんな事も出来るの!?」
「その通り、君は文字通りの力を手にした」
信号機の上に突然現れたのは、死神の飼い猫だった。魔理を見上げてのんびりとヴァルキュリアの説明を始める。
「そのインナーには電気を大気に逃がす機能がある、発動は自動だから意識はしなくていい。そして、その銃は変形する。今のがショットガン形態、次にはランチャー、最後は・・・・・・鴉め、全く。最後はレールガン形態で強力なゲロビが撃てる」
「げろび?」
「ビームだよ。ほら、映画とかの光がドバーッて・・・・・・アレ」
「あぁ、成程。じゃあ使うね?」
「待って! それやると死ぬ! それば人間じゃなくて物にやるの!」
「そうなの!? うん、わかった」
「おい! なんで飼い猫と魔理が仲良くなってんだよ!」
訳が分からない!
くそ! 飼い猫は本当に滅茶苦茶な奴だ! 俺の幼馴染になんて物を渡すんだ!
「なんか、色々と優しくしてくれた。私が行く道はここだって」
「ダメだ! お前が戦う必要はないんだ!」
「あの子は道を選択した。偉そうにするな、お前は彼女の何だ? 心を縛りつけられるほどの存在か?」
「何だと!」
「魔理ちゃん! 油断禁物、ランチャーに変えて上空へ!」
「うん!」
魔理が上昇するのに合わせて、紫の光が彼女の後を追う様に飛び立った。
不味い! 魔理が!
「待てよ、三神翔太郎」
信号機から死神の飼い猫がふわりと降りて来る。
しかも俺の目の前にだ。
「彼女は道を選択した。お前と歩く道だ」
「ふざけるな、彼女には平和に生きる道があったはずだ!」
「無いんだよ、彼女には平和に生きる為の心なんて」
蒼い光が俺を無機質ににらんだ気がした。
彼女の小さな体に込められた凄まじく濃密な黒い圧力は俺を釘付けにするのには十分だった。
「心?」
「そうだよ。彼女はね、人殺しの兆しがある」
「な、何を! ふざけるな、あの子は昔から優しくて」
「何のための優しさかは、考えなかったか。だがな? 彼女はお前を追ってあの力を欲したんだよ?」
この女の子は何人の人間を心に住まわせているんだ? 口調が2パターンあってそれを反復していやがる。だが、俺を追って?
空では高速でドッグファイトがおこなわれている。
ランチャー形態の銃で応戦している彼女だが、アレでは魔力が直ぐに尽きてしまう。
「俺を? 何でだ」
「君を近くで見て居たかったんだろうね。自分の中の狂気と戦いながら、自分自身の気持ちに折り合いを付けながら」
「何の話だ!」
「彼女と話してみると良い。アイツの・・・・・・は死に場所を求めている」
肝心な部分を爆風で遮られて聞き取れなかったが、それを言うと飼い猫は通信魔法を魔理につないだようだ。アドバイスを送り始めた。
「真後ろにいるよ。僕の合図で翼を前に向けてから少し下に向けて射出してね、123やって!」
その言葉通りに魔理は空中で急速に斜め情報へと後退するとランチャーで紫の瞳をした男を撃った。
よし! 良いセンスだ!
「ショットガンモードでもっと撃って、体力を奪おう」
更に追撃で魔理は銃を乱射する。
すると紫の瞳をした男が墜落して道路を転がった。
「オッケイ! 魔理ちゃん、深追いは禁物ね。追い詰める時は距離を取るか仲間と一緒に」
「うん!」
「さ、後は三神翔太郎。君の出番だ、彼女の背中を守ってあげなよ」
飼い猫はそう言うと転移魔法で少し遠くへと下がって行った。
変な奴め、だが、今はこれしか手が無い。
「魔理、一緒に行くぞ」
「う、うん! 一緒に!」
「ほほぉ、流石の機動力。全く、この装備ではキツイな」
俺は手甲の封印術式を組み上げていく。
魔理は銃に魔力を充填する。
「切り札しかないか!」
俺はそう言う奴に高速で接近して高速で拳を叩き付ける。その衝撃で奴の右腕は粉々に砕け散り、魔理が放った散弾をまともに喰らうが、それでも奴は攻撃をすり抜けると魔理の胸に向かって何かを突き刺した。
「魔理!」
「これは俺の切り札でね。大丈夫、魔力を貰うだけだ。追撃で、君は死ぬがな!」
「あ、あぁ」
「彼女を離せ!」
俺は魔法を構えるが、威力が強すぎて魔理も吹き飛ばしてしまう。
「魔理ちゃん! 負けないって強く思って!」
飼い猫の声が聴こえる。
それに答えるように魔理の身体が蒼い光に包まれる。すると、紫の瞳をした男は何かに弾かれたように道路に叩き付けられた。
「なんだって!? 魔力が!」
俺はパワードスーツの魔力視覚化を発動すると、魔理の魔力がみるみる回復していく。
何だアレは、スキルか!?
「その背中に何かを隠しているな? 魔具、まさか」
「もしかして・・・・・・飼い猫! 貴様ぁ!」
「あっははははははははは!!! 全回復しやがった! あははははははははは! 彼女の体質は抜群だったな! もうその魔具は彼女の言う事しか聴かない!」
飼い猫は笑ってそう言うが、これじゃ彼女はその力欲しさに目がくらんだ連中に襲われるじゃないか!
最悪だ、やはり彼女は戦うべきじゃない。
その魔具を俺が持って標的になるしかない。
「はぁ、凄い技術力だ。あのお方が、欲しがる訳だ」
「あのお方ってのによろしく」
紫の瞳をした男はニヤリと笑うと、飼い猫の様に霧を発生させてその奥へと消えて行った。
その瞬間に、魔理は緊張の糸が切れたのだろう。その場にへたり込んでしまった。
「魔理!」
「はぁ、はぁ、やった・・・・・・翔、私も結構・・・・・・やるで、しょ」
そう言うと彼女は気を失ってしまった。
「飼い猫!」
「落着きなよ、ホッとして疲労感が一気に吹いて出たんでしょ」
「この子は、どうなる! お前の所為で狙われる事になったんだぞ!」
「警察組織の保護下に入れて、そうだな竜王の剣部隊に所属させれば? あの部隊に手を出そうってバカはいないし、しかもそれ、試作品だし本当の商品は僕が持ってる」
彼女はすんなりとそう言うと掌にキューブを召喚してチラつかせて来る。
上空の報道ヘリがその様子を捉えていた。
言葉も聴かれているだろう。
「お前、ワザと?」
「さぁ? 僕は宣伝できればいいのさ、じゃ」
それだけ言うと彼女は霧の奥へと歩いて姿を消していった。
俺は魔理を抱えると警察が待機しているエリアへと向かった。死神の飼い猫はますます解らない奴になって来た。
もしかしたら、何かが動いているのかもしれない。
俺の知らない所で大きすぎる何かが。
*
「正明! クソ! 最悪だ!」
宗次郎からの通信で初めて聴いたセリフがそれだった。
「宗次郎! どうした!」
(動いてなかったギルドが動きやがった! 最悪だ! 連中は見境がねぇぞ! 例の魔具を手に入れようって躍起だ!)
「全員殺せ」
(そうもいかねぇ、武装しているが・・・・・・一般人だ。殺せねぇよ!)
「はぁ!? なんで、一般人が!」
(操られてやがる、気絶させるのがやっとだ。他のみんなも同じだ・・・・・・動けねぇ! 自由なのはお前だけだ! 連中は知っているぞ! 魔理ちゃんって女の子を助けてやれ!)
「彼女は今はオーダーと警察が保護して・・・・・・おい、今どこで戦っている?」
(学園近くの住宅街だ!)
「その近くで火の手は?」
(何も、って! お前は予言者か!)
そこで正明は通信を切った。
直ぐに鎧を身に着けて最大速度で空に舞いあがり、その火事の起きている民家の前に着地する。
その家は、既に調べが付いていた杉崎魔理の自宅だった。
「なっ、嘘だろ」
その火の手の中から一つの人影が現れた。
正明は左目のスキャンでその人間が普通じゃないとハッキリわかった。
炎の中でもわかる深紅の瞳。
「き、兄弟達」
「ん? おお!? 死神の飼い猫じゃん! レアだな! お前の魔具をこの家の人間が持ってると思ってよ! ガキが持っているから親からの送り物かってな」
「確定してない情報で動くんだな」
「いやぁ、アンタの脅迫がヤバかったからさ、現場にはいかなかったけど見てて正解! ガキが持ってるなら親も知ってるってな」
「アレは複製品だ。本物は俺の手にある」
「マジ? あーあぁ、この家の人死に損じゃん」
「で? どうする? 俺はお前を殺そうと思う」
「うわぁ、良いの? 俺殺してから燃やしてないから生きてるかも?」
正明は家を左目でスキャンすると、中に確かに動いている人間がいる。
「クソ野郎が、お前はいつか必ず殺す」
背中のブースターを展開して正明は燃える家に入ると、中にいる男女を見つけた。
「大丈夫ですか!」
彼は2人を抱えると防御魔法をまとって壁や柱をぶち抜きながら家の外へと脱出する。そこには兄弟達の姿はもう無かった。
夫婦であろう二人を楽な姿勢に横たわらせると、正明は霧を発生させてアイリスの部下である女医をWELT・SO・HEILENから呼び寄せる。
「ドクター! この二人は」
2人の女医は苦い顔をして顔を横に振った。
だが、正明はせめてもと必死に回復魔法を使う。葬儀に出た時に父親と母親の顔が解らないなんてあんまりだ。そんな残酷なことは無い。
女医もその意図を察したのだろう、命尽きて回復魔法が効かなくなる前に出来るだけ綺麗な状態に戻す。
それしか出来ない。
「僕の所為だ。でも、後悔はしてない・・・・・・ごめんなさい」
そんな正明の腕を父親が掴んで来た。それに続いて母親も正明の手をつかんだ。
そして、とぎれとぎれの声で
「娘、が・・・・・・い、います。かのじょを」
正明は静かにデバイスを開いて魔理の姿を見せる。
そこにはヴァルキュリアを装備しているが、オーダー隊員に囲まれて、翔太郎と笑顔でいる彼女の姿があった。
「ま、まり・・・・・・よか、た。ぶじ」
母親はか細くそう言うと涙を流して画面の娘の顔を撫でる。
父親は力をふりしぼって正明に何かを訴える。
正明は鎧の姿を解除して、素顔で、そして、素手で火傷でズタズタになった夫婦の手を握った。真正面から二人の顔を見た。
「あ、あのこを・・・・・・ま、まもって」
「大丈夫、彼女は強い。僕も、友人として側にいます」
「はっ、はっ・・・・・・まり」
その言葉を最期に正明の両手がずっしりと重くなった。だが、正明はか細い手でその手を強く握り返して、2人の胸の上で両手を組ませてから、鎧を再び装着して燃える家に向き直る。
「人を恨まずに逝ったか・・・・・・良い人たちだった」
魔法陣を右手に展開して燃え盛る炎をあっという間に吸い取ってしまう。
二つの布を用意すると夫婦に被せて、正明はその場に膝を付いて頭を下げる。図らずとも巻き込んでしまった事への謝罪と、彼女を見守る事の誓いの意味があった。
その時に、警察と消防に救急車が到着した。
正明は立ち上がると魔法で二人を浮かせると、担架へと優しく降ろす。
「その方たちを丁重に安心できる場所までお願いします。最期まで誇り高い夫婦だった」
それだけ言うと黒いマントを翻して二人の女医を連れて彼はWELT・SO・HEILENに帰って行った。
これまでの被害者達もそうだ。伊達正明に人生を狂わされた、こんな人間はもっと増えていくだろう。そんな人間達を伊達正明は誰かに殺されるその日まで忘れることは無い。
正明は
冷たい雨が降る
道理の通らぬ運命を憎む
それは力の代償か
または、罰なのか
暗闇に隠れる非常な罠は静かに口を開ける




