第三話 紅色の唇で貴方を呼ぶ
続きです!
楽しんで頂ければ幸いです!
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一言で表すなら、最悪の状況だ。
ショッキングな瞬間に立ち会うのは初めてじゃないが、この光景はさすがに目に余る。
口許を抑えて泣きそうになっている後輩の女の子の背中を擦りながら、俺は要請を受けて駆けつけたとある会社? の跡地を眺めながらパワードスーツを装着する。
「これって、マジかよ?」
「私は何度か見たけど、最悪ね。これ程の大虐殺と破壊をするのは連中位なものよ?」
美樹は冷静にそう言うが、辺りに警戒を緩めないように指示を飛ばしている。
遠山も頭を掻きながら「参ったねぇ」と言っている。華音も悲しそうな顔で腰の銃を引き抜く。
俺たちの眼前には大勢の人間の死体が転がっていた。
遺体はかなり酷い状態だ。
胴体を何か鋭利で巨大な刃物に貫かれた者、凄まじい衝撃で吹き飛ばされた者、潰れた奴もいるし、溶かされた奴もいる。
「二人だな」
遠山がそう口を開いた。
「なに?」
「二人がこれをやった。鋼夜の鬼と、魔医学の兎だろうな、この死体は。パッとみた限りじゃ撲殺と圧殺に加え、毒殺と溶解の組み合わせ。まぁ、経験上その二人だ」
「二人でやれるか? この数だぞ?」
「二年前は鋼夜の鬼一人でこれと同じ規模のギルドが壊滅した。もちろん皆殺し」
「そんなに、魔法の天才もそこまで行くか」
「いやいや、魔法ならオーダーが勝ってる」
「は?」
「連中はスキルと持ち前の身体能力、そして集団戦法でここまで強い。一人をオーダーで囲めば勝機はある」
遠山は言うが、魔法の火力だけだ。
連中は威力とは別の次元で強力な魔法を使う事が出来る。
「はぁ、その時は俺が前に出る」
「この殺された連中、どうやら何か大きな取引をしていたようだな。倒壊した建物から書類を押収したってよ」
通信を聞いた遠山がそう言うと、送られてきた術式を空中に提示する。そこには何かの魔具の図式と、取り引きについて書かれていた。
俺は魔具の事はわからない、桜子に送ろう。
通信魔法を桜子に飛ばして、俺は術式を転送した。
「桜子、今送った資料だが」
(うおわぁああ!? 何ですかぁ! これはぁ!)
鼓膜をぶち抜く勢いで桜子の声が飛んでくる。俺は術式の音量を少し下げた。
(師匠! ヤバいです! イカれてます!)
どうやら向こうで御堂も一緒のようだ。少し桜子の声と御堂の声が話をしたあとに、御堂の声で返事があった。
(やぁ、翔太郎。君が見つけたブツはかなりイカれた殺人魔具だ)
「殺人って」
(これは他人に魔力を注入する様に造られた物だ。ハッキリ言って未知の技術だな、俺にも真似は出来そうにない。魔力を魔具に譲渡は可能なのは知ってるな? でも、魔力は外から人体に入れると死ぬんだよ。過去の実験でね)
「はぁ!? なんでそんな物、取り引きなんてしているんだ!?」
(さぁ? もしかしたら、可能になったのか? 人体への魔力の輸出がな)
そこで通信が切れた。
「御堂? どうした?」
「後片付けが間に合わなかった。はぁ、最悪だよ」
俺はその声に術式を組み上げて拳を構えた。
視線の先には、狐の面をつけた和風ドレスの女の子と、西洋騎士のような仮面を着けた長身の男が立っていた。
誰かなんて見れば解る、スペクターズだ!
「あ、通信中だった? ごめんなさい、通信妨害でーす」
狐面の女の子がペコリと頭を下げた。背格好から、小学校高学年から中学一年ぐらいだぞ!? こんな小さな子まで仲間にいるのか。
「手遅れだったようだね。第一船長は?」
「今連絡したよ。帰って来てってさ、オーダーは標的じゃないからね」
俺は火球を騎士仮面の男に牽制として放ったが、男は避けようともせずに顔面へと直撃し、死体の山へと吹き飛んだ。
やべぇ! つい高威力で撃っちまった!
だが
「痛いよ? ニューリーダーさん?」
「おいおい、タフ過ぎでしょう!」
焦る俺を差し置いて男はのそりと起き上がる。遠山が目を円くしているが、直後にヴァルキリアを装備した女子隊員達が一斉に銃口を狐面と男に向けた。
「動くな。完全に捕らえた、もう逃げ出せないぞ! 大人しく投降しろ、スペクターズ!」
美樹を中心に頭上までも制圧されても、二人は全く焦った様子がない。
俺はかなり嫌な予感がしていた。俺の火球を顔面に喰らってもダメージがない、その上で回復魔法を使う様子すら見られない。遠山もパワードスーツをまとって緊張した様子で構えている。俺よりも連中に詳しいからか?
だが、この二人は攻撃力が高い気がしない。
「これがヴァルキリア? 露出多いね。エロ装備ってこの事?」
「確かに速いね、囲まれたしどうしようか? 僕は目のやり場に困るから逃げたいんだけど?」
俺は号令を指で出した。
撃て。
その瞬間、ビームとも見てとれる光の帯が何十本も狐面と男にためらいもなく放たれる。
「やり過ぎじゃないか!? 子供もいたんだぞ!」
「敵はスペクターズよ! 子供と考えて手を抜いたら死ぬのはこっちよ!?」
「そうそう、だから目を離さないでね?」
「なっ!?」
俺は防御魔法を慌てて展開するが、それがグニャリと妙な形になり、そのまま男が放った斧の一撃を受けた。ギリギリで防げたが、防御魔法事態は不完全なものに変えられてしまった。
おいおい、嘘だろ!? 魔法の不完全化ってことか?
ヤバい、コイツは単純な攻撃力で押しきる意外にない。
それに、なんて力だ。鋼夜の鬼程じゃないが、人間離れはしている。動物と力で勝負している気分だ。
追撃が来るが、俺もやられてばかりじゃない!
魔力を身体に巡らせて身体能力を上げると、男の懐に飛び込んで右ストレートを叩き込む。
だが、硬質な音が響き男は後方へと飛ばされていく。
生き物を殴った感覚じゃない。
「お前、人間か?」
「痛いこと聴かないでよ」
男はそう言うと腰からハンドアックスを取り出すと空に投げる。空を飛んでいる女子隊員は軽々とかわすが、狙って投げた訳じゃなしそうだ。斧は空中で爆発四散すると氷の結晶が放たれる。太陽光がそれらを反射してキラキラと輝いていた。
それに、乗して狐面の女の子がタワーシールドを持った騎士のような使い魔を五体ほど召喚すると、その後ろに男と女の子は隠れてしまった。
この状況にいち早く気付いたのは奇しくも、俺だった。
「みんな防御魔法を張れ!」
振り返って俺は青ざめた。
無数の矢が波の様に迫って来ていた。もう、間に合わねぇ!
俺は飛ぶと体の魔力を大量に注ぎ込んで巨大な防御魔法をドーム状に三重に展開した。直後に雨が車のフロントガラスに打ち付けるような攻撃が襲った。
ガギギギギギギッ!
背後で小さな悲鳴が上がっている。
それに、混ざって狐面と男の声が聴こえてくる。
「一人で防ぐ攻撃じゃないのにね?」
「前より強くなってるね、いやぁ戦いにならないで良かった」
俺が号令を出す前に二人は霧の中に消えて行く。
それと同時に攻撃が止む。俺の防御魔法は全ての矢を防いだ様だ、念のため三重にしたが一枚だけで足りたようだな。
オーダーのメンバーは呆気にとられていた。
それは遠山も華音も同じだった。
「すまない、号令が遅れて取り逃がした。怪我人はいないか?」
俺はそう言って着地するが、隊員達はその瞬間歓声を上げた。
おいおい、逃がしたんだぞ?
「すげぇ! あんな規模の攻撃をたった一人で止めちまった!」
「ここまで、されたら認めるしかないじゃない」
「歴代で最強のオーダー!」
「きっと、スペクターズと正面からやりあえる!」
俺は隊員達の歓声に戸惑いながらもパワードスーツを解除して、号令をかける。
「ここでの勝負は俺達が速かったから勝てた! 次に進むぞ!」
俺の言葉に隊員達は気合い十分の敬礼で答えると、直ぐに行動を開始する。
遠山が笑顔で俺の肩を叩く。
「何がどうあれ、前進だ。今度は戦いでも勝つぞ」
「あぁ」
そう答えて、俺は華音と目が合った。
心なしか、彼女の目は悲しげに見える。
華音は目をそらすと、死んでいる人々に手を合わせていた。
*
八雲は大きく息を吐いて船の甲板に倒れ込んだ。
「どうしたの!? 八雲君!」
京子が驚いて駆け寄るが、八雲は大丈夫とジェスチャーで答える。
待機していたアイリスが八雲の胸をはだけさせると、大きなアザが浮かび上がっていた。
「まさか、僕の堅さを貫くなんてね。魔法なしだったら、死んでたかも」
「これ、あの翔太郎って人。何者なの?」
「兄弟達の中でも、最強の、部類。正明は、そう言ってた」
アイリスはそう言うと回復魔法の術式を組み上げ始める。
だが、進化の速度が尋常ではない。既に人外化施術の身体能力に追い付きつつある。
ここまで来たら一対一での戦闘は避けた方が良い。
八雲は短く笑うと、心配する京子の頭を優しく撫でた。
傍らにいた者は今や遠くへ
遠くへ行くものは孤独に気付かず
孤独になれない者は知恵を絞り
僕は、彼女の歌を聴く




